三人が行く!   作:変なおっさん

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第7話

 ガゼフが三人と蒼の薔薇を案内したのは、王城であるロ・レンテ城外に造られている運動場である。案内されていくと数は少ないが兵士達が訓練をしていた。ガゼフの姿に気づいた者達は、姿勢を正して出迎える。

 

「此処なら存分に剣が振るえる」

 

「そのようですね」

 

 運動場の中央にガゼフとたっちだけが向かい、残りは離れて見る事にする。

 

「空を飛んで魔法で戦えば勝てそうなんだけどな」

 

「せこいですよ」

 

 この世界に来てから戦士が上空に居る敵に対して有効な攻撃手段を用いるところを見ていない。王国戦士長ともなればあるとは思うが、それでも勝てそうな気はする。

 

「それは違いますよ、ウルベルトさん」

 

「ラキュースさん!」

 

 一緒に観戦する蒼の薔薇のラキュースがウルベルトの隣に来る。思わず姿勢がよくなる。

 

「相手がどんな攻撃手段を持っているか分らない以上は、油断は命取りになります」

 

「そうですね! ラキュースさんの言う通りです!」

 

(ブレないなこの人)

 

 こんなので大丈夫なのかと思うけど、気持ちはわからなくもないのでそっとしておく。

 

「なあ、仲間としてどう思うよ」

 

 ガガーランからの問いかけに二人は考えてみる。

 

「見てみないと何とも言えませんね。たっちさんも強いですけど、ガガーランさんよりも強いんでしょ? だったら負けるかもしれないですね」

 

「そうだな。まあ、やってみないとわからないが」

 

「なんだか勝てるかもしれないって口ぶりじゃねぇか? 相手は、周辺諸国最強の戦士とまで言われている相手なのによぉ?」

 

 ガガーランの言いたいことも分かる。ただ、二人の答えは決まっている。

 

「やってみれば分かると思います」

 

「ただ強いだけじゃダメだからな」

 

 二人のたっちへの信頼は厚い。仲間として共に戦ってきたから分かる。何度も喧嘩をして戦ったから分かる。たっちと言う人間がどんなものなのか。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ガゼフと相対するたっちは、頭の中で考える。

 

 身に着けている物は、お互いに軽装。ガゼフは、金属製。こちらは、革に金属板を張り付けただけなので若干だがこちらの方が身軽だろう。武器は、互いに剣だけで盾は無い。ガゼフの事は知らないが、こちらとしては盾を使いたい。元々は、盾を使用して戦っていたが初期装備の盾が壊れてから何度も買い替える事になった。安物では、使い捨てで金が掛かる。安全と戦いやすさを考えれば必要だが、勿体ないので他に資金を回すことになった。

 

(盾のスキルは使えない。なら、剣のスキルだが……使う隙はあるのか?)

 

 戦闘の要になるたっちは、常時発動型のスキルを主に選択している。スキルには、どうしても使用回数に制限があるのでその対策の為だ。その為、盾もそうだが剣を含めても技としてのスキルは、たった三つしか覚えていない。レベルが上のスキルを覚えられるまでの繋ぎ程度に考えていたが、どうしたものか?

 

「準備はできたか?」

 

「ええ、いつでも大丈夫です」

 

 相手には、余裕が見える。当たり前だろう。ガゼフからしてみれば、自分は格下なのだから。

 

「戦士長様。剣を交える前に、一つお聞きしてもよろしいですか?」

 

「なにかな?」

 

「武技は、お使いになられますか?」

 

 ユグドラシルにはない、この世界にある概念。こちらで言うスキルの代わりに、この世界の者が使用する技。

 

「いや、あくまでも実力を知りたいだけだから使わない」

 

 ユグドラシルにはない物なので予測はつかない。

 

「そうですか……」

 

 たっちは、内心で笑う。別に武技を使わないと口にしたからではない。

 

「戦士長様と違い、こちらは本気で行かせて頂きます」

 

