魔法少女リリカルなのは〜英雄譚〜   作:鎌鼬

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第6話

 

 

ヴァルゼライトが2度目の転生を果たしてから十年が経った。その間、ヴァルゼライトがしてきた事と言えば生き延び、そして徒党を組むことだった。

 

 

前者に関して言えば苦労した。廃墟ーーー廃墟都市と呼ばれる場所には食料がほとんど無かったから。偶に得られるとしても虫やカエルやネズミ。ここまでなら火を通したり、最悪生食で食べることができた。だが捨てられていた残飯はキツかった。カビが生え、ゴキブリが集っていた残飯を無理やり腹に詰め込む。それで胃が拒絶して吐き出そうとするのだがそれを無理矢理に飲み込む。そんな生活をしていたからなのか毒物に耐性が出来、今では残飯も普通に食べられる様になった。

 

 

後者は然程苦労はしなかった。ヴァルゼライトが声をかけたのは自分と同じ様に個人で生きていた子供だから。犯罪者の巣窟となっている廃墟都市にいる子供は主に孤児院から追い出された、産んだはいいが育てられなかった、犯罪者の血筋で敬遠されてここに来た子供ばかりだ。犯罪者の巣窟なだけあってここでは子供は弱者でしか無い。個々では強い大人に敵わないから徒党を組むというのは当たり前の行動であった。そこでヴァルゼライトは性格や行動に難があり徒党に入る事が出来ずに孤立していた子供に手当たり次第に声をかけて新たな徒党を組んだ。だがそれで出来たとしても好き勝手に動くだけで烏合の衆と変わりは無い……徒党を組んだのがヴァルゼライトで無かったら。集めた子供たちの性格は古代ベルカのそれに似通っていた。かつてそこで軍部のトップに立っていたヴァルゼライトからすれば懐かしい上に非常に扱い易い。そして武器の扱い方を教える。本来なら並行して魔法も教えたかったのだがヴァルゼライトには魔法の適性が無く、魔力を放出する事しかできなかったのだ。幸いに知識だけは詰め込んでいたのでそれを教え、あとは各々に任せる事になったが。その結果、ヴァルゼライトを頂点として規律の取れた集団が出来上がったのだ。

 

 

そうして現在では五十を超える集団となり、廃墟都市でもそこそこのグループとして知れ渡る様になった。最近では庇護を求めてヴァルゼライトのグループに訪れる者も現れている。中には大人がやって来て所詮は子供のグループと侮って乗っ取りを目論んだりしている。そういった輩はヴァルゼライトが密かに手を下す事で対処している。

 

 

拠点としている廃墟の中庭で、ヴァルゼライトは廃材を二本両手に持って振るっていた。初期の頃はヴァルゼライトが口を出していたが十年もすればヴァルゼライトを頼らずとも各々の判断で物事を進めてくれる様になっていた。まぁ最終的な判断をヴァルゼライトに求める事は良くあるのだが、それは集団の長としての責任と割り切っている。

 

 

手にした廃材を古代ベルカの時代に使っていた軍刀に見立ててひたすら振るう。子供の姿になっている為に身体能力は大きく下がっているのだが会得した技術は変わらない。寧ろ技術を得た状態で再び鍛え直せるという事を喜んでいた。

 

 

廃材での素振りを一時間、休み無しで全力で振り続けていると慌てた様子の少年が一人中庭に走りこんできた。

 

 

「おいクリス!!不味いことになった!!」

 

「どうした?」

 

 

素振りしていた手を止めて少年から話を聞く。纏めるとヴァルゼライトのグループのメンバーが他のグループに手を出したということらしく、そのグループが此方に攻め入ろうと準備をしているとのことだ。

 

 

「……ありえないな。ここの奴らがそんな迂闊なことをするとは考えられない」

 

 

ヴァルゼライトはこのグループが形になった時から言い続けていることがある。それはむやみやたらに他のグループに手を出さないこと。他のグループに手を出せば争いになる。そうなれば勝とうが負けようが組織全体が疲弊してしまい、他のグループに目を付けられる事になる。ヴァルゼライトのグループの中には戦える者もいるが戦えない者もいる。争いになれば一番被害を受けるのは戦えない者たちだ。それを嫌って言っていたのだ。

 

 

「それはこっちでも確認を取った。その結果……誰もそいつらには手を出していないんだ」

 

「……つまり俺たちの名を騙ってそいつらに手を出した訳か」

 

