三人が行く!   作:変なおっさん

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第42話

 帝都アーウィンタール。中央に皇帝の居城を置き、放射線状に各種行政機関が広がる帝国の心臓部。王都と違い、ほぼ全ての道路が石やレンガで舗装されており、道の真ん中を馬車や馬が通り端を人間が歩くという近代的な都市である。人口では王都に劣るが規模は王都以上であり、現皇帝であるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの下で更なる繁栄を約束されている場所である。

 

「見て下さいよ! 土で靴が汚れませんよ!」

 

「綺麗な街並みだな! すげーよっ!」

 

 ペロロンとウルベルトは、他人の視線を気にせずに道の真ん中で街並みを眺めている。帝都では、建造物の建て替えなども行われており新築が多い。整備された綺麗な街並みと建造物に二人は感動している。

 

「王国と違い封建制度から中央集権に切り替えたのが功を奏したということでしょうね。王国は、貴族が好き勝手にやっていますからね」

 

「そのようですね。どちらが良いかの判断はともかく、上手く統治しているように思えます」

 

 たっちとモモンは、はしゃぐ二人とは対照的に冷静に王国と帝国を見ている。帝都に来る途中の街もそうだが治安の良さや物流などの経済面でも随分と差があるようだ。今は小競り合いを行っているようだが衰退していく一方の王国と繁栄を迎えている帝国とでは結果は見えている。

 

「ほら、ナーベさんもそんな所でボーっとしてないで一緒に店を見て回りましょうよ!」

 

「よしっ! 先ずは、あの店からだ! 続けー!」

 

「あ、あの……私は――」

 

 ナーベの事情などを無視して、ペロロンとウルベルトはナーベの手を両側から引いて目についた店へと突撃する。

 

「私達も行きましょう」

 

 そう言うと、たっちも三人を追いかけるように店へと急いで向かう。ほうっておくとなにをするか分からないからだ。

 

(これがアインズ様の御友人ですか)

 

 モモンこと――モモンに姿を変えているパンドラはしみじみと思う。最近では、アインズが出来ない食事などの役割を演じる為にモモンとして三人と関わりを持っているのだが、アインズが三人にどうして拘るかが少しわかった気がする。

 

『――パンドラよ、聞こえるか?』

 

 《メッセージ》の魔法で、ナザリック地下大墳墓から遠隔視の鏡で様子を見ていたアインズから声が届く。

 

『今も監視が行われている。聞こえていたら右手を腰にもっていけ』

 

 言われた通り、パンドラは右手を腰へともっていく。

 

『こちらから調べているが間違いない。フールーダ・パラダインの手の者のようだ。予定通り安全が確保されるまでナーベと共に私を演じろ』

 

 帝都に来る前に事前に連絡を入れてある。その為かどうかは分からないが帝国領内に入ってから監視が付いている。定期的にメッセージの魔法で連絡とっているらしく気が抜けない状態が続いている。

 

『予定されている宿も監視はされているようだが魔法などはない。今日は、二人は宿に籠れ。外で活動すると思われる三人と比べれば相手の出方も分かるというものだ』

 

(承知致しました。我が主であるアインズ様)

 

 声を出しては気づかれる可能性があるので心の中で主人へと頭を下げる。

 

「どうかしたんですか、モモンさん?」

 

 なかなか来ないモモンの様子を見にたっちが戻って来た。

 

「いえ、良い街だと思いまして」

 

「そうですね。王都よりも活気があるように見えます」

 

 王国の人間ではないが、冒険者として籍を置いているので複雑な心境だ。王国の人間よりも帝国の人間の方が生気に満ち溢れ、華やかな印象を受ける。

 

「おーい! 早く、こっち来いよ!」

 

「ナーベさんに似合う髪飾りを選んでるんですからモモンさんも早く来てくださいよ!」

 

 店の方から二人が顔を出している。

 

「行きましょう」

 

「そうしましょう」

 

 パンドラは、モモンとしてたっちと共に三人の下へと向かう。

 

 そんな楽しそうな様子を一人寂しく見ている男が居る。

 

(監視がなければ俺があの場所に……)

 

 長く行動を共にする以上は、どうしても食事などの問題があるので無理なところがある。それでも見ていて羨ましくなる。遠隔視の鏡の中では、楽しそうにナーベに似合う髪飾りを四人で選んでいる姿がある。

 

「ほら、この白の花飾りの方が似合いますよね、ナーベさん?」

 

「いや、こっちの赤の方がナーベさんには合うだろ」

 

「私は、どちらでも……」

 

「こちらも良いと思います。この細かな細工が素晴らしい」

 

「モモンさんは、こういうのが好きなんですね」

 