 本気で来ない? なめられているのは分かるがいい気はしないな。

 

「ああ、悪い癖が出てますね」

 

「相も変わらずだな」

 

 そんな様子を見ていたペロロンとウルベルトは、そう口にする。

 

「癖ですか?」

 

「ラキュースさん。ラキュースさんから見て、たっちさんはどう見えますか?」

 

「……真面目な方でしょうか? 誰にでも隔てなく接しているお優しい方だと思います」

 

「普通ならそう思いますよね」

 

「でも、実際は違うんですよねー。たっちさんは――」

 

 ペロロンが言葉を言い終わる前に事態は急に動き始める。

 

「――いきなり来るか!?」

 

「いつでもと、言ったはずですよ?」

 

 それは、突然だった。何もないまま、たっちがいきなりガゼフの方に踏み出し剣を振るった。躊躇いの無い、本気の一撃だ。

 

「……それが、たっち殿の戦士としての顔か?」

 

 ガゼフは、考えを改め直す。今、面前に居る者は先ほどまでの好青年ではない。反応できる速さではあったが、受けた剣から手に、腕に、身体に衝撃が確かに伝わっている。

 

「どうですかね? 戦っている時の顔は見た事がないので、分かりませんよ」

 

 たっちは、そこから動く。動く。動き続ける。

 

「――連撃か!?」

 

 受け止められた剣を引き戻したと思えば、そこから剣を再びガゼフへと振るう。それを防げば同じように、同じように何度でも繰り返す。優雅さの欠片もない、力任せの連撃。それでも実際にこなすのは難しいだろう。

 

「――この程度か!」

 

 ガゼフは、たっちの連撃を凌ぎ切り、振るわれた剣を剣先で弾き返すと反撃に出る。

 

(腕は悪くない。しかし、まるで素人そのもの)

 

 初めは、その豹変ぶりに警戒したが蓋を開けてみれば馬鹿の一つ覚えのような連撃だ。

 

(期待外れだな)

 

 確かに素質はある。あるだろうが、求めている者にはほど遠い。

 

「今度は、こちらから行こう!」

 

 今度は、ガゼフの攻撃になる。剣を弾かれ、体勢を崩したたっちは、ガゼフの攻撃を受ける為に防戦一方になる。先ほどまでの勢いは完全に無くなり、見る影もなくなっている。

 

「……なぁ、たっちの戦い方ってあんなだったか?」

 

 剣を交えたことのあるガガーランが不思議に思う。少なくとも、自分と戦った時はああではなかった。

 

「悪い癖が出てますからね」

 

「ああ、本当にな」

 

 それの答えのようにペロロンとウルベルトはそう呟くが理解ができない。

 

「そういえば、この勝負の勝ち負けってどうなんですかね? やっぱり、先に攻撃を当てたらになるんですかね?」

 

「そうでないと程度にもよるが、ただの殺し合いだからな。ガガーランさん、そこのところはどうなんですか?」

 

「そうだな。普通は、負けを認めるか、相手に誰が見ても分かりやすい攻撃をしたらだろうな。まともに振るったら死んでるだろ、って思えるような」

 

「なら、俺はたっちさんに今夜のゴハンを賭けますね」

 

「それだと賭けにならないだろ?」

 

 二人の言葉の意味が分からない。二人の中では、あのガゼフにたっちが勝つ光景が見えているのだろうか?

 

「あまり、ストロノーフ様を侮らない方がいいですよ?」

 

「御言葉ですが、ラキュースさん。こればかりは、言わせてもらいます。たっちさんは、強いんですよ。ムカつくぐらいに」

 

「そうそう。それに、あの人。戦いだと普段と違うからねー」

 

「違う?」

 

「たっちさんは、戦闘狂なんですよ」

 

「怖いよね、あれ。俺達の中でも一番戦いに入れ込んでたからさー」

 

 その時である。大きな雄たけびが上がる。

 

「うぉおおお!!」

 

 それまで防戦一方だったたっちが攻勢に打って出る。

 

「――《返し技》」

 

 たっちが覚えている剣のスキルの一つ。

 

「――これは!?」

 

 ガゼフが振るっていた剣筋の一つに合わせて、スキルで反撃を行う。相手の攻撃に対して行うスキル。全ては、コレの為に演技をしていた。稚拙な連撃で相手を油断させ敵に攻めさせる。

 

(私をなめないでください!!)

