三人が行く!   作:変なおっさん

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第38話

 セバス・チャンは、ソリュシャン・イプシロンと共にアインズの命令で王国を中心に情報を集める任務についていた。ソリュシャンが商家の令嬢に扮し、傲慢で我儘な性格を演じて人目を引く役を。セバスがそんな我儘な主人に仕える生真面目な紳士として情報を集めている。他にも武技などのこの世界にしかない技や魔法を持つ者をシャルティアと共に捕らえる任務があったのだが今はしていない。理由は詳しく説明されていないが危険な勢力が居ると判明したために情報収集以外の活動は停止。シャルティアは、ナザリックでの待機となった。二人の活動もしばらくの間は自粛が続いていたが最近になり囮を兼任しながら再開となった。

 

(たっち・みー様……)

 

 セバスは、王都で借りた貴族専用の借家の二階の窓から街を眺めていた。活動の場所を王都に移したわけだが此処に来るまでに興味を惹かれる情報を耳にした。王国に英雄候補の冒険者チームが誕生した。一つは、セバス達もよく知っている漆黒の戦士モモンと美姫ナーベの二人だけの冒険者チーム。功績や実績は少ないが実力はアダマンタイト級と噂になっている。最近では、王国で起きているズーラーノーンによるアンデッドの討伐で各地を移動しているために知名度が上がってきている。

 

 そして、もう一つがそれよりも以前から話題に上がっている者達。異例ともいえる早さで階級を上げ、今ではミスリル級となった三人組。ウルベルト。ペロロン。そして……セバスの創造者と同じ名前を持つたっちだ。奇しくも噂に聞くたっちも戦士として剣を振るっており、その誠実な人柄と真面目な性格は他の二人の分を差し引いても英雄候補と呼ばれるほどだそうだ。

 

「また考えておられるのですか、セバス様」

 

 セバスの為に紅茶を淹れて来たソリュシャンが訊ねる。普段演じている役割とは逆の立場だ。

 

「気にならないと言えば嘘になります。この世界に、この街にたっち・みー様が居るのではと思う事はあります。ですが、噂に聞くと既にアインズ様が接触なさっている御様子。私達が囮としての役割があるとはいえ、本当にそうであるのなら報告の一つでもあるのではないでしょうか?」

 

 囮としての役割の為にこちらから情報をナザリックに送る事はあってもその逆はない。万に一つ捕まり情報を取り出されては困るからだ。

 

「そうですね。アインズ様が至高の御方々に気づかぬはずはございません」

 

 ソリュシャンの言う通りだ。そもそもアインズは、この世界に来ているかもしれない仲間を探すためにわざわざモモンガからギルドの名前であるアインズ・ウール・ゴウンを自らの名前にしたぐらいだ。

 

「分かっております。分かっておりますよ……」

 

 それでも思いは強くなる。自分の役割はあるが、できる事なら偶然でもいい……会えないだろうか? 今はそう祈る事しかできない自分がどうしようもなく嫌になる。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 三人は、冒険者組合で聞いていた弓騎兵の情報を元に馬を走らせて探したのだが意外と早く見つけることは出来た。ただ、見つけたというよりは目の前を駆け抜けていったという方が正確であり、あっという間の出来事だった。話によると弓騎兵は明確な敵対行動はとらないらしい。通り道に居た者を射貫いては立ち去る。ある意味では、弓騎兵らしい戦い方なのだがこれがよくない。弓騎兵は、一般的なボーン・ライダーよりも一回りは大きい骨の馬に騎乗しているのだがとにかく速い。アンデッドなので休みを必要としないのと場所が障害物などの無い平野なので罠を仕掛けられないのも問題だ。縦横無尽に好き勝手走り回る者を相手にするのは予想以上に困難を極めた。

 

「どうしましょうか?」

 

 戦闘力自体はそこまで高そうではない。もちろん魔法の武器を持っているので注意は必要だが一発だけならウルベルトでも耐えられるぐらいだ。戦闘に持ち込めれば勝てるだろうがそれが出来なくて三人は立ち往生している。

 

「俺の魔法もペロロンの矢も当たる前に逃げられる。たっちさんに関しては戦いにならない。どうすんだよ、おい」

 

「森に追い込もうとしましたけど普通に振り切られて、森を沿うように逃げられましたからね」

 

 せめて場所を変えてほしい。こんな見晴らしの良い場所でどうしろと?

