三人が行く!   作:変なおっさん

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第52話

 たっちが冒険者組合からの依頼で出張している頃、ウルベルトとペロロンは組合の待合室で好きに時間を潰していた。

 

「この子、可愛い。どこの子?」

 

「この子は、パン屋のある通りの子だね。いつか戦士長様みたいになるんだって言ってたから戦士の役にしたんだ」

 

 蒼の薔薇専用とも言える席の隣で、ティナと共にペロロンは紙芝居制作を行っている。といっても、ティナは何かをするわけでもなくペロロンの描いているデフォルメされた実際の人物に興味があるだけだ。主に男の子に。ティナは、ショタコンだったりする。

 

「でも、ペロロンは絵が上手い。初めて見る描き方だけど」

 

 ペロロンが描く絵は、一般的な肖像画とはかけ離れている。あくまでも特徴を捉え、それらを抜き出して簡略化した描き方であって写実的ではない。

 

「でも、可愛いでしょう?」

 

 ティナは、試作品を既に何枚も選んでは、自分の物にしている。

 

「私も何かあれば手伝う。言って、絶対に行くから」

 

「じゃあ、その時はお願いしますね。それで、次は……」

 

 ペロロンは、いつも遊んでいる子供の中から物語の役を考える。ペロロンは、子供達を自分の紙芝居に登場させる予定でいる。最近暇な事もあり時間が十二分にあるので紙芝居でもと思ってやってみたはいいが、これが結構大変だったりする。

 

「ペロロンは、登場しないの?」

 

「俺ですか? いや、俺は登場しませんよ。代わりにウルベルトさんが登場しますけど」

 

 悪魔王ウルベルト。冒険者である子供達の前に立ちふさがる悪魔王として登場する。もちろんいつもの仮面を着けた姿で。ウルベルトは、気が向いた時ではあるがペロロンの付き合いで子供達の冒険者ごっこに付き合う時がある。その時に必ずウルベルトが進んで敵役をするので、最近では悪魔のお兄ちゃんと言われることがある。おかげで、ペロロンとウルベルトが子供達と遊ぶ時にはもれなく衛兵の見張りが付く。

 

「紙芝居かなんだか知らないが、このままでいてほしいな」

 

 いつもの席で、イビルアイは心からそう思う。紙芝居の製作に専念しているペロロンは、イビルアイにちょっかいを出している暇がない。

 

「そう言いながら気になるのではなくて?」

 

「そ、そんなわけないだろ!?」

 

 ラキュースに言われ、思わず動揺から言葉が乱れる。ペロロンが描く可愛い絵は、イビルアイも嫌いではない。娯楽の少ないこの世界では、些細な物でも気にはなる。

 

「ペロロンさんは、子供達から人気があるみたいですね」

 

「大人からは絶望的ですけどね」

 

 向かいの席で、魔導書を読み耽っているウルベルトに話し掛ける。目の下に濃いくまを持つウルベルトに。

 

「ウルベルトさんも子供達とは遊ばれているのでしょう? たまに街の子供達が話しているのを耳にすることがあります」

 

「ええ、まぁ。時間はありますから。たっちさんに対する個人依頼ばっかりで暇なんですよ。二人だけで行動する訳にも行かないですし、魔導書を読むのも――失礼」

 

 ラキュースに断りを入れ、《メッセージ》の魔法に対応する。

 

『どうかな、ウルベルト君。メッセージの魔法の状態は?』

 

「問題ありません。12時50分。問題なく通じています」

 

 ウルベルトは、待合室にある柱時計で時間を確認する。

 

『こちらも問題はない。それでは、また十分後に連絡する』

 

 帝都に居るフールーダからのメッセージが切れる。

 

「大変そうですね」

 

 ラキュースの言葉に苦笑いしか出ない。

 

