三人が行く!   作:変なおっさん

20 / 57
第20話

 ペロロンが二人を案内した場所は、木々が所々に点在している岩肌が剥き出しになっている開けた場所。既に世界が暗くなり見え辛いそこでは、2台の荷馬車に岩肌に開いている洞穴から運んできた荷物を詰め込む者達の姿が見える。本来なら巧妙に隠されている裏口もこうなっては見つけるのは容易いだろう。

 

「見張りが1人、積み込みを行っているのが4人です。弓などの飛び道具はないみたいですよ」

 

 3人は、裏口から少し離れた場所に隠れている。開けているために視界がよくあまり近づく事ができないためだ。

 

「此処からだと距離がありますので飛び道具がないのは助かりますね。ですが、どうしましょうか?」

 

「中に助けを呼ばれるわけにはいかないからな。なんなら俺が魔法で眠らせるか? 範囲を広げれば岩肌の上からでも届かなくはないぞ?」

 

 ウルベルトの提案はこうだ。ウルベルトは、《スリープ》の魔法を使用する事ができる。これを《ワイデンマジック》を使用して魔法効果の範囲を拡大して行使する。スリープは対象を眠らせる事の出来る魔法だが行使するためには近づく必要がある。しかし、ワイデンマジックで範囲を拡大すれば対象との距離を補う事ができる。ついでに言えば対象を複数にすることも可能になる。

 

「確かに妙案ではありますがやめておきましょう。岩肌の上からの距離を考えるとMPの消費が悪過ぎます。ウルベルトさんには回復などの役割もあります。できれば温存しておきたいです」

 

 たっちに言われウルベルトは引き下がる。あくまでも他に方法が無いのなら程度で提案したので特に食い下がる気もない。

 

「ここは、ペロロンさんにお願いしたいと思いますが大丈夫ですか?」

 

「あの程度なら問題ないですよ。弓兵が遠くからしか戦えないなんてことはないって見せてあげます」

 

 ペロロンは自信ありげに胸を張る。

 

「囮役だぞ? 内心ビビッてないのか?」

 

 意地悪そうな笑みを浮かべウルベルトがペロロンにちょっかいを出す。

 

「大丈夫ですよ。二人も別に見てるだけじゃな――ないですよね? そうですよね?」

 

「もちろんです。高さがそこまでありませんので私は岩肌の上の方に。ウルベルトさんは、見張りとサポートを兼ねて空をお願いします」

 

「なにかあったら助けてやるから行ってこいよ」

 

「自信はあるけど命懸けなんですからね。まぁ、軽く命張ってきますよ」

 

 ペロロンはそう言うと姿勢を低くしてほふく前進の姿勢をとると野盗達の方へと向かい始める。できる限り距離を詰めるために。

 

「では、私達も行きましょう」

 

 ペロロンを見送るとたっちも行動を始める。少し遠回りになるが物陰に隠れながら野盗達にとって頭上となる岩肌まで移動する。

 

「何かあったら俺が全部貰うからな」

 

 ウルベルトは、《フライ》の魔法を唱え暗闇の空へと遠く消えていく。周辺の警戒も兼ねて空で待機するために。

 

 そんな事になっているとは知らずに野盗達は未だにダラダラと物を荷馬車へと積み込んでいく。その姿にはどこか余裕があるようにすら見える。

 

「まったく困ったもんだな。せっかくいい場所だってのによ」

 

「仕方ないだろ。冒険者に逃げられちまったんだから。弱い奴らだったが逃げるまでが早かったからな」

 

「でも、アングラウスさんは流石だったよな。一刀両断。殿に残った奴をバッサリとやっちまうんだからな」

 

「おう、アングラウスさんが居てくれれば怖いもんなしだ。頭達も新手が来るまでには戻ってくるだろうしな」

 

「でもよー、頭がわざわざ出向くなんて相当な上物なんだろうなー」

 

「ザックに言われて一度見に行ったらしいがとびきりの美人だったらしい。性格が悪いらしいがそこがまたいいんだそうだ」

 

「気の強い女を好きにできるのは悪くねえからな」

 

 野盗達は頭の中で妄想を膨らませゲスな笑みを浮かべる。まだ見ぬ獲物を思い浮かべて。

 

