三人が行く!   作:変なおっさん

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第9話

 漆黒の剣が宿泊する宿に移動し、明日行われるモンスター狩りの話をさっさと済ませ、三人と漆黒の剣は親睦を深める為に食事をしている。此処は、宿と酒場が一緒になっている所だ。

 

「戦士長様との戦いですか?」

 

「たっちが強いのは知ってたが、また随分とすげーことやってんだなぁ」

 

「完敗でしたけどね。戦士長様は、本当に強かったですよ」

 

 この前の王都での話をしてみた。初めは、ペロロンが話したので嘘だと思われたが、たっちが話すと受け入れられる。

 

「俺って信用無いんですかね?」

 

「無いんじゃないのか?」

 

「なんで、そんなこと言うんですか? ニニャちゃんは、信じてくれたよね?」

 

「えっと、はい。もちろんですよ」

 

「ニニャちゃんに信じてもらえれば十分だね!」

 

 ペロロンは、機嫌を良くするが傍から見れば嘘だと分かる。ニニャの表情が引きつっているから。

 

「そういえば、ちょっと変わったことがあったんですよ。今日の事なんですけど、冒険者組合に変わった二人組が現れまして」

 

「変わった二人組ですか?」

 

「なんだか凄い高そうな全身鎧を着た奴と俺の愛しいナーベちゃんの二人組。羨ましいよなぁー。俺もあんな美人と一緒に過ごしたいって!」

 

「貴族でしょうか?」

 

「高そうな全身鎧なんて普通の奴は着れないからな。たっちさんの装備を探しに行った時に見たが、今の俺達だと手が出せない値段だからな」

 

 今狙っているのは、鋼鉄製の全身鎧と盾だ。本当は、ミスリル製の物が欲しいのだが値段が高過ぎて話にならない。今のままでもたっちは強いが、本来は全身鎧と盾を用いて戦う。戦力増強の為にも是非欲しい装備だ。

 

「おいおい、たっちもウルベルトもナーベちゃんには興味なしなの? あんな美人そうそう見る事ないぜ?」

 

「好みなんて人それぞれだろ? それに俺には、狙っている人が居るしな!」

 

「私も居ますので」

 

「かぁー! まったく見てないからそんなこと言えるんだ! ダイン、お前からも言ってやってくれよ!」

 

「好みは人それぞれである。しかし、ルクルット程でもないにしろ組合に居た者達は目を奪われていたのである」

 

「ニニャちゃんも見たの?」

 

「はい。とてもお綺麗な方でした。何処かの国の姫に思えるほどに」

 

「女性であるニニャさんが言うのでしたらそうなのかもしれませんね」

 

「たっちさん。あまりその事は」

 

 モークから指摘され、たっちは謝る。実は、ニニャは冒険者になる時に女性であることを捨て男性として冒険者をやっている。チームを組む時は、基本的にどこも同性で行う。異性が混ざると色恋などでチームの和が崩れやすいからだ。長く、揉め事を少なくするための一つの知恵である。漆黒の剣は、ニニャが女性だと知っても受け入れはしたが事はそんな単純なものではない。これから先の事も考えると秘密にしておいた方がいい。ニニャの為にも。

 

「でも、プレゼントは身に着けてほしいな。そのブローチの模様の花ってさ、無事、安全とかの意味があるんだって。理由はあるのかもしれないけど、ニニャちゃんは、あくまでもニニャちゃんなんだからそれぐらいのオシャレはしてもいいんじゃない? できるだけ男でも持ってて大丈夫そうなの選んだんだしさ」

 

「ペロロンさん……」

 

 ニニャは、懐からペロロンに貰ったブローチを取り出す。ニニャも女性である。こういった物に興味がないわけじゃない。

 

「でも、ペロロンさんは、すぐに気づきましたよね。ニニャの事」

 

「俺は、男装でも余裕でいけるからね! 男装も一ジャンルに過ぎない! 可愛いおん――」

 

「――黙ってような」

 

 ウルベルトがペロロンの口を塞ぐ。今しがた、モークに注意されたばかりだ。

 

