三人が行く!   作:変なおっさん

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第8話

 たっちとガゼフの戦いは、本人達のあずかり知らぬ場所でちょっとした騒ぎに発展していた。

 

「戦士長様と戦ってるのってシルバー級の冒険者なんだろ?」

 

「そうらしいぞ? でも、本当にそうなのか?」

 

「いや、流石に嘘だろ? シルバー級であそこまで戦えるかよ」

 

 運動場に居た兵士の何人かが知り合いを呼びに行った。そして、その者達が他の者を。そんな感じで王都中にちょっとした娯楽として話が広まり、多くの見物人が押し寄せていた。

 

「ハイハイ! 押さないでください! 押さないでください! ちゃんと席はありますから!」

 

「エールにぶどう酒! 肴に干し肉や焼き肉もありますよー!」

 

 ウルベルトとペロロンをはじめ、集まった観客達相手に商売を始める者も現れる。今では、ちょっとしたお祭り状態だ。

 

「いいですね、戦士長! どんな攻撃をしても防ぎ切るなんて素晴らしいですよ!」

 

「たっち殿こそ! 戦えば戦うほど動きがよくなっているようだ!」

 

 当の本人達は、周りの事など気にもせずに戦い続けている。これで何度目だろう。既にウルベルトは、MPを使い果たしている。ラキュースに関しても似たようなものだ。当人達もとっくにスキルや武技は使えなくなっている。それでもまだ続けている。

 

「いい加減にしてほしいわね……」

 

 ラキュースも初めは、二人の戦いを楽しみに見ていた。剣を扱う者としては、学ぶ事の多い戦いだったからだ。

 

「いいじゃねぇか? ガゼフのおっさんも楽しそうだぞ? 最近じゃ、まともに相手になる奴が居なかったからな」

 

 ガガーランは、酒瓶を手に持ちながら言う。周辺諸国最強の戦士と言われるガゼフの相手ができる戦士は少ない。それこそアダマンタイト級冒険者であるガガーランなどを含めて王国内だと数人ぐらいだろう。だからこそ新しい相手を見つけられて久しぶりに興奮しているようだ。

 

「それにしたって……でも、本当にたっちさんは凄いわね。ストロノーフ様が武技を使えば負けるのだろうけど、それでも対等に剣を交えられるようになってきたように思える」

 

「そうだなぁ。たっちの学ぶ早さは異常だろうよぉ。むしろ、たっちの考えに身体が馴染んでいっているようにすら思える。元々がこれで、今までは制約でも受けてたんじゃないかってぐらいになぁ」

 

「そうね。今の方が何故だか分からないけど、たっちさんらしい気がするわね」

 

 この戦いでたっちは間違いなく成長している。ガゼフに負け、回復し、再戦する度に戦っている時間が確実に伸びている。才能と言えばそれまでだが、それよりもガガーランが言っていた言葉の方が正しく思える。元々、たっちは強かった。今よりも遥かに。しかし、何かしらの原因で弱くなってしまったと考える方が自然な程に自分の動きを把握している。

 

(レベルが上がらない……)

 

 ガゼフとの戦いで三回ほど選択肢が出た。しかし、それ以降は出てこない。戦うだけよりも倒す方が経験値を多く得られる。

 

(戦士長様なら一気にレベルが上がりそうな気がする)

 

 心の何処かでそんな黒い考えが浮かぶ。もちろん本心ではない。ただ、目の前に居る相手をどうしても倒したい。倒してみたい。

 

「――考え事かな?」

 

 思考による反応の隙をついて、ガゼフが動く。本気を出したガゼフは、ほんの些細な隙も見逃してくれない。

 

「――ええ、少しだけっ!」

 

 なんとか剣で捌く。しかし、やはり差はある。

 

「……これで終わりのようですね。悔しいですが」

 

 捌く事はできた。ただ、その後の動きがよくなかった。動いた先には、既に振られた剣があり首元へ突き付けられていた。こちらと同じようにガゼフも成長している。こちらの手の内は、既に読まれ切っている。

 

「もう一戦しますか、たっち殿?」

 

