三人が行く!   作:変なおっさん

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第51話

現在の王国での三人の評価。

 

ペロロン――変態。王国でも有数の弓の名手。

 

ペロロンの評価を語る際には、街の評判を聞く必要がある。ペロロンは、子供に食べ物や物を与えたり、一緒に遊んだりして過ごすことが多い。しかし、本人の言動や行動からよく衛兵のお世話になることがあり、牢屋に入った経験もある。しかし、無理やり手を握られる。抱きつかれる。路地裏に連れ込まれるなどの報告はない。だからと言って、親御さん達からしてみれば不安の種に違いない。

 

戦闘に関しても変態とよく言われる。理由としては、その独特な戦い方による。弓兵は、遠くから戦うのが基本なのに対して、ペロロンは近接戦闘も得意としている。武器を器用に持ち替えながら避けて戦うその姿は曲芸師のようであり、一般の弓兵からしてみれば不思議で仕方がない戦い方である。しかし、盾や重装備で身を固めていないと戦士でも負ける可能性があるとされている。真似をする者もたまに現れるが実際にやってみた上で、ペロロンのことを変態と言ってはやめていく。単純な弓の腕に関しては、空を飛んでいる鳥を撃ち落とし、地面に落ちる前に二本の矢を追加で当てられるほどである。

 

ウルベルト――変人の魔法詠唱者。悪魔。

 

頑なに仮面を外そうとしない変わり者。何度注意されても被り続けることから変人と言われている。なぜ悪魔のような不気味な仮面を身に着けているのか本人に聞くと、趣味だからと言われるだけである。性格に関しては、実は意外とまともであったりする。街のチンピラとの喧嘩はあるものの一般人に手を出したことはない。

 

実力に関しては、本人の申告では第三位階の魔法までとなっているが今では疑いの目を向けられている。そもそも一系統の魔法を第三位階まで習得することすら難しいはずなのに複数系統の使用が確認されている。これは、実力に雲泥の差があるとはいえ、偉大な魔法詠唱者として有名であるフールーダ・パラダインと同じになる。帝都に行ってからは、フールーダと関わりを持ち魔法に関して親密な関係を築いたと言われている。噂では、第四位階まで使えるとも言われており謎の多い人物である。

 

たっち――英雄候補。若き天才。

 

最後になるが、彼らのリーダーでもあり唯一英雄候補と言われているたっちである。品行方正。誰にでも優しく、礼儀正しい態度をとることで有名である。なぜそんな彼が問題児である他の二人と行動を共にしているのか未だに不思議がられる。試しに聞いてみても仲間なのでと言われるだけだ。アイアン級の実力から瞬く間にミスリル級にまで上り詰めたたっちの姿を見て、十三英雄のリーダーを思い浮かべる者は少なくない。最も弱く、最後には誰よりも強くなった英雄の再来ではないかと吟遊詩人が歌うことがある。

 

 

♢♢♢♢♢♢

 

 

 

エルフと思われる者達の様子を窺うために時間を空ける必要があるので、嫌々ながらも三人は王都へと足を運ぶことにした。オリハルコン級への昇級試験は、冒険者組合からの依頼を淡々と受けて信頼を得ること。意外かもしれないが三人は、あまり組合からの仕事を受けていない。主に行っているのがレベリングや金稼ぎの為のモンスター狩りばかりで、依頼を通しての信頼の積み重ねが全然ないのだ。今までと違いオリハルコン級ともなれば上流階級の者達からの依頼も増えてくる。果たして、三人――主に二人になるわけだが安心して依頼を任せられるかどうかを確かめる必要がある。

 

とはいえ、組合からはたっち個人への依頼が多く、今回も蒼の薔薇のガガーランと共に依頼を受けて王国戦士達の訓練場へと赴いている。依頼内容は、アンデッドに対する戦い方の指導になる。戦士達は、剣での戦い方には慣れているが打撃武器はそうでもない。戦槌を主な武器とするガガーランと盾と併用するたっちが最適と判断され呼ばれたのだ。

 

初めにたっちとガガーランとで模擬戦を行う。蒼の薔薇のガガーランの実力に関して疑う者はいないが、それに対抗しているたっちを見て多くの者が息をのむ。過去に王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフと戦った事がある訳だが、その時よりも遥かに成長している姿がそこにある。

 

「――やるじゃねぇか!」

 

自らの戦槌による攻撃を巧みに盾で捌き、様子を窺うようにして反対の手に持つ戦槌を身構えるたっちに思わずガガーランは叫ぶ。戦ってみて分かったが、今のたっちは自分と互角に戦えるところまで来ている。他の者と違い平和を願うたっちだから嬉しいことは嬉しいが――戦士としては気に入らない部分もある。