 エ・ランテルだけではなく、王都でもメッセージの魔法が問題なく行えることにフールーダがますます興奮していた。そこで、時間があるならと実験をすることになった。十分おきにメッセージの魔法を使い通信状況の確認を行う。魔法詠唱者なら誰でも覚えられるぐらい簡単なメッセージの魔法の唯一の欠点である距離を解決できれば、各分野において画期的な出来事になる。既に実験は、昨日の昼頃から行われており不眠不休でメッセージの魔法の対応をしている。

 

「しかし、本当にあのパラダインに気に入られたんだな。まぁ、ウルベルトの力を考えれば当然か」

 

 イビルアイの見立てでは、ウルベルトもそうだが他の二人も神人であると睨んでいる。異常過ぎる成長速度からそう考えているわけだが、他にも何かあるのではないかとも考えている。この三人は、イビルアイの目から見てもいろいろとおかしな部分がある。もしかすると、神人ですらない可能性も。

 

「俺は、第三位階までしか使えないしがない魔法詠唱者ですよ」

 

「第三位階でも十分だ。それにウルベルトは、複数の系統に精通している。帝都の組合からの報告では、第四位階を使用可能との噂ありとなってるみたいだしな」

 

 本来であれば機密になる情報が漏れているのはどうかと思うが、人の口に戸を立てることは出来ない。それに帝都の方では、フールーダの側近に限るがウルベルトが第四位階を使えると知られているので時間の問題ではある。

 

「本当ですか? もしそうなら凄いですね!」

 

 自分のことのように喜んでくれるラキュースを見て心が揺らぐ。しかし、それでもまだ隠す時だと考えている。

 

「すみません、ラキュースさん。俺は……第三位階までしか使えないんです。本当に……すみません」

 

 ラキュースに嘘を吐く行為は、ウルベルトにとっては酷である。傍から見れば、答えを言っているようなものだが。

 

「しかし、組合もおかしな方法をとったものだな。昇級試験で個人依頼など前代未聞だろう」

 

「そうですね。私も初めて聞きます」

 

 一般的には、チームとして昇級試験が行われる。その為、たっちだけが実質的に昇級試験を受けている現状はとてもおかしい。

 

「俺達は、評判悪いみたいですからね。自覚はしてますけど」

 

 不気味な悪魔の仮面を被り続けるウルベルト。子供に悪影響を与える可能性のあるペロロン。警戒をするなという方が無理だろう。

 

「分かっているのなら直してみてはどうだ? 上に行くには、実力に見合う振る舞いも必要となる。たっちもリーダーに話を聞いて学んでいる。一緒にやってみたらどうだ?」

 

「私でよろしければ、お手伝いさせて頂きますけど?」

 

 ウルベルトからすれば魅力的な提案だ。ラキュースに一対一で教えてもらう。例えば、食事のマナーを教えてもらうとすれば、それはある意味では食事デートではないか? そう考えると提案を受けたいのだが――難しい。

 

「向き不向きがありますからね。こればっかりは。ウチは、そっち方面はたっちさんに丸投げにした方がいい気がします。俺とペロロンさんじゃ、きっと碌なことにならない気がしますからね」

 

 オリハルコン級ともなれば、上級階級の人間との関わりも増えてくる。下手な振舞いで反感を買えばどうなるか分からない。

 

「――リーダー」

 

 声がしてその存在に初めて気づく。いつの間にそこまで来ていたのかウルベルトには分からなかったが、ティアが三人の居る席の傍にまで来ていた。ちなみにティアとティナは三つ子であり、もう一人外見が似ている姉妹が居るそうだ。

 

「どうかしたの?」

 

 問い返すラキュースに対して、言葉の代わりに一枚の手紙を手渡す。

 

「……分かりました。後でお伺いすると伝えてもらっていいかしら?」

 

 手紙を読み終えたラキュースは、それを大事そうに仕舞う。

 

「わかった。でも、出来るだけ急いだほうがいいかもしれない」

 

 そう言い残すと、ティアはすぐにその場を去る。此処に来た時同様に足音が聞こえない特殊な歩き方をして。

 

「すみません。私は、これで失礼します」

 

 ラキュースは、普段と変わらず丁寧な対応をしてその場を離れるが――どうも様子がおかしい。ラキュースが居なくなったのを見てイビルアイに聞いてみる。

 

