三人が行く!   作:変なおっさん

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第33話

 アインザックに呼び出されたたっち達三人とモモン達二人は、時間を潰すために冒険者組合の待合室でトランプゲームに興じていた。この世界では紙が貴重品の為、ペロロンが野営で暇な時に製作していた木札を使用している。サブカルチャーをこの世界でも再現しようとしているペロロンは、一枚一枚に記憶を頼りに絵を描いていたりする。内容は、女の子のキャラばかりだが。

 

「オープン」

 

 親であるペロロンが代表して勝負の言葉を言う。

 

「俺は、エースと10のツーペアです」

 

「私は、スリーカードですね」

 

「申し訳ありません。ストレートです」

 

 ペロロン、モモン、ナーベの順で札を見せて行ったがナーベが勝った。

 

「ナーベさん、強過ぎじゃね?」

 

 ナーベの前には、賭けていた銅貨が新しく積まれていく。この銅貨は、五度目となる共同作戦によるアンデッド退治の報酬。それを銅貨にしてもらい遊んでいる訳だが先ほどからナーベの一人勝ちである。

 

「モモンさん。こんなに集まりました」

 

 ナーベは、モモンに成果を見せる。その表情には、先ほどまでとは違い色があるように見える。

 

「頑張ったな、ナーベ」

 

 モモンに褒められて色は更に濃くなる。こうして見ると感情はあるらしいのだが、勝負の最中は驚くほど無表情だ。

 

「ゲーム中もそんな感じだと助かるんですけどね。まぁ、モモンさんとウルベルトさんは顔が見えませんけど」

 

 フルフェイスの兜と木製の山羊の仮面で二人の顔は見えない。ちなみにモモンはトントン。常に勝負に出ているウルベルトはあと少ししか残っていない。

 

「今度は、逆ババ抜きにでもします? 最後までババを持っていた人が総取りなんてどうですか?」

 

「参加料は、五枚でいいよな? ここらで取り戻しておきたい」

 

「ちょっと待ってください。どうやら時間のようです」

 

 たっちに言われて気づいたが、五人の下にアインザックから部屋に来るようにと伝言を預かった従業員がやって来る。どうやら時間が来たようだ。

 

「待たせたようだな」

 

 従業員の案内でアインザックの下に通される。向かい合うように座るのだが、どうやらアインザックは疲れているようだ。表情に疲労の色が濃く出ている。

 

「お疲れのようですね」

 

「あぁ、まあな。アンデッドは、こちらと違い休みを必要としない。こちらの都合など考えもしないで好き勝手にやってくれているよ」

 

 今回で共同作戦を五回行ったがそれ以外でも依頼を受けて各地へとアンデッド退治に向かっている。いくら軍を配備していたとしてもアンデッドは何処にでも現れる。その為、戦いだけではなく移動による疲労やいつ現れるかもしれない不安で心身ともに疲れる。それらの対応に追われるアインザックも例外ではない。

 

「君達には、本当に助けられている。数が少ないために動きやすく、費用も掛からないからな。ただ、報酬は申し訳ないが多くは払えない。国の財政はそこまで豊かではないのでな。代わりにこれまで通り現物の支給になるがそれでかまわないかな?」

 

 本来なら緊急の依頼の為に上乗せなどがある内容だ。ただ、既に常態化しているために通常の依頼となっている。その代わり食料や聖水、馬を無料で貸し出していたりする。

 

「それでかまいません。国の危機ですから」

 

「私達もそれでかまいません。元々、ズーラーノーンを倒すことが目的ですので」

 

 たっちとモモンの言葉を聞き、アインザックは考え込む。どうやら今日呼ばれた理由に関係していそうだ。

 

「君達の気持ちはありがたい。ただ、今日呼んだのはそれに関する事なんだ。実は、帝都にある冒険者組合から君達の指名があった。どうやら帝都も大変だそうでな……いや、遠回しな言い方はやめよう。早い話が引き抜きの話が来た。内容は、しばらく帝都で活動してほしいというもの。おそらくだがその期間に君達の査定と交渉が行われるはずだ」

 

「初めて聞く話ですね。引き抜きなどあるんですか?」

 

「正確に言えば、冒険者組合ではない。派遣することはあるがな。今回は、フールーダ・パラダインという人物が絡んでいる。名前ぐらいは聞いたことはないかな? 生きる伝説とも言える魔法詠唱者だ」

 