「いえ、結構。戦士長様の御力は十分に分かりました。今の私では、これ以上は無理のようです」

 

「……そうか。いい戦いだった」

 

 互いに剣を鞘に納め、固い握手を交わす。

 

「やっぱり、戦士長様はスゲーやっ!」

 

「でも、あのたっちもなかなかじゃないか!」

 

 長きに渡る戦いを見守っていた観客達は二人を称えながら拍手をする。今この瞬間。間違いなく王国の中で最も賑わっているのはこの場所だろう。

 

「終わっちまったか……」

 

「いやー、十分じゃないですか?」

 

 ウルベルトもペロロンも馬鹿ではない。全て自分達ではやらずに各飲食店に話を持っていきマージンを貰う手はずになっている。観客の数は、優に百は超えているだろう。売り上げの一割を貰う事になっている。人をより多く集める為に雇った運動場に居た兵士達に分け前を払っても十分な利益が見込める。

 

「エ・ランテルに向かうのは明日ですから今日は少し贅沢しましょうか?」

 

「いいな。ラキュースさんを誘ってくる」

 

「なら、俺はイビルアイちゃんを」

 

 仲間であるたっちを放って置いて二人は本能のままに動く。今日は、朝までドンチャン騒ぎだ!

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓と共に見知らぬ世界へと来たモモンガは、何とか頑張りながら日々を過ごしていた。カルネ村という村が襲われたら助け、王国戦士長であるガゼフから助けを求められた時もなんだかんだ助けた。しかし、未だに見知らぬ世界に不安のあるモモンガは、この世界を知るために様々な方法を考えた。その内の一つが、冒険者になる事。お共にプレアデスであるナーベラル・ガンマを連れ、エ・ランテルにある冒険者組合で冒険者として登録をし、宿を取り情報を集めてから再び冒険者組合へと依頼を受けに行った。ただ、物事はなかなか上手くはいかない。この世界では、言葉は分かるが文字が読めない、書けない、分からない。掲示板で依頼を確認しようにも内容が分からないので奇策に出た。適当に選んで受付嬢に渡し内容を聞く。内容は、ミスリル級への依頼だった。しかし、そこは偉大なるナザリック地下大墳墓の支配者。今は、ただ一人だけのギルドであるアインズ・ウール・ゴウンの名前を名乗っている。退くわけにはいかない。

 

「私は、それを受けたいのだ」

 

「そう、仰られましても」

 

「くだらん規則だ。昇級試験を受ける日まであんなみすぼらしい仕事を繰り返さなければいけない事が不満でな」

 

「仕事が失敗した場合、多くの方の命が危険に晒されます」

 

 受付嬢の言い分は分かる。組織にとって信頼は築くのが難しく大切なものだ。それをこうして我儘で壊そうとしているのだ。正直、他の冒険者達からの視線も痛い。当然の内容の愚痴や文句を言っている。

 

「後ろに居る私の連れは、ナーベと言うのだが彼女は第三位階の魔法の使い手だ」

 

 ナーベは、冒険者をする時のナーベラル・ガンマの名前である。モモンガことアインズも冒険者をする時は、モモンを名乗る事にしている。何か問題が起きた時の対策の為だ。

 

「第三位階……」

 

「いや、流石に……なぁ?」

 

 この世界の事は、カルネ村やガゼフを襲った者達を捉えて少しは知る事ができた。やり方は、ナザリックの者達に任せたが、どうやらこの世界だと第三位階の魔法でも凄いらしい。ユグドラシル基準でみれば、あっという間に過ぎるような段階のものだがこのざわめきようである。どうやら少しナーベの機嫌が良くなったようだ。素晴らしいまでに見下した目を向けている。

 

「そして、私も当然のようにナーベに匹敵するだけの戦士。この程度の仕事など容易く成し遂げてみせる。必要なら力を見せよう。だから、この仕事を頼む」

 

 さて、どうだ?