「厄介事ですかね?」

 

「さぁ? 私はなにも知らない」

 

 前に情報屋から蒼の薔薇が犯罪組織である八本指に関わっていると聞いたことがある。わざわざ関わるような話でもないので興味はなかったが、もしかするとそれに関係する話なのかもしれない……いや、考えるのはやめておいた方がいい。関わりの無い話なら知る必要はない。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 日暮れ近くまで訓練場で行われた、たっちとガガーランによる指導も今は終わり、疲れ果てた二人は訓練場の端で休んでいた。既にガゼフやブレインの姿はなく、この場に残り鍛錬をする者達を眺めながら静かな時を過ごしている。

 

「疲れましたね」

 

「あぁ、そうだなぁ。まったく、少しは女として扱えってんだ」

 

 あくまでも二人との戦闘が依頼の要だったので、代わる代わる王国の戦士達と戦った。たまにブレインが混じることもあったが、流石にガゼフは混ざることはなかった。仮にそうなった場合は、依頼料の引き上げを要求しないと割に合わない。

 

「――ん? あれは……」

 

「どうかしたんですか?」

 

 隣で休んでいたガガーランがなにかに気づき目を細める。試しにたっちもその方向を見てみると――貴族がそこに居た。一人は、二人がよく知る蒼の薔薇のラキュースだ。いつもの冒険者としての姿ではなく、綺麗なドレスを着飾った貴族としての姿でそこに居る。だが、その隣に居る男は――少なくともたっちの知らない人物になる。

 

「嫌な予感がするな」

 

 ガガーランが嫌そうに口にする。どうやらガガーランには誰だか分かるようだ。

 

「あの人物を知っているのですか?」

 

「あれは、レエブン候だ。貴族の中でも一番の力を誇る大貴族様だ」

 

「もしかして、エリアス・ブラント・デイル・レエブンですか?」

 

 王国の貴族の中でも特に力のある者達を『六大貴族』と呼ぶ。レエブンは、その中でも最も力のある侯爵として、王族の次に力を持つ権力者だったはず。しかし、なぜそんな人物とラキュースが共に居るのだろうか?

 

「なんだかこっちを見ていませんか?」

 

 気のせいでなければ、レエブンがこちらを見ている気がする。既に王国戦士長であるガゼフはこの場所には居ない。此処に残っているのは、居残りで鍛錬に励む者か――疲れて休んでいるたっちとガガーランぐらいだ。

 

「見てるだけならいいけどなぁ。ほら、こっちに来たぞ」

 

 レエブンがラキュースを連れてこちらへとやって来る。

 

「君が、たっち君でいいのかな?」

 

 たっちは、自分の名前が呼ばれたことに驚くがすぐに姿勢を正そうとする――が、それをレエブンは手で制する。そのままでかまわないと。

 

「疲れているだろうからそのままでかまわない。見せてもらったよ。君は、噂にたがわぬ素晴らしい戦士のようだ」

 

 見られていた。いや、そんなはずはない。レエブンのような身綺麗で場違いな格好なら気づくはずだ。

 

「お褒め頂き光栄です。レエブン侯」

 

「どうやら私のことは知っているようだな。なら、話は早い。これから少し話でもしないか? ガガーラン。彼をお借りするがよろしいかな?」

 

「どうぞ、お好きに。ただ、ウチのリーダーも同席するのかい?」

 

「ええ、私も同席させて頂きます」

 

「なら、俺からはなにも。先に帰ってるからな」

 

 ガガーランはそういうとサッサとその場から立ち去る。

 

「それでは、こちらに。あぁ、服装はそれでかまわないよ。今回は、私から君に用があるからね」

 

 そうは言うが、軽く手で汚れを叩き落とす。相手は、身分が遥かに上の存在だ。失礼があれば、たっちは――三人はどうなるか分からない。ここは言われるままにする方がいいだろう。少なくともラキュースが居る以上は無理難題を押し付けられる可能性は少ないと祈りながら。

 


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