 

 ガゼフは、初めから本気ではなかった。相手は格下。様子を見る為に武技は使わない。それどころか、こちらの連撃に対する答えが様子見の剣だった。力が込められていない。勝つ意志の無い剣。たっちの持つ戦いでの勝利への誇りを完全に侮辱した行為だ。

 

「――《強撃》」

 

 更にもう一つのスキルも使用する。ガゼフの剣もこちらへと振るわれている。しかし、相手は手を抜いていた。相手からの攻撃と屈辱に耐え、狙った隙は返し技のスキルにより速度を増し、こちらの剣を先に届かせるだろう。だが、それでも足りない。強撃のスキルで上乗せされた渾身の剣の一振りを叩き込まないと気がすまない。

 

「――《流水加速》」

 

 ガゼフは、思わず武技を使う。

 

 たっちの目に不可思議な光景が見える。あと少しで渾身の一撃が当たると言う瞬間。ガゼフの身体が思いもよらない速さで動いたのだ。まるでこちらの時間が止まり、ガゼフだけが動いたような。既に止まらない剣は、ガゼフを捉えることなく空を切る。

 

「――見事!」

 

 反応が遅れる。

 

「――ッ―――」

 

 身体に強い衝撃を受け地面に勢いよく転がる。倒れる前に一瞬だが、ガゼフの姿が見える。どうやら剣ではなく、肩口からの突進を受けようだ。重心が崩れた体勢で受け、なすすべもなく倒れたからか、体中が痛む。だが――

 

「使い……ました、ね……武技を」

 

「ああ、そのようだな」

 

 ガゼフは、使う気の無かった武技を使った。否、使わされた。仮に使わなければ、致命傷を受けていたかもしれない。たっちが振るった剣は、命を奪う剣だ。

 

「……申し訳ありませんが、戦士長様。もう少しだけ、お付き合い願いますか?」

 

 今、たっちの頭の中で新たな選択肢が生まれた。どうやら今の戦いでレベルが上がったようだ。

 

(あの速さに対抗できるようになりたい)

 

 選択肢の中からガゼフの速さに対応できる物を選ぶ。負けはしたが、まだ戦える。

 

「たっち殿。今度は、私も本気で行く。それでいいかな?」

 

「ありがたい話ですね。戦士長様に本気を出して頂けるなんて」

 

 選択を終えたたっちは、立ち上がると剣を構える。

 

「では――行きます」

 

 今度は、こちらも初めから本気で行く。先ほどのような奇策が二度も通じる相手ではない。たっちが全力で振るう剣をガゼフは、受けずに剣先で捌き、外へと流す。

 

「――甘い!」

 

 ガゼフは、返す刃でたっちを狙う。それを見越していたのか、たっちは後ろへと下がる事で躱す。だが、そこからガゼフは剣を押し込むようにして追撃の突きを見舞う。

 

「――いいですね! 強いですよ、戦士長様!」

 

 完全に避けきる選択肢を捨て、たっちは前に出る。ガゼフの剣が頬を掠め、血が吹き出ようがお構いなしに前に出たたっちは、先ほどのお返しとばかりに体当たりを仕掛ける。

 

「荒々しいな! それが、たっち殿の本性か!」

 

 ガゼフは、たっちの体当たりを正面から受け止める為に身構える。まるで巨石のようなガゼフに容易く体当たりを防がれるが、手元に剣の感覚が戻る。振るえる。下からではあるが振り上げるようにする。これには、流石のガゼフも怯む。互いの身体で死角になっていた剣を間一髪で避けきるのは流石だが、体勢は崩れる。