 

「――模擬戦だからと言って負ける気はありません!」

 

アンデッドの討伐で、戦槌の使い方をたっちは覚えた。両手で振るうガガーランに比べて威力は大分劣るが、その分盾と併用しての小回りの優位性で翻弄している。

 

「ふーん。なかなかやるじゃねぇか」

 

ブレイン・アングラウスは、腕を組み余裕を見せながら二人の戦いを眺めている。ただ、目だけは真剣そのものだ。少しでも多く二人の動きからなにかを得ようと必死である。

 

「どうやら今度の戦いは楽には勝たせてもらえないようだな」

 

ガゼフ・ストロノーフもその隣で戦いを眺めている。二人が今日此処に呼ばれたのは、ガゼフが王に進言した結果によるものだ。アンデッドの戦いに慣れている者達の話などが今後必要になると判断したからだ。どうやらそれはいい方に当たったらしく、この場に居る戦士達は興奮を抑えながら必死に二人の動きを目で追っている。もちろん、ガゼフもその中の一人だ。ブレインとの鍛錬で腕を上げた気でいたが、どうやら若き天才はそれでは足りないと言っているようだ。未だに成長の限界が見えないたっちに恥ずかしながら興奮を覚える。

 

「――さて、惜しいが止めるとするか。両者そこまでっ!」

 

ガゼフの声で、二人はほぼ同時に動きを止める。

 

「たっち……お前、本気じゃないだろ?」

 

息を切らし、汗を腕で拭うガガーランが同じく疲れ果てているたっちに訊ねる。

 

「本気ですよ。ガガーランさん相手に余裕なんてありません」

 

「嘘言うな。前々から不思議に思ってたんだ。二つしか技を持ってないことにな。それもどちらも必殺ってわけじゃない。なにか考えがあるのか?」

 

たっちが習得しているスキルは、『強撃』、『スパイクアタック』の二つだけ。どちらも使い勝手はいいが必殺の威力はない。

 

「秘密でお願いします」

 

答えてもいいが、もし話して笑われたら恥ずかしいので言わない。

 

「ズルい奴だな。まぁ、時間はある。おい、少し休んでからでいいか? たっちのせいで予想以上に疲れちまった」

 

「別にかまわない。今の戦いを自分のものにする時間も必要だろうからな」

 

二人の下まで歩いて来たガゼフの言う通り、見ていた者達は今の戦いについて各々好きに語っている。大半が賛美になるわけだが、動きについて話す者も少なくはない。いい刺激になればいいのだが。

 

「なぁ、たっち。本当にお前よりもモモンは強いのか? そうだとしたら本物の化け物だぞ?」

 

ガゼフの後からブレインも来る。二人が戦う前に帝都での事を少し話した。三人の興味は、主に今度戦う予定となっているモモンに向けられたが今の戦いを見た上で考えを改めたようだ。

 

「言ったでしょう? 本当に強いんですよ、モモンさんは。戦士長様も気をつけないと恥をかくことになりますよ」

 

「たっち殿からの忠告、忘れずに胸に仕舞っておこう。ただ、早く剣を交えてみたいものだな。その御仁と」

 

「ガゼフのおっさんも大変だな面倒なもんがあって。俺も蒼の薔薇を背負ってはいるがまだ気は楽なもんだ」

 

「ガガーラン。要らぬ言葉をくれるな。あくまでも私は、王国戦士長としてではなく、一介の戦士として戦いたい」

 

ガゼフの言葉に無理があるのは誰からみても分かる。本人も分かってはいる。王国の戦士の柱であるガゼフが負ければ、それは支えを失うことになる。それでもガゼフは必要だと考えている。この王国には、これだけの強さを持っている者達が居るのだと世界に知らしめるためにも。

 

「おい、早く始めようぜ。どうやら待てない奴らが多いみたいだぞ?」

 

ブレインもその中の一人なのでよく分かる。あれだけの戦いを見せられれば、昂る興奮を静めるためにも戦いが必要になる。次に予定していた二人との模擬戦を心待ちにしている者の視線をたっちとガガーランは一身に受ける。

 

「望むところです」

 

「これは何人か貰って帰っても許されるよなぁ?」

 

不穏なガガーランの言葉にガゼフは苦笑いだ。若き戦士達の中にガガーラン好みが居たら優先的にたっちに回した方がいいだろう。そうでないと――若い花が散ることになる。

 


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