三人が行く!   作:変なおっさん

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第17話

 モモンは、ナーベと共に宿へと戻ってきた。偽物とは言え、たっちとの戦いで大事な事を思い出した。慢心が命取りになる。仮に相手がレベル1だとしても勝てるとは限らない。もしかしたらワールドアイテムを持っている可能性があるからだ。相手を油断させて戦うのは常套手段。しかし、勝手に慢心してそのような状況を作り出すのは愚か者がする事だろう。

 

(戦っていなかったからか……いや、人間から今の姿に変わったからこその慢心なのかもしれないな)

 

 ユグドラシルの終わり頃は、まともに戦う事がなかった。それを考慮しても自分の力に自信を持ち過ぎていた。相手をなめていた。もし、あの剣が自分を殺せる武器なら死んでいただろう。

 

「流石は、たっちさん。名前だけとはいえ、大事な事に気づかせてくれるとは」

 

 どこか嬉しくなる。しかし、同時に寂しくもなる。

 

「あの、モモンさん。一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

「あの者は、たっち・みー様ではないのでしょうか?」

 

 たっちの名前を聞いた時に、ナーベは思わず我が目を疑った。ただの人間。力のない人間。しかし、たっちの名前を持つ者である以上は可能性を信じたかった。

 

「いや、確かに似てはいたが違う」

 

 他の者ならともかくたっちは違う。ユグドラシルをやめた後も少し関わりがあった。最後の日にユグドラシルの世界に来なかった以上可能性はないだろう。しかし、確かによく似ていた気はする。顔を覆い隠す兜を考慮しても声や言動が似ていた気もする。

 

(いや、心の何処かでそれを望んでいるだけか)

 

 ここ最近、たっちを含めギルドメンバーを考えながら剣を振るっていた。少しでも同じような事ができないかと思い。その気持ちがそう思わせているのかもしれない。

 

「しかし、ナーベの様子を見る限り関われそうな人間だ。人間に慣れるための相手としてはうってつけかもしれんな。機会があったら関わっていくとしよう。さて、連絡をするか」

 

 モモンは《メッセージ》の魔法をナザリックに居るアルベドへと繋げる。

 

「アルベド。捕まえた者から情報は何か得られたか?」

 

『はい。どうやら価値のある者だったようです』

 

「ほほう」

 

 モモンは、アルベドから話を聞く。名前は、クレマンティーヌ。今はズーラーノーンと呼ばれる組織に属しているが、戦士長を狙ったスレイン法国の漆黒聖典に属していたらしい。どうやら辞めた際に叡者の額冠を奪ったそうで追われる身なのだそうだ。そして、そのアイテムをンフィーレアに使わせ、エ・ランテルに潜んでいる仲間に死の螺旋なるものをやらせる。その間に逃走する予定だったらしいが現状に至る。だが、これまでの情報は正直どうでもいい。どうやらスレイン法国には、ユグドラシルのプレイヤーの形跡がある。特に気になるのは、その者達が残したアイテムだ。もしかすると、ワールドアイテムがあるかもしれない。逆を言えば、注意するべき相手でもある。ワールドアイテムは、レベル差など関係ないほどに強力だ。物によっては、ナザリックは負ける事になる。

 

「――なるほど。確かに価値がある。詳しい事は、後でまとめて報告してくれ」

 

『畏まりました』

 

「それと、至急で悪いが外に出ている者を集めてくれ。少しやりたい事がある」

 

『シャルティア達は、どうなさいますか?』

 

 シャルティア・ブラッドフォールン、セバス・チャン、プレアデスの一人であるソリュシャン・イプシロンには、他とは違う任務を与えている。目立つのが目的なので急に居なくなると今後に差し支えるだろう。

 

「シャルティアだけ呼び戻せ。セバス、ソリュシャンには、危険な者が居ると伝えておけ。他と違うと感じたらすぐにこちらの指示を仰ぐように、と」

 

『畏まりました』

 

 そこで、《メッセージ》の魔法を切る。

 

「ナーベ。お前も力のない者だからと言って油断はするな。レベルだけが全てではない。戦闘経験やアイテムなどで結果が違う可能性がある」

 

「肝に銘じておきます」

 

「うむ。私は、一旦ナザリックへと戻る。何かあれば、連絡をするように」

 

 モモンは、ナザリック地下大墳墓に帰還する。今回学んだことを他の者達に教える為に。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 アインズとなり、執務室で遠隔視の鏡を弄っている。これは、遠くの場所を見る事ができるアイテムだ。普段は、アルベドなどがナザリックからの監視に使っているが、今は守護者達が集まるまで暇なので適当に眺めている。

 

(しかし、驚いたなぁ……)

 

 昇級試験を意気揚々と受けに行ったらたっちと名乗る戦士に遭遇した。あの時は、アンデッドの精神抑制が効かなかったら狼狽えていただろう。後に英雄となる冒険者モモンとして演じている以上は、そんな醜態を人前では晒せない。アンデッドで良かった瞬間だ。

 

(でも、あのたっちさんは参考になりそうだな)

 

 アインズは、遠隔視の鏡を動かし、あのたっちを探す。これから冒険者をする上で参考にするにはいい人物かもしれない。

 

(たぶんだけど、組合にでもいるのかな?)