 

「――強撃の連撃はどうですか!」

 

 先ほどの稚拙な物とは違い、丁寧に振るわれる剣。それに、強撃のスキルで力を上乗せしている。だが、それを体勢が崩れながらもガゼフは受け切り、徐々に体勢を立て直していく。

 

「――気に入った!」

 

 ガゼフの目つきが変わる。どうやら、たっちを自分の相手として認めたようだ。

 

「――《四光連斬》」

 

 ガゼフの剣が増えた。否、増えるように見えた。

 

「――ッ……ガハッ……」

 

 同時に叩き込まれる四連撃。先ほどまでたっちがやっていたのとは違い、同時に来たために躱しようがなかった。

 

(これが、戦士長の武技……)

 

 まともに四つもの剣撃を受けた。意識はあるが、身体に力が上手く入らない。悔しい。悔しいが、見事としか言いようがない。

 

「いい戦いだった」

 

 既にガゼフは、剣を納刀する。

 

「その……ようですね……」

 

 気合い。意地。誇り。かき集められる物を集めるだけ集めて、倒れたいのを堪える。これ以上は、負けたくはない。絶対に倒れてなるものか。

 

「まったく、賭けに負けたじゃないか」

 

「いいじゃないですか、二人とも負けなら奢らなくてすみますし」

 

 勝負が着いたと判断したからか、ウルベルトとペロロンがたっちの下に来る。

 

「ライト・ヒーリング」

 

 ウルベルトが魔法でたっちを治癒する。どうやら手加減はされているらしく治りそうだ。

 

「……ウルベルトさん」

 

 たっちは、傷が癒えるのを確認すると息を整え、再び手に持つ剣に力を籠める。

 

「私の我儘に付き合ってもらってもいいですか?」

 

「……回数には限りがあるからな」

 

「こうなるなって思ってましたよ。たっちさん、負けず嫌いですもんね」

 

 慣れているのだろう。二人は、元の位置に戻る。

 

「戦士長様。もう一戦、お願いします」

 

 たっちは、剣を持ち構える。相手の返答なんて興味はない。受けないのなら、受けるようにするだけだ。

 

「どうやら、気絶でもしないと止まらなそうだな。いざとなれば、ラキュースさんも居るからな。気が済むまで付き合おう」

 

「いいのか、リーダー?」

 

「少しぐらいなら問題はないわ。ただ、余力は残しておきたいのだけど……どうなのかしらね?」

 

 ラキュースの目には、戦いに飢える二人の男の姿がある。緊急時の為に余力は残しておきたいが、こちらの事など気にはしてくれないだろう。

 

「では、後は気にせずにできますね。行きます、戦士長様!」

 

「受けてたとう!」

 

 たっちの剣を受ける為にガゼフは身構える。おそらく、この戦いは長引くだろう。しかし、緊張感が常に漂う戦いを見ている者はそうは感じない。内から滾る興奮が時間など忘れさせる。

 

(強いな……)

 

 そんな中。唯一人、冷静に見ている者も居る。

 

(異常なまでの強さ……神人なのか?)

 

 イビルアイは、急成長するたっちを見てそう思う。この世界には、神人と呼ばれる者が居る。プレイヤーと呼ばれる六大神の血を持って生まれ、その血を覚醒させた者は人では得る事の出来ない力を得られるという。もしかすると、たっちは……いや、他の二人も?

 

「ありえないな」

 

 神人は、希少だ。存在する事が珍しいのに同じチームを組んでいるなんてあるのか? わからない。わからないが唯一つ言えるのは、周辺諸国最強の戦士と今も戦っている者が居るという事だ。成長を続けながら。

 




次ぐらいからナザリックが絡んでくると思います。
書籍版を元にしていますので少し描写は省くと思います。
内容と結果は違いますが、書籍があるとわかりやすいと思います(ステマ)

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