 等身大の鏡の前で代わる代わる着せ替え人形のように男達に好き勝手に遊ばれているわけなのだが、あの人間嫌いのナーベがなすがままなのは素直に驚くところだろう。だがこれは、あくまでも至高の存在である三人を重ねているだけなので本心とは違う――違うのか? 気のせいでなければ本人も満更でもないように……今、笑わなかったか? 一緒に居る時に笑った事はあるが人間を蔑んだものだった気がする。

 

「……早く終わらそう」

 

 一旦、五人を見るのを止めて安全の確認へと移る。安全確認さえ済めば自分もパンドラと交代できる。早く終わらせてあの中に混ざらなければ。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 適当に街を見学しながらも帝都の冒険者組合へと無事に着いた。早速、王国との違いを含めて改めて話を聞いてみることにしたのだが待遇面が更に良くなっていた。おそらくだが王国に居る時に好条件を出すとなにか手を打たれると警戒されたからだと思われる。報酬はなんと通常の三倍。宿は、貴族などが泊まる高級な場所。馬などの必要な物資も内容次第で支給されるとの事だ。その代わり依頼内容は組合の方で選ぶとのことだ。

 

 あくまでもあちら側の調査が終わるまでだがこのまま帝都に居たいと思える条件だ。ただ、帝国は軍が治安の維持の要を担っているために王国程旨味が少ないのも事実。一長一短。考えようだ。

 

 とりあえず用意された依頼の中から幾つか選び、教えてもらった宿へと向かう。モモンとナーベが同室なのが気がかりではあるが、今更なので男三人は自分達の部屋へと入る。

 

「ベッドがフカフカですよ! なんか良い匂いもします!」

 

「テーブルにフルーツの盛り合わせがあんだけど、食べても金取られないよな? 嫌だぞ、後から請求されんの」

 

「この花瓶とかも高そうですね。もし割ってしまったら弁償できるのでしょうか?」

 

 初めての豪華な部屋に休むことが許されない。普段使っている部屋の何倍も広く、調度品も無駄に大きく豪華な物ばかり。備え付けの食べ物や飲み物なんて初めてだし、ルームサービスのようなものまである。長旅の疲れよりも好奇心の方がどうしても勝ってしまう。三人は、一通り部屋を楽しんでからやっとくつろぐことが許される。

 

「依頼は明日からですけど今日はどうします? モモンさん達は、部屋で休むみたいですけど?」

 

「俺は、大闘技場に行ってみたいな。賭け事も出来そうだし、なんなら参加しても面白いかもな」

 

 帝都にしかない娯楽。腕に自信のある者が名声や金の為に戦う場所。戦う事が出来なくても賭け事などに興じる事も出来る。

 

「私は、報酬が三倍ですから依頼を重点的に受けた方がいいと思います。今日は、北市場と呼ばれる所なんてどうでしょうか? 話によると闇市みたいですから掘り出し物があるかもしれません」

 

 北市場と呼ばれる場所は、冒険者やワーカーと呼ばれる元冒険者達が手に入れたアイテムなどを売却している場所である。安く良い品を手に入れたいのなら行く価値はある。但し、一般人は近寄らないような場所であることを忘れてはいけない。

 

「闇市。なんだか心惹かれる響きがありますよね! なにか面白いアイテムとかないかな?」

 

「いや、そこは普通に耐性のマジックアイテムでいいだろ? そもそもそれが目的なわけだし。ただ、今の手持ちで買えるか分からないけど」

 

「見るだけ見てみましょう。稼ぐ目安を決められますから」

 

 三人は、帝都で稼ぐ基準を決める為に北市場に行く事にする。報酬三倍というイベントを活かす為にも。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 北市場に来た三人は、露店を見て回るわけだが、その際にウルベルトの《ディテクト・マジック》を利用する。探知魔法であるディテクト・マジックは、魔法を見つける事が出来る。これにより多くの物の中から魔法の力のある物だけを選ぶ事が出来るのだ。

 

「毒に耐性のある指輪。金貨五枚は格安ですね」

 

 たっちは、露店の店主に話を聞きながら指輪を眺めている。

 

「ここだけの話し、本当ならこんな安くできないんだよ。でもコレ盗品の可能性があるからその分……ね?」

 

 店主は、たっちに近づき小声で話す。盗品だと後々に面倒事が起こる可能性がある。だからこその格安なのだろう。

 

「ちょっと貸してくれ」

 

 横に居たウルベルトがたっちの手から指輪を取り、《ディテクト・エンチャント》を使って調べる。これは、アイテムに付与されている魔法を調べる事が出来る。

 

「ゴミだな。確かに耐性はあるが、弱過ぎて軽減にしかならない」

 

 ウルベルトは、調べ終えた指輪を店主に返す。

 

