三人が行く!   作:変なおっさん

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第36話

 無事にエ・ランテルに帰還した三人は、ギガントバジリスクの部位を受付に渡して報酬を貰った。その時に依頼を済ませていたモモンとナーベと出会い酒場で打ち上げをすることにした。

 

「カース・オブ・ドールですか。聞かないモンスターですね」

 

「この辺りには居ないモンスターだからな。ただ、これが便利なもんでさ。呪いと召喚の魔力だけでそれなりに使えんだよ。でも、ズーラーノーン相手には使えないけどな」

 

 ウルベルトがモモンから酌を受けて自慢話に花を咲かせている。今日も戦いで命を奪ったためにモモンは一緒に飲食が出来ず、暇だからと酌をしては話を聞いている。

 

「アンデッドはそもそも呪いが効かないだろ? それに復讐人形は、物理攻撃しかできないから物理無効のレイスには意味がない。呪いが元で動くから解呪が出来るのなら簡単に倒せる。それでも価値は十分あるし、魔法やモンスターを上手く組み合わせて使えると楽しいんだよな」

 

「よく皆で考えてましたね。いろいろ組み合わせて効果を高めたり応用したりするの」

 

 ユグドラシルでは、必ずしも低レベルだからと言って弱いとは限らない。例えば、敵の攻撃を引き付け、どんな攻撃でも一撃は耐えられるデスナイトもレベルの割には破格の性能がある。魔法の種類も6000以上もあった為に運営が設けた抜け穴を探すのが一つの楽しみでもあった。それらを組み合わせれば更に面白い事が出来るとユグドラシルを扱う掲示板ではちょっとした盛り上がりをみせた。

 

「私は、そんな皆さんが少し羨ましかったです。私は、戦士でしたからそう言う話はあまり縁がなかったですから」

 

 たっちのような戦士は、単純なプレイヤースキルが求められた。

 

「皆さんには、他にもお仲間が居るのですか?」

 

 今までモモンと同じように聞き役に徹していたナーベが口を開く。その顔は、興味津々に見える。

 

「おっ! ナーベさんもこういう話が好きなの? 流石は、魔法詠唱者なだけはあるな。そもそもこの方法を考えたのは俺じゃないからな。これを考えたのは確か……モモ――」

 

「ぶはっくしゅん!! おっと、失礼。急に鼻がかゆくなったもので」

 

 ウルベルトの話は、モモンの大きなくしゃみでかき消される。

 

「おいおい、風邪か? なんなら魔法で治すけど?」

 

「いえ、大丈夫です。誰かが私の噂でもしたのでしょう」

 

 モモンは、笑って誤魔化す。

 

(危なかった……)

 

 復讐人形の事は、モモンも知っている。当然だろう。一緒に考えた人間の一人なのだから。

 

「それでは、私達はそろそろ宿に戻ります。行くぞ、ナーベ」

 

「はい、モモンさん」

 

 モモンは、これ以上ボロが出ないうちに撤退する。もう少し話をしていたいが、流石にくしゃみだけでは誤魔化しきれないだろう。

 

「でも、危なかったよな。報告のしようがないから話してないけどギガントバジリスクを使役とか」

 

「モンスターテイマーとなれば、一体だけとは限りませんからね。複数体の運用が出来るのなら私達では勝てないでしょう」

 

「俺が戦力になればいいんですけどね。良い弓と矢が欲しいですよ」

 

 三人の中でペロロンが圧倒的に弱い。本人の実力で上手くやっているが、弓兵にとっては弓と矢で戦力としての価値が決まるところがある。

 

「魔法武器はともかく、付与ぐらいは欲しいよな。ズーラーノーンを相手にするなら神聖属性なんか欲しいところだ」

 

「ですが、魔法武器は見つけること自体が難しいですよ? 付与はありますが値段はこの指輪よりも高いですから」

 

「調べてもらいましたけどその指輪も俺達には買えないレベルですからね。他のに転職しようか迷いますよ、本気で」

 

 とはいえ、転職も簡単ではない。たっちが接近戦。ウルベルトが遠距離戦を担当しているので双方の補佐ができる弓兵をできれば育てたい。

 

