三人が行く!   作:変なおっさん

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第39話

 三人は、弓騎兵を倒すことを一旦諦め王都へと戻る事にした。いろいろと試してはみたが戦う事すらまともに出来なかったからだ。そこで新しく作戦を考え直し、ストロノーフの屋敷を訪れる事にした。

 

「つまり、私達の協力を得たいという事だな?」

 

 話を聞いたストロノーフは、椅子に背を預け考え込む。

 

「そうなります。いろいろと試したのですが私達の馬では追いつけません。それに馬上での戦いも得意ではありませんので他の方法をとる以外にありません。ペロロンさん」

 

 たっちに言われ、ペロロンが木の板に書いた簡易的な地図を取り出す。

 

「それでは、俺が説明させて頂きます」

 

 作戦は簡単だ。騎兵部隊が弓騎兵をウルベルトが居る目標地点へと追い込む。その際に足止めの魔法に巻き込まれないギリギリの場所にウルベルトを中心として左右に二人配備。あとは、その隙間を通らせて魔法を行使して足止め。左右に居るどちらかが足が止まっている弓騎兵の骨の馬の脚を狙い動けなくさせるのが今回の作戦の全容である。

 

「――と、こんな感じです。それと、左右の内の一人はたっちさんで決まりなんですが、もう一人はどっちがいいですかね?」

 

「それなら俺がやる。剣速には自信があるし、ストロノーフが騎兵を率いた方がいいだろう。それに俺も馬は得意じゃない」

 

 本日から居候となったアングラウスが自分の名前を出す。早速、ストロノーフの下で王国の兵士達と混ざり訓練をしたらしい。あくまでも聞いた話だがアングラウスの居合はかなりのものらしくストロノーフのお墨付きだ。

 

「王に進言すれば、演習の一環として私のところだけは使えるだろう。ただ、軍と冒険者が共同で行うのを快く思わない者も居る」

 

「部下から聞いたけど王様と貴族で揉めてんだってな。この前あった法国との一件も邪魔されたって聞いたぞ」

 

 街の噂。王をトップとする王派閥と大貴族達をトップとする貴族派閥で王国は対立しているらしい。それも、貴族派閥には他国と通じている者が居ると噂がある。

 

「恥ずかしい限りだ。だが、なにか考えがあるんだろ? そうでないなら話を私に持って来るとは思えない」

 

「実は、帝国の方の冒険者組合から呼ばれてんだよ。話によると、フールーダ・パラダインが絡んでいるらしい。ついでに言えば、モモンさん達も呼ばれてんだ。ズーラーノーンの対応をしている俺達がもしかしたら移るかもしれない。早くて、安くて、上手く各地でやっているから貴族派閥の人達も……居なくなられたら困るんじゃないかな? まぁ、モモンさん達は残るかもしれないけど、道中暇だからいろいろと言うかもしれないよ、俺達」

 

「王国と敵対している帝国に移られたら困るな。アンデッドの対応にも支障は出るだろう。民衆も不満を抱くだろうし交渉の材料にはなるか」

 

 民の安全を守ろうとした者を追い出せば印象は悪くなる。更に小競り合いとはいえ定期的に王国と戦争をしている帝国に英雄候補とさえ言われる者達が移る。アンデッドが自らの領地を闊歩するのをよしと思う者も居ないだろう。

 

「ただ、申し訳ありませんがこちらとしては報酬として弓を頂きます。それが受け入れられないようなら話は無かったという事でお願いします。軍との共同となれば戦利品を王国に取られてしまいますので、こちらとしてはそこだけは譲れません」

 

 これは、三人で決めた事。受け入れられないなら別の方法を考える。

 

「それは、私も賛成だ。国の手に渡れば死蔵になりかねない。持つのは、ペロロンになるのだろうが持ち主として相応しいと思う。明日にでも話を持って行こう」

 

 住み込みの老夫婦が作ってくれた料理を食べながら話していたがすっかり冷めてしまった。だが、これで後は国次第となる。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 次の日。ストロノーフは、昨夜の件を王に進言し許可を得ることに成功した。王都周辺は、王家が納める領地でもあるため民意を得るという打算もあるとストロノーフから言われたが、三人からしてみたら弓さえ手に入ればそれでいいので裏の事情はこの際どうでもいい。今は、予定通りストロノーフ率いる騎兵隊が弓騎兵をウルベルトの所に追い込んでいるところだ。

 

「こっちに来ましたね」

 

 ウルベルトを矢から守るために傍にペロロンは待機している。左手には木の盾。右手には、スパイク付きのクラブを装備している。

 

「昨日、痛い思いをしてまでタイミングだけはつかんだからな」

 

