三人が行く!   作:変なおっさん

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第31話

 王国と帝国との国境の境にはカッツェ平野と呼ばれる場所がある。度々、王国と帝国との戦いの時に戦場となるこの場所には不思議な事に戦争の時だけ晴れる霧が立ち込めている。普段はその霧が陽の光を遮り、見捨てられた死者の身体と彷徨う魂からアンデッドの生息地となっている。

 

「皆さん、本日は共同作戦に御参加頂きありがとうございます。本日は、御日柄も良く絶好の戦日和だと思われます」

 

 モモンがたっち達を前に話し始める。それに合わせるように傍に控えるように立っているナーベが拍手などを行っている。

 

「やり方は簡単。先ずは、私とナーベが戦います。そして、合図をこちらが出しましたら入れ替わりで皆さんが。そして、最後に私が皆さんと加わる形となります」

 

「ナーベさんは、参加しないのですか?」

 

「実は、ナーベは私以外とは経験がありませんので今回は見学という形をとらせて頂きました。しっかり見ておくのだぞ、ナーベ」

 

「はい。皆様の御活躍をしかとこの目で見させて頂きます」

 

「モモンさん以外と経験が無いってなんだかエロいですね」

 

「黙ってろ、ペロロン」

 

 緊張感のまったくないペロロンに視線が集まるが本人は全然気にしない。

 

「私は、監督役なので特になにかを言う気などは無いが一つだけ言わせてもらってもいいかな?」

 

 咳を一つして、少し離れた所に居たアインザックが自分の存在をアピールする。

 

「どうぞ、アインザック殿」

 

「では、失礼して。君達も知っていると思う……というか、見て分かると思う。今朝方、冒険者組合に飛び込みの依頼があった。カッツェ平野でアンデッドが大量発生していると。そして、そのアンデッドの軍勢がエ・ランテルに向かっていると」

 

「そうですね。今もこちらに向かって来ています」

 

 カッツェ平野とエ・ランテルの中間に居る訳だが丁度面前にそれらは居る。視界に納まらないぐらいの数。目測だが優に数百は超えているだろう。主なモンスターは、スケルトンやゾンビのようだが奥の方は見えないのではっきりとは言えない。

 

「スケルトンやゾンビは今の君達なら相手ではないかもしれない。だが、世の中には多勢に無勢という言葉もある。必ずしも勝てるとは限らんのだ」

 

「そうですね。私もそう思います」

 

 あまりにも素っ気ないモモンの言葉に怒る気にもなれない。普通は、アンデッドの軍勢相手に五人で挑もうとは思わない。相手は、動けなくなるまで戦う亡者なのだ。少しは躊躇いがあってもいいのではないか?

 

「君達が共同作戦の練習に使いたいと言うから任せるが、くれぐれも真面目にやるように。先ほどから君達からはまったく緊張感を感じられない。これは遊びではなく命を懸けた戦いだ。それを忘れないでほしい」

 

「分かっています、アインザックさん。その為に用意もしましたから」

 

 たっちは、アインザックから貰ったミスリル加工されている剣とは別に鋼鉄製の片手で扱える戦槌を手に握っている。

 

「俺もですよ」

 

 ペロロンは、通常の弓や矢ではアンデッドにあまり有効ではないので、今回はたっちの補佐として小さな木の盾とスパイク付きのクラブを持っている。他にも武器に神聖属性を付与させるための聖水も多めに所持している。効果は弱いがそれでも無いよりはマシである。

 

「俺は、コレさえあれば万全だ」

 

 ウルベルトは、いつもの木製の山羊の仮面を着けている。なんだか怪しい仮面を身に着けているウルベルトがこの軍勢の黒幕に思える。

 

「わかった。もう私からは何も言わない。打ち合わせ通り邪魔にならないようにしているが、何かあれば私はエ・ランテルに戻り準備をする事にする。アレが陽動である可能性もあるからな。君達が此処で危険に晒されたとしても助けないと思ってくれ」

 

 アインザックは、共に来ていた者達の方へと行くと乗って来た馬に跨り邪魔にならない所まで移動する。

 

「でも、なんだかイベントみたいですね。アンデッドの軍勢に襲われる街を助けるって。勝った暁には、女の子にモテモテですよね?」

 

「知るかよ。それより準備はいいのか?」

 

「俺はいつでも行けます。たっちさんは?」

 

