三人が行く!   作:変なおっさん

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第30話

 

「なんで、なんで、私を一人にしたんだよぉ……ガガーランのバカぁ……」

 

「よしよし。悪かったって」

 

 冒険者組合に戻って来たガガーランは、建物に入るなり泣きながら抱きついて来たイビルアイを優しく慰める。仮面で素顔は見えないが泣いているようだ。

 

「……これは、いったい?」

 

 ガガーランから話を聞いて、たっち達と話をしについて来たガゼフの目に鼻から血を流し白目をむくペロロンの姿があった。近くにあったテーブルを壊し、その上で意識が無いほどの重症であるはずのペロロンは、なぜか幸せそうな表情をしている。

 

「おい、たっち。なにがあったか話してもらえるよな? ウチのイビルアイを泣かせた以上はこっちも黙っているわけにはいかねえぞ?」

 

 大事な仲間を泣かせた事に対してガガーランは怒りを隠す気はない。ジッと、たっちの事を睨みつける。

 

「申し訳ありません。全てこちらが悪いです」

 

 たっちは、意識の無いペロロンに代わり謝罪する。事の顛末はこうだ。ガガーランが居なくなった後もペロロンはイビルアイに対してしつこく接した。その結果、小さな身体のどこにそんな力があるかは分からないがイビルアイが本気でペロロンを殴った。それは見事な放物線を描き後方にあったテーブルへと沈む事となった。

 

「……死んでないよな?」

 

「息はあります。本当ならウルベルトさんに治療をしてもらいたいのですが、ヤケ酒を飲みに行ってしまって」

 

「まったくしょうがない者達だな。話があったので来たのだが、とりあえず私の屋敷までペロロンを連れて行く。治療は、私の知り合いに頼んでみよう」

 

「本当にすみません」

 

 周りからの冷ややかな視線と同情の視線が混じる中、ペロロンをガゼフと共にたっちは担いで組合から出て行く。流石にイビルアイは参加しないようで、ガガーランが蒼の薔薇が拠点として使っている宿屋まで送る事となった。

 

「いや~、いいパンチをもらいましたね!」

 

 ガゼフの知り合いに治療をしてもらい傷の治ったペロロンは、何事もなかったように振る舞われた酒に手を出している。ガゼフの所で使用人として働いている老夫婦が作ってくれる料理はどれも温かい物ばかりだ。

 

「死に掛けたのに懲りないな、お前は」

 

 これには、怒りを通り越して呆れるしかない。仮にもイビルアイは、国堕としとまで言われた伝説の吸血鬼だ。見た目は小さいがその力は人間とは違う。それなのにこうして恐怖心などを抱かずに平然としているのは尊敬に値する事だろう。

 

「愛故にです!」

 

 呆れすぎてため息が出る。やっぱり尊敬できない。

 

「たっち殿。ペロロンを私に預けてみないか? 新兵達と共に鍛錬を受ければ少しは実力に相応しい人柄になると思うのだが?」

 

「たぶん何をしても変わらないと思いますよ? 昔から変わらない人ですから」

 

「今、王国は未曽有の危機にあると言うのに……」

 

 国を思う者としては頭が痛い。英雄になれるかもしれない器があると言うのに。

 

「それで、戦士長様。話とはなんなのですか?」

 

「あぁ、そうだったな。ガガーランから話は聞いた。先ずは、ミスリル級になった事を心から祝福させてくれ。たっち殿のような御仁が居てくれて誇りに思う」

 

「戦士長様。俺とウルベルトさんも居ますよ?」

 

「ペロロン。お前は、大人しくしておけ」

 

 ガガーランが黙らすためにペロロンの頭を抑える。

 

「私は、ズーラーノーンの事はよくは分からない。だからそちらは、上の判断に任せようと思う。ただ、アングラウスの事はよく知っているつもりだ。私は、あれだけの剣の使い手を他には知らない。いや、今ではたっち殿もそうだな。既に知っていると思うがこの国はとても弱い。だからこの国の為にもアングラウスもたっち殿も欠けてはいけないと私は思う。もし決闘を行うのであるならば私も立ち会わせてはくれないだろうか? 戦う前に一度アングラウスと話をしたいのだ。頼む、たっち殿」

 

 ガゼフは頭を下げる。立場を考えれば人目が無いにしてもあってはならない事だ。

 

「頭を上げて下さい。いつ挑まれるか分かりませんが話はしてみます」

 

「ありがとう、たっち殿。心より感謝する」

 

「いえ、ペロロンさんを助けてもらいましたから。それに国を思うのは私も同じです」

 

 国と、そこに住まう人を思う二人の姿は多くの者を引き寄せることだろう。

 

「なぁ、ペロロン。お前も少しは見習ったらどうだ?」

 

「無理をしても良い事ないですから。人それぞれですよ、生き方なんてものは。俺がたっちさんみたいになれると思います? 英雄らしい生き方を出来ると?」

 

「無理だな」

 

「でしょー。三日で限界が来ますよ。それより飲みましょう。家庭的な料理なんて珍しいんですから」

 

 店か野営での食事ばかりなので家庭的な料理は珍しい。宿の無い村に寄った時に村長の家などに泊めてもらった時以来だ。

 