 

「ウルベルトさんの最大の範囲魔法ってなんでしたっけ?」

 

「『クラック・イン・ザ・グラウンド』だ。自分を中心に地割れで足場を崩すもんだが……半径5メートルってとこだな」

 

 クラック・イン・ザ・グラウンドは、周囲の足場を崩して足止めをする魔法。応用として拠点の破壊などもできる魔法だ。一見すると今回のような状況にうってつけに思えるが使っている間に逃げられる。それにそこまで足場も崩れないので上手くいったとしてもほんの僅かな時間だけだろう。

 

「呪いなら発動さえすれば距離は問題ないんだがアンデッドだしな。ヘイトを集めようにも攻撃が当たらん。ギガントバジリスクより質が悪いぞ」

 

「戦えないのは辛いですね。ですが、魔法の武器を抜きにしてもどうにかしたいところです。活動範囲も広いので近くを通れないようですから」

 

「運がよければ通り過ぎて終わり。運が悪ければ矢が身体を貫通している。中途半端が一番被害が出やすいんですよね。危険なら避けるけど、そうでもないなら遠回りなんてしたくないですもん」

 

 打つ手なしと悩んでいる三人を遠くナザリック地下大墳墓から見ている者が二人。一人は、今回の事を考えたアインズ。もう一人は、補佐をしているパンドラだ。

 

「他の者に取られないようにしたのがまずかったか?」

 

 集めさせてはいるが魔法武器は珍しい。実際、欲に目が眩んだ者達が噂の出始めた頃にはよく来ていた。それに対抗するために足を速くしたのだがこれでは意味がない。

 

「ですが、下手に遅くすると見知らぬ者の手に渡る可能性があります。だからと言って今更やり方を変えるのは不審がられるかと思います」

 

「良い案だと思ったんだがな」

 

「内容は素晴らしいと思います。ただ、細かい点の調整が出来ない状況ですから。ナザリックで実験すれば気づかれてしまいます」

 

 これは、あくまでもアインズとパンドラが行っている極秘の作戦だ。詳細が分かれば、三人の正体も分かってしまう。

 

「――ちょっとお待ちを」

 

 突然、パンドラの様子に変化が現れる。おそらくだがメッセージの魔法で連絡でも受けたのだろう。

 

「……分かりました。少しお待ちください。アインズ様にお伝え致しますので」

 

「私にか?」

 

「はい。王都に居るソリュシャン・イプシロン殿からの報告なのですが、セバス・チャン殿が人間を連れて帰って来られたようです。それで、アインズ様のご指示を受けたいと申しております」

 

「……ん? すまない、状況がよく分からないのだが?」

 

 説明を受けるとこんな感じだ。セバスがいつも通り情報を集めていたところ捨てられるように袋に詰められていた少女を見つけたそうだ。その時に少し揉めたらしいがセバスはそのまま屋敷へとその人間を持ち帰って来た。少女の容態を確認したところすぐにでも治療が必要と判断。これ以上の勝手な行動は主であるアインズの考えに反する可能性があるので指示を仰ぎたいと連絡があった。

 

「なるほど、なら話は決まっている。わざわざ助ける必要などはない」

 

 当然だろう。見知らぬ他人を助ける筋合いなどない。

 

「それなのですが……アインズ様」

 

「なんだ? 他にもあるのか?」

 

「助けた理由があるみたいなのです」

 

「理由? 価値のある人間なのか?」

 

「いえ、価値はないと思われます」

 

「ならなんだ?」

 

 パンドラは言うかどうか悩む。これを言っていいのだろうかと。

 

「セバス殿は、『たっち・みー様なら助ける』と思ったそうです。どうやらたっち・みー様の話を聞き、思いが強くなったのではないかと思われます」

 

「……王都に居るんだったな」

 

 王都は、たっち達が拠点として使っていた場所だ。そこには、たっちの痕跡が至る所にある事だろう。セバスには、情報収集をさせている。その中には実力者について調べるとある。

 

「感化されたか。セバスは、ナザリックでは珍しい善人だからな」

 

 アインズもセバスの気持ちは分かる。この世界に来て、アインズは二人の少女の命を救った事がある。それは、アインズの本心ではなく、たっちの事を思ったからこそだ。たっちさんなら助けるだろうと。

 

「助ける事によって問題は起こるか?」

 

「詳細は不明ですが揉めた以上は何かあると思われます。話を聞く限りまともな相手ではないでしょうから」

 

「そうか。パンドラ、お前に権限を与える。治療の許可を出し、何かあればフォローしてやれ。但し、私に詳細を必ず伝えろ」

 

「畏まりました。それでは、あちらにお伝えします」

 

 パンドラは、《メッセージ》の魔法で今のことを伝える。

 

「さて、どうしたものか」

 

 セバスの問題に三人の問題。優先度は決まっているが、やる事は増える一方でなかなか減らない。それでも楽しいと思えるのはなぜだろうか? 否、答えは分かっている。だからこそこの悩みを楽しもうではないか。

 


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