「私も大丈夫です」

 

 未だ行進を止めないアンデッドの軍勢を前にしても三人は普段と変わらずに過ごしている。

 

「頼もしい限りだ。それでは、こちらも準備に入ろうか」

 

 モモンは、ナーベに向かって言葉を放つがそれは別の所に居る者へと向けられる。予め《メッセージ》の魔法で繋げておいた相手に。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓では、ちょっとした騒ぎになっていた。執務室にて、遠隔視の鏡を使い噂の人間達を見る事が出来る日だからだ。もっともこれはあくまでも守護者達が連携を学ぶための一環なので必然的に見る者は選ばれる。それでも気になって仕方がない者達は執務室の前に押しかけている。

 

「今日はお願いね、コキュートス。貴方の方が私よりも見る目があるのだから」

 

「ウム、任サレタ。シカト、見極メヨウ」

 

 アルベドは、コキュートスに人間達の力量と戦い方をコキュートスに判断してもらう事にした。アルベドも戦士としての目を持っているがコキュートスと比べると劣るためだ。

 

「まったく困ったものでありんすね。たかが名前が同じだけで騒ぐなんて。アインズ様が仰っていたのでありんしょう? 名前だけで別人だと。それなのに馬鹿みたいに騒いで、アインズ様に仕える者として如何なものかえ? だいたい――」

 

「シャルティア。申し訳ないが落ち着いてもらえるかな? 先ほどから手に持っているカップから零れているんだが」

 

 平静を装っているシャルティアの手はガクガクと震え、手に持っているカップから紅茶があちこちに飛び散っている。隣に座っていたデミウルゴスにも多少なりとも被害が出るほどに。

 

「ねぇー、まだなのパンドラ! 早く見せて!」

 

「落ち着いて、お姉ちゃん。パンドラさんの邪魔になるよ」

 

「少々お待ちを。すぐに合わせますので」

 

 早く見たいアウラをマーレが宥めようとしている。そんな二人を横目にパンドラは遠見の鏡を操作し舞台を映す。

 

「それでは、観戦を始める前に既にお配りした物を御覧ください」

 

 パンドラの指示の下に各々は事前に配られていた物を見る。

 

「それは、アインズ様監修で作られた戦術マニュアルになります。私達はコレを元に今まで連携の大切さを学んできましたが結果は今一つ。そこで、守護者統括であらせられるアルベド様からアインズ様に提案がありました。そして、今日を迎えたわけですがあくまでも連携を学ぶ一環である事をお忘れなく。雑念があってはせっかくの機会も台無しですからね」

 

 浮足立っている者達を窘める。あくまでも彼らは別人なのだ。

 

「それでは、内容を説明させて頂きます。今回の相手に御用意致しましたのは、各種武装したスケルトン四百体。ゾンビ二百体となっています」

 

「コキュートス。戦力的にはどうなのかしら?」

 

「アインズ様、ナーベラルヲ考慮シナケレバ絶望的デハアル。見タトコロダメージヲ完全ニ防グコトハ出来ナイ。回復手段ガ無クナレバ死ヌダロウ」

 

「しかし、アインズ様はこの戦力で問題ないと御判断なさったのですよね?」

 

「はい、デミウルゴス様。アインズ様は、こう仰っていました。連携を駆使すれば、この程度の戦力差なら問題なく覆せると。仮にそれが出来ないようであるのならば参考にはならないとも仰っていました」

 

「パンドラ。もっと大きくできないの? さっきから小さすぎて全然見えないんだけど。それに音が聞こえないんだけど」

 

 戦場全体を映し出して説明していたのでそれぞれが動く点のように見える。

 

「アインズ様の合図がありましたのですぐに合わせます。それでは、共に見るとしましょう。アインズ様。こちらの準備は出来ました」

 

 今度は、パンドラから戦場に居るモモンに《メッセージ》の魔法で連絡が行く。

 

「それでは、私とナーベが先に行きます。ナーベ、ついて来い」

 

「はい。モモンさん」

 

 モモンは、ナーベを連れてアンデッドの軍勢へと赴く。その足取りは普段と変わらない。

 

「どんなもんなんですかね?」

 

「見れば分かるだろ? 俺としては、ナーベさんの方が気になるな。本当に第三位階までなのか気になるところだ」

 

「誰かみたいに隠しているかもしれないですからね。切り札として」

 