 ウルベルトは、作戦を成功させるためにたっちとペロロンと共に弓騎兵の前に立ち魔法のタイミングを身体で覚えた。おかげで、二人が防ぎ切れなかった矢を腹部に受け、矢と炎の痛みの両方を同時に味わった。

 

「そっちは、大丈夫ですか?」

 

 左右で待機しているたっちとアングラウスに確認をとる。

 

「私は、いつでも大丈夫です」

 

 たっちは、盾と片手用の戦槌を地面に置き、鞘も外して抜き身の剣だけを手に持っている。少しでも身軽になるために全身鎧ではなく、ストロノーフから借りた軽装にする徹底ぶりだ。

 

「こっちもだ」

 

 アングラウスは、納刀の状態で構えている。いつでも最速の居合を抜く覚悟は出来ているようだ。こちらにも念のために両手用の戦槌が用意されている。

 

「どっちに転んでも大丈夫そうですね。あとは、間を通ってくれるか……」

 

 知恵はそこまでないようだがロープなどの罠には反応した。今のような布陣で足を引っかけようとしたら避けられるか、飛び越えるかの行動に出た。どうやら逃げる事に関しては知恵が回るらしい。その為、魔法による突発的な罠が必要なのだ。

 

「カウントを始める!」

 

 ストロノーフ率いる騎馬隊に追われ、弓騎兵はこちらへと全力で駆けてくる。どうやらストロノーフの部下達は優秀らしく、追い込みとは別に弓騎兵を取り囲むように左右からも挟んでいる。通常の馬よりも速い弓騎兵にここまで上手く合わせられるのは日頃の鍛錬のおかげだろう。

 

「5、4、3、2――」

 

 カウントの途中で弓騎兵は、ウルベルトに弓を向け、番えていた矢を放つ。

 

「相手が悪いですよ!」

 

 ペロロンは、馬に乗り迫りくる弓騎兵の矢を正確に捉える。いつ放たれるか分からない速く動く相手からの矢を見事に手に持つ盾で受け止めた。

 

「――1、《クラック・イン・ザ・グラウンド》」

 

 ウルベルトは、身体で覚えたタイミングで魔法を行使する。すると、ウルベルトを中心に地面にヒビが入り大地が揺らぐ。

 

(こっちに来やがったな)

 

 弓騎兵が飛び込んできたのはアングラウスの方。アングラウスは、間合いを見極め武技を続けて発動する。《領域》は、半径3メートル以内の事を手に取るように把握する事が出来る。ウルベルトの魔法でバランスを崩したおかげで止まって見える。《瞬閃》は、高速で剣を振りぬく武技。居合に適した刀との相性は良く、瞬く間に骨の馬の脚を切断する。刀の切れ味を考慮してもアングラウスの剣の腕は達人の域にある。

 

「――もらった!」

 

 アングラウスの刀の一振りによって脚を切断され、勢いそのままで倒れた弓騎兵を最初にペロロンがスパイク付きのクラブで叩き潰す。

 

「《強撃》」

 

 地面に置いてあった片手用の戦槌に持ち直したたっちも追撃に参加する。

 

「俺も忘れるな!」

 

 アングラウスもストロノーフから借りておいた両手用の戦槌で追撃に加わる。

 

 三人により滅多打ちにされた弓騎兵は、魔法武器である弓だけを残し惨めな程にバラバラになる。

 

「終わってみれば呆気ないもんだな」

 

 たった一騎の弓騎兵相手に二十人近くを動員して倒した。少々情けないがまともに戦えない強敵ではあった。戦いになればあっという間だったが。

 

「どうよ、たっち。俺の武技は?」

 

 初めてたっちに見せた武技をアングラウスが自慢気に語る。

 

「速いですね。ですが、戦士長様には勝てないと思いますよ?」

 

「……そこは素直に褒めろよ」

 

 そんな会話をしている二人をよそにペロロンは、弓騎兵が持っていた弓を拾い上げる。見た目は、銀色のあまり見ない紋様が刻まれた軽い弓。やっと手に入れる事が出来た魔法の力が宿る武器だ。

 

「おめでとう。それは、今日からペロロンの物だ」

 

 馬を歩かせ、ストロノーフが傍にやって来る。

 

「ありがとうございます。皆さんのおかげで手に入れる事が出来ました」

 

 ペロロンは、お礼を言うと深々と頭を下げる。

 

「礼を言われる筋合いはない。王の治める領地と民の安全を守れたんだ。こちらからも礼を言わせてもらう」

 

 過剰ではあるが、必要な戦力での戦いは無事に終わった。今日は、ペロロンが参加者に奢ると言い朝まで飲む事となった。

 


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