 

「……申し訳ありませんが規則ですので、それはできません」

 

 頭を下げられての謝罪。この辺りで仕掛けるか。

 

「それでは仕方がないな。我儘を言ってすまなかった」

 

 まずは、低姿勢で非礼を詫びる。こちらの方が悪いのだから当たり前だ。

 

「では、カッパーの依頼を見繕ってくれないか? できれば、難しい物を頼む」

 

 あれだけ言ったのだから少しは見栄を張っておきたい。

 

「あっ、はい。畏まりました」

 

 受付嬢は、掲示板の方へと向かい探し始める。これで、依頼が受けられる。我ながら素晴らしい機転の利きようだ。頑張れ、モモン。お前がしっかりしないと大変だぞ。

 

 

「――あっ、あの……モモンさんですよね?」

 

 突然、声を掛けられる。この街にモモンの名前を知る者が居たか?

 

「どちら様で?」

 

 声のした方を見ると少年が居た。前髪が長く目元が隠れている。

 

「初めまして。僕は、ンフィーレア・バレアレと言います」

 

「バレアレさん? そのバレアレさんが何の用で?」

 

「その、モモンさんに依頼をしたいのです」

 

「依頼?」

 

 初めて会ったはずの人間に依頼?

 

「何処かでお会いしましたか?」

 

「いえ、会ってはいません。ただ、お話を聞いて」

 

「話ですか?」

 

「宿屋での件を聞いたんです。あっという間に一つ上のランクの冒険者を簡単にふっ飛ばしたって。カッパーの方なら依頼料も安いので、依頼してみようと思いまして」

 

「なるほど」

 

 確かに一理ある。実力のある者を安く雇えるのなら得だろう。しかし、どうも引っ掛かる。

 

「――バレアレさん。もしよければ、俺達が引き受けますよ」

 

 組合の中に居た冒険者から声が上がる。

 

「そんな見知らぬ奴よりも俺達の方がいい働きをしますよ」

 

 四人でテーブルを囲んでいた内の一人がこちらに来る。モモンとナーベを交互に見るが、明らかに見る目が違う。こちらは、憎しみのある目で。ナーベの方は、下心が丸わかりな目だ。

 

「その方がいいかもしれませんね。私達は、まだこの辺りにも詳しくはありませんし、冒険者になって日も浅い。先輩方に任せるとしましょう。申し訳ありません、バレアレさん。またの機会に。行くぞ、ナーベ」

 

「はい」

 

「ちょっと、待ってくだ――」

 

 モモンは、呼び止めようとするンフィーレアを無視して、ナーベと共に建物から出ていく。

 

「大丈夫ですよ、バレアレさん。あんないけ好かない野郎よりも俺達が受けますから」

 

「で、でも……」

 

 ンフィーレアは、困りはするが渋々この冒険者に仕事を依頼する。

 

 その頃、建物を出て少し歩いたところで人気のない事を確認して、《メッセージ》の魔法を繋げる。この魔法は、遠くにいる相手と会話をする事ができる。

 

「アルベド。先ほどの一件は見ていたか?」

 

 メッセージの相手は、ナザリック地下大墳墓からこちらを監視させている階層守護者統括のアルベドである。念の為、周囲に危険な人物が居ないか常に監視させている。

 

『はい。見ておりました。アインズ様への数々の暴言……許すわけにはいきません』

 

 言葉だけだが分かる。アルベドは本気で怒っている。ナーベ同様アルベドも人間を良く思っていない。それに加えて、ナザリックの者は例外なくアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーを至高の存在として忠誠を誓っている。更にアルベドの場合は、自分の行為によるものだがモモンガの事を愛している。そのため、自分絡みの件だと他の者達よりも機嫌が悪くなる。今も、何かしらの呪詛的な言葉を口にしている。正直、怖い。

 

「ゴホン。アルベド、話を進めていいか?」

 

『逆さに張り付けして焼き――申し訳ありません。どうぞ、モモンガ様のお言葉をお聞かせください』

 

「アルベド。今の私は、モモンガではない。アインズ・ウール・ゴウンだ。更に言えば、冒険者としている時はモモンになる」

 

『申し訳ありません。以後、気をつけます』

 

「よろしく頼む。それで、話なのだが。先ほどのンフィーレア・バレアレについて調べてほしい。確かに彼の言った言葉には一理ある。しかし、それだけで見知らぬ者に依頼をするとは思えない」