「魔法は対策がとれるからな」

 

 三人は、合図が来たらいつでも動けるように待機しつつも二人の動きを観察する。

 

(なんだか緊張する)

 

 今、後ろにはかつての仲間達が居る。特に気になるのは、たっちの前で剣を振るう事だ。前に戦ってはいるが今回はじっくりと観察される。模範としているたっちに見られると思うとそれだけで緊張が高まる。それに今頃は、ナザリックから守護者達も見ている事だろう。

 

「ナーベ、支援を行え」

 

「はい、モモンさん」

 

 大剣を両手に持ち、構える。相手は、動きの遅いスケルトンとゾンビ。レベル差、装備、スキルを考えるとどうやっても負けるはずのない相手だ。それでも今回は気合を入れる必要がある。

 

「道を作れ」

 

 モモンの命令を受け、ナーベはアンデッドの軍勢に手をかざし放つ。

 

「《ライトニング》」

 

 第三位階の魔法。才能のある者が一生を掛けて得るとされる魔法を若くしてナーベは行使する。

 

「行くか」

 

 直線状に貫通するように放たれた雷撃によって開いた軍勢の穴にモモンは躊躇いもなく突入し、その剛腕で振るう二本の大剣が暴風の如くアンデッドを蹴散らしていく。その姿は異常な程に他を圧倒。まるでアンデッド達が砂塵であったかのように瞬く間に漆黒の暴風により軽々と散っていく。たった一つの動作で何体のアンデッドが再び死の眠りに戻るのか。

 

「もうモモンさん一人でいいんじゃないかな?」

 

 止まらずに動き続けるモモンに合せるようにナーベもライトニングを放っているがそれも必要ではないと見える。それだけモモンの実力はでたらめなのだ。

 

「行くか? 合図はまだないがこのままだと見せ場がなくなる」

 

「それは、どうなんでしょうか?」

 

「俺は、ウルベルトさんに賛成です! せっかく準備したのにこのままだとカッコ悪いですよ!」

 

 今こうしている間にもアンデッド達は土へと還っていく。このままだと本当に終わりそうだ。

 

「分かりました。行きましょう」

 

「よし、決まった。《サモン・デーモン》」

 

 ウルベルトは、使い魔としてインプを五体召喚する。歪んだ笑みを浮かべた赤ん坊に羽の生えた悪魔が召喚に応じて現れる。

 

「お前達は、敵の邪魔をするだけでいい。知恵の無い亡者なら容易いだろう。精々邪魔をして、盾となり死ね。いいな?」

 

 人の声とは違う気味の悪い声で答えるとアンデッドの軍勢の方へと飛んでいく。

 

「ペロロンさん。後ろを頼みます」

 

「任せて下さい。弓だけじゃないってところをお見せしますよ!」

 

 たっちは、ペロロンを連れてアンデッド達の下へと駆けだす。途中、ナーベとすれ違う訳だが特に何も言われずにこちらを見たナーベと目が合う。

 

「勝手に動いて怒っていたりしませんかね?」

 

「手柄を独り占めする方が悪いってことでいいじゃないですか」

 

 たっちは、今も尚戦い続けるモモンを明確に捉えられる距離まで近づく。

 

「すみません、モモンさん!」

 

 謝ってから勢いそのままでアンデッド達の中に飛び込む。盾で相手を抑え、戦槌で相手の頭部から叩き潰していく。その勢いは、モモンほどではないが止まる気配がない。

 

「手柄を独り占めはズルいって事でよろしく!」

 

 その後をペロロンが追撃する。行うのは、たっちの攻撃で仕留めきれなかった者の処理。スパイク付きのクラブで倒れ伏した者を叩き潰し、たっちの死角から来る敵の攻撃をウルベルトが召喚したインプ達と共に盾で防ぐ。

 

「仕方がないですね」

 

 モモンは、二人を一瞥して面前の敵に向き直る。すると、上空から瓶に入った聖水が幾つも落ちてくる。

 

「今日は、大盤振る舞いで行きますよ!」

 

 それは、ペロロンがばら撒いたものだ。それを、たっちもモモンも分かっていたかのように各々の武器で叩き割る。すると、聖水を浴びたアンデッド達は浄化の痛みからか動きが悪くなる。その隙に聖水により神聖属性を得た武器で追撃をしていく。動きが止まっていた者達を蹴散らすのは難しくない。モモンは、その剛腕で。たっちは、《強撃》のスキルを上乗せして勢いをつけて前進する。

