三人が行く!   作:変なおっさん

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第48話

 お土産の入った荷物を持つペロロンを先頭にたっちとウルベルトが続く。トブの大森林を訪れるのは久しぶりではあるがモンスターや動物に遭遇することが無い。ただ、此処に来る前に話を集めてはみたが他はそうではないようだ。ゴブリンや危険な野生動物と普通に遭遇するらしい。それこそ漆黒の剣も三人と来たあの時だけで他は以前と変わらないとのことだ。

 

「たっちさん、そっちはどうですか?」

 

「いえ、なにも。ウルベルトさんは、どうですか?」

 

「こっちも特にはないな」

 

 二人は、周囲を警戒しているが何者の気配も感じない。前と変わらずに生き物が棲んでいない死んだ森のままだ。

 

「噂だと、森の賢王は相手を支配できるらしいから買ってはみたが既に術中にハマっていたりしてないよな?」

 

 ウルベルトは、帝都で稼いだ三人分の報酬で買った精神支配に耐性を持つネックレスを身に着けている。精神支配に耐性を持つマジックアイテムは数が少なく高額ではあるがそれでも必要と思い買ってみた。理想とするほどの効果は無いがそれでも不安を少しでも紛らわせられる。

 

「その可能性はゼロではないと思います。少なくとも私達の時だけ森が静かなのは気になりますからね」

 

「森に入る前から監視されているって状況は考えたくないが、ここまでなにもないとそうもいかないか」

 

 二人の中での警戒は以前よりも強まっている。レベルが上がっているたっちでも気づかない相手――絶望的な差を感じる。

 

「考え過ぎですよ。きっと、エルフの子達が俺達の為にモンスター払いとかしてくれてるんですよ」

 

 警戒はしているはずだが、それでも呑気に先を歩いていたように思えるペロロンが後ろを振り返る。

 

「それはそれで危険だぞ? 森の賢王が支配している南の森で力を振るえるってことだからな」

 

「そうですね。少なくとも森の賢王とはなにかしらの面識はあると考えるべきでしょう」

 

「二人共、そんなに警戒してたら友好関係は結べないですよ! 俺達は、不要な争いをしないためにこうして来てるんですから!」

 

 確かにペロロンの言う通りだ。この森には、以前と変わらずに多くの者が訪れている。しかし、エルフと思われる者達と接触をしたのは三人だけになる。調べて分かったのだが現在のエルフと人間は、友好的な関係を築けてはいない。どうやらスレイン法国とエルフの国が戦争中らしい。詳しい内情までは分からないが、ハーフエルフのイミーナから話を聞く限りでは、人間とエルフの間には深い溝が出来てしまっているそうだ。そんな情勢下では、些細な事で問題が起こる可能性がある。ズーラーノーンの脅威が強まっている今の状況では、無用な争いを避けるべきだと三人は考えている。その為、できる事なら友好関係を築いた上で、トブの大森林での双方の安全を確保したい考えだ。

 

「分かってるよ。予定通り、話し合いはペロロンさんに任せる。但し、今回は土産を渡すだけだ。もしかしたら渡した物の中に相手を不快にさせる物があるかしれないからな」

 

「イミーナさんに聞いてはいますが念には念を入れた方がいいと思います。この森は、王国の人達にとって必要な物です。争いは避けた方がいいですからね」

 

 話し合いの役をペロロンに一任した。既に二人は警戒を通じて、相手に不安と不信を与えている可能性が高い。だからこそ初めから友好的なペロロン一人に任せ、二人は周囲の警戒に回ることにした。

 

「任せて下さい! 俺が彼女達のハートをキャッチしますから!」

 

 頼りになるような、ならないような。相手が亜人種――この世界だと異形種になる彼らを問題なく受け入れようとするペロロンは交渉役としては最適だろう。本人の資質はともかく。

 

「――来てくれたんですね」

 

 急に聞こえた声。おそらくエルフの姉の方だ。

 

「もちろん! 俺は、約束を守る男だからねっ!」

 

 ペロロンは、何処に居るかも分からない相手に胸を張って答える。その一方で、たっちとウルベルトは少し離れた場所で周囲を警戒する。お土産を渡すわけだが内容を確認する為に近くに来る可能性がある。二人は、視界の悪い森の中の様子を出来る限り広く見る為に意識して立ち位置を決める。

 

(こちらには居ません)

 

(こっちもだ)

 

 予め発見出来なかった時用に決めていた合図を互いに出すと未だに相手の正体を掴めないことに落胆を隠せない。どうやら相手は相当の実力者ということになる。そうなると現段階では、ペロロンに任せる以外にない。

 

「三人で話したんだけど、二人が警戒すべきだって言ってね。今回はお土産を渡すだけになったんだけど、それでいいかな?」

 

 余計なことをと言いたいが既に態度で表してしまっている。仕方がないので、ペロロンを睨むだけに留めておく。

 

「分かりました。それと、こっちからもお土産があるんです」

 

「――こ、此処に置いておきます」

 

 二人目の声が自分達と同じ高さ――近くの草むらの方から聞こえた。おそらく弟の声だろう。

 

「本当に!? いやー、嬉しいなー」

 

 ペロロンは、警戒もせずに草むらへと移動して発見する。

 

「コレって、前に置いて行った籠だ。たっちさん、ウルベルトさん! 籠の中に薬草がいっぱい入ってますよ!」

 

「本当ですか? どうします、ウルベルトさん?」

 

「俺が行って来る。たっちさんは、此処に居てくれ」

 

