三人が行く!   作:変なおっさん

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第34話

 魔獣ギガントバジリスクと戦う際には一つ注意しなければならない事がある。それは、先に相手を見つけることだ。ギガントバジリスクの石化の視線は距離が関係なく、視界にさえ入れば使用する事が出来る。それこそ道を歩いている時に偶然にも森から顔を出したギガントバジリスクに見つかり逃げる事も出来ずに石化するぐらい先に見つかると終わりだ。その為、どのようにしてギガントバジリスクに見つからず石化の視線を防ぐのかが勝利への鍵となる。

 

 今回のように事前に情報があれば対策はとりやすい。ウルベルトの《サイレント》で三人は周囲の音を消し、レンジャーを持っているペロロンを先頭にして森の中を前進。ついでにウルベルトの《サモン・デーモン》で召喚したインプ達を先行させ、囮とすることで安全も確保している。報酬として先にもらった石化を防ぐ指輪をたっちが装備しているのでよほどの事が無ければ負けない戦いだ。

 

「なぁ、せっかくだからアレを試してみていいか? ギガントバジリスクぐらいで一度試してみたいんだよ」

 

 ウルベルトからの提案に二人は足を止める。

 

「確かにそろそろ試しておきたいですよね。ギガントバジリスクは、『呪い』に対して耐性などはありませんから。この辺りだと強い部類のモンスターですから丁度いいかもしれません」

 

「でも、アレって下手すれば全滅するかもしれないっすよ? 今のウルベルトさんは、第四位階まで扱えるわけですから呪いもレベルⅣになりますからね」

 

 実は、ウルベルトは既に第四位階の魔法が扱える。範囲魔法を使う為に他の二人よりも経験値を多く得られていたからだ。

 

「でもさ、アンデッドと戦うのなら呪いに対抗する手段も必要だろ? 俺の持ってる『リムーブ・カース』で解呪できない場合もある。レベルⅣなら解呪できるが死に際とかの強い呪いだと無理だろうからな」

 

 呪いは、命を代価に強化出来る場合がある。

 

「確かにそうですが、『カース・オブ・ドール』はあまり使いたくないですね。呪いを移す事が出来ると聞こえは良いですがアイテムではなく、あくまでもモンスターですからね。何も知らずに自らの呪いを移して殺されたプレイヤーは少なくないですよ」

 

 サモン・デーモンで呼び出せる通称『復讐人形』と呼ばれるモンスター。この復讐人形はモンスターではあるが通常はただの人形と同じように無害である。ただ、復讐人形には対象の呪いを復讐人形に身代わりさせる事が出来る能力がある。よほど特殊な物でない限り移す事が出来る訳なのだが問題はここから。この復讐人形は、呪いを移されるとその呪いの強さによって戦闘力が変わるモンスターとして動き出す。復讐人形は、壊されるまで本来の呪いの持ち主を殺そうと狙い続け、殺し終えたら元の人形へと戻る。つまり、呪いを移して助かったと思った矢先に人形に殺されることになる。仮に動き出した復讐人形を倒した場合は、移された呪いは元の持ち主へと戻るので危険なだけだったりする。

 

「確かに呪いを移した後は召喚者であっても還す事は出来ない暴走状態になる危険なモンスターだが、呪いの種類によっては必要になる時もあると思う。一度、どんなもんか試しておいて損はないと思う」

 

 呪いは、様々な種類がある。身体能力の継続的低下。行動不能。復活の阻止。姿や魂の変質なんてものまである。解呪できなければ死ぬよりも辛い目に遭う事があるのが呪いだ。

 

「分かりました。その辺りは、ウルベルトさんにお任せします。ペロロンさんもそれでいいですか?」

 

「今回は問題になる要素がないですからいいけど……ホラー映画みたいな光景は勘弁してほしいかな。復讐人形ってビジュアルからして怖いし」

 

「じゃあ、決まりだ。とりあえずギガントバジリスクを見つけて石化の視線の対策をしよう」

 

 復讐人形を試しに使ってみることで話は決まった。ペロロンを先頭に再び森の中を進んで行くわけだが――先を行くインプに反応がある。

 

「ギガントバジリスクかは分からないが、インプが一体石化したみたいだ」

 

 召喚者であるウルベルトにインプの情報が入る。召喚者とモンスターには繋がりがあるので、モンスターに何かあれば分かる仕組みになっている。

 

「こっちの方角だ」

 

 ウルベルトが道を示す。それに合わせ、ペロロンが意識をその方向に向けながら足を進めていく。他の二人は、少し距離をとって後に続く。

 

(居ました)

 

 ペロロンが後続の二人にハンドサインを送る。

 

「こちらには気づいていませんね」

 

 慎重にたっちとウルベルトがペロロンの傍にまで来る。距離は、20メートル程。体長は、全体が見えない程に大きく、一般的な個体が10メートルぐらいなので相当な大きさになる。この世界の木々が異様に大きくなければとてもではないが姿を隠すことは出来ないだろう。

 

「私が前に出ます。ウルベルトさんは、囮になるインプと石化の視線対策を。ペロロンさんは、両方の支援でお願いします」

 

