三人が行く!   作:変なおっさん

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第37話

 アインザックから許可を貰い、馬を走らせアングラウスと共に三人は王都へと来た。今は、たっちがストロノーフを呼びに行き、ペロロンとウルベルトの二人がアングラウスと共に酒場で待っている。

 

「少しは落ち着いたらどうだ?」

 

「そうですよ。子供じゃないんですから」

 

 王都に来てからアングラウスは挙動不審だ。しきりに周囲の確認をしたり、今みたいに落ち着かずに身体を動かしている。

 

「仕方ないだろ。今まで避けてたんだから」

 

 そう言うと五杯目になる酒を一気に飲む。いっそのこと酔えてしまえればいいのだろうが緊張からなかなか酔えないようだ。

 

「気持ちは分かるけど正直に言ってラキュースさんに会いに行きたいんだよ。まだ顔出してないから居るかもしれないしさ」

 

「俺もイビルアイちゃんとラブラブしたいかな」

 

「薄情者! ここまで連れて来たんだから最後まで付き合えよ!」

 

 身を乗り出す勢いで怒られる。

 

「わかったって。おっ? 噂をすれば来たみたいだ」

 

 ウルベルトの言葉で、視線が店の入り口の方に向く。

 

「こちらになります」

 

 たっちが先を歩き、その後にストロノーフの姿がある。

 

「久しぶりだな、アングラウス。会いたかったぞ」

 

「……そ、そうか」

 

 挨拶もそこそこで二人も空いていた席に着く。

 

「話は、たっち殿から聞いた。いろいろとあったようだが深くは私からは聞かない。今は、再会を祝おう」

 

 ストロノーフが自分とたっちの分の酒を頼む。

 

「またこうして生きて会えたことに」

 

 来た酒を受け取り、ストロノーフが乾杯の音頭をとるわけだが先ほどからアングラウスは視線を合わせようとしない。

 

「照れ臭いのか、自分の惨めな姿を見られたくないのか分からないけど男なら胸を張れよ。どう繕ったって過去が変わるわけでもないんだから」

 

「そうは言うが……」

 

「酒でも飲んで、ほらほら」

 

 ペロロンに勧められるまま新しく届いた分も飲む。面倒なので酔わせて後はストロノーフに任せる作戦に切り替える。

 

「互いに話したいこともあると思いますが食事でもしながら時間を過ごしましょう。戦士長様も遠慮などせずに食べて下さい」

 

「そうだな。焦る必要もない。とはいえ、何を話せばいいのか。私は、そこまで気の利いた話などは出来ない」

 

「そこは俺達にお任せを! 俺達が適当に話して場を盛り上げますよ。そうですよね、ウルベルトさん?」

 

「その方が楽そうだしな。酒を飲めば話しやすくなるだろう。すみません、こっちにガンガン酒と料理をお願いします」

 

 酒が進みやすいように準備を整えてから話をしていく。内容は、ここ最近の出来事を簡潔に。例えば、この前のギガントバジリスクの討伐や最近行っているモモン達との共同作戦。これには戦いを生業としている二人も興味を示す。

 

「エ・ランテルで話を集めたがめちゃくちゃな物ばかりだったな。ギガントバジリスクを三人だけで倒したのもそうだが、数百規模のアンデッドの群れに五人だけで挑むのも最初に聞いた時はホラ話かと思ったぐらいだ」

 

「また腕を上げたわけか。剣を合わせるのが楽しみだな」

 

「おいおい、それは無しだ。先に俺が約束してんだから」

 

「こちらは、お前と違って忙しいんだ。譲っても罰は当たらないだろ?」

 

 酒と戦いの話で二人も話ができるようになった気がする。まだ互いに本音を話してはいないが時間の問題だろう。別に仲が悪いわけではない。すれ違いがあっただけで、互いに認めているのだから。

 

「しかし、そうなるとますます気になるな。たっち殿が認めるモモンか。どれだけの強者なのか一度剣を交えて確認しておきたい」

 

「だったらいっそのことモモンさんも交えて戦えばいいんじゃない? 戦士長様にたっちさん。モモンさんにアングラウスさんの四人での戦いなら面白そうですし」

 

「集客力もありそうだな。もしあれなら俺とペロロンで仕切らせてもらうけど?」

 

 二人の提案に三人の目の色が変わる。戦士としての性だろうか? 強者と戦いたいと思うのは共通の思いなのかもしれない。

 

「モモンさんには、私から話してみます。どうしますか、お二人は?」

 

「上等だ! 王国で誰が一番強いか分かりやすくていいじゃないか。俺は、それでいい」

 

「……王国戦士長としての地位はある。負けるわけにはいかない大事なものだ。だが、今の世には明確な強さが民衆の光となる。誰が勝っても王国の為になるのなら私も賛成したい」

 

「戦士長様ともなると建前も面倒ですね。そうだ、ついでにガガーランさんにも聞いてみましょうよ」

 

「そうだな。多い方が盛り上がる。早いところスポンサーも探して来るか」

 

 そうと決まれば二人の動きは早い。当の本人達を置いて、早速会場の手配に回る。

 

「……いいのかあれで?」

 

「大丈夫です。あの二人は、あれで正常ですから」

 

「本当に変わっている者達だな」

 

「だからこそ一緒に居て楽しいんですよ。前なんて……」

 

 たっちは、仲間達との思い出を語る。此処での話や自分達が居た世界での話を上手く混ぜながら語っていく。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「その話、俺も乗らせてもらうぜぇ。戦士としちゃ受けないわけにもいかないからな」

