三人が行く!   作:変なおっさん

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第32話

 

 たっち達と別れたアインズは、ナーベをいつもの宿屋に残してナザリック地下大墳墓に帰還。アルベドに迎えられ、そのまま自室へと直行した。

 

(楽しかったな)

 

 アンデッドなので疲労感などはないが達成感がある。フワフワのベッドに仰向けに横になりながら思い出しては笑いそうになる。

 

「良い事でもあったのですか?」

 

 何故か自室の中までついて来たアルベドが問い掛ける。表情筋などない骨だけの顔なのに分かるものなのだろうか?

 

「そう見えるか?」

 

「愛しい人の事なら分かるものです。戻られてからのアインズ様は、いつにも増して輝いて見えます」

 

「そういうものなのか」

 

 よく分からないが本当の事を話すわけにもいかない。他の話で誤魔化そう。

 

「なに、計画通りに事が進んでいると思うとな。パンドラは、予定通りに動いているのだろう?」

 

「はい。あのカジットと言う者を使い帝国、法国領にもズーラーノーンの名を広めております。工作活動の方も同時に行っていますので直に結果は出るかと思われます」

 

「熱が冷めないうちにズーラーノーンの名を広める。当分は、今回と同じ規模の部隊を各地に送れ」

 

 この前のズーラーノーンの一件から大々的にズーラーノーンの情報を流している。内容は虚偽を混ぜて様々だが王国だけではなく、帝国や法国も滅ぼす対象である。盟主は、第七位階以上の魔法を行使できる。いつでもどこでも自由にアンデッドの大群を生み出せるなどが内容の一部だ。今回のアンデッドの軍勢をエ・ランテルに向けて送ったのも話の信憑性を上げるため。今頃は、パンドラの指揮の下にカジットが同じ規模のアンデッドを率いて帝国や法国に挨拶に行っている事だろう。

 

「できる限り満遍なくアンデッドを配置しろ。できれば各国の戦力や各所の優先度。戦略なども調べておきたい」

 

「しばらくは、カッツェ平野周辺を予定していますが次回は郊外の村に送る手筈となっております。しかし、戦力は変えなくてよろしいのでしょうか? スケルトンやゾンビでは弱すぎると思うのですが」

 

「演出だよ。アンデッドは、その特性により数が集まれば更に強いアンデッドを自然に生み出す。今は、スケルトンやゾンビだけだが徐々に種類を増やし、最終的には上位の者も出していく。まるでズーラーノーンの力が増しているようにな」

 

 本当は、三人の安全を考えた結果である。久しぶりに組む上に戦士としての参加。結果として予想以上に上手く行っただけで、予定としては苦戦しながらも勝つぐらいだった。

 

(調整をどうするか?)

 

 この世界には一つ大きな問題がある。ユグドラシルの基準で言えば、マジックアイテムの入手はそれほど難しくない。もちろん効果の高い物は入手が難しいが、一種類だけの状態異常を防いだりするアイテムなら入手は容易だ。しかし、この世界はその程度の物でも高額で取引されるほどに貴重で今の三人には手が出せない。ゲームとして考えれば、今の三人のレベルだと状態異常を持つモンスターが常態化してくる頃だ。この時期になるとモンスターに合わせて装備や戦略を考える事になる。戦略は問題ないとして、なんとかして三人の装備を整える必要がある。そうすれば、より強いモンスターを用意する事が出来る。

 

「アルベド。この世界のマジックアイテムを集めさせていたな?」

 

「はい。デミウルゴスがアインズ様の御命令で集めておりますが、それがどうかなさいましたか?」

 

「今ある分でかまわない。価値のなさそうな物も含め全てを私の所へと持って来るのだ」

 

「畏まりました。すぐに御用意致します」

 

 さて、手元にあるマジックアイテムをどうやって三人に渡すか? 次の共同作戦まで時間はある。ゆっくりと戦いを思い出しながら考えよう。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 バハルス帝国の帝都アーウィンタールにある皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの居城にフールーダ・パラダインが訪れる。英雄の壁を超えた逸脱者とされる魔法使いの一人であり、ジルクニフの教育係も務めた帝国の重鎮である。本日は、ジルクニフに呼ばれ、私的で内密な話を行っている。

 

「聞いたか、爺。今やこの世界は、アンデッドが蔓延る世界へと変わったぞ」

 

 王国での一件を聞きズーラーノーンについて調べさせていた矢先に帝国領にもズーラーノーンがアンデッドの軍勢を率いて現れた。話では、スレイン法国にも現れたそうだが他の国の事などには興味はない。

