三人が行く!   作:変なおっさん

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第19話

 三人は、ブリタの説明通りに公道から外れた森の中に入り、奥へ進むと洞穴がある場所の近くまで来た。どうやら見張りが二人居るようで松明を点けずに警戒にあたっている。既に外は暗いので居場所を知られない為だろう。

 

「見張りは二人か」

 

 ウルベルトとたっちの二人は、ウルベルトの《ダーク・ヴィジョン》の魔法で闇夜でも昼間のように見えており《サイレンス》の魔法で周囲の音を消して近くの茂みに潜んでいる。

 

「居てくれたのは助かりましたけど……どうしましょうか?」

 

 洞穴近くの茂みから様子を窺っているが状況が把握できない。一般的な野盗は数十人で徒党を組んで行動することが多い。流石に三人で数十人を相手にするのは無理があり、あの中に全員が居るとは限らない。最悪の場合は狭い洞穴の中で挟撃に遭う可能性がある。

 

「罠とかもありそうだしな。外に居た場合は挟撃の可能性もある。狭い洞穴の中での挟撃なんて冗談じゃない」

 

 魔法詠唱者であるウルベルトと弓兵であるペロロンにとって動きに制限のある洞穴は危険だ。相手に接近を許してしまい簡単に殺される。

 

「とりあえず今は偵察に行っている――」

 

「――お待たせ」

 

 茂みに隠れている二人の下に偵察に行っていたペロロンが小さく声を掛ける。こちらにも同じようにダーク・ヴィジョンとサイレントを掛けている。

 

「どうでしたか?」

 

「やっぱりあった。既に裏口に荷馬車が二台あって積み込みしてるよ」

 

 ペロロンは、二人に裏口のある場所と距離を教える。裏口までは数百メートル程で積み込みをしていたのは5人だったそうだ。

 

「現状では、7人か。倒せなくもないが……」

 

「少し話も聞けたけど外にも居るらしいですよ。なんだか上物が居るとかで、どうやら野盗の頭はそっちに居るようで今は準備だけしているそうです。ただ既に人は送ってあるみたいですからすぐに戻ってくるんじゃないですかね?」

 

「野盗の頭が少数で動くとは思えませんから少なく見積もって十人程ですかね? 足して最低でも20……ウルベルトさんはどう思いますか?」

 

「無理だな。俺の魔法にだって限りがある。ペロロンの矢の数もそうだ。それに腕の立つ奴が居るんだろ? どう考えても負ける」

 

 3人は考え込むが既にウルベルトとペロロンの考えは決まっている。単純に数は脅威になる。ウルベルトとペロロンの攻撃手段にはMPと矢の本数による制限がある。これを超えてしまえば何もできなくなる。だからと言って、たっち一人で戦える数ではない。ただの雑魚ならともかく相手が人間である以上は、どのような攻撃手段があるか分からないからだ。すぐに思いつくところで毒などがある。毒矢を大量に放たれれば、いずれは治療ができなくなり死ぬことになる。

 

「それと話によると捕虜になっている女性が居るみたいです。ただ、運び出すのは最後みたいですよ」

 

 ペロロンの言葉にたっちの表情が険しいものになる。女性が野盗の捕虜となる意味を知っているからだ。

 

「たっちさん。気持ちは分かるが冷静にな? 俺達には、野盗の後を付いていき新しいアジトを見つけるっていう選択肢もある」

 

「すみません」

 

 ウルベルトは、そっとたっちの肩に手を置く。たっちの気持ちは分からなくもないが無策でどうこうできるものでもない。

 

「応援が来る前に外に居るのが戻ってくる方が早いと思います。難しいとは思いますけど早く決めないと」

 

「そうだな。今隠れているこの場所だって安全とは限らない。逃げるか、後を追うか……戦うかにしろ早めに行動する方がいい」

 

 ペロロンとウルベルトはたっちの方を見る。

 

「私としては今すぐにでも捕らわれている人達を助けたいです。しかし、今の戦力と状況を考えると無謀としか言いようがないです……悔しいですが……」

 

 言葉に悔しさが滲む。頭で分かっていて簡単に受け入れえられるものではない。

 