「それでもう一つ聞きたいのだが、いいか? 話しだけでしか聞かないから分からないのだがモモンやナーベと名乗る者達の実力はどんなものなのだろうか? ズーラーノーンと言えば、国が対応するような相手だ。それをたった二人で追うなどとは相当のものだと思うのだが?」

 

「俺もそこは疑問だな。俺達だってズーラーノーンの高弟となれば簡単に勝てる相手じゃねぇ。そこんとこはどうなんだ、たっち?」

 

「強いですよ。ナーベさんが戦っているところを見た事はありませんが、モモンさんの実力は本物でした。戦士長様には悪いですけど、身体能力だけで見れば圧倒的にあちらが勝っていると思います」

 

 大剣を片腕で軽々と振るう剛腕。全身鎧を着ているにも拘わらずそれを感じさせない速さ。どれもが異常だった。あの理不尽な力の前では、小手先の技では通用しないだろう。

 

「剣を交えてのものだ。信用しよう。剣を持つ者としては複雑な気分だが、味方に居てくれるのなら嬉しい限りだ」

 

「そう言って、内心は穏やかじゃないんじゃねぇのか? 目の色が変わったように見えるぞ、おっさん」

 

「お前もそうだろ? 全力で戦える相手が居る。そう思うと剣を交えてみたいと思うのは仕方がない事だろう?」

 

 ガゼフの言葉にたっちもガガーランも賛同する。戦う者としての性か? 強者がそこに居ると思うと嬉しくなるのは同じなようだ。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 王都の中でも治安の悪い部類に入る地域でウルベルトはヤケ酒を飲んでいた。

 

「旦那、そこまでにしといたらどうですか?」

 

「うるせぇな。金出すから酒を出せ」

 

「はいはい」

 

 渋々新しい酒を店主は出す。

 

「女なんて星の数ほど居ますよ。そもそも今の世の中じゃ貴族を平民が娶るなんて無理がありますよ。逆なら囲うぐらいできると思いますがね」

 

「んなもん言われなくても分かってるよ」

 

 王国は、未だに身分が全ての場所だ。平民と貴族は違う。ラキュースとの間にある壁はあまりにも巨大だ。

 

「でもさ、他に居ないだろ? 見た目だけじゃねぇ、中身が最高なんだよ。命の危険を冒してまで誰かの為に戦えるか? ラキュースさんは、本気でこの理不尽な世の中を少しでも良くしようと戦ってんだ。俺の憧れだよ」

 

「そうですね。蒼の薔薇と言えば、王国の守護者なんて言われてますから。でも、無理なもんは無理と諦めた方が賢明ですよ。無理な恋より他のなんてどうです? 知ってます? 昨日、王都にとびっきりの美人が来たらしいんですよ。なんでも、あのラナー王女にも負けないとか。街の男共は、こぞって見に行ってるらしいですよ」

 

「ラナー王女ね……」

 

 黄金の二つ名を持つ第三王女。その容姿は他国に知れ渡るほどだとか。ラキュースの友人でもあるらしく、今日のように用事を頼まれたりするらしい。

 

「性格は悪いらしいですが、商家の娘ならまだ可能性はあるんじゃないですか?」

 

「中身が悪いんだろ? だったらいいよ、別に」

 

「そうなると物に頼るしかないですよ。聞いた事ありませんか? ライラの粉末から作られた媚薬の話。噂だと、お偉い方々の間で流行っているらしいですよ。使えば、どんな女でも思いのままだとか」

 

 店主は、ウルベルトだけに聞こえるように話す。此処は、表の者は来ないような場所だ。それでもこの対応をしなければいけない物なのか。

 

「ライラの粉末って言えば、麻薬だよな確か?」

 

 ライラの粉末は、見た目が黒く通称黒粉とも呼ばれている。通常の物よりも強力な麻薬であり、一度でも手を出せば終わりだと言われている。そのため現在の王国では厳しく取り締まりを行っている。

 

「それが最近また出回り始めたんですよ。どうやらそっちの方と話がついたようで」

 

「どこも変わらないな。正義を私利私欲を満たす道具に使うのは」

 

「ラキュースさんみたいな貴族は珍しいからですね、本当に。ただ気をつけた方がいいですよ、旦那。これも噂ですが、蒼の薔薇はこの件に絡んでいるそうです。なんでもラナー王女から依頼を受けたらしくて」

 

 ここのところ忙しそうにしているのはその為か。いくら王女からの依頼でも随分と面倒な事に首を突っ込んでいるようだ。

 

「今日はここまでにしておくわ。また何かあったら頼む」

 

 懐から金貨を取り出しテーブルに置く。

 

「旦那は払いがいいから好きですよ。例の件はまだ何もないですが、他に面白い話があったらまた話しますよ」

 

「期待してるよ」

 

 ウルベルトは、周囲を確認してから店を離れる。この店は、表はただの酒場だが情報屋を兼業している。金さえ払えば、無所属の中では腕利きと聞く。三人を代表してウルベルトが情報を集めているのだか未だに此処に来た方法などが分からない。

 

(潜ってみるかな)

 

 これ以上となると組織的な力が必要となって来る。ウルベルト達にそのあてがない以上は深く潜る必要があるのかもしれない。

 


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