三人が行く!   作:変なおっさん

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第27話

 アインザックから寄り道をしない事を条件に三人は、一泊二日の予定でトブの大森林に向かう事にした。今回は、冒険者チームである漆黒の剣のウッドワンダーが居ないので薬草採取の効率は落ちるかもしれないが三人には秘密兵器がある。と言うのも三人には、ユグドラシルから受け継ぐアイテム取り出しの力がある。なにもない空間にアイテムを入れておけるコレを利用して乱獲するのだ。

 

「今日も静かですね」

 

 ペロロンを先頭にウルベルト、たっちの順で森の中を進んで行く。

 

「前回もそうだったが不気味だよな」

 

 前回、漆黒の剣と一緒に薬草採取に来た時も思ったが森が静か過ぎるのだ。特に今回の場合は、森の周辺でもモンスターに遭遇しなかった。まるでこの森からモンスターが消えてしまったような感覚を覚える。

 

「昔、この森にはエルフが住んでいたそうです。いつの間にか姿を見せなくなったそうですが」

 

 このトブの大森林には、その昔エルフ達が住んでいたと言われている。ただ、今やその姿を見た者は居ない。

 

「なんで居なくなったんだろうな?」

 

「森の主達が追い出したんじゃないですかね? 噂じゃ南、西、東のそれぞれに主が居るらしいですからね。おかげで森の実情を知っている人は居ないって話ですから」

 

 居なくなったエルフ達に代わり森を支配しているとされる主達。強大な力を持つ魔獣と言われているがその正体はいまいち分かっていない。そもそも主とか関係なくトブの大森林は危険であり、帰らぬ者は後を絶たない。だからこそ薬草などの資源が豊富なわけだが。

 

「どうします? 何処まで行きますか?」

 

 注意しながらなので進軍速度は遅いがそれでも深く潜った気がする。

 

「この辺りの探索はしましたからそろそろ採取を始めましょう。私は、薬草が分からないので見張りをします」

 

 たっちは、他の二人と違って戦闘系のスキルなどしか習得していない。なので、見張りを担当する事にする。

 

「しっかり頼むよ、たっちさん。ギガントバジリスクとか先に見つけないと全滅するからな」

 

「回復手段がウルベルトさんだけですからね。よっしゃ! 今日はガッポリ稼ぎましょう!」

 

 ウルベルトとペロロンは、目星を付けていた場所から薬草を次々と取っては用意していた籠に入れていく。それが籠いっぱいになれば空間に仕舞い、新しい籠を取り出す。空間の容量はそこまで多くはないが三人分となればそれなりになる。陽が暮れるまで今回は取りまくるつもりだ。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 トブの大森林で、アウラとマーレはいつも通り仮拠点の建設を行っていた。

 

(また来ないかなぁ……)

 

 アウラは、木の上の方にある枝に腰掛け前に見かけた人間達の事を考えていた。自分達の創造者達と同じ名前を持つ者達。特にその中でもペロロンと呼ばれた者の声はどこか懐かしさすら感じた。もし本物であるのならそれこそアウラとマーレを創造したぶくぶく茶釜の弟になる。そう考えると本物であってほしいと思う。本物なら姉であるぶくぶく茶釜も居るかもしれないのだから。

 

「アウラ殿ー!」

 

 アウラの名前を呼びながら南の森を支配していた森の賢王がアウラの下に駆けてくる。その背中には、アウラの弟であるマーレが乗っていた。

 

「お姉ちゃん。あの人達が来たよ」

 

「本当に!?」

 

 マーレの言葉に気持ちが跳ねる。そうなると行動が早い。木の枝から飛び降り、マーレと森の賢王の傍に着地する。

 

「アウラ殿のシモベの方々のお話ですと前と同じ場所に居るでござる。某は知らないでござるが」

 

「使えないわね。賢王なんて名前やめたら?」

 

「それだと某は名前が無くなってしまうでござるよ~。『森』が名前だとなんだか寂しいでござる」

 

「今度、アインズ様に聞いてみようよ。ボク達が勝手に付けていいかわからないもん」

 

「そうね。あたしのペットになったけど聞いておいた方がいいかもしれないわね。と言うか、こんなのの名前なんてどうでもいいの! 早く行きましょう。それと、あんたはお留守番ね。デカイ身体だと見つかるかもしれないから」

 

「分かったでござる。いってらっしゃいでござるよ」

 

 森の賢王に見送られ二人は急いで三人の下へと向かう。と言っても木の上を軽々と飛び移っていくアウラと違いマーレは森の中を走るわけだが。

 

「先に行くからね」

 

「わ、わかったよ」

 

 いつもなら待つかシモベの誰かの背中に乗って一緒に移動するが今回は気持ちがそうはさせてくれない。アウラは、今までにない程の速さで移動していく。

 

(……居た。あの声だ)

 

 耳にあの時聞いた声が届く。胸が痛いぐらいに跳ねる。もうすぐ会える。

 

「いや~、大収穫ですね。薬草の山がお金に見えてきましたよ」

 

「今回は、分けなくてもいいからな。だけど、一気に金に換えられないのは面倒だな」

 

「仕方ないですよ。徒歩で来た私達が持てないだけの量を売りに出したらおかしいですからね。様子を見ながら売っていきましょう」

 

