三人が行く!   作:変なおっさん

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第21話

 ウルベルトが野盗達の武器を捨てて戻ってくる頃には野盗達の姿はなかった。代わりに荷馬車に積まれていたであろう荷物が地面に置かれていた。

 

「そっちも終わったようだな」

 

 ウルベルトは、たっちの隣へと降り立つ。

 

「捕らえた人達から中の情報を聞けました。中には、ブレイン・アングラウスと呼ばれる用心棒が居るそうです。他には、6人程居るそうですが気をつけなければいけないのはその人だけみたいです」

 

「信用できるのか? たっちさんの事だから拷問とかしたわけじゃないんだろ?」

 

 既に荷馬車に積まれており姿は見えないが、ウルベルトの言葉に反応して物音がする。

 

「ウルベルトさんが怖いようですよ」

 

「なるほどな。情けない奴らだ」

 

 ウルベルトは近くの岩肌に背を預ける。

 

「悪にも種類があるが少なくともコイツらは最低の位置に居る。コイツらがしていた話は聞こえたか? また誰かを襲おうとしていた。自分の欲望を満たすためだけに。生きる為ではなくな。だから気にすんなよ。話の中の人間が無事かは分からないが、少なくとも襲われなくてすんだ者もいるかもしれないんだからな」

 

「……もしかして励ましてくれているんですか?」

 

 たっちも同じように岩肌に背を預ける。ウルベルトの隣に。

 

「これから危険を冒すってのにそんな神妙な面をされたら困るからな。いっそのことペロロンさんのようにユグドラシルの延長で考えてみたらどうだ? その方が楽だと思うぞ?」

 

「確かにそうですね。ですが私には難しいです。どうしても心の何処かで……すみません、弱くて」

 

「別にそれは弱さじゃないだろ。人として大事なもんだ。まぁ、汚れ仕事なら代わってやるさ。なに、慣れたもんさ」

 

「ウルベルトさん……」

 

「そんな顔すんなよ。それよりもさ、あの二人はどう思う?」

 

 空気を変える為に話題を変える。たっちもそれ以上は何も言わずに新しい話題へと移る。

 

「そうですね。前に会った時は戦いだけで話もまともにできませんでした。ですが、今は違う気がします」

 

「そうか? 確かに声色は違うし話し方も違う。でもあれはナーベラルだろ? 聞こうとしたら止められたから分からんが」

 

「あれは、ナンパだと思われたんじゃないですかね? よくあるでしょ? 知り合いの振りをするやり方が」

 

 知り合いを装い話し掛ける方法。古典的な方法なので馴染みのないウルベルトでも知っているものだ。

 

「ナーベさんほどの方ならよくある事なんでしょう。だからそれを事前にとめたのではないでしょうか?」

 

「んー、そうなのか?」

 

 納得はできないが、ナンパに関してはよく分からないのでどうとも言えない。

 

「そこの部分は実際のところは私にも分りませんよ。あくまでも想像です。ただ今言えることはウルベルトさん……今は仮面をしていないですよね?」

 

 たっちに言われて自分の顔に触れてみる。

 

「あぁ、そっか。人が居ないから外してたんだったな」

 

 人が居ない環境で仮面を着けていても邪魔なだけなので外していたのを思い出す。

 

「今はそのままでお願いします。あの仮面を着けたまま捕虜の方に会うのはやめた方がいいですから」

 

「こういう時にこそ身に着けた方がいいんだけどな」

 

 せっかく取り出した木製の山羊の仮面を見ながら思う。

 

「今回だけはやめてください」

 

「わかったよ。でもそうだな……確かにモモンガさんなら俺の顔を知ってるもんな。そういえば、ペロロンさんも顔を出してたような?」

 

 ペロロンもファッションで顔を隠せる長さのターバンを頭に被っている。ただあくまでもファッションなので気分で隠すかどうか決めている。

 

「モモンガさんは、ペロロンさんと特に仲が良かったですからね。もし本物ならその時点で分かるはずですよ」

 

「俺達と同じでこっちに来てると思ったんだけど――」

 

 その時、ウルベルトに一つの考えが浮かぶ。

 

「――なぁ、たっちさん、仮になんだが……モモンガさんの子孫ってことはないか? ついでに言えばナーベも」

 

「子孫ですか? 先にこちらに来ていれば可能性はあると思いますけど……ナーベもですか?」

 

「これはあくまでも可能性なんだが仮にナーベラルと共にこの世界に先に来たとする。俺達もそうだが大半の奴はあの二人が恋仲だと思っていた。でも、考え方を変えると別の見方ができる。仮に……そう仮になんだがあの二人が《兄妹》だったら?」

 

「……兄妹ですか?」

 

 ウルベルトの言葉に思考が一旦止まるが、なんとなく言いたいことは理解する。

 

「つまりあの二人は、モモンガさんとナーベラルの子供という事ですか?」

 

「ありえない話じゃないだろ? ナーベラルが子供を産めるかは分かんないけどさ、それなら名前が似てるのも納得できる。よくあるだろ自分の名前とかを子供に付けたりするの」

 

「そう言われると……そんな気がしなくもないような……」

 

 ナーベラルは、ドッペルゲンガーと呼ばれる種族で人ではない。どこまで人になれるかは分からないが子供も産めるかもしれない。名前に関しても自分の名前の一部を子供に継がせたりすることもある。他にいろいろと問題はある気がするが。

 

「だろ? そっか……モモンガさんがナーベラルと……卒業できたんだな……モモンガさん」

 

 遠き日を思い出す。共に性夜の夜に非リア充の証である嫉妬マスクを身に着け盛っているリア充共に呪いを掛けた事を。当日、ユグドラシルに居た人達と共に。

 

「流石に飛躍し過ぎな気もしますが……」

 

「聞けば分かるだろ?」

 

「それはやめた方がいいと思います。本人でないのなら言わない方が。なにせ場合によっては私達の事を話さなければいけない事になりますからね」

 

「……説明しにくいよな。ラキュースさん達にも言えてないのに」

 

 よく知らない間柄でいきなり身内の話をされたら怪しまれるだろう。場合によっては関係を聞かれるかもしれない。しかし、その場合はどう答えればいい。別の世界で知り合いだったとでも話せばいいのだろうか? まだ生きていれば言い訳もできるが、それこそ100年前の人物だったりでもしたら言い訳のしようがない。

 

「聞くにしてもそれとなくがいいでしょう。ただ難しいとは思います。短い付き合いですが常に警戒をしているような緊張感がありますから」

 

「そうだな。そこがモモンガさんとの大きな違いだな。隙が無い気がする」

 

「モモンガさんは、もっと親しみやすいですからね」

 

「冷静沈着。思慮深いとかとは縁がなさそうだったもんな。だからこそまとめ役に向いてた気もするが」

 

「私やウルベルトさんは向いてませんでしたね」

 

「まったくだ」

 

 二人は昔を思い出し笑みを零す。

 

「――なんだか楽しそうですね。こっちは仕事をしてきたのに」

 

 洞穴から不満気な声と共にペロロンが姿を現す。

 

「どうだった?」

 

「罠は外しておきました。その代わり新しいのを用意しましたけど。後で説明しますね」

 

「お疲れ様です。それでは、行きましょう」

 

 二人は、ペロロンの案内で洞穴の中へと入る。捕虜となっている者を助ける為に。

 


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