「確か、第六位階の魔法を使えるってニニャちゃんが言ってましたね。この辺だと珍しいらしいですよ」

 

「そんな話しもあったな」

 

「珍しいではすまんよ。君達の感覚がズレている事には今更なのでなにも言う気にはならんが、フールーダ・パラダイン一人が居る為に王国も法国も帝国には手を出せない程だ。そんな人物が冒険者組合を通して君達を呼んだ。こちらとしては、君達を帝国に行かせる以外の選択肢がない」

 

 冒険者組合に圧力でも掛けているのだろうか? 帝国の事は詳しくは知らないが随分とこちらを評価しているようだ。

 

「どうしても私達に会いたいという事でしょうか?」

 

「君達ではなく、ウルベルト君とナーベさんの二人だと私は考えている。パラダインは、魔法に関しては他の追随を許さない程の頂に立っている。その若さで第三位階の魔法を扱える二人に興味が湧いたのではないかな?」

 

「おっさんに会いたいって言われても嬉しくないな。ただでさえ、ラキュースさんに会えないのにおっさんに会うとか何の罰だよ」

 

 ウルベルトの心境は決まっている。行く気はない。

 

「急なものではないようなので考えておいてくれ。ナーベさんは、どうかな?」

 

「モモンさんにお任せします」

 

「そうですね。皆さんが行くのなら一緒に行きます。なので、ウルベルトさん次第という事でお願いします」

 

「わかった。先方にはそのように伝えておこう。ただ、あまりにも催促があるようならその時は頼む。それと、できれば引き抜きには応じないでもらいたい。待遇は、あちらの方が上だろうがこちらは君達が居ないと困る。頼む、この通りだ」

 

 アインザックは頭を下げる。これには、素っ気なかったウルベルトも姿勢を正す。

 

「やめてください、アインザックさん。私達は、別にお金の為だけにやっているわけではないですから。困っている人が居るのなら助けるだけです」

 

「流石、たっちさんですね。私も同じ気持ちですよ」

 

「そうか。ありがとう。私にできる事があれば何でも言ってくれ。できる限り恩に報いたい」

 

 安心したのか背を椅子に預け息を大きく吐いている。

 

「おっと、そう言えば忘れるところだった。たっち君達に指名の依頼が来ていた」

 

 アインザックは、執務用の机に戻ると依頼状と小さな箱を持って戻って来る。

 

「少し変わった依頼だったので引き受けるか悩んだのだが、先ずはコレを渡しておこう」

 

 アインザックからたっちは小さな箱を手渡される。早速、箱を開けて中を見てみるが――

 

「指輪ですか?」

 

 銀色の細い指輪が入っている。よく見ると細いながらも模様が刻まれている。

 

「それは、石化に耐性を持つ指輪だ。依頼主が今回の依頼に必要だと思い報酬の意味を含めて渡したいそうだ」

 

「マジかよ!? 石化耐性の指輪を報酬でくれるってどんな金持ちだ!?」

 

「上級貴族とかでしょうかね? というか、どんな依頼なんですかそれ?」

 

 アダマンタイト級の依頼は覚悟しておいた方がいい破格の報酬。更に別に報酬も出ると言われたら聞かずに帰った方がいい気すらする。

 

「実は、これとは別に報酬も出る」

 

「帰りましょう。罠です」

 

「だな。死にたくない」

 

 アインザックの言葉でペロロンとウルベルトは席を立つ。

 

「待ちたまえ。確かに怪しい話だが裏はとってある。内容は、ギガントバジリスクの討伐だ。此処から西にある森に居る。この指輪があれば君達なら問題ないだろう」

 

 それを聞いて二人は元の席に着く。

 

「怪しさ満点ですけどたっちさんが決めて下さい」

 

「俺もそれでいい」

 

「確かに怪しいですが見返りは大きいです。今の状況を打開するためにも危険を冒す必要があると思います」

 

「そうか。それでは、この依頼状を持って受付まで行ってくれ。詳しくは、そこで教えてくれる」

 

 三人は、怪しい依頼を受け、モモン達と別れ西の森へと向かう事にする。そんな三人を見送るモモンは、内心で上手くいったとほくそ笑む。全ては、モモンが仕組んだ事。ギガントバジリスクは本当に居るが別に罠などはない。

 

(さて、早く帰って準備しないと)

 

 ナザリック地下大墳墓に戻り急いで遠見の鏡で三人の戦いを見る準備にはいる。その足取りは、ナーベが少し慌てる程に速かった。

 


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