三人が行く!   作:変なおっさん

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第3話

 ガガーランと別れた三人は、夜の飲み会の前に買い物を済ませる。話し合いの結果、今後の事は今回の依頼を終えてから改めて考える事になった。今は、王都を拠点にしているがモンスターの質や量などを考えるとエ・ランテルでレベリングをした方が効率は良い。王都の場合は、軍が周辺を巡回しているので王国内でも比較的モンスターの数が少ないし、野盗も同様に少ない。だからこそ、安全にレベリングができる。しかし、レベルが上がるにつれ弱いモンスターだと数が必要になってくる。大物を狙うのもいいが、この世界の回復アイテムは高いので赤字になる。

 

「親父さん! もう少し安くしてよ! 今度も買いに来るからさー」

 

「しかしだね……」

 

「お得意様だから、ねっ? お願いだってば!」

 

 商人スキルでの値下げ交渉をペロロンがやっているがいまいち効果は薄い。商人として、少しだけ働いて覚えたスキルだがレベルが低すぎて効果がよくわからない。しかし、それでもスキルがない時よりは、値下げ交渉の成功率が上がった気がする。あくまでも気がするだけだが。

 

「食料は、これだけあればいいとしても薬草が少ないですよね?」

 

「薬草は、効果が出るのに時間が掛かる。それに効果もそこまで期待はできないからな」

 

「ポーション高過ぎ! 一つ使うだけでも赤字になりますもんね」

 

 一介の冒険者の回復手段は、回復魔法か薬草の二択になる。魔法に関しては、効果もすぐに出る上に休めばまた使えるようになる便利な物だ。しかし、回数に限りがあるので頼り切るのは難しい。そこで、アイテムで補うのだがポーションは高過ぎてシルバー級の冒険者だと切り札として持つぐらいだ。とてもではないが複数も所有できない。だからこそ安く手に入る薬草の出番なのだが、すり潰して傷口に塗って使わなければいけないので時間が掛かる。効果も戦闘中に回復できるほど早くもないし、回復量もそこまで期待できない。おまけに保存期間で効力も弱まるので考えて買わないと損もする。早く塗るために事前にすり潰すなんて方法もあるが、すり潰した分早く劣化するので金がない今は避けたい。昔なら考えもしなかったことを、今は考えなければいけない。

 

「できれば、装備なども新調したいのですが……」

 

「今は、無理だろうな。俺も、仮面とか欲しい」

 

「この前、ヤギの仮面を見てましたけど買いたいんですか?」

 

「どうも昔の名残で欲しくなる」

 

 ウルベルトは、ユグドラシルのゲームキャラとしてヤギ頭の悪魔を使用していた。

 

「なら私も全身鎧が欲しいですね。大きな盾と剣も」

 

 たっちは、昆虫の種族をゲームキャラとして使用していたが、普段から全身鎧なのでこちらのイメージの方が強い。

 

「だったら俺は、鳥? 翼とか? 流石に難しいから顔でも布で隠そうかな? 隠れて獲物を狙うスナイパーとして! イビルアイちゃんのハートをこの矢で射貫くんですよ!」

 

 ペロロンは、バードマンと呼ばれる鳥人間だった。流石に翼は生やせないので代用品を考えたようだ。

 

「買うのはしばらく後になりそうですね。どうします? もうそろそろ帝国領にも足を延ばしますか? もしかしたら安くて良い物が売っているかもしれませんから」

 

「せっかくの買い物だから悪くはないが、帝国領でモンスターを倒しても金にならないからな」

 

「それに、王国ほど帝国は冒険者を重要視してないって聞きますよね。依頼内容も分からないまま行くのは不安ですね」

 

 モンスターに報奨金を出すのは、あくまでも王国だけ。帝国は、別だ。だからこそ今までは、王国内から特に出る用事もなかったので留まっていた。

 

「では、エ・ランテルに行った時に帝国の方の情報も集めてみましょう。今日は、買い物もこれぐらいで済ませて、蒼の薔薇の所に行きましょうか」

 

 とりあえず、食料などの生活用品と回復アイテムは購入した。一度、宿に戻り、蒼の薔薇の待つ場所へと向かおう。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 王都にある冒険者の宿の敷地内には、宿泊施設、馬小屋、剣を振るうのに十分の広さのある庭がある。王都内でも最上級の宿屋になるこの場所を蒼の薔薇は拠点として利用している。そんな場所に三人はやって来た。

 

「ほら、好きに飲みな! 今日は、俺達の奢りなんだからな!」

 

 ガガーランが乾杯の音頭を取る。

 

