三人は、無事にエ・ランテルに到着する。残念ながらエ・ランテルが見えてからモンスターを見つける事はできず、ウルベルトのストレスを完全には解消できずに終わってしまった。しかし、依頼を達成すればラキュースの好感が得られるだろうという事で渋々納得した。ウルベルトの意気込みは他の二人より強い。
「久しぶりですね」
「そうだな」
「個人的には、王都よりも好きですね」
久しぶりのエ・ランテルに三人は、少し心を落ち着かせる。王都は、場所柄どうしても貴族などの金持ちや身分の高い者が居る。そのため、常に気を使わないと厄介事に巻き込まれる可能性がある。それに比べると、エ・ランテルは一般人も多く居る為気が休まる思いだ。
「宿を取る前に冒険者組合に先に顔を出しましょう」
今回の依頼は、情報集めだ。エ・ランテルは、バハルス帝国に近く戦争では軍事拠点として利用される場所だ。立地としても他国との交易路にもなるので規模も人も王都に負けていない。情報を早く、多く集めるためには冒険者組合の協力は不可欠になる。エ・ランテルは、外周、内周、最内周部の三重の城壁に守られているのだが冒険者組合は、内周部の中央広場にある。
「組合長のアインザックさんに用があるのですがお会いできますか? 蒼の薔薇からの依頼なのですが? それと、コレはモンスターの部位になります。換金の方をお願いします」
たっちが代表して受付嬢に話をする。アダマンタイト級冒険者である蒼の薔薇からの依頼なので、エ・ランテルの冒険者組合長であるプルトン・アインザックに会う事ができる。
「少し此処でお待ちください」
受付嬢は、モンスターの部位が入っている麻袋を受け取ると他の組合員にそれを渡し、自らはアインザックの下に話を伝えに行く。
「いやー、蒼の薔薇の名前は凄いですね。組合長に会えるんですから」
「今回の依頼も国と民を思ってのものですからね」
「素晴らしい……流石、ラキュースさんだ……」
思いはそれぞれだが、蒼の薔薇の王国での役割には感心する。
「此方に来られていたのですか?」
声がした方を振り向く。知っている声だ。
「お久しぶりです、モークさん」
声の相手は、ペテル・モーク。エ・ランテルに居た時に関わりのあるシルバー級の冒険者チーム《漆黒の剣》のリーダーだ。
「お久しぶりです」
たっちとモークは、再会を祝して握手を交わす。危険な職業柄また会える事は素直に嬉しいものだ。
「今日は、モークさんお一人だけですか?」
「仲間達は、買い出しに出かけています。今日は、休みを取る事にしたので。そちらは?」
「蒼の薔薇からの依頼で、エ・ランテルで情報集めです」
「蒼の薔薇ですか!?」
王国の冒険者で彼女達の名前を知らない者は居ない。なぜか、ウルベルトが誇らしげにしている。
「何か変わった事などがないかの調査です。今、組合長のアインザックさんに会うために話を通してもらっているところです」
「凄いですね……少し前までは、皆さんはアイアンだったので私達の方が先輩として接していましたが、今では同じシルバー。しかし、既に私達よりも上なのかもしれませんね」
モーク達との出会いは、アイアン級の冒険者になったぐらいの頃だ。効率的にレベリングをするためにエ・ランテルに来た時の付き合いで、一緒にモンスター狩りをした事もある。当時は、彼らがシルバー級の冒険者として戦闘面や生活面でいろいろと助言をしてくれた。
「そんな事はありません。今でもあの時の事は忘れていません。皆さんに対しては、今でも感謝の気持ちを持っています」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。そうだ。もし依頼の方が終わりましたら一緒にモンスターを狩りに行きませんか? 今度は、少し森の方に行ってみようと思うんです」
「森ですか?」
モンスター狩りをする森と言ったら一つしかない。エ・ランテルから北に言った所にトブの大森林と呼ばれる場所がある。資源の宝庫となる場所なのだが人の手はあまり入っていない。あの場所は、モンスターや危険な動物が多く棲んでおり、大変危険な場所なのだ。しかし、冒険者組合にはトブの大森林絡みの依頼は後を絶たない。危険だと分かっていても、そこに眠る宝を求める者が常に居るからだ。
「基本的には、森の周辺で行います。ただ、様子を見て少しだけですが森の中に入ってみたいと思います。モンスターもそうですが、上手くすれば薬草なども手に入りますので」
トブの大森林の魅力の一つだ。消耗品である薬草などを現地調達できる。更に言えば、売る事だってできる。危険ではあるが見返りも大きい。
「仲間と相談してみます」
モークに断りを入れてからウルベルトとペロロンと話す。
「いいんじゃないか? 依頼を終えてからだから一週間程後になると思うが?」
「そうですね。特に断る理由もないですよ。モークさん達なら危険も冒さないでしょうし」
行動を共にした事があるので二人とも心配はしていない。それは、たっちも同じなので答えはすぐに決まる。