 

「そのようですな。いやはや、面白い限りです」

 

 フールーダは、蓄えている髭を指でなぞる。その表情はどこか楽しげだ。

 

「嬉しそうだな、爺は。まったく魔法に関する事だといつもこれだ。アンデッドの軍勢は所かまわずに現れる。最低でも転移の魔法は使えると思っていいな?」

 

「初めは、カッツェ平野の周辺だけでしたが今では三国を股にかけて行われています。アンデッドを連れまわしているかは分かりませんが、これだけ好きに移動できるとなると可能性は高いと思われます。ただ、これだけの範囲で転移を行えるとなると……この私と同等の力を持っていると考えられます」

 

 逸脱者と呼ばれるフールーダは、人類の限界とされている第六位階の魔法の使い手だ。その戦力は、条件付きではあるが帝国の軍事戦力に匹敵する。そんなフールーダと同等の者が監視の目を掻い潜り好き勝手に活動しているなど許されるはずがない。

 

「今のところは、軍を動かせばどうにかなる。しかし、アンデッドはより強いアンデッドを生み出すと聞く。いずれは、対応できない戦力になる可能性はあるのだな?」

 

「可能性としてはあります。今行われているものは邪魔をさせないための囮。本命は、地の底で育まれているやもしれません」

 

「そうだとしたら最悪だな。今や各国は、アンデッドに対抗するために人手などを割いている。ある意味では、他国を落とす絶好の機会でもあるがこちらが攻められる可能性もある。特に注意すべきは、法国だ。前に我が帝国と王国を争わせるために工作を行っていた。これを機に攻めてこないとも限らない」

 

 王国との国境付近にある村を帝国の装備を身に着けた法国の者達が村々を荒らしまわった。全ては、王国と帝国を争わせる為だったがそれは偶然その場に居合わせた二人の人物によって阻止された。

 

「可能性としてはありえますな。法国の者達からすればアンデッドは然程脅威ではありません。被害者を装い力を蓄える。それこそズーラーノーンと裏で繋がっている可能性もあるやもしれません」

 

「憶測ではあるがな。ただ、爺に匹敵する者となれば自ずと限られる。居るとするならば法国の関係者だろう。あの場所には、爺ですら勝てるか分からぬ者も居るのだから」

 

 スレイン法国には、六色聖典と呼ばれる特殊工作部隊が存在する。その者達の中には、フールーダを凌ぐ力を持つ者も確認されている。盟主をはじめズーラーノーンの素性は未だに不明だが、帝国が把握していない者の中に居たとしても不思議ではない。

 

「あとは、例の魔法詠唱者か。調べようにもこのような事態になったからには手を出せない。既に調べた限りでは、王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフ率いる部隊を壊滅にまで追い込んだ陽光聖典を供の戦士と全滅させた相手だ。爺には悪いが、盟主である可能性がある。わざわざ危険な所に手を出す気はない」

 

「残念ですが、今の状況では有益な話もできますまい」

 

「えらく簡単に引き下がるな。爺らしくもない」

 

 フールーダは、魔法に関しての知恵欲を満たす為なら貪欲なまでに渇望する。それなのにあっさり引いた事に違和感を覚える。

 

「確かに気にはなりますが、他にも居りましてな。王国に居る冒険者なのですが瞬く間に第三位階までの魔法を習得したと聞いております。それも多くの魔法を扱えるらしく……私の見立てでは力を隠し持っているのではないかと楽しみでして」

 

「前に報告を受けた者達だったな。確か、他にもあったような?」

 

「そちらもまた面白い。こちらも若いが第三位階の魔法を……もし御許可が頂けるのなら一度王国に赴きたいぐらいです。どちらも私の興味を引いてやみませんので」

 

「爺が居るからスレイン法国とは言え、帝国には直接事を構える事はできない。行かせられるはずがないだろう」

 

「では、こちらに呼ばせては頂けないでしょうか?」

 

(こちらに呼ぶ?)

 

 フールーダの知識欲を満たすのはともかく悪くないかもしれない。フールーダが興味を持つだけの者なら帝国にとって有益な人材である可能性は高い。ズーラーノーンの事も考えると戦力の増強も必要だろう。

 

「いいだろう。爺の目に適えば帝国に迎え入れよう。すぐに連絡をとれ」

 

「畏まりました、陛下」

 

 臣下の礼をとるとフールーダはジルクニフの下から去る。今すぐにでも自らの欲を満たしてくれる者達を呼ぶために。

 


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