「ペロロンさんではありませんが、母の形見や想い人からの贈り物と誤魔化す事もできると思います。身に着けてみてはいかがでしょうか?」

 

「私なんかが身に着けてもいいのでしょうか?」

 

「いいと思いますよ、ニニャ」

 

「そうそう、たまにはオシャレしちゃいなよ、ニニャ」

 

「うむ。似合うと思うのである」

 

 仲間達からの言葉も受けて、ニニャも気持ちを決めたのだろう。ブローチを自分の着るローブに付ける。

 

「ニニャちゃんが俺の――」

 

 とりあえず、ウルベルトはペロロンを適当に床に投げ飛ばす。うるさいし、邪魔だ。

 

「似合いますよ、ニニャさん」

 

「ええ、本当に」

 

「今度は、俺達もなんか買うかぁ?」

 

「それはいいと思うのである」

 

 褒められて頬を赤く染めるニニャを囲みながら夜は更けていく。明日の事など何も知らずに。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓にある執務室にアインズは居る。冒険者組合から戻る前に少しばかり情報を集め、宿にナーベラルを残し帰還した。

 

「急な呼び出しに集まってくれた事を嬉しく思う。アウラ、マーレ」

 

「アインズ様に呼ばれたのでしたらすぐにでも」

 

「は、はい! アインズ様に呼ばれたらすぐにでも来ます!」

 

 ダークエルフの双子の兄弟。姉のアウラ・ベラ・フィオーラ。弟のマーレ・ベロ・フィオーレ。製作者であるギルドメンバーの趣味で性別とは逆の服装を着ているのが特徴だろう。アウラは、男装を。マーレは、女装をしている。どちらも幼い子供の姿をしているがナザリック地下大墳墓の第六階層の守護者である。

 

「二人には、トブの大森林で緊急時の避難場所となる建物の建設を申し付けている。しかし、今回は別の件を頼みたい」

 

 アインズはそこで言葉を止める。残りは、傍に控える守護者統括であるアルベドからある。腰からの黒い天使の翼、こめかみから生えた山羊の如き角。縦に割れた虹彩と金色の瞳など奇異な点はあるが絶世の美女である。主に運営管理などナザリックの内の業務を任せてある。

 

「アウラ、マーレ。あなた達には、アインズ様と共にトブの大森林にてモンスター狩りをしてもらいます。既にある程度は、調べてあるのよね?」

 

「はい。建設予定地の周辺だけですが、言われた通りナザリックに従属するか、敵になる者が居ないかは調べてあります」

 

「その中にアインズ様の御身を脅かすものは?」

 

「居ないと思います。一番強そうなのもあたしのシモベよりも弱そうですから」

 

 アウラは、ビーストテイマーとして、多くのモンスターをシモベとして使役している。

 

「あの場所には、《森の賢王》と呼ばれる者が居るらしい。カルネ村でもエ・ランテルでも話は聞いたが伝説の魔獣だそうだ。そんな感じのは居なかったのか?」

 

「アインズ様のお言葉だと森の南側との事でしたが、それらしいのは……ねっ、マーレ?」

 

「う、うん。特には居なかったと思います」

 

(もしかして姿を隠しているのだろうか?)

 

 なにせ相手は伝説とまで言われる魔獣だ。そう簡単には姿を見せない可能性もある。

 

「そうか、分かった。何か変わったモンスターは居たか?」

 

「初めて見るモンスターが居ました」

 

「ほほう」

 

 初めて見るモンスター。もしかして、ユグドラシルには居なかったモンスターか?