 

 冒険者組合に居たガガーランは、二人からの話を受け入れる。

 

「でも、そうなると御前試合の時よりも豪華な戦いになりそうですね」

 

「本当なら俺も出たいんですが、魔法詠唱者が出る訳にもいかないので残念ですよ」

 

「ウルベルトさんは、自信があるのですね」

 

「ラキュースさんに勝利を約束しますよ」

 

 久しぶりにラキュースに会えたことでウルベルトは物凄くテンションが上がっている。それこそ当日に五人の戦いに乱入しそうな勢いだ。

 

「……イビルアイちゃんも俺が勝ったら喜んでくれるかな?」

 

 ペロロンは、イビルアイが普段座っているはずの席に話し掛けている。本日は、ラキュースが居る代わりにいつも居るイビルアイが居ない。話を聞くと宿で本を読んでいるらしい。

 

「勝つ自信はあるのか?」

 

「ないですね。今の俺の武器じゃ勝ち目がないですよ」

 

「本当によく分からない奴だよな、お前は。イビルアイにちょっかい出している時は問題児だが意外と冷静な部分もある。ペロロンみたいなのは敵に回すと面倒だ」

 

「ガガーランさんにそう言ってもらえると嬉しいですけど、出来ればイビルアイちゃんにも言ってほしいですね。『ペロロン様カッコいい! 抱いて!』的な感じで」

 

「……しまんない奴だな」

 

 そう言いながらもガガーランのペロロンに対する評価は高い。他の二人からは明確な強さを感じるがペロロンからはそこまでのものは感じない。だが、そんなペロロンは問題なく二人と行動している。もしペロロンの実力に合う武器があれば一気に化ける可能性を感じている。

 

「なあ、ペロロン。弓騎兵の噂って聞いた事あるか?」

 

「弓騎兵? なんのことですか?」

 

「最近、王都周辺をアンデッドの弓騎兵が走り回ってるらしいんだわ。普通の馬よりも遥かに速い馬に乗ってるらしくてあっという間の出来事なんだが、そいつはどうやら魔法の弓を持ってるらしい」

 

「本当ですか!?」

 

 ペロロンにとっては欲しかった情報だ。思わず大きな声が出る。

 

「なんでもそいつに射貫かれた者に刺さっていた矢は燃えていたらしい。矢自体は普通の物らしいから属性の付与だろうが、どうだ? やってみる気は無いか? 話しからすると戦える相手が少ない。俺達が動ければいいがいろいろとあってな。最近じゃアンデッドのせいで余計に動きにくくなった。倒せば武器は戦利品としてもらえる。良い話だとは思わないか?」

 

「それって冒険者組合に依頼は来てるんですか?」

 

「あるにはあるが場所の特定とか強さは不明だ。さっきも言ったが走り回っているから調べようがないらしい」

 

「どう思います、ウルベルトさん?」

 

「すぐに戻るように言われてるけどいいんじゃないか? 戦力が増える方がいいだろうし、魔法武器を持っているアンデッドが雑魚とは思えない。王国の平和の為に俺達がやるべきだ!」

 

「そう言ってもらえると助かります。本当は、私達が受けられればいいのですが」

 

「任せて下さい、ラキュースさん! 俺がラキュースさんの憂いを払ってみせます!」

 

 邪な動機のウルベルトはともかく、ペロロンとしては是非受けたい内容だ。話からするに火属性の付与を行える弓。矢を金属製に変える必要はあるが性能によってはズーラーノーンとの戦いにも役立つかもしれない。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 陽も明け、三人はアングラウスを置いて王都を離れる事になった。

 

「世話になったな」

 

 アングラウスは、たっちと握手を交わす。あの後に話し合い、アングラウスはしばらくストロノーフの下で厄介になる事にした。互いに剣技を高め、いずれ日を改めて行われる戦いに備えるそうだ。

 

「私は、恩義に報いただけですから」

 

「そう言ってもらえると私も気が楽になる。これで心置きなく戦えると言うものだ。私は、アングラウスと共に剣技を高める。たっち殿も今より上を目指してくれ」

 

「分かりました。今度の戦いの時は、私が戦士長様を倒してみせます」

 

「馬鹿言うなよ。ストロノーフを倒すのは俺だ。たっちも含めて全員俺が倒すからな」

 

 随分と仲が良くなったものだ。

 

「あの三人、朝方まで飲んでたそうですよ?」

 

「知ってる。俺が魔法で二日酔いを治したからな」

 

「二人も世話になったな」

 

「別にいいですよ。それよりも当日はよろしくお願いします」

 

「大穴なんだから頑張ってくれよな」

 

 二人が広めた五人の戦いの話は、一晩明ける頃には王都中の噂になっていた。王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ。その王国戦士長と互角の戦いをした事のあるブレイン・アングラウス。アダマンタイト級冒険者チームの蒼の薔薇のガガーラン。前代未聞の早さで成長しているたっち。そんなたっちに圧倒的強さで勝ったと言われる漆黒の戦士モモン。今では、誰が勝つかで賭け事が行われている状況だ。ちなみに一番人気がストロノーフ。五番人気は、知名度が低いアングラウスとなっている。

 

「大儲けできるからそん時は俺に掛けろ」

 

「考えとくよ。じゃあ、またな」

 

 三人は、アングラウスと別れ弓騎兵討伐に取り掛かる。何処に居るかも分からない相手だがペロロンの強化とウルベルトの下心の為に。

 


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