 たっちに警戒を任せ、ウルベルトがペロロンの下まで向かう。すると、確かにこの前置いていった籠があり、その中には沢山の薬草が入っていた。

 

「……どれも本物だ。魔法なども掛かっていない」

 

 おかしなところがないか調べてみる。魔法の有無が無いかを《ディテクト・マジック》で調べるが反応はない。手に持って薬草を確認してみるが貴重な部類に入る物ばかり。これだけあればお土産の元が取れそうだ。

 

「ありがとー! じゃあ、今度はこっちの番だね」

 

 ウルベルトが草むらから籠をたっちの下まで運んでいる間にペロロンはお土産を見せるための布を地面に敷く。

 

「姿が見えないから想像でいろいろと買って来たんだよね。服とかはサイズが分からないから買えなかったけど、装飾品とかなら大丈夫だと思って――」

 

 先ず取り出したのは、木彫りのブローチ。鳥をモチーフとした子供の手の平に納まるサイズの物だ。次に取り出したのは、ガラス製のコップだ。透明度はそこまで高くはないが細かな模様が施されている。他にもいろいろと取り出しては、ペロロンはお土産の説明をしていく。だが、反応は特にない。傍から見ているとペロロンが一人で誰も居ない森に話しているように見える。

 

「――後は、コレだね。最後になるんだけど、姉弟のエルフって聞いて最初に浮かんだイメージで買ったんだ。俺としては、ちょっと不本意なところもあるんだけどね」

 

 ペロロンが最後に取り出したのは、小さな二つのぬいぐるみだ。肌が薄黒く、金髪の子供の人形。

 

「探している時に見つけてね。本当は、人間の双子の人形だったんだけど無理言って手を加えてもらったんだ。耳をエルフみたいに長くして、目を緑と青のオッドアイにしてもらったんだ。本当は、服とかにも拘りたかったんだけど予算が尽きちゃって。ちなみに、こっちの方がお姉ちゃんで、こっちが弟になるからね」

 

 作り直してもらった人形を手に持ちながらペロロンは森へと向ける。人形の目は、左右で色が違いその姉弟の人形はどこか――

 

「その人形に名前とかありますか?」

 

 久しぶりに聞く声。ペロロンが何を話しても言葉が返ってこないので、もう居なくなったと思っていた。

 

「ないんじゃないかな? お店の人に聞いたけど双子の人形だとしか言われなかったし。でも……そうだな……」

 

 ペロロンは考える――考えて、口にする。

 

「ダメだ。この名前を勝手に付けたら姉ちゃんに蹴られる気がする。もっとウチの子は可愛いって。せめて、服装や髪型……いや、造形ももう少し拘らないと姉ちゃんの拘りが再現出来ない……」

 

 二つの人形を凝視しながらペロロンはブツブツと呟いている。どうやら変なスイッチが入ったようだ。

 

「よくよく考えたら勝手にダークエルフの姉弟って思うのもアレだよね。もしかしたら他の種族かもしれないし」

 

 ペロロンは、そう言うと人形を布の上に置く。

 

「おい、もうそろそろ行くぞ。土産の感想は、今度改めて聞かせてもらおう」

 

 籠を背中に背負ったウルベルトがペロロンを急かす。今まで何も反応が無かった相手が急に反応したからだ。それも名前を聞くという不可思議な内容。状況が読めない。

 

「分かりました。じゃあ、また来るからその時にお土産の感想をお願いね。それと、リクエストがあれば聞くから」

 

 手を森中に振りながらペロロンは、二人と共に森から去っていく。

 

「行ったみたいね。行こう、マーレ」

 

「う、うん」

 

 木の上の物陰からアウラとマーレは姿を現し、お土産のある所まで軽々と飛び降りる。

 

「……ねぇ、お姉ちゃん。コレって、ボク達に似てない?」

 

「分からないわよ、そんなの」

 

 人形は、二人の容姿にはほど遠い造形である。そもそもアウラとマーレは、一般人から見れば芸術品と呼ばれるだけの容姿をしている。その辺で売っている人形では比べる価値もない。

 

「で、でも……ボク達と同じだよ?」

 

 男の子と女の子の人形の目にある緑と青のガラス玉の位置が二人と同じ。男の子の目は、右が緑で左が青。女の子の目は、右が青で左が緑。もっともそれは、あくまでもアウラとマーレの常識に当て嵌めた場合だ。

 

「でも、あたし達と同じかは分からない。あたしは、確かに男の子の服を着てるけどそれはぶくぶく茶釜様がお決めになったこと。この人形に同じ意味があるとは限らない」

 

 ぶくぶく茶釜は、アウラに男装を、マーレに女装をさせていた。理由は分からないが、性別とは逆の服装を着せる意味がぶくぶく茶釜にはあった。

 

「でも、人形を見せてくれる時に男の子の格好をしている方をお姉ちゃんって言ってなかった? 女の子の方を弟って」

 

 ペロロンが森に居る二人に見せる時にそう言った気がする。

 

「もしかしたらぶくぶく茶釜様と同じ考えなだけかもしれないでしょ! あぁ、もうわけが分かんない! マーレ、どうにかしてよ!」

 

「――えっ!? ボ、ボク!? む、無理だよ!」

 

「じゃあ、どうすればいいのよ! ペロロンって呼ばれる人間が偶然にもぶくぶく茶釜様と同じ考えを持ってたって言うの?」

 

「だから、ボクにはわからないよ……」

 

 自分達に似た人形。それをお土産としてもらった二人は、答えの見つからない問題を新たに得てしまう。あの時に名前を言ってくれれば――聞いていればこうはならなかったのに。

 


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