 

「こっちも行くとするか。ナーベさんは、『フライ』は使えるか?」

 

「使えます」

 

「だったら空から行くとしよう。俺が吹き飛ばすから残りを撃ち抜いてくれよな」

 

 ウルベルトとナーベは、互いに《フライ》の魔法を使い上空へと浮かび上がる。但し、相手に弓兵が居ることは先ほどから敵陣に乗り込んだ三人に降り注ぐ矢から見て分かる。大した威力は無いが危険ではあるので高く飛び過ぎないように気を付けながら接近する。

 

「《ファイヤーボール》」

 

「《ライトニング》」

 

 ウルベルトが放った火球に直撃した者は焼け焦げ、周囲の者はその爆風で動きが僅かに止まる。そこをナーベが正確に貫通する雷撃で撃ち抜いて行く。三人から離れている場所から削るように確実にそれらを行っていく。

 

「やりますね、モモンさん! いい感じですよ!」

 

「ありがとうございます。お二人も素晴らしいですよ」

 

「これなら問題なさそうですね」

 

 三人の動きは面白いぐらいに同調している。一撃のあるモモンをメインとした布陣を構築し、たっちが敵の攻撃を抑えながら反撃。ペロロンはそんな二人の補佐に回り、飛んでくる矢や殺し損なった者達をインプと共に処理していく。

 

(今、俺はアインズ・ウール・ゴウンの仲間達と戦っているんだ)

 

 夢にまで見ていた光景が此処にある。漆黒の戦士の参考にしたたっちと背中を預けて剣を振るえている。ペロロンは、こちらが気づいていない部分を的確に埋めてくれる。近くにウルベルトの姿は無いが、使い魔のインプが殺される度に補充されては敵を邪魔して戦いやすくなっている。遠くで敵を排除しながらもこちらの支援をできるように把握しているのだろう。

 

(楽しいなぁ……)

 

 戦いやすい。少し共にしただけで互いの穴を埋める事が出来ている。他を気にせずに剣を振るう事が出来る。面前の敵だけを相手にしていればそれだけで全てが終わる。完成されたものがそこにある。仲間達と共に築き上げた場所が此処にある。

 

「……終わりのようですね」

 

 最後の一体を切り倒す。名残惜しいがしないわけにもいかない。

 

「終わりましたね」

 

「疲れたぁ~。敵、多過ぎでしょう」

 

 周囲には骨やら死体やらが散乱している。鼻につく腐臭が嫌になるが達成感はある。

 

「ナーベさんと周囲を確認したがもう居ない。治療は必要か?」

 

 安全の為に周囲の確認をしていたウルベルトとナーベが三人の下に来る。

 

「少しだけですがお願いします」

 

「俺も頼みます」

 

「意外と少ないな」

 

 あれだけの相手と戦いそれほどダメージを負ってはいない。ウルベルトは、《ライト・ヒーリング》で二人の治療を行う。

 

「モモンさんは大丈夫か?」

 

「私は、皆さんのおかげで怪我はしていないので大丈夫です」

 

「化けもんだな。見てたけど二人が完全に補佐に回るとは思ってなかった」

 

「いえいえ、皆さんのおかげですよ。とても戦いやすかったです」

 

「そうですね。私も戦いやすかったですよ。なんだか昔からの知り合いのように上手く行きました」

 

「ですね。やっぱり戦い慣れしてると合わせるのも上手いんですかね」

 

 言いたい。物凄く言いたい。私は、モモンガです。アインズ・ウール・ゴウンのモモンガですよと。皆さんの動きは頭の中に入っています。どう動くかも予想できるぐらいに。初めて戦士として一緒に戦いましたけどそれでも合わせられるぐらいにこの時を待っていたんだと言いたい。

 

「お見事。いやはや意外と早く終わったものだな」

 

 馬に乗りながらアインザックが見物していた他の者達と共にやって来る。

 

「倒せるとは思っていたが鮮やかなものだ。もしあれなら君達で冒険者チームを組んでも良いぐらいに見えたよ」

 

「私達で冒険者チームを?」

 

 モモンの心が大きく揺らぐ。それが出来たらどれだけいいか。

 