「おい、しゃべってんじゃねえよ。早く積めよな」

 

 見張りをしていた一人が暇そうに抜き身の剣を軽く振り回しながら口にする。

 

「だったらお前も手伝えよ。洞穴から運んで積むのは面倒なんだぞ?」

 

「うるせぇ。俺は見張り役なんだよ。普段なら暇で死にそうな嫌な役だが今日は少しマシかもな」

 

 重労働をしている仲間を見ながら笑い飛ばす。各々から言葉が飛ぶが気にはならな――

 

「――ん? あれはなんだ?」

 

 比較的視界の良い場所ではあるが周囲に気づかれないために松明などの明かりなどはなく光源は夜空にある星の光だけ。闇夜に目が慣れているとは言え薄暗い世界では視界はあまりよくはない。しかし、10メートル近くまでそれに気づかなかった。

 

「おっと見つかった!?」

 

 それは声を上げいきなり動き出した。それと同時だろう。近くから声がする。

 

「――いてぇ!?」

 

「――なんだこりゃ!?」

 

「――矢だ! 矢が飛んできた!」

 

 見張りは声のした方を見る。するとそこには、荷を積んでいた仲間達の身体にそれぞれ矢が刺さっている光景があった。左腕に刺さった矢を抜こうとしている者。腹に矢が刺さった者は気が動転し慌てている。足に矢が刺さった者は痛みからか片膝を折るようにしてうずくまっている。

 

「よそ見なんかしてる暇はないよ」

 

 再び声がする。振り返るとそれは弓を構えながらこちらへと駆けてくる。

 

「――くそがぁ!」

 

 剣を構えそれを迎え撃とうとする。相手は弓兵。ここまで気づかれずに近づいて来られたことは称賛するが接近戦で剣に挑むような馬鹿に負ける気はしない。

 

「残念だけどもう遅いよ」

 

 近づいて来るとその姿がより鮮明に理解できる。弓兵の手には、2本の矢が握られており既にもう1本は弓に番えてある。

 弓兵はこちらの剣が見えていないのか躊躇う事もなく突っ込んでくる。笑みを浮かべながら。楽しそうに。

 

(なんなんだコイツは)

 

 弓兵が矢を放つ。既に面前まで来ている弓兵の矢。至近距離から飛んできた最初の矢を剣で何とか叩き落す。しかし、その頃には次がそこまで来ている。それを肩に。更に飛んできた矢は腹に突き刺さる。

 

「――なめてんじゃねーぞ!」

 

 痛みがあるがそれ以上に怒りが上回る。未だに減速もせずにこちらへと向かってくる弓兵に対して剣を見定めて振るう。怒りを込めた渾身の一振りだ。

 

「だから遅いって」

 

 そんな渾身の一振りを気にもせずに弓兵はそう言葉にする。すると、急に視界から消え代わりに――

 

「――ッァ―――」

 

 身体に再び痛みが走る。

 

(姿が見えなくなったと思ったら身体に痛みが!?)

 

 頭が混乱しそうになるのを無理矢理抑えながら痛みの正体を見る。そこには新たに身体に突き刺さる矢がある。

 

(新手か!? いや――違う)

 

 恐らくだがこの矢は別の者ではない。矢は下の方から放たれたように身体に突き刺さっている。

 

「少し遅かったんじゃないんですか?」

 

 また声がしたので痛みを堪え振り返る。痛みと混乱からか涙が自然と出るがどうやら今度は自分に向けられたものではないようだ。自分に対してではない事に安堵しそうになるが、他にも声があることに気づき身体は畏縮する。

 

「申し訳ありません。鎧が重くて少し出遅れました」

 

 振り返った先には、先ほどの弓兵とは別に全身鎧を身にまとった者が居た。その二人の足元には、仲間達がうめき声を上げながら地面にボロクズのように倒れている姿がある。生きているようだが既に戦えるような状態ではないのは一目で分かる程に弱々しい。

 

「まぁ、全部俺がやってもよかったんですけどね。最近、たっちさんばかり目立ってますし」

 

「そうですか?」

 

 誰だかは知らないが自分を無視して談笑を始めている。確かに他の仲間は既に地面に倒れている。とてもではないが戦えないだろう。だが、まだ自分はこうして立っている。

 