「王都から戻りましたらご一緒させてください。また、モークさん達と一緒に戦えるのを楽しみにしています」
「そうですか。私も楽しみにしています。それでは、一週間後に此処でお待ちしております」
漆黒の剣との共同でのモンスター狩りの約束をした。モークを見送ると丁度、受付嬢が戻ってきた。
「プルトン・アインザックが御会いになるとの事です。どうぞ、こちらへ」
受付嬢の案内で、エ・ランテルの冒険者組合長であるプルトン・アインザックの下へと三人は向かう。
「久しぶりだね」
受付嬢に通された部屋にプルトン・アインザックが居た。彼は、元オリハルコン級の冒険者で今もなお歴戦の強者らしい雰囲気を漂わせている。
「お久しぶりです。アインザックさん」
たっちが代表で、アインザックと言葉を交わす。
「とりあえず、座って話すとしよう」
アインザックに促され、来客用の椅子に三人は並ぶようにして座る。その向かいには、アインザックが座る。
「蒼の薔薇からの依頼だそうだね?」
「はい。王都から出られない自分達の代わりにエ・ランテルの情報を集めてほしいとの事です」
「アダマンタイト級冒険者である彼女達には苦労を掛けるな。とはいえ、何かあったか……」
眉間にしわを寄せ考え込む。
「今ある問題は、野盗ぐらいだな」
「野盗ですか?」
「エ・ランテルから王都へと向かう道で、貴族や金持ち達の荷馬車や馬車が襲われる事件がある。商人の方からも被害は出ているが、組合としては貴族達や有力者達からいろいろと言われていてね。何かあるとすれば、それぐらいだろう。モンスター達に関しては、常に問題になっているし、他の場所でも野盗は出るからな」
一般的に使われる公道を通ってきたが自分達には何もなかった。ただ単に金の無い貧乏人とでも思われたのだろう。実際、その通りだが。
「野盗の件は、どのように?」
「既に複数の冒険者チームにアジトを探させているよ。見つかり次第、ミスリル級とゴールド級の冒険者チームを派遣する。噂だと相当の手練れが居るそうだからね」
時間と手間の掛かる偵察をランクの低い冒険者チームに依頼し、アジトを発見次第高ランクの冒険者チームを派遣。特に問題があるとは思えない。
「それなら問題はなさそうですね」
「流石に何でも彼女達の手を借りるわけにはいかないからな。そうだ。君達も参加してみるか?」
「私達が?」
「噂は聞いている。相も変わらずモンスター狩りをしているのだろう? 知っていると思うが、冒険者としてのランクを上げるには、組合からの依頼を受ける必要がある。あくまでも組合が君達の実力と功績を見て決めるんだ。特に大事なのは、信頼に値する人物かどうか? それを見定めるためにも組合からの依頼をもう少し受けてもらいたい。君達の実力は既にゴールド級に相応しいものだと聞いている。前に戦いを見せてもらった事があるが、素晴らしいの一言だった。実力はともかく、互いの事をよく理解した上で戦っていた。それこそ歴戦の古強者のようにな」
相手は、冒険者組合長で元オリハルコン級の冒険者だ。褒められれば嬉しい。特に嬉しいのが仲間との戦いを褒められたことだろう。前にも褒められたがチームワークが段違いで上手いと言われたことがある。
「共に戦った時間は誰にも負ける気はありませんから」
「だな」
「そうですね」
たっちの言葉にウルベルトもペロロンも同意する。喧嘩もしたし、憎みもしたし、離れ離れにもなったが実力は互いに認めていた。特にたっちとウルベルトは、意見が合わない度に何度も戦ったりした仲だが、それでもギルドの為には協力して戦っていた。おそらくだが、誰よりお互いの事を知っている。良い所も、悪い所も。仲直りしてからは、前以上に連携が取れるようになっているだろう。
「大した実力はなかったが開花したのだろうな。君達は、将来有望な冒険者だ。できる事があれば協力はしよう」
「ありがとうございます」
「別にかまわんさ。それで、返事は?」
「申し訳ありません。今の依頼が終わった後に漆黒の剣の皆さんとトブの大森林の方へモンスター狩りに行く約束をしていますのでお断りさせて頂きます」
「漆黒の剣とか……。彼らも有望な者達だろう。頑張ってくれたまえ」
「はい」
「但し、先ほどの話は忘れないでもらいたい。組合からの依頼を受ける。冒険者としては当然の事だ。いいね?」
アインザックに念を押される。自分達に対しての期待からなのだろうが、言葉と目に有無を言わさぬ威圧感がある。
「できるだけ努力します」
たっちの言葉に合わせ、二人も頷く。
「そうか。なら、今度はゴールド級の冒険者として会えるわけだな。楽しみにしているよ」
アインザックに言われるがまま話を受ける事になった。別に困るわけではないが、漆黒の剣とのモンスター狩りが終わったら組合からの依頼を受けよう。
この場を借りてお礼を。
誤字脱字の報告をして頂きありがとうございます。
本当に助かっています。
それと、もうそろそろ三人とは別視点の話も始まります。
三人が居る事によって世界は違う物になっていますのでその辺りを少し書きます。