三人が行く!   作:変なおっさん

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第2話

 王都に着くと、正門から王城へと続く中央通りを通り、冒険者組合へと向かう。

 

「イビルアイちゃんは、今日も可愛いね! 久しぶりに会うからもうたまんないよー!」

 

「ええい、寄るな、変態!」

 

 ペロロンは、冒険者組合に居たイビルアイと呼ばれる冒険者に求愛行動を取っている。しかし、それも空しくイビルアイは仲間である女戦士の後ろに隠れている。

 

「おいおい、イビルアイ。せっかくモテてんだ。少しは、相手してやったらどうだ?」

 

「うるさい! なんだったら、ガガーランが相手をしてやればいいだろう!」

 

「おっ? そうだな。どうだい、ペロロン?」

 

 ガガーランは、ペロロンにウインクをする。ガガーランは、ペロロンはもちろんだが、たっちよりもウルベルトよりもデカくて大きい筋肉を持っている。ペロロンは、思わず尻餅をついて後退る。

 

「あまり馬鹿な事はするなよ。相手は、《蒼の薔薇》なんだからな。すみません、うちのペロロンが失礼な事をして」

 

 ウルベルトがガガーランに頭を下げる。蒼の薔薇。王国に住む者なら一度は聞いたことのある冒険者チーム。構成メンバーが全員女性というのが特徴なのだが、実力は冒険者として最高峰とされるアダマンタイト級になる。ガガーランもイビルアイも、今の彼らからしてみれば大先輩になる。

 

「換金が終わりましたよ」

 

 モンスターの身体の部位を代表して冒険者組合に提出していた、たっちが合流する。王国では、治安維持の一環で組合を通す形で冒険者にモンスター退治を依頼している。その証明として、指定されているモンスターの身体の部位を組合に持っていくと報奨金が貰える。他にも個人や組織からの依頼などもあるが、レベリングをしている彼らにとっては、主な資金源になる。

 

「ああ、やっとか。どうでした内容は?」

 

「腐らせる前にお願いします、と言われました。それでも交換してくれて、金貨で6枚と銀貨が10枚。後は、銅貨ですね」

 

「大物を狙うにしても回復アイテムとかで赤字になるから難しいな」

 

「そうですね。早く、強くなりたいものです」

 

 モンスターによって報奨金が変わる。当然、強くなれば報奨金の額も上がるが危険も同様に上がる。

 

「よう、たっち。お前さんは、弱くはないだろう? 他もそうだが、短期間でカッパーからシルバーにまでなったんだからな」

 

 この世界に来てからレベリングをしている。安全を考えているのと予想以上にモンスターが見つからない。上手くはいかないがそれでも確実にレベルは上がっている。冒険者には、下から、カッパー、アイアン、シルバー、プラチナ、ゴールド、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトとあるのだが順調にシルバーにまで成れた。

 

「ガガーランさん達には、まだまだかないませんよ」

 

「それでも十分だ。今日は、街に泊まるんだろ? 付き合えよ?」

 

「私は、別にかまいませんよ」

 

「俺もかまわない。ペロロンさんは?」

 

「イビルアイちゃんも一緒ですか? 一緒なんですか!?」

 

「随分と入れ込んでるな。素顔も見た事ないのに」

 

「ウルベルトさんには、分からないんですか!? あの仮面の下にあるプリティーフェイスが! 俺には、分かります! 絶対に可愛い! 絶対に!」

 

 イビルアイは、大きな宝石がはめ込まれた仮面を常にしている。話によると、蒼の薔薇の人間以外は見た事がないとか。それなのにペロロンは、イビルアイに求愛している。唯一つ言える事は、本人が大人だと断言しているが体形が少女だという事ぐらいだろう。

 

「ロリコンも大概にしておけよ?」

 

「ここだと合法なんですよ? 知りませんでした? それにイビルアイちゃんは、既に大人ですから何も問題ないんですよ! ああっ……あの仮面の下にあるイビルアイちゃんの素顔を想像するだけで夜も眠れない!」

 

 ペロロンの言葉にイビルアイは、より深くガガーランの後ろに隠れる。しかし、その行動が更にペロロンの興奮を高める。蒼の薔薇として冒険者達の頂点に居て、普段は大人びた態度を取っている。それなのに可愛らしい女の子としての一面を見せられたらたまらないのだろう。

 

「わ、私は、部屋に帰る! 別に怖いわけじゃないぞ!」

 

 とうとうイビルアイは、冒険者の宿にある蒼の薔薇専用の部屋に帰る事にした。彼女達ほどにもなると最高級の宿の部屋を実質個人部屋として長期利用できる。

 

「夜は、付き合えよー!」

 

 ガガーランの言葉を聞いているかは分からないが、何も言わずにイビルアイは立ち去る。

 

「怒らせてしまいましたか?」

 