「せめて表と裏から攻められればいいんですけどね。こっちが先に挟撃を仕掛けられれば少しは話が違ってくるんですけど」

 

 ペロロンの言葉が空しくも耳に届く。そんなことは言われなくても分かっている。ただ人手が足りないという現実がある以上は――

 

「どうやら私達の出番はあるようですね」

 

 三人は、気配の無かった方を振り返る。思わず声を出しそうになるのを無理矢理抑えながら。

 

「……モモンさんにナーベさん?」

 

 たっちの言葉でウルベルトとペロロンは臨戦態勢を解こうと考えるが、解くのは早いと判断し身構える。

 

「たっちさん、本物か?」

 

 急に現れたモモンとナーベを疑うのは当然だろう。特にレンジャーでもあるペロロンの警戒を潜り抜けた以上は。

 

「はい。前に一度だけですが間違いないと思います」

 

「魔法とかは?」

 

 魔法などによる偽物の可能性もある。モモン達を知らないウルベルトとペロロンは、たっちと違い疑いの目を――特にモモンに向ける。なにせ全身鎧を着ているために表情が見えない。化けるとするなら最適な人物だ。

 

「そう警戒しなくても大丈夫ですよ。私は、ナーベと共に行動していたのですがブリタとかいう冒険者に会い助けを求められました。話を聞くとたっちさん達がたった三人で野盗の下に向かったと聞き力になれればと思い来ただけですから。たっちさんとは剣を交えた仲。冒険者としても野盗を見過ごせませんからね」

 

 もっともな話。ペロロンとウルベルトは警戒を解こうかを考えるが、その前にナーベに二人の視線が向けられる。

 

「世の中には三人は似て居る奴が居るって言うが……本当にそっくりだな」

 

「本当に美人さんですね」

 

 たっちから二人は、ナーベがユグドラシル時代に同じアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーが製作したNPCであるナーベラル・ガンマに似ていると聞いていた。二人はナーベの姿を見ながらそれを思い出す。

 

「名前も似てるし、本物だったりしてな」

 

「いやー、流石にそれは……なんなら聞いてみます? すみません、もしかしてそちらの方はナーベラ――」

 

「ナーベです」

 

 モモンは、ペロロンの言葉を遮る。

 

「……えっと、その――」

 

「ナーベです」

 

 再び聞こうとしたペロロンの言葉を同じようにして遮る。

 

「彼女の名前は、ナーベ。いいですね?」

 

「アッハイ」

 

 モモンの気迫に負け、ペロロンは頷く。

 

「ペロロンさん、遊んでいる場合じゃないですよ。今は、一刻も早く捕らわれている人達を助ける必要があるんですから。モモンさん、ナーベさん。お力をお貸しください」

 

「もちろんですよ。それで、どうしますか?」

 

 たっちとモモンは、未だにナーベをジロジロと見ているウルベルトとペロロンを無視して作戦を考え始める。

 

「おい、ペロロン?」

 

「なんですか?」

 

「めっちゃ睨まれてね?」

 

 ジロジロ見ているからか、ナーベも二人の方をジッと見ている。美人なので少し嬉しいが変に緊張する。

 

「たぶんですけどウルベルトさんの視線がやらしいからですよ」

 

「な、なんてこと言うんだよ!?」

 

「気づいてないかもしれませんけど鼻の下が伸びてますよ」

 

 ペロロンの言葉に反応し、思わず鼻の下に手をあててしまう。ニヤケ面のペロロンに気づいたのはその後だった。

 

「クソッ……」

 

「やっぱりニヤケてたんじゃないですか。エロ目線で女性を見るからですよ」

 

「そういうお前はどうなんだよ」

 

「美人ですけど範囲外なんで」

 

「……そっか」

 

 親指を立てていい顔をするペロロンを見て思い出す。ペロロンはロリコンだった。

 

「――危険ですけど、本当にいいのですか?」

 

「――状況を考えるとこの方がいいと思います」

 

 二人をよそにたっちとモモンの間で話し合いは終わった。

 

「おっ、もう決まったのか?」

 

「ええ、決まりはしました」

 

 たっちは、モモンと決めた作戦を二人にも話す。

 