「――ほはへはぁ……なんはほれはぁ?」

 

 恐怖を抑える為に怒りに任せ声を出そうとしたが呂律が回らず上手く言葉が出ない。それどころか身体に力が入らず立ってもいられない。

 

「対策もしてないのに矢を3本も受けちゃダメですよ。矢には毒が塗られているもんなんですから」

 

「ほふ?」

 

 何もできずに力無く倒れた自分を見下ろしながら弓兵は続ける。

 

「麻痺毒ですよ。3本も受ければ累積して効果が上がるから回るのも早かったみたいですね」

 

 そう言いながら倒れている野盗の身体に突き刺さっている矢を無造作に弓兵は引き抜くとまだ使えるかの吟味を始める。手荒に抜かれた痛みから身悶え声を上げているにも拘らずず微塵も興味などがないように。

 

(なんなんだよコイツら)

 

 怖い。淡々としている姿が怖い。戦いの場。仮にあっけなく終わったとしても此処は戦いの場だったはずだ。それなのにまるで何事もないかのように平然としているのが怖い。

 

「もう終わったのか」

 

 上の方から声がする。身体が痺れて上手く顔が動かせないので姿が見えないがどうやら上にも仲間が居たようだ。

 

「どうでしたか、ウルベルトさん?」

 

「あぁ、なかなかだな。しかし、器用にやるもんだな。《回避スキル》ってタイミングが難しいんだろ?」

 

「ペロロンさんは、意外と近接戦でもやっていけるかもしれませんね」

 

 ペロロンは手の中にある矢を全て使い果たし、相手の剣の動きを見極めて回避スキルを使用して相手の攻撃を躱した。剣が振り下ろされる前に姿勢を低くして前転をすると言うものだが、それをこなした後すぐに新たに矢を番えて放った。回避スキルと《速射》による連携技。そして、ペロロンが囮として敵を引き付けている間にたっちが岩肌の上から飛び降り、状況を理解できずに気が動転している残りを作業とも言えるような内容で盾を使い殴り倒していた。いつでも新しい矢が放てるようにペロロンが傍で待機しながら。

 

「無理ですよ。無理無理。たっちさんとかと戦えませんって。俺には、逃げ回って攻撃する方があってますよ」

 

「そんなことはないと思いますが?」

 

「それは比べる相手が悪い。さて、話はこれぐらいにして早くやろうぜ。とりあえず腕は折るぞ。縄で結ぶよりも安全だからな」

 

 ウルベルトは、倒れている野盗の一人の腕を手に取ると無理矢理に折ろうとする。わざわざ悲鳴を上げる事ができないように頭を地面に押さえつけるように踏みつけながら一切の躊躇いもなく折る。

 

「流石にそれはどうなんですかね?」

 

「魔法で治るんだから別にいいだろ? 本来なら殺されてんだから。たっちさんも文句はないよな?」

 

「……ええ、ありません。生かしたまま捕らえるには仕方がないですから」

 

 たっちは、あまりいい顔はしていないが危険を冒してまで生かしたまま捕らえるように進言した手前何も言えない。たっちもウルベルトと同様にするが、こちらは骨を折るというよりも肩の関節を外しているようだ。今この場には二つのものがある。恐怖を伴うものか、慈悲のあるものかの二つが。

 

「じゃあ、俺は先に行きますね。罠とかあるかもしれないんで」

 

 ペロロンは、岩肌に裂け目のようにして開いている裏口へと姿勢を低くして入っていく。罠がある可能性があるのでそれの解除の為だ。

 

「この辺りには誰も居なかったから見張り役はなしでいいだろう。剣とかまとめてその辺りに捨ててくるからたっちさんは荷馬車に積んでおいてくれ」

 

 ウルベルトは、倒れている野盗達の武器を拾い集めるとフライの魔法で空を飛び遠くへと捨てに行く。その間にたっちは、野盗達を荷馬車へと載せていくのだが口々に助けを求められる。あの男達から守るように縋るような目で。

 

「私から言えることは、抵抗はできればしないでください。大人しくしていてくれれば何もしませんから」

 

 たっちの言葉に安心したのか野盗達は何度も返事をしては頷く。もう何もしない。だから何もしないでくれと。ただ祈りながら、震えながら唯一の希望の言葉に従う。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。