三人が行く!   作:変なおっさん

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第53話

 レエブン候は、ロ・レンテ城の一室へと二人を案内した。調度品などを見る限り応接室のようなその場所には、先客が居た。

 

「たっち君。彼は、私の部下で元オリハルコン級冒険者のボリス・アクセルソンだ。先ほど、君の戦いを見たと言ったがそれは彼の目を通してのことだ」

 

「ボリス・アクセルソンと言います。素晴らしい戦いぶりでした。以前、戦士長様と戦われた時よりも腕を上げたようで」

 

 たっちの記憶にはないが、どうやらガゼフと剣を交えたあの場所にもボリスは居たようだ。

 

「ボリスの話を聞いて、それから君に興味が湧いた。ただ、今回はその話ではない。機会があれば場を改めていろいろと話でも聞かせてもらいたい。ボリス」

 

 ボリスは、レエブン候に頭を下げるとそのまま部屋の外へと出て行く。気配から察するに扉の前で周辺の警戒をしているようだ。

 

「それでは、早速話に入ろうか。座ってくれ」

 

 レエブン候に招かれるが、上位者であるレエブン候が座るまで二人は待ち、レエブン候が座り再度促されてから向かい側の席に着く。

 

「私は、冒険者の知り合いが多くてね。貴族特有の回りくどい言い方などが嫌いなのも知っている。なので、単刀直入に言おう。たっち君。私は、君に――君達に依頼を頼みたい」

 

「依頼ですか? それは、組合を通してでしょうか?」

 

 冒険者は、冒険者組合を通してしか仕事を受けてはいけない規定がある。

 

「いや、違う。正確に言えば、組合の方には既に話は通してある。だが、事情が事情でね。表向きにしたくはないのだよ。とりあえず規定に触れる事はないからそれだけは安心してほしい」

 

 安心。そうは言うが安心とはほど遠い状況だ。既に組合に話を通され、王族の次に権力があるレエブン候直々の依頼だ。内容がどんなものであっても断れない。

 

「内容をお聞きしても?」

 

「依頼内容は、失踪者の捜索又は、その原因の究明になる。実は、失踪者は貴族やその関係者になる。私は、相談を受けてね。蒼の薔薇に依頼しようと思い彼女を呼んだのだよ」

 

 ふと、隣に座るラキュースを見る。ラキュースの方もこちらをチラリと見たが、すぐに視線を前へと戻す。

 

「蒼の薔薇は、既に別件を抱えていてね、人手が足らないようだ。そこで、彼女の推薦を受けて君達に依頼することにした。君達の役割は、彼女達の手伝いと言ったところかな」

 

 蒼の薔薇からの推薦。本当にそれだけだろうか?

 

「少しよろしいでしょうか? 推薦は分かりますが、なぜ私達なのでしょうか? レエブン候ならば他にも相応しい者達に話を持っていけるのでは? 恥ずかしい話ですが私達は、組合から信頼に足らないと評価を受けております。そんな私達に秘密裏の依頼をする理由をお聞かせ頂きたい」

 

 質問など出来る立場ではない。言われた通りに動かなければならない。だが、たっちとしては仲間を守る方が大事だ。

 

「先ほどの話に戻ろう。前々から君達のことは調べていたのだよ。良くも悪くも目立つ存在だからね。正直に言ってしまえば、確かに信頼は無い。だが、それは組合の方でもそうだが他の二人を加えての評価になる。たっち君個人に限れば問題はないと私も判断している。君達の関係を調べてみて分かったがそれで十分なのだろう? 三人の内の誰かが決めたことであるのなら他の二人も協力するようだからね。理由は、これでいいかな?」

 

 嘘は言っていないと思う。組合からも似た様な事を言われた。たっちが依頼を受ける窓口となり、依頼人と二人の間を上手く取り持つようにと。

 

「では、ここからはラキュースに任せるとしよう。報酬に関しては十分な物を御支払いする。それでは、後は二人で話してもらいたい」

 

 レエブン候は、そう言い残すと役目は終わったと言わんばかりにすぐに部屋から出て行く。それを二人は見送るわけだが――

 

「ごめんなさい。厄介事に巻き込んでしまって」

 

 開口一番で謝られる。申し訳ないラキュースの表情を見るに碌な依頼ではないようだ。そもそもアダマンタイト級の蒼の薔薇に依頼する時点で嫌な予感しかしない。

 

「かまいません。それよりもお話を聞かせて頂けますか?」

 

 二人は、向かい合うように座り直す。

 

「今回の失踪者には共通点があります。それは、麻薬になります」

 

 嫌な単語が出た。麻薬が関わる話なのか。

 

「失踪者達は、八本指の麻薬部門が主催している催しに参加した者達になります。内容は――その……ですね……」

 

 急にしどろもどろになり、恥ずかしそうにラキュースは頬を紅潮させ視線を逸らす。

 

「男女で集まり麻薬……ここでは、媚薬という言い方をした方が適切なのですが夜な夜な――」

 