「……あんた、魔法詠唱者か? だったら先に言ってくれよ」

 

 明らかに嫌味を込めた態度をとられる。目利きの出来る商人とは別の意味で、魔法で鑑定が出来る魔法詠唱者は騙しにくい。

 

「残念だったな。他に良いのはないのか?」

 

「そうだな……コレなんてどうだい?」

 

 店主は、並べている商品ではなく奥にある箱から指輪を取り出す。

 

「コレも盗品だが、さっきのよりは良いはずだ」

 

 ウルベルトはそれを受け取り、魔法で調べてみる。

 

「これならその辺のモンスター相手ならなんとか出来そうだな」

 

 耐性のマジックアイテムは、物によって価値が違ってくる。例えば、たっちが装備している石化の指輪は、ギガントバジリスクが使用する石化の視線なら防ぐ事が出来る。だが、ギガントバジリスクよりもレベルが上の者が使う石化攻撃を防げるかは微妙なところだ。できる事なら状態異常を無効に出来る完全耐性の物が欲しいのだがそれは高望みというものだ。なにせ、たっちの持つ指輪ですら金貨数百枚はくだらないのだから。

 

「金貨五十枚でどうよ? あんたらミスリル級の冒険者なんだろ? この辺じゃ見かけないから王国の」

 

 店主の目がたっちが首から下げるミスリル冒険者の証であるプレートで止まっている。

 

「王国でこれだけの物はなかなかないんじゃないかい? あっても倍はするだろうよ」

 

 確かにその通りなのだが、毒だと少々高いような気もする。毒は、薬草やポーションでも解毒出来る。一般人ならともかく三人からすれば即死するような猛毒でない限り時間の猶予がある。

 

「他を見てから決めるわ」

 

「すみません」

 

 二人は、断りを入れてその場から去る。後ろから「冷やかしか」と聞こえてくるが、交渉の度に気にしていたら気が滅入るので無視して先に進む。

 

「麻痺、精神支配、即死が欲しいですよね」

 

 状態異常の中でも麻痺や精神支配は事前の対策を必要とする部類に入る。麻痺は、身動きが取れなくなりなにも出来ずに殺される。精神支配は、内容は様々だが攻撃を受けた時点で負けが濃厚になる。即死に関しては、対策がなければ死ぬ。

 

「あぁ、そうだな。だが、重要な物ほど価値は高い。そもそも品物自体がなかなか見つからない。仮にあっても軽減だと不安が残る」

 

「でも、そうなると能力向上とかしかないですよ?」

 

 下級の強化魔法程度の付与を持つマジックアイテム。基礎能力の高い者が使えば侮る事はできない。

 

「俺が魔法で使えるから微妙なんだよな。せめて同じぐらいの効果が無いと無駄になる。いや、わざわざ魔法を使う必要がないだけマシなのか?」

 

「マジックアイテムと魔法は別で加算されますからね。あって損はないですけど値段と見合うかどうか」

 

 二人は、値段と効果を考えながら片っ端から露店を見て行く途中で、一人別行動をとっていたペロロンに声を掛ける。その表情は真剣そのものだ。

 

「まだ悩んでいたのか?」

 

「そりゃ悩みますよ。どれをお土産に買えば喜んでもらえるか分からないんですから」

 

 ペロロンは、マジックアイテムとは別にお土産用の物を探している。蒼の薔薇のイビルアイ。漆黒の剣のニニャ。約束していたエルフと思われる姉弟。此処に来てから必死になって探している。

 

「来たばかりですからまた探しましょう?」

 

「分かってませんね、たっちさんは。いいですか、こういう場所は明日もあるとは限らないんです。もし、『素敵! ペロロンさん抱いて!』って、思わず言いたくなるような物が売りきれたらどうするんですか! もしそうなったら俺は、一生悔やむ自信があります!」

 

「いや、その前に金返せよ。王都での飲み代まだ払ってないからな? 新調した矢の代金だって俺達が立て替えたんだぞ?」

 

「細かいことは気にしない。ほら、ウルベルトさんもラキュースさんに買ってあげたらどうですか? 王都からなかなか離れられないですからきっと喜びますよ?」

 

 ペロロンの言葉に気持ちが揺らぐ。

 

「ウルベルトさん、ありがとうございます。大切にしますね」

 

 渡したプレゼントでそう言ってもらえたら嬉しい。喜んでもらえたらそれこそ……

 

「仕方ないな。少しだけだぞ」

 

「だったらコレなんてどうですか? ココがですね――」

 

 まるで店の回し者のようにペロロンがウルベルトに売り込みを始める。真剣に話を聞いているウルベルトを見るとマジックアイテム探しはここで終わり。これからは、お土産探しの時間へと変わる。

 


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