「――此処に居たか」

 

 三人が悩んでいると店の入り口の方から見知った顔が近づいて来る。

 

「ブレイン・アングラウス?」

 

 忘れるわけがない。場所が戦いに不利だったとはいえ、三人が逃げ出した相手だ。

 

「お前達の話はいろいろと聞いたぞ。随分と有名なんだな。それに前よりも強くなったように見えるぞ」

 

 先ほどまでモモンが座っていた席に断りもせずに座る。

 

「席に着いたら一杯は飲め。此処は、酒の席だ」

 

「お姉さん! こっちの人に一番高いお酒を持って来て!」

 

 勝手にペロロンがアングラウスの分の酒も頼む。

 

「飲むから普通のにしてくれ。まったく噂通りだな。殺し合いをしたって言うのに」

 

 呆れているアングラウスの前に頼み直したエールが運ばれてくる。

 

「それで、決闘の話ですか?」

 

「あぁ、そうなんだが……なんだかやる気が失せた。こっちは命懸けで来たのに招かれるとは思わないからな」

 

「つまんないこと言うなよ。盛り上げてやるからさ」

 

「戦士長様の時と同じように盛り上げましょうね」

 

 当の本人達を無視して、ウルベルトとペロロンは、たっちとガゼフの戦いの時のように一儲けしようと企んでいる。

 

「あの、アングラウスさん。実は、決闘を行う際に立会人を設けたいと考えているんですがダメですか?」

 

「立会人? こっちとしては戦えればかまわないが誰だ?」

 

「王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ様と蒼の薔薇のガガーランさんです」

 

 たっちの口から出た名前に考え込む。

 

「知り合いだとは聞いたがストロノーフが立会人なのか。いや、蒼の薔薇のガガーランもそうだが……豪華なもんだな」

 

 アングラウスは、酒を飲んでは思いに浸っている。

 

「すまないが、ストノローフは外してもらえないか? まだ会いたくないんだ」

 

「理由を聞いても?」

 

「……別に何でもいいだろ」

 

 それだけ言うと口を閉じる。徐々に場の空気が悪くなるがそんな様子を見ていたウルベルトが代わりに答える。

 

「負けたのが悔しいんだろ? 自分の得意なもんで負けると認めた相手でもスッキリしないからな。憧れと嫉妬が混じった嫌な感じだよな」

 

「……そんな経験があるのか?」

 

「あぁ、嫌ってほどな」

 

 二人の会話をたっちは黙って聞く。ペロロンも口を挟む気はない。

 

「言いたくはないが避けている間は何やっても上手くいかないぞ? 何やっても頭ん中から離れないだろ? だからさ、もう一度やってみろよ? 結果はどうあれ、避けてた時よりもずっと気が楽になるはずだ」

 

 話しの終わりにチラリと見たウルベルトの目がたっちと合う。

 

「なるほど。随分と面倒な相手を敵にしたな」

 

「まったくだ。俺に無い物を何でも持ってる。でもだからこそ一つぐらいは勝ちたいだろ? 得意なもんでな」

 

「私は、負ける気はないですよ」

 

「今なら俺が勝つさ。だから早く強くなってくれよ。でないと張り合いが無いからな」

 

「いいな、そんな関係も」

 

 三人の中で不思議な絆が生まれた気がした。

 

(俺だけ蚊帳の外なんだけど)

 

 話しに絡めないペロロンはその光景をチビチビ飲みながら見ていた。経験のないペロロンでは言葉に重みがなく混ざれない。

 

「今度、王都に一緒に行きませんか? 私との前に戦士長様と一度話し合ってから戦うかどうか決めてもいいと思います。私は、いつでもかまいませんから」

 

「頼まれてくれるか?」

 

「いいですよね、ウルベルトさん?」

 

「あぁ、いいよ。その代わり、つまらない勝負だけはよしてくれよな。負けるにしても負け方ってもんがあるからな」

 

「俺は、負けない。今度こそ勝つ。勝って変わってみせる」

 

「そっか。なら奢ってやる。ぱぁーっと前祝でもするか」

 

 思いはそれぞれの夜が更ける。明日は、アインザックに頼んで王都に行かせてもらおう。

 


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