「分かりました。それ以上は言わなくて大丈夫です」

 

 男女が媚薬を用いて行う催し。淑女であるラキュースが口に出しにくい話なわけだ。

 

「しかし、なぜ私達なのでしょう? ラキュースさんの推薦とありましたが秘密裏に行うのであれば自分の手の者を使えばいいと思うのですが? 先ほどのボリスと名乗る方ならば十分ではないのでしょうか?」

 

 レエブン候ほどの人物であれば、優秀な人材を手元に置いていることだろう。少なくとも先ほど居たボリスは、十分な実力があるように思える。

 

「簡単な話です。レエブン候は、この件から手を引く気でいます。既に調べられたそうなのですが、どうやら八本指と敵対している者が居る可能性があります」

 

「犯罪者組織の元締めのようなところですよね? そこに敵対ですか?」

 

 八本指は、王国の犯罪者達を取りまとめる者達だと聞く。そこに喧嘩を売るような者など居るのか?

 

「八本指が主催の催しに参加した人物が相次いで失踪。当然のように彼らに疑いを持ちますが、どうやらあちらでも失踪者が居るそうです。レエブン候がお調べになった話からするに一人や二人ではないと」

 

「現在判明している失踪者の数は分かりますか?」

 

「話では、既に十二名になるそうです。その中には、あちらは含まれてはいません」

 

 麻薬絡みの失踪事件と考えるのは安易なのかもしれない。普通なら麻薬による死亡事故の隠蔽。麻薬や売り上げの持ち逃げなどが考えられるが数が多い。

 

「もう少し情報が欲しいですね。いつからなのか? 場所や時間帯など」

 

「期間は、ここ一週間ほどになります。時間は夜から朝方まで。場所は、特に決まっているわけではなくある程度の広さを確保できる場所。出入り口には、見張りが数名居るとのことです」

 

「見張りですか?」

 

「内容が内容なので見張りを付けているのでしょう。先ほど話したあちら側の失踪者は主に見張りをしていた者達になるそうです」

 

「普通に考えれば、見張りを倒し、参加者と共に誘拐でしょうか? なんだか雑な気もしますが?」

 

 ここで問題なのは、誰がそんなことをするかだ。誘拐の理由は分からないが、元締めに喧嘩を売ってまでするようなものなのだろうか? しかし、少なくともその者は――者達かもしれないが上手く出し抜けるだけの力はありそうだ。

 

「見張りか――出来れば潜入調査をする必要がありますね。レエブン候で調べられないようなら他の手段では難しそうですからね」

 

「その際は、私達もできる限りの協力はさせて頂きます。推薦した責任もありますから」

 

「……そういえば、なぜ私達を推薦したのですか? 参考に聞いてみても?」

 

「理由はいくつかあります。一つは、実力です。場合によっては、八本指と争えるだけの戦力を持つ相手の可能性があります。八本指は、アダマンタイト級の実力者を複数抱えているという噂があります。そうなると、こちらもそれ相応の実力者を用意しなければなりません。皆さんならそれを満たしていると思いましたので」

 

「それだと期待に応えないといけないですね。他にもありますか?」

 

「他だと、ウルベルトさんの存在です。私も潜入調査の必要性を考えていました。ただ、今は警戒が厳重なようで武器になるような物を持つ事が出来ないようです。ウルベルトさんは、魔力系に信仰系の魔法を行使できます。戦うことも治療も行えます。それに普段から仮面でお顔を隠されていますので、素顔を知っている方は多くないと思います」

 

 確かにウルベルトなら武器は必要ない。それに裏の仕事をする者達は、毒などを使用する傾向がある。治療が行えるのは必須かもしれない。それにラキュースの言う通り、普段から仮面で顔を隠しているウルベルトなら正体がバレにくい。

 

「推薦の理由は分かりました。ただ、潜入調査はどのように行う予定なのですか? 場所などは変わるのでしょう?」

 

「場所に関しては、既にティアに調べてもらっています。潜入に関してなのですが――私がウルベルトさんと行おうと思います」

 

「ラキュースさんが?」

 

 潜入調査は危険な役割になる。それに今回は内容がラキュースには合わない。

 

「私なら信仰系ではありますが魔法を使えます。ティアやティナに任せるというのもありますが、二人には周囲の見張りをしてもらおうと考えています。次もあるとは限りませんから」

 

「分かりました。こちらはあくまでも蒼の薔薇の手伝いとのことなのでやり方はお任せします。他にはありますか?」

 

「今のところはありません」

 

「それでは、私はこの話を二人に持って行きます。話はその後で改めてということにしましょう」

 

 レエブン候からの依頼。既に危険と判断して切り捨てたものではあるが、こちらはやる以外の選択肢しかない。王国の裏社会を支配するような組織に喧嘩を売るような厄介な相手をしなければならないかもしれない。割に合わない仕事にならなければいいが。

 


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