アインズは、ナーベラルと共にナザリック地下大墳墓へと帰還していた。ナーベラルには今後の事を伝え、パンドラとの話があるのでナザリックで待機させている。今は、人払いを済ませた執務室にアインズとパンドラだけが居る。
「先ずは、報告を頼む」
アインズの言葉にパンドラは敬礼で答えてから口を開く。
「エ・ランテルで活動していたズーラーノーンの一味を襲撃、確保致しました。その際に首謀者であったカジット・デイル・バダンテールをアインズ様の計画に役立てる事を提案させて頂きました」
パンドラは、予定していた通りクレマンティーヌから得た情報を元にエ・ランテルで活動していたズーラーノーンを襲撃した。
「急に連絡があったので何事かと思ったが使えるのか?」
「はい。あの者は、自らの願いを叶えるためなら大勢の命はもちろんですが己の命すら厭わない者です。試しに幾つか行わせてみました。自らに仕えていた者達を何人も殺させたり、己を殺させたりと」
「そうか。それでその願いとはなんだ?」
「幼き頃に亡くした母親を生き返らす事だそうです。以前に蘇生を試みたようですが失敗し、灰になったとか」
「生き返らす際に起こるレベルダウンによるものだろうな。レベルの足りない者は生き返らずに灰になると既に調べは着いている。そうだな?」
ナザリックでは今も多くの実験が行われている。この世界においては、蘇生に最低限のレベルが必要だという事が分かっている。それを満たしていない場合は少なくとも正攻法での蘇生は無理だ。
「はい。ですが、アインズ様の持たれる『ウィッシュ・アポン・ア・スター』や『シューティングスター』なら可能かと思われますがどちらも実験は出来ておりませんので」
「実験で行うには少々勿体ないからな」
超位魔法である
「まぁ、別にどうでもいい。願いを叶える気などはないからな。ただ、必要な物はパンドラの判断の下に与えてやれ」
「畏まりました。それとなのですが、デミウルゴス殿より要請がありまして人員が欲しいとありますがどうなされますか?」
「なにか要望はあったか?」
「捕虜として確保したクレマンティーヌと今回確保した者達を数名欲しいと聞いております」
デミウルゴスにはいろいろとやってもらっている。表に出ないように行っているという事もありナザリックの人材を使えないので不便なのだろう。
「欲しいのなら与えてやれ。私は、しばらく今後の計画を練る事に集中したい。その……なんだ、カジットだったかの件はパンドラに任せる。精々使える駒に育て上げろ、いいな?」
「必ずやアインズ様の御希望通りに育て上げてみせます」
パンドラを下がらせ今後の事について思案を巡らす。
「舞台に関してはおいおい考えていけばいいか。せっかく久しぶりにたっちさん達と一緒に戦えるんだから。ふふふっ、なんだかテンションが上がってきたぞ! ……クソッ、精神抑制のせいでせっかくの気分が台無しだな」
アインズ・ウール・ゴウンの仲間達との冒険が待っている。そう思うと精神抑制に何度抑えられてもテンションが上がってしまう。今は新しく手に入れた駒を使い最高の舞台の製作に専念する。
♢♢♢♢♢♢
冒険者組合を後にしたたっち達一行は、エ・ランテルの街中をブラついていた。
「……なるほど。では、ウルベルトさんの話を聞く限りではあの二人は本人ではなく、兄妹でもないと」
「でも、本当に恋人じゃないんですかね?」
「家族みたいだとは言っていたが別に脈が無いわけじゃないと思うぞ」
「近いからこそ気づかないってヤツですね。幼馴染ポジションにはよくあることですよ」
ペロロンの考え方が正しいかは分からないがそれが一番しっくりくる。二人は親戚ではないが家族同然に育つ環境に居た。それで理由があって行動を共にしている。それが一番答えに近い気がする。
「後は、子孫である可能性ですが話す気が無い以上は聞きようがありません。これから関わりを持って行く中で聞ける事に期待するしかないですね」
「こればっかりは考えても仕方ないですよ。それよりさっきのご飯は美味しかったですね。やっぱり組合長ともなるとお金があるんですね」
「この街でも指折りの有力者だからな。良いもん食ってんだろ」
「アインザックさんも言っていましたけど、お二人はもう少し周囲に気を使われた方がいいと思いますよ?」
「形だけ取り繕ってもすぐにボロが出るだけですって。それよりも何処行きましょうか? 分ける形になりましたけどそれなりに報酬も出ましたからぱぁーっと遊びましょうよ!」