 

 エ・ランテルの街もそれなりに広い。おそらくだが、冒険者組合でアインザックとでも話していると見当をつけ――

 

(…………)

 

 アインズこと、モモンガこと、鈴木悟は絶句する。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 たっちは、腕を魔法で治してもらうとアインザックと共に冒険者組合に足を運ぶことになった。アインザックが言うには、おさがりではあるが剣と盾をくれるのだそうだ。

 

「待たせたね」

 

 アインザックの手には、使い込まれた形跡のある剣と盾がある。

 

「これは、私が昔愛用していた物でね。少なくとも君の持っていた物よりは物がいいだろう」

 

「ありがとうございます」

 

「かまわんよ。こちらの頼みを聞いてくれたお礼だ。まぁ、あそこまでやれとは言わないがな」

 

 話を聞くとミスリルを僅かとはいえ使用しているそうだ。純正のミスリル製に比べれば劣るが、それでもただの鋼鉄に比べれば十分に価値のある物になる。

 

「しかし、君も相当腕を上げたな。私の見る限り、ミスリル級はあるだろう。残念ながら装備の差でオリハルコン級には劣るが戦士としてなら戦える」

 

「そうですかね? あんまり実感はないので分かりません。しかし、あのモモンさん……何処かの貴族でしょうか? 言葉に重みと言いますか、威厳のようなものを感じました」

 

「可能性は十分にあるな。供にしているナーベも貴族の令嬢か、貴族が囲った者と考えれば納得はいく。ただ今は些細な事だ。あの者の実力は、間違いなくアダマンタイト級だ。いや、それ以上かもしれないな。なにせ、君との戦いでも余裕を感じられた」

 

 たっちとアインザックのモモンへの評価は高い。それこそ、たっちの中では、あの王国戦士長にすら負けないのではと思えるほどに。

 

「とはいえ、依頼を受けていないような者をアダマンタイトにはできない。私の権限だけでは、精々ミスリル級が限度だ。それ以上になると他にも話を通さなければいけない。たっち君。後で、ミスリル級のプレートを渡す。仲間達と共に取りに来てくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 これで、たっち達三人は、ミスリル級冒険者になった。話からするにモモン達もだろう。

 

「さて、一つ依頼を受けてもらおう。話の流れになるが、王都の冒険者組合に今回の件を伝えてもらいたい。仮に疑問を持たれるようなら君が剣を振るうといい。そうすれば、あちらもモモンの実力が分かるだろう。詳しい話は、プレートを取りに来た時にしよう」

 

「分かりました。仲間達と共にまた伺います」

 

 たっちは、アインザックに礼を述べると部屋から出ていく。

 

「彼は、いい冒険者になる。腕もいいが礼儀正しい。評判も上々だ。仲間に関しては……多少難はあるが問題は……」

 

 話しによると、ウルベルトは何度も衛兵に職質されているらしい。なんで、怪しい仮面を自ら被るのか分からない。ペロロンに関してはいつも通り子供を持つ親御さんからの評判が悪い。

 

「腕だけは確かなのだが……」

 

 将来有望な者達なだけに残念だ。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 たっちが話を終え、アインザックの部屋から外に出て休憩室に向かうと、ウルベルトとペロロンが席に座り待っていた。

 

「聞いたぞ? ボロ負けだったみたいじゃないか?」

 

「腕を斬られても戦おうとか、バーサーカーですか?」

 

「少しは慰めて下さいよ。これでも落ち込んでるんですから」

 

 たっちは、空いている席に腰掛ける。

 

「剣と盾を壊した奴に言葉なんてねえよ! 代わりを貰えなかったらどうするつもりだったんだ?」

 

「戦士無しでモンスター狩りとかドキドキ通り越して死にますよ」

 

「それに関してはすみません。ですが、負けたくなかったんですよ」

 

「はいはい。どうせいつもの負けず嫌いだろ? それよりそれはどうなんだ? 貰った剣と盾は?」

 

「ミスリル加工されているそうです。純正品には負けるようですが十分だと思います」

 