「申し訳ありません。私達は、三人だけでいいです。今は三人だけですけど先約がありますので」

 

「可愛い女の子でもこれだけはダメなんですよ」

 

「いや、女とか関係なく断れよ。」

 

 そんなモモンの気持ちを知らない三人はそれを断る。

 

「そうか。それは、残念だな。君達なら上手くやれると思ったんだが」

 

「先約があるのならば仕方がないですね」

 

 その先約がアインズ・ウール・ゴウンの事だと分かってはいる。いるけど、嬉しいけど、出来れば組みたい。

 

「それでは、私は先に戻る。問題ないと伝えなければいけないのでな。行くぞ」

 

 アインザックは、供を連れ先にエ・ランテルへと戻っていく。

 

「じゃあ、俺達も帰りましょうか。ぱぁーっと、打ち上げしましょうよ、ぱぁーっと」

 

「費用は掛かったが元は取れそうだしな」

 

「どうですか、モモンさん、ナーベさん?」

 

 行きたい。行きたいけど今の姿だと飲み食いできない。美味いだろうなこの後の酒とかご飯とか。

 

「申し訳ありません。実は、私は宗教上の理由で、戦いで命を奪った日は一人で食事をとらないといけないんです」

 

「そうなんですか。なんだか大変そうですね」

 

「ええ、本当に」

 

 なにか方法はないのか? そうでないとこの誘惑にいつか負けてしまいそうだ。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「どうやら終わったようですね」

 

 戦いを見ていた執務室では、終わった後も静かで動きはなかなか起きなかった。

 

「それでどうなのかしら? 勝ったようだけど相手が弱すぎて参考になるか微妙なのだけど?」

 

「ソウダナ。予定ト動キモ違ウ。アインズ様ヲ主体ニ組ミ込ミ行ワレタ戦イダ。参考ニスルニハ少々物足リナイ。ダガ……」

 

 どう答えるべきか、コキュートスは頭を悩ませる。

 

「くだらないでありんす。アインズ様が仰る通り所詮はただの人間。あまりにも弱すぎてあくびが出るでありんすよ。それにこんなペロロンチーノ様の名前を語るような偽物を見せられては気分が滅入ると言うもの。申し訳ないでありんすが部屋に戻らさせて頂きます」

 

 シャルティアは、欠伸交じりに自分の部屋へと戻っていく。

 

「あの様子を見るにペロロンチーノ様は違うようね。デミウルゴスは、どうかしら? ウルベルト様ではないのかしら?」

 

 アルベドに言われ改めて考えてみるが答えは出ない。一部始終を見ていたが確信を持てない。

 

「これだけではなんとも言えませんね。ただ、あの仮面は良い趣味をしているとは思いました。私としては、シャルティアに期待していたのですが……どうやら違うようでしたね」

 

「そう。残念ね。せっかく至高の御方々が見つかったと思いましたのに。では、私はアインズ様をお出迎えする準備がありますので失礼させてもらうわ」

 

 シャルティアに続き、アルベドも居なくなる。

 

「私もちょっと用事を思い出したから。行こう、マーレ」

 

「う、うん」

 

 アウラもマーレと共に部屋から出て行く。

 

「お二人はどうされますか?」

 

「そうですね。私も用がありますので失礼します。ただ、その前に一つ確認を。コキュートス、なにか考えている事があるのではないのかな?」

 

 シャルティアにより流された言葉が気になる。今はどんな情報でも欲しい。

 

「確カニ参考ニナル内容デハナカッタ。ダガ、見事ダ。見事過ギタ。アインズ様ナラ納得モスルガアマリニモ連携ガ上手過ギタヨウニ思エル。マルデ旧知ノ間柄ノヨウニ……イヤ、ソンナハズハナイト思ウノダガ」

 

 相手の動きや技を知っていたとしてもそれだけでは限界がある。お互いを知り、その上で合わせる動きを何度も積み上げなければ出来ない事もある。それがコキュートスの目には、出来ていたように見えた。

 

「それこそアインズ様の成せる業ではないのでしょうか? 事実、私達ともアインズ様は連携を上手くとる事が出来ます」

 

「パンドラノ言ウ通リダナ。デキレバ、ヨリ良イ戦イデ見タイモノダ。特ニアノ戦士ノ動キハ見事ダッタ。イズレハ戦ッテミタイモノダナ」

 