「そうなるな。それが俺たちに恨みがあってなのか、それとも俺たちのことが邪魔になってなのかまでは分からないが」

 

 

成る程、された側としては気分が悪くなるが良い手だと思う。適当に煽って離れるだけで二つのグループが勝手に争う。共倒れになってくれれば万々歳、どちらかが勝ったとしても弱っているところを叩けばいい。乗っ取りにしろ支配にしろ、どちらにしても少ない労力で済む。

 

 

「……誤解を解くしか無いな。俺が行って話をつける、ここの事は任せた」

 

「分かった。そいつらの拠点は西区の地下鉄らしい……気を付けてくれよ」

 

「安心しろ、俺を誰だと思ってる」

 

「馬鹿。英雄と書いて馬鹿と読む様な馬鹿」

 

「解せぬ」

 

 

躊躇いもなしに馬鹿と言われた事に不満げな顔になりながらヴァルゼライトは壁においてあった廃材を手に取る。そしてその足で西区の地下鉄に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

 

西区の地下鉄の入り口までは何の問題もなく着くことが出来た。一応ワイヤートラップなどの罠が無い事を確認してから、階段を降りる。当然の事ながら電気は通っていないので真っ暗なのだが所々に手動で充電が出来る懐中電灯が光源に使われているので見えないことも無かった。

 

 

「ーーーオラッ!!」

 

 

階段を降りて直ぐにヴァルゼライトの背後から声が聞こえ、風を切る音がした。声質から大人と、風を切る音から長物だと判断。振り向きざまに片手の廃材で振り下ろされたそれを受け止め、片手の廃材で喉のある位置を穿つ。ミシッと湿った音と共に感じる手応え。襲撃者はそれだけで気絶して倒れた。

 

 

「どうやら予想は当たっていたみたいだな」

 

 

襲撃者はボロボロの服装ながらも体格の良い大人。グループの長となってから他のグループの情報も集めていたヴァルゼライトはここのグループも自分の所と同じ様に子供で構成されている事を知っていた。それなのにこの場に大人が隠れていて、自分を襲ってきたとなれば第三者である事は間違い無い。恐らく自分を始末することで余計に仲を拗らせようとしたのだろう。

 

 

襲撃者を気絶させたままにして、ヴァルゼライトはその首根っこを掴んで引きずりながら奥に向かった。襲撃された事は気にしておらず、これでここのグループの誤解が解けるだろうと期待しながら。

 

 

「ーーー止まれ」

 

 

五分も歩いた所で暗がりから声が聞こえてきた。反響していて聞き取り辛いが気配は目の前の物陰にある。それはここのグループの者の声だろうと当たりをつけて、ヴァルゼライトは声に従い足を止めた。ヴァルゼライトの目的は誤解を解くことで争うつもりは無いのだから当然のことである。

 

 

「何しに来た」

 

「南区の者だ。そちらに我々が手を出したと聞いて誤解を解く為に来た。その件に我々は関与していない。恐らく他のグループが我らを同士討ちさせる為に計らったのだろう。ここに来た途端にこいつに襲われた」

 

 

そう言って気絶している襲撃者を投げ転がす。それを見て帰って来たのは短い沈黙。直ぐに誰かに指示しているのか聴き取りづらい小声が聞こえ、ロープを持った子供たちが現れて襲撃者を縛って奥に引きずって行った。

 

 

「ボスがお会いになられるそうだ。会うつもりがあるなら武器を捨ててついて来い」

 

「分かった」

 

 

声の指示に迷う事なく従って廃材を投げ捨てる。武器を手放す事には不安は無い。徒手でも戦える程の戦闘能力は備えているから。

 

 

物陰から現れた人影について行って地下鉄の奥に進んでいく。今いる場所がショッピングモールらしき場所で電車乗り場に着き、線路に降りて更に進んでいく。

 

 

そうしてしばらく歩くと人影が足を止めた。そこには扉が見える。そして人影は壁に背中を預けると首を動かして中に入る様に指示してきた。

 

 

それに従い中に入る。中はそこそこに広い部屋で天井には紐で吊るされた手動充電の懐中電灯。ソファーとテーブルが置かれていてどちらも汚れてはいるが壊れてはいなかった。そしてソファーの上にはーーー

 

 

「ーーーよぉ総統閣下殿?元気そうじゃんか」

 

「ーーーゼファー・コールレイン、か?」

 

 

ーーー銀髪でマフラーを首に巻いた少年……ゼファー・コールレインが寝転がっていた。

 

 

 


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