今回の件の報酬は、参加者で分配される事になった。功労者である三人は他よりも少し多めに貰えた。
「そうだな。ラキュースさんに会うのが延びたし、気晴らしでもするか。でもあれだな、上手くやれば良い手土産も手に入ったってのに」
「いい加減諦めましょうよ。それよりもズーラーノーンの件をどうにかする必要があります」
「でも、正直に言って俺達に勝ち目なんてないですよ? エルダー・リッチですら大変なのにあの規模の魔法を使える相手とか今のレベルじゃ無理ですって」
「だな。倒せればアダマンタイト級に簡単になれそうだが無謀もいいところだ。モモン達がどれだけかは知らないが敵は最低でも俺達の倍のレベルはありそうだ」
「問題はそこですよね。今以上のレベリングを行う為には石化などを防ぐマジックアイテムを手に入れる必要がありますからね」
ギガントバジリスクをはじめ今の状況で狩れる効率の良いモンスターは、石化などの状態異常を使用してくる。対抗手段を持たないとレベリング以前に勝てるか怪しくなってきた。
「売ってはいるが高額だからな。遺跡とかで手に入ればいいが近くにはない。そうなると盗賊を狙うか?」
運の要素が絡むが金が無い以上は他に方法も浮かばない。
「あの店なんて良くないですか? 立ち話はやめて入りましょうよ」
ペロロンが人で混んでいる店を指差す。席が空いているかは分からないが人気はありそうだ。
「そうですね。他にあてもないですし、あの店に行ってみましょう」
「混んでるけど大丈夫かよ?」
先を歩くペロロンの後を追うように二人も混んでいる店へと向かう。
「もしかして、たっちさんですか? ファンなんです!」
店に入ったところで女性の店員が対応してくれたのだが、どうやらたっちの事を知っていたようだ。握手をたっちに求める訳だがそれを慣れたようにたっちは対応する。「混んでいるけど特別ですよ」と言われ機嫌の良い店員に空いた席に通される。
「納得いかねぇ」
一連のやり取りを見ていたウルベルトから不満が出る。
「やっぱり見た目なんですかね?」
「そんなことないですよ。私なんて」
「嫌味にしか聞こえねぇ。よし決まった! 今日は、たっちさんの奢りな」
「異議なし」
「ちょっと待ってくださいよ!」
今度はたっちから不満が出るが二人は無視して注文を頼んでいく。始まりは酒から入り、店自慢の料理を食べていく。
「一仕事した後の飯は美味いな!」
「この酒もなかなかイケますね」
「あまり頼まないでくださいね。私の懐具合はお二人も知っているでしょう?」
「知らん。リア充の事など知らん。それよりもどうすんだよ? ズーラーノーンも問題だけどたっちさんの場合は他にもあるだろ? 一対一で勝つには早めにレベルを上げないとヤバいぞ?」
「死角を狙った俺の矢も防ぎましたからね。それに安物とはいえ麻痺毒の効きが悪かったですし。たっちさん一人だとキツイと思いますよ? いっそのこと全員で行きます?」
「私だけで戦います。勝負を挑まれたのはあくまでも私だけですので」
ペロロンの提案をあっさりと断る。たっちの闘争本能に火が点いたのかもしれない。
「だったらレベリングの方法を考えないとですね」
「でもよ、対策を講じないとダメなレベルになってきたぞ? ゲームで言えば、少し頭を使わないといけない辺りだ。馬鹿正直に戦っていればすぐに死ぬ」
「ミスリル級の仕事ならそれなりに報酬がありますがまとまったお金は手に入りません。盗賊に関してもこの前のところが有名どころでした。少し危険を冒すか……場所を変えるかでしょうね」
とは言え、何処に行くか? 法国には冒険者組合が無いので必然的に帝国になる。ただ、帝国は王都に比べて治安は良いらしい。そうなると後者は無理なので前者になる。
「トブの大森林にでも行くか? また薬草でも取りに」
「そうですね。待機と言われましたがトブの大森林なら近いですから」
「馬とか借ります? 内容次第ではマイナスになるかもしれませんけど速いし楽ですよ?」
「いや、別にいいだろ。馬を使うなら近くの村に預ける必要もある。あんまり金は使いたくない」
「では、トブの大森林に行くという事でいいですね?」
たっちの言葉に二人は賛同する。
「では、後で私の方からアインザックさんに話を持って行きます。お二人は、行く準備をお願いします」
許可が下りるか分からないが当面の方針が決まった。トブの大森林で薬草を集め金に換える。それが済めば今後のレベリングに必要なマジックアイテムを購入しに行こう。