 表側をモモンとナーベが担当し、派手に動き敵の注意をひきつける。その間にたっち、ウルベルト、ペロロンの三人が裏口から洞穴の中に潜入し捕らわれている女性たちの救出を行うと言うものだ。

 

「なるほどね。でも、分かってるのか? 表側は危険だぞ? 外に居るのが帰ってきたら挟撃になる。話だと、野盗の中には腕の立つ奴が居るって話だし」

 

「御心配には及びません。これでも私とナーベは強いですから。それよりも中に潜入する方も危険だと思いますよ? 罠もあるでしょう。場合によっては、捕らえている女性を人質にするかもしれません。戦闘になれば狭い空間は、魔法詠唱者であるウルベルトさんや弓兵であるペロロンさんにとっては大変危険だと思いますが?」

 

「随分な自信だな。まぁ、確かに中に入る方も危険だ。だがな、俺も他の二人もこの程度の修羅場は慣れてる」

 

「ですね。罠なら俺が簡単に解いてみせますよ」

 

「……そうですか。それは、頼りになりますね」

 

 モモンは、三人の顔を一度見てから行動へと移す。

 

「では、三人を信頼するとしましょう。ナーベ、こちらは盛大に暴れるとしよう」

 

「畏まりました」

 

「では、私達も行きましょう。ペロロンさん、案内を」

 

 たっち達は、ペロロンの先導で草木に隠れながら行動を始める。その様子をモモンは、ジッと見つめている。

 

(予想とは違うけど、こうしてまた一緒に何かできるとは思わなかったな)

 

 モモンは、ナザリックから三人の様子を遠隔視の鏡を通して見ていた。人手が足りずに困っているようだったので思わず来てしまったが……悪い気はしない。

 

「モモンさん。少しよろしいですか?」

 

「なんだ、ナーベ」

 

「ウルベルトとペロロンと名乗る者も……その……違うのでしょうか? なぜか、こう……他の人間とは違うような気がするのですが?」

 

 ナーベは、たっちに感じたものをウルベルトとペロロンにも感じていた。

 

「他人のそら似だろう。それよりもあの者達は、冒険者として先輩にあたる。ナーベも他の人間とは違うように感じるのであるならば、やはり関わりを持つのは悪くないだろうな」

 

 渋々納得するナーベを見て思う。本当なら早く名乗り出たい。しかし、ナザリックの者達の中には人間を軽視している者が多い。それに至高の存在であるアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー達に対してどのように思っているのかも不安材料としてある。今は、目の前に居るナーベを三人と関わらせて様子を窺う方がいいだろう。

 

「――さて、連絡を取るか」

 

 モモンは、《メッセージ》の魔法を使いナザリックで遠隔視の鏡を使用し、周囲を監視しているパンドラへと繋げる。

 

「パンドラ。周囲に誰か居るか?」

 

『いえ、誰も居りません。それよりもどうでしょうか? こちらから見ていた限りでは、ナーベラルと口にしそうな感じがしましたが?』

 

「居なければ聞いていたんだが、そこから勘づかれても困る。今は、大事な時期だ。秘密裏に進める」

 

『御身の御心のままに。それでは、私は計画通りに』

 

 パンドラとのメッセージの魔法を解くとモモンも準備に入る。

 

「そうだ。ナーベ、これから言う事を必ず守れ」

 

「なんでしょうか?」

 

「なに、難しい事はない。人は殺さずに捕らえよ。生け捕りにするんだ」

 

「それは、全員でしょうか?」

 

「ああ、全員だ。まぁ、死んでいなければ構わない」

 

 たっちとの話し合いの時にできる限り殺さないようにと頼まれた。あくまでもモモン達の身の安全を優先した上ではあるが無駄に殺したくはないとの事だ。

 

(たっちさんらしいな)

 

 モモンは、久しぶりのアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーとのクエストへと移る。内容は、敵を生け捕りしたうえでの捕虜の救出だ。

 




更新が遅れて申し訳ありません。
まだ購入した分を読み終えておらず投稿しようか悩んでました。
とりあえず決めてある分は書きますのでもう少しだけお付き合いくださると嬉しいです。

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