「コキュートス様にそう思われるとは、将来有望な戦士のようですね。デミウルゴス様は、他に何かありますでしょうか?」

 

「……いえ、ありません。私も失礼させて頂きます」

 

 デミウルゴスと一緒にコキュートスも部屋から出て行く。

 

「一段落でしょうか? アインズ様にお知らせしないと」

 

 パンドラは、アインズに問題なく終わったことを《メッセージ》の魔法で伝える事にする。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「お前達は下がりなさい。私は、疲れたので一人になりたいのでありんす」

 

 部屋に戻ったシャルティアは、自分の部下であるヴァンパイア・ブライドを部屋の外へと出す。そして――

 

「あぁああああああ! アインズ様あぁあああああ! シャルティアはどうすればいいのですか? あれは本当にペロロンチーノ様ではないのですか? あの声! あの仕草! なぜ人の御姿なのか私にはわかりませんがシャルティアにはペロロンチーノ様にしか見えません!」

 

 シャルティアの中にあるペロロンチーノの記憶がペロロンを名乗る人間を見ていると重なるような錯覚を何度も覚えた。声も、仕草も、何もかもが重なる。

 

「でも、私よりもアインズ様の方が御詳しいはず。私の勘違い……いえ、そうは思えないでありんす。頭から離れない、離れない……ペロロンチーノ様。本当に貴方様ではないのですか?」

 

 アインズへの忠誠とペロロンチーノへの忠誠がシャルティアの中でせめぎ合う。あの場では、アインズに対する忠誠で場を乱さないように堪えたが一人になった途端に抑えられなくなった。

 

「シャルティア、ちょっとい……い? 大丈夫、シャルティア?」

 

 部屋を訪れたアウラの目に床に転がるようにして悶えているシャルティアの姿がある。

 

「アウラでありんすか?」

 

「マーレも居るけど……忙しそうだから後にするね」

 

 そっと扉を――

 

「待ってほしいでありんす! 話を! 話を聞いてほしいの!」

 

「……本当に大丈夫?」

 

 シャルティアは、コクコクと激しく頷く。

 

「じゃあ、入るけど変なことしないでね。入ろう、マーレ」

 

「お、お邪魔します」

 

 二人が警戒しながら部屋へと入って来る。

 

「それで、話ってなに? 体調が悪いなら誰か呼んでくるけど?」

 

「違うんでありんす。その……アウラとマーレに聞きたいのでありんすがあの人間を見てどう思ったでありんすか?」

 

「どうって……それを聞きに来たんだけど。なんだかシャルティアの様子が変に見えたから」

 

「私が?」

 

「もし本当に違うならもっと怒るでしょう? シャルティアの性格なら『ペロロンチーノ様の名前を騙るなんて許せるはずがないでありんす。今すぐにでも殺してやる』とか言うでしょう?」

 

 アウラの言葉に同意するようにマーレも頷く。

 

「それでどうなの? 様子から見るにペロロンチーノ様に見えたの?」

 

「分からないでありんす。アインズ様は違うと。でも、ペロロンチーノ様にしか私には見えないでありんす。私はどうしたらいいのでありんすかえ?」

 

「どうって言われても? どうすればいいと思う、マーレ?」

 

「ボ、ボクに聞かれても困るよ!?」

 

「だって他に聞く人も居ないし。ねぇ、シャルティア。仮になんだけどどうすればペロロンチーノ様だって分かる?」

 

「……話をすれば分かると思いんすが」

 

 アウラとマーレはどうしようか悩む。あの事を話すべきかどうか。

 

「話ならできると思うけど……アインズ様を裏切る事になるかもしれない。それでも話してみたい?」

 

「アインズ様を裏切れるわけないでありんす! 最後まで私達の為に残られたあの御方を裏切るなんて……」

 

 でも、知りたい。心が揺らぐ。

 

「あのね、シャルティア。ここだけの話なんだけどあの三人は、前にトブの大森林に来たの。また来るみたいだからその時に話はできるかもしれない。この事は、アインズ様には報告していないけど……考えておいて。私も知りたいから。行こう、マーレ」

 

 アウラは、マーレと共にシャルティアの部屋から出て行く。その姿をシャルティアは見送るが未だに心は揺れ動く。

 

「アインズ様を裏切りたくはない……でも、でも……」

 

 一度揺れた心は簡単には静まらない。答えを見つけるまでは決して。

 


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