 

「どのようなモンスターだ? たくさん居たのか?」

 

「いえ、一匹だけです。ただ、あたしの知る限りだと一番強そうではあります」

 

「では、それに関しては生きたまま捕獲しよう。珍しいモンスターなら死体で持っていくよりも生きたままの方がいいだろう。やはり、戦っているところを見せる方が分かりやすいからな。今回は、ゴブリンやオークなどを100……いや、200程狩る事にする。先ずは、分かりやすいもので様子を見るとしよう。アウラ、マーレ。明日の早朝から狩りを始める。それまでに拠点を中心にモンスターなどを調べておいてくれ」

 

「はい! アインズ様の御心のままに」

 

「御心のままに」

 

 アウラとマーレは、さっそくトブの大森林に戻り明日の為の調査へと向かう。

 

「さて、アルベド。頼んでおいた方は、どうだ?」

 

 エ・ランテルでの一件の報告を聞く事にする。

 

「はい。調べたところによりますと、ンフィーレア・バレアレは、エ・ランテルに住む薬師との事です」

 

「薬師? それが何故私に?」

 

「どうやらアインズ様が渡されたポーションがあの者の店に持ち込まれたようです。この世界のポーションは青く、赤色のポーションは希少価値の高い物のようです。なんでも劣化しない完成された物だと」

 

「そうか」

 

 アンデッド化の影響で動揺が抑えられたことが幸いした。おそらくだが、宿屋で見知らぬ冒険者と揉めた時に傍に居た無関係の冒険者の女のポーションを壊したのが原因のようだ。あの時は、事を丸く収める為に何気なくユグドラシルのポーションを渡したが、それが今回の一件を招いたようだ。

 

(アンデッドの精神抑制が効いて助かったなぁー。どうしよう、俺のせいじゃん!)

 

「どうかなさいましたか、アインズ様?」

 

「いや、なんでもない。しかし、早い段階で違いが分かった事は不幸中の幸いかもしれんな。アルベド、それで他には?」

 

「はい。これは、あくまでも私の考えですが、アインズ様に近づいたのはポーションの事を調べる為ではないかと思われます。街に潜伏させているシャドウ・デーモンを監視に付けましたが、そのような話を祖母であるリィジー・バレアレとしているのを確認しています」

 

「他にこの件を知っている者は?」

 

「おそらくは居ないかと思います。どうやら秘密にしておきたいようですので」

 

(知識の独占か? 商売人ならありえなくもないか?)

 

「では、両者に監視を付けておけ。必要とあらば確保しろ」

 

「殺さなくてもよろしいのですか?」

 

 心の中で、「またか」と思う。どうもナザリックの者達は簡単に殺し過ぎる。今は、この世界の事を何も知らない。少し調べただけでもユグドラシルにはない武技というものがある事が分かった。場合によっては、自分達を簡単に殺せるかもしれない武技や魔法、アイテムがあるかもしれないのだ。慎重に動くぐらいがいいだろう。

 

「私と関わってすぐに死んだ。今後を考えるとそれは避けておきたい。それに薬師というのも価値がある。既に私達の知らないポーションがある以上、それの知識は価値がある。場合によっては、私が魔法で洗脳でもしよう」

 

 危険を無くせる。知らない知識が手に入る。一石二鳥とは正にこの事だろう。

 

「アインズ様の仰る通りに」

 

「それで、他の者達はどうした?」

 

「御命令通りに動いております」

 

 ナザリックの者達に命じてこの世界の調査をさせている。とにかく今はこの世界を知る事が全てにおいて優先される。何も知らない状況では重要な判断などは下せない。なにせ、判断が正しいかどうかを知る材料がないのだから。

 

「なにかあればすぐに報告しろ、いいな?」

 

「畏まりました」

 

 支配者として今は、ナザリック地下大墳墓を守る役割がある。少しは、支配者として板についてきたりしていないか?

 

(誰か居てくれたらな……)

 

 アインズは、遠き日の中に居るアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーを、仲間達を思い出す。もし傍に居てくれたらどんなに気が楽になる事か。

 

(でも、ありえないよね)

 

 この世界に来たのは、ユグドラシルのサービス終了時だ。最後に会う事ができたヘロヘロもログアウトを確認している。おそらくこの世界には一人だけ。もしかして誰か居ないかと思いたいが、現実的ではないだろう。アインズは、胸の内を隠しながら支配者として振舞う。今は、鈴木悟でも、モモンガでもない。唯一人のアインズ・ウール・ゴウンなのだから。

 


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