 石化の指輪を持っているたっちが新しく召喚されたインプ達と共にギガントバジリスクの下へと向かう。ギガントバジリスクの適正ランクは、アダマンタイト級。本来であるのならば、ミスリル級である三人が戦うには分が悪い相手だ。それでも三人は勝算があると考えている。否、勝てると確信している。

 

「行きます!」

 

 ある程度近づいたたっちは、一気にギガントバジリスクに駆け出し不意を突く。ギガントバジリスクの鱗はミスリルに匹敵すると言われるぐらいに硬いが、たっちの剣も加工ではあるがミスリルが使われている。モモン達とのアンデッド退治でレベルが上がっているたっちの《強撃》のスキルを上乗せした一撃は、深々と鱗を突き破る。だがそれはギガントバジリスクにとっては致命傷にはほど遠いほどの小さな傷。たっちの存在に気づいたギガントバジリスクは、巨体を揺らしたっちを押しつぶそうとする。

 

「《返し技》」

 

 盾で防ぎながらも更に攻撃を叩き込もうと剣を引き抜く。その際に猛毒である体液がたっちの身体へと噴きかかる。一般人なら即死する程の猛毒。それにすら怯まずに勇猛果敢に攻め立てる。

 

「持ち堪えてくれよな! 行くぞ、ペロロン!」

 

「潰してみせますよ!」

 

 ウルベルトは、たっちの回復を後回しにして《ファイヤーボール》の連発でギガントバジリスクの目を狙い始める。それに続くようにペロロンも《狙い撃ち》のスキルを駆使して目を狙って行く。

 

 魔獣が吠える。痛みと己の思うままにできない事への苛立ちが巨体を暴れさすようにして表に現れる。

 

「何処へも行かせません!」

 

 自身と比べてあまりにも巨大な敵。猛毒を受け、圧倒的な暴力を受けてもたっちの闘争心は消えることなく、むしろ更に強まっていく。自分が負ければ後ろの二人に被害が及ぶ。体力や装備の乏しい二人なら一撃で致命傷になってしまう。それが分かっているからこそ負けるわけにはいかない。

 

「――よしっ! 潰せましたよ!」

 

 炎によって焼け焦げ、矢が何本も両目に刺さったギガントバジリスクは視界を失い闇雲に暴れはじめる。この隙を三人は見逃さない。

 

「たっちさん!」

 

 ペロロンの支援射撃に合わせてウルベルトがたっちへと接近。たっちも声を聞き、後退する。ウルベルトは、《キュア・ポイズン》で解毒を行い。《ミドル・キュア・ウーンズ》でたっちの傷を癒していく。

 

「随分とやられたみたいだな」

 

 回復が一度だけでは足りない。

 

「やっぱり強いですね。ですが、このまま押し切れそうです。ウルベルトさんは準備に入ってください」

 

 傷が癒えたたっちは、時間を稼ぐために再びギガントバジリスクに向き合う。

 

「《サモン・デーモン》」

 

 ペロロンとたっちがギガントバジリスクを引き付けている間にウルベルトは準備へと入る。先ずは、復讐人形を召喚する。呼び出された復讐人形は、ボロボロの気味の悪い姿をした子供の人形。その両手には、血で錆びた包丁を持っている。

 

「《カース・オブ・ディザスター》」

 

 今度は、災厄の呪詛をギガントバジリスクへと向ける。今のウルベルトの最大位階魔法レベルはⅣ。災厄の呪詛はそれに応じて、ウルベルトの身体から呪いの黒い霧となりギガントバジリスクの身体と魂を蝕んでいく。

 

「離れろ!」

 

 呪いでギガントバジリスクの動きが抑えられているのを確認した二人は、ウルベルトの声で安全な場所へと退避する。そして、それに合わせるようにウルベルトは復讐人形の能力を発動。ギガントバジリスクに掛かっている呪いを復讐人形へと移し――その場に耳障りな程に煩く気味の悪い子供の笑い声が人形から発せられる。

 

 復讐人形は、ガクガクと激しく震えてからむくりと立ち上がり瞬く間にギガントバジリスクへと近づき――それからは惨劇となる。手に持つ包丁は、ギガントバジリスクと比べるとあまりにも小さいがその切れ味は凄まじくミスリルに匹敵する鱗を何事もないかのように切り刻んでいく。飛び跳ね、走り回り、クルクルと回り、ギガントバジリスクに身体を吹き飛ばされ、猛毒の体液を浴びても攻撃の手を止めない。既に目は見えず身体を切り刻まれていくしかないギガントバジリスクの悲鳴が人形の笑い声と共に死を迎えるまでそこにある。

 

「……怖くない?」

 

 ウルベルトは、自分の所にやって来たたっちとペロロンに聞く。

 

「ホラーではなく、スプラッター映画の方でしたね」

 

「でも、これでレベルⅣなんですよね? レベルⅣならウルベルトさんの魔法で解呪できるから使うならそれ以上になるわけですけど……俺達に対処できますかね?」

 

 今も楽しそうに包丁を振り回す復讐人形を見て思うが……無理かもしれない。

 





いつも誤字報告などありがとうございます。
この場を借りてお礼を言わせて頂きます。

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