 

 仕事の内容は聞いてはいないが、わざわざ指名するほどだ。それを値段が安いからと知らない者に依頼するか? もしかすると、こちらを調べる事が目的かもしれない。残念ながらこの世界の事は知らない。簡単にボロが出てしまう。せめて、他の冒険者と一緒ならいいが。

 

『わかりました。すぐに調べさせます。他には、何かありませんか?』

 

「そうだな。詳しくは、戻ってから話すがモンスター狩りをしようと思う。金も手に入る上に力を見せつける事もできるだろう。ナザリックから誰かを連れていく事にする。戻るまでに決めておいてくれ」

 

 依頼はダメだったが、他の方法でやって行けばいい。それまでには、文字ぐらい読めるようになっておきたいものだ。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

「なんだか凄そうな人達でしたね」

 

「くぅー、あのナーベちゃんめちゃくちゃいいよねぇ! あんな美人と結婚してぇ!」

 

「なら貴族にでもなるのである」

 

「あの戦士の方、とても高そうな鎧を着ていましたね。貴族なのでしょうか?」

 

 先ほど行われた冒険者組合での騒動の一部始終を見ていた漆黒の剣は口々に言葉にする。漆黒の剣のリーダーで戦士のペテル・モーク。レンジャーのルクルット・ボルブ。スペルキャスターのニニャ。ドルイドのダイン・ウッドワンダー。

 

「羨ましいですね。あのような鎧を着られるなんて」

 

「俺は、ナーベちゃんの方が羨ましいけどなぁ! あぁ……あんな子と一緒のチームになれたらどんなに幸せかぁ……」

 

「しかし、見たところによると二人組。男女の仲なのかもしれないのである」

 

「貴族と従者でしょうか?」

 

「俺のナーベちゃんがあの男に……許せねぇ……」

 

「別にルクルットのものではないしょう。それよりも話を進めましょう。そろそろ王都からたっちさん達が来る頃です。効率的にモンスター狩りを行える場所を決めておかなければいけません」

 

 順調に行けば、今日ぐらいに王都からたっち達がエ・ランテルに来る予定だ。その前に聞き込みをして集めた情報からモンスターを多く狩れる場所を決めておきたい。更に付け加えれば、トブの大森林で薬草なども採取したい。場所は慎重に選ぶ必要がある。

 

「いやー、やっと戻って来れましたねー!」

 

「運よく荷馬車に乗せて頂けて助かりましたね」

 

「まだ野盗が居るそうだからな。こちらは楽ができる。あちらは、タダで護衛をしてもらえる。別に感謝する必要はないだろう」

 

 漆黒の剣の四人が話を始めようとした時に待ち人の声が聞こえる。

 

「丁度いいところに来たぞ! おーい、こっちこっち!」

 

 ボルブは、組合の入り口に居るたっち達を呼ぶ。

 

「お待たせしました」

 

「いいえ、今回はよろしくお願いします」

 

 代表で、たっちとモークが挨拶と握手を交わす。

 

「お久しぶり、ニニャちゃん。コレ、俺からのプレゼント。臨時収入が入ったからニニャちゃんの為に買ったんだー」

 

 ペロロンは、ニニャに花柄のブローチを渡す。

 

「ありがとうございます。ペロロンさん」

 

「ニニャちゃんにそう言ってもらえると買ったかいがあるってもんだね」

 

「ペロロン。念の為に言っておくが、ニニャは俺達の家族みたいなもんだからな?」

 

 ニニャとペロロンの間にボルブが割って入る。

 

「はいはい。わかってますよー」

 

「絶対分かってないだろ、お前?」

 

「分かってますよ。気にしないだけで」

 

「ウッドワンダーさん。これは、土産の酒です。王国の北部の物らしいです。今日は、皆で飲みましょう」

 

「ウルベルト氏には感謝なのである」

 

 傍で取っ組み合いをしているペロロンとボルブを無視して、ウルベルトはウッドワンダーに土産の酒を渡す。今日は、再会を祝いながら明日のモンスター狩りの話をする事になる。

 


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