 未開の地とされるトブの大森林は、まさに宝の山だ。だからこそ危険だと分かっていても足を運ぶ者が後を絶たない。すっかり三人もその魅力に囚われている。

 

「あ、あの……」

 

 そんな三人の耳に声が届く。

 

「……今、なにか聞こえなかったか?」

 

「ウルベルトさんも聞こえましたか?」

 

 ウルベルトとたっちは周囲を窺う。誰も居ないと思っていたのに聞こえた声。警戒レベルを最大まで上げる。

 

「待ってください、二人共」

 

 そんな二人とは違いペロロンは落ち着いている。

 

「警戒の必要はないですよ」

 

「なんでそう言い切れる?」

 

「決まっています。聞いたでしょう? この声は、まさに幼き者が持つロリボイス。敵なわけがありません!」

 

 断言したペロロンに二人は冷ややかな視線を送る。

 

「これは、おそらくエルフでしょう。居なくなったと言われていたエルフが実はまだ残っていた。それもまだ幼いエルフが。ここは、紳士的にいきましょう」

 

「エルフなら俺達より年上かもしれないぞ?」

 

 ウルベルトの言葉に対して「それがどうかしましたか?」と一蹴したペロロンはコンタクトをとろうと試みる。

 

「初めまして、ペロロンと言います。決して怪しい者ではないです。一緒にお喋りしましょう」

 

 何処に居るかも分からない相手に声を掛ける。

 

「お話しできるんですか?」

 

 今度ははっきりと聞こえた。

 

「どうする、たっちさん? あの馬鹿は無視するとして危険じゃないか?」

 

「そうですね。モンスターの罠である可能性もありますからね」

 

 ペロロンと違って二人の警戒心は、声がはっきり聞こえた事により強くなる。未だ分からぬ何者かが居ると証明されたからだ。

 

「俺は、君達の味方だよ。怖くないから出ておい――」

 

 ペロロンの頭をウルベルトが思いっきり叩く。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇぞ! 姿どころか気配すらわからない相手を招いてどうすんだよ! 罠だったら俺達全滅だぞ!」

 

「痛いですよ、ウルベルトさん。でも、相手は幼女ですよ。警戒なんて必よ――」

 

 またペロロンは叩かれる。

 

「えっとですね、姿を現すのは少し待ってください。こちらとしては敵ではありませんが流石に現状を鑑みるに警戒を解くことは出来ません。ここは、対話だけで如何でしょうか?」

 

 たっちは、交渉を試みる。その時、新たな声が聞こえた。

 

「お、お姉ちゃん。いいの、勝手に話しちゃって」

 

 新しく聞こえた声の持ち主の気配も分からない。姿の見えない相手が二人。敵だとしたら絶望的な状況だ。

 

「おい、なんか増えたぞ? どうすんだよ?」

 

「この声は、ショタですね。声から察するに姉の尻に敷かれているタイプである可能性があります」

 

 どうでもいいペロロンの考察を二人は受け流す。

 

「もし何か問題があるようでしたら私達は引き揚げますが?」

 

 たっちの言葉に対して返事がなかなか返ってこない。もしかしなくても二人目と相談でもしているのだろう。

 

「あの口ぶりだと他にも居そうだぞ?」

 

 勝手に話していいのと言う言葉を二人目は一人目に言った。それから考えるに話してはいけないと決めた者が居るはずだ。そして、それは二人より立場は上。話してはならないという事から考えるとあまり友好的ではない可能性がある。

 

「ペロロンさん。冗談は抜きにして逃げましょう。私達は、エルフの事をよく知りません。森の主の事もです。もしかすると既に敵の術中にハマっている可能性も考えられます」

 

 洗脳か精神系の魔法。又はそれに類似する物。ユグドラシル以外のこの世界特有の力。考え始めると切りがないほどに危険だ。

 

「そうですか? まぁ、俺としても二人に危険な思いはさせたくないですから。もしもし聞こえますか? 俺達は一旦帰ります。もし危害を加える気が無いなら見逃して下さい。そしたらまた来ますから」

 

 姿の見えない者達に提案をする。返事はなかなか返ってこなかったが、静かに待っていると返答があった。この時のウルベルトとたっちは、とてもではないが生きた心地がしなかった。

 

「また来てくれるなら何もしません。ただ、姿は見せられません。ごめんなさい」

 

 謝られた。どうやら帰れそうだ。油断を誘う罠でなければ。

 

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

「今度は、お土産持って来るね」

 

 警戒しながら撤退する二人をしり目にペロロンは気楽に手を振りながらその場を後にする。

 

「これでよかったのかな?」

 

 そんな三人をアウラとマーレは姿を隠したまま見送る。

 

「でも、勝手に人間と接触するのはまずいよ」

 

「分かってる。分かってるけど……」

 

 アウラだけではない。マーレも心のどこかではモヤモヤして気持ちが晴れない。

 

「今は、また来てくれる事を祈ろうよ。ボクもお話したいから」

 

「そうね。お話だけなら大丈夫よね。もしダメなら……その時はあたし達が殺しましょう」

 

 それが主の命令を聞かずに行動した最低限の責任の取り方だろう。勝手な行動をとってしまった以上は罰として殺されたとしても文句は言えない。それでも関わりを持ちたいと思える者を殺す方が今は辛い気がする。

 


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