「ありがとうございます」

 

「あざーす」

 

「いいってことよ」

 

「皆さんには、私達からの依頼を受けて頂くのですから。シルバーではありますが、実力に関してはゴールドだと聞いています。皆さんが引き受けてくれて助かりました」

 

 蒼の薔薇のリーダーであるラキュースは、蒼の薔薇として三人にお礼を言う。

 

「いやー、大した事はできないですけどね。それにしても、イビルアイちゃんは?」

 

「部屋に居るよ。会いたくないんだってさ。もしかしたら嫌われたかもな?」

 

「マジ……ですか!? もう生きていけない……」

 

 ガガーランは、落ち込むペロロンを見て笑う。ペロロンは、落ち込み過ぎて今にも椅子から落ちそうだ。

 

「冗談だよ。イビルアイは、留守にしてんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「私が少し用事を頼みました。ごめんなさいね、ペロロンさん」

 

「いえ、嫌われていないと分かれば平気です!」

 

 まるで何事もなかったようにペロロンは立ち直る。

 

「嫌われてはいないが、別に好かれてはいないぞ?」

 

「嫌われていなければチャンスはあります! 俺は、恋の狩人ですから! 射止めてみせます!」

 

 一見すると格好いいが、相手は見た目が少女。いや、幼女に近い。これには、慣れていないガガーランとラキュースは少し引く。

 

「ウルベルトさん。どこか具合でも悪いのですか?」

 

 先ほどから何も話さないでジッとしているウルベルトにラキュースが尋ねる。

 

「イエ、ダイジョウブデス。ハイ」

 

(ウルベルトさん……)

 

(普段は、威勢がいいけど俺と同じで童貞だもんな)

 

 相手は、貴族で、美人で、英雄で、性格も良い。ウルベルトは、ラキュースの前だと緊張して上手く話したりができない。

 

(頑張れ俺……今こそリア充になる時……)

 

 この世界の人間は、美形がやたらと多い。何処を見てもアイドルやモデルのような者ばかりだ。その中でもラキュースは、ウルベルトにとって好みのタイプだった。

 

「ウルベルトさん?」

 

「ハッハイ!? ナ、ナンデショウカ?」

 

「ウルベルトさん。少し席を外しましょう」

 

「連れションですね」

 

 緊張してまともに話せないウルベルトをたっちとペロロンが両脇を抱えて店の奥へと消える。

 

「ガガーラン。私、何か失礼な事をウルベルトさんにしてしまったかしら?」

 

「いや、別に気にする事はないさ」

 

 不思議に思うラキュースの問いを、楽しげにジョッキに注がれたエールを飲んで流す。その一方で、店の奥に連れていかれたウルベルトは。

 

「なにをやってるんですか、ウルベルトさん」

 

「正直、情けないですよ?」

 

「お、俺だって……頑張ったんだぞ……」

 

 思わず壁を殴る。痛い。

 

「別に女性と話せない訳じゃないですよね?」

 

「姉ちゃんとは話せてましたからね」

 

「たっちさんもペロロンさんも無茶言わないでくれよ……あんな素敵な人に緊張するなって方が無理だろ?」

 

 普段の威勢のよさなど欠片もない。恋に臆病な男が一人そこに居る。

 

「そうかもしれませんけど、押せ押せで行かないと口説けないですよ? 俺なんて、この機会を逃すまいと頑張ってますからね」

 

「ペロロンさんは、少し抑えた方が……いえ、なんでもないです」

 

「とにかく俺を上手くフォローしてくれよ! 認める! 認めるから! 俺は、ラキュースさんに惚れてる! これでいいだろう!」

 

「威張られても……ねっ?」

 

「そうですね。今日は、話せるように頑張りましょう。私とペロロンさんでフォローしますから。頑張りましょう、ウルベルトさん」

 

「お前ら……いい奴だな……」

 

 二人は、ウルベルトを励まし、ラキュースの下へ共に再戦しに行く。結果に関しては……次回への持ち越しとなった。

 




《オマケの舞台裏》

デミ「ウルベルト様がお困りのようだ。これは、私が動くしかないようだね。私の創造者で在らせられるウルベルト様のためならこのデミウルゴス。どんな手段でも取りましょう」

シャル「ああっ……ペロロンチーノ様……そんな小娘などにそれほどまで……。お望みならこのシャルティアを可愛がってくだいませ……ペロロンチーノ様に可愛がられる……想像するだけでシャルティアは、もう……」

セバス(私がこの御二方を止めなければ、たっち・みー様の御身が)

モモンガ「早く参加したいな……」

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