「そうじゃない。大人ぶっててもまだ子供なんだよ、イビルアイは。それよりもだ。どうだい、少しは進展あったかい?」

 

「いえ、何もありません。価値の高いレアなアイテムなどの情報は何も」

 

「金を払って探してもらってもいるがなにもないからな。まあ、蒼の薔薇の皆さんが分からないようじゃ難しいだろうが」

 

「願いを叶えるか、好きな所に行けるようなアイテムだったよな?」

 

 この世界がユグドラシルの中ならワールドアイテムクラスになるのだろうが、他の物でもかまわないので広い言葉で蒼の薔薇や他の者達から情報を集めている。

 

「正直に言えば、イビルアイが知らないとなると難しい話だ。知識に関しては、蒼の薔薇の中で一番だからな。情報が手に入ったら教えてやるが、あまり期待はしないでくれよな」

 

「ありがとうございます」

 

 たっちが代表で言葉を言い、他の二人は倣って頭を下げる。

 

「この後は、どうする気だい?」

 

 ガガーランの言葉に三人は考える。そう言えば、何も決めていなかった。

 

「そうですね。どうしましょうか?」

 

「依頼を受けるか、レベリングするかで買う物も決まるしな?」

 

「冒険者としてランクを上げるには、依頼をこなしていくのが一般的ですし」

 

「特にないならうちのを手伝わないか?」

 

「蒼の薔薇のですか?」

 

「いや、無理だろ? ガガーランさんには悪いがランクが違い過ぎる」

 

「死んじゃいますよね? もしかして、イビルアイちゃんの事で怒ってますか? それなら謝ります! すみませんでした!」

 

 ペロロンは、全力で頭を深々と下げる。

 

「別に人の色恋に興味はないよ。それに蒼の薔薇への依頼じゃない。これは、あくまでも私用みたいなもんでね。王都には、二つのアダマンタイト級冒険者チームがある。一つは、蒼の薔薇。もう一つが、朱の雫だ。アダマンタイト級の冒険者チームが居ると安心して生活ができる。だから、立場的にあまり外には行けない。特に朱の雫が留守をしている今の状況じゃ俺達は、此処を空けられない」

 

 王都だからと言って安心はできない。城壁の外には、今もモンスターが居る。軍が常駐する王都に危害を与えるぐらいの物はそうはいないが、絶対にないとは言えない。郊外にある村々などは、度々モンスターに襲われ壊滅する事もある。外の世界が危険だと知っている人々からしてみれば、英雄とまで言われるアダマンタイト級の冒険者は、安心して生活をする上で必要な物になる。朱の雫と呼ばれる冒険者チームは、王都を留守にしている。蒼の薔薇まで居なくなれば、王都に住む者達は不安に陥る事だろう。それだけ、アダマンタイト級の冒険者とは人心の支えになっているのだ。

 

「ガガーランさんが仰りたいことは分りました。それで、仕事の内容はなんですか?」

 

「大した事はない。エ・ランテルまで行って情報を集めてほしいのさ。何か変わった事がないか? 王都を拠点にしているとはいえ、王国の冒険者だからね。何もしないって訳にはいかないだろ?」

 

「正義の味方ですね! 格好いいと思います! 是非、協力させてください!」

 

 たっちは、他の二人に相談なく決める。決めてしまう。たっちは、人々の味方として戦う蒼の薔薇を尊敬している。その協力ができるのなら喜んでするだろう。その事は、ウルベルトもペロロンも了承済みだ。それに、蒼の薔薇には世話になってもいる。少しは、恩を返しておきたい。

 

「なら詳しい話は、夜にしよう。リーダーから話してもらった方がいいだろう。建前上、組合を通さないといけないが、今日の分は奢ってやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ラキュースさんも来るのか……」

 

「あれ? ウルベルトさん、ラキュースさん苦手でしたっけ?」

 

「苦手って言うか、貴族だろ? 別世界の人間だから緊張するんだよ」

 

 蒼の薔薇のリーダーであるラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは、王国貴族のアルベイン家の令嬢になる。

 

「うちのリーダーは、そういうのは気にしないぞ?」

 

「それは……知ってるけど……」

 

 普段と違い、ウルベルトの声に力がなく、大きな身体が小さく見える。

 

「ああ、そういえば美人ですもんね? ラキュースさん?」

 

「ち、ちげーし! そういうのじゃないし……」

 

 ペロロンの言葉で他の二人も察する。明らかにウルベルトの態度がおかしい。

 

「美人ですもんね、ラキュースさん」

 

「狙うなら丁度いい。空いてるから頑張れよ、ウルベルト」

 

「だから違うって! 美人だとは思うけど……住む世界も違うし……クソッ! リア充共には分からねぇんだ! チクショー!!」

 

 ウルベルトは、言葉を吐き捨て冒険者組合の建物から出ていく。

 


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