「ミスリルって僅かでも高いのに気前がいいですね」

 

「それだけの内容の戦いだったんだろ? 観戦してた冒険者達から話は聞いたが面白そうな内容らしいからな」

 

「本当に強かったですよ。あぁ、忘れていました。今日から私達は、ミスリル級になりましたので後でプレートを交換します」

 

「マジか!? これで、ラキュースさんに近づいたな! よし! 今から王都に行こう! ラキュースさんに見せに行こう!」

 

「丁度、アインザックさんから王都での依頼を受けましたので行きましょう。とりあえず買い物をしましょうか」

 

 三人は、王都に行く前に買い物をする事にする。ウルベルトは、王都に居る蒼の薔薇のラキュースにミスリル級になった事を告げる為に。ペロロンは、同じく蒼の薔薇のイビルアイを見に。たっちだけが依頼を忘れずに。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

「本物じゃねえか!」

 

 思わず頭を執務机に叩きつける。これには、天井に《不可視能力》で姿を隠す(アインズには見える)エイトエッジ・アサシン達も動揺する。ちなみに森の賢王よりも強い。

 

「って言うか、楽しそうだな、おい!」

 

 今度は、蹴りを入れる。これには、エイトエッジ・アサシン達もビクッとする。伝説の魔獣と呼ばれる森の賢王を捕食して餌にするような者達が。

 

「冒険者とか正直つまらない夢のない物だと思っていたが……こんなに楽しい物だったのか……」

 

 遠隔視の鏡で見る三人は楽しそうに見えた。すっごく。ものすっごく羨ましいぐらいに。

 

(しかし、何故あの三人が?)

 

 この世界に居る可能性として考えていたのはアカウントを残していた者。特に最後のあの日に来た者だ。例えば、エルダー・ブラック・ウーズのヘロヘロなどがその例だ。もしかしたらログアウトできずにこの世界に飛ばされた可能性が無いわけではない。しかし、あの三人はアカウントを消していた。そして、最後の日には来なかった。

 

(もしかして、来てくれたのか?)

 

 あるとするならそうだろう。最後の自分の呼びかけにあの三人は応じてくれた。そして、新しくアカウントを所持したからレベルが1にでもなったのだろう。なんで三人が一緒かは分からないが。

 

「……どうする? すぐにでも会うべきか?」

 

 正直に言えば会いたい。そして、あの中に混ざりたい。しかし、あの三人を見て何度も――今もアンデッドの精神抑制が働いているが冷静な部分がそれを止める。

 

(なんで人間なんだ……)

 

 現状はあまりよくない。アインズには分からないがナザリックに所属する者達には不思議な繋がりがあるらしい。それがあれば相手が姿を偽っていても分かるほどに。しかし、ナーベラルの反応から察するにたっちにはそれが無かった。仮にあったのならあの時に気づいていただろう。ナザリックの者は、基本的に人間を嫌っている。見下している。その状態で、あの二人と接触してもいいのだろうか?

 

(他よりも好感はあるようだが……)

 

 好感はあるが至高の存在として認識はしていない。仮にアインズが説得したとして納得はするのだろうか? したとしてもそれは、自分とは違う物ではないだろうか?

 

(会いたいが……会えない……)

 

 もしあの三人になにかあれば死んでも死にきれない。いや、もう死んでるようなものですけどね!

 

「しかし、オフ会みたいだな」

 

 今の三人は、現実での人の姿をしている。だからこそ分かったのだがオフ会の延長みたいで楽しそうだな、と思う。こうしてみると人間でのプレイも悪くない気がする。

 

「先ずは、ナーベラルで試してみるか?」

 

 人との交流。少しでも抵抗がなくなれば、あの三人の事も受け入れられるのでは? それとも、ナザリックに所属さえすれば全ては元通りに? 確か、転生用のアイテムもあるはずだから異形種にもなれる。

 

(あぁ……せっかく、すぐそこに居るというのに……)

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーがすぐそこに居るのに会いに行けない。先ほどからずっと働いているアンデッドの精神抑制で酔いそうな気分だ。

 

「――アインズ様! アインズ様!」

 

 自分を呼ぶアルベドの声で正気に戻る。いつの間に来ていたのだろう?

 

「……どうした?」

 

「いえ、言われた通り守護者達をコロシアムの方に集めましたが?」

 

 そう言えば、アルベドに外から帰ってきた守護者達を第六階層にあるコロシアムに集まるように指示しておいたんだった。

 

「そうか、ご苦労。少ししたら私も向かう」

 

「畏まりました。……アインズ様」

 

「なんだ?」

 

「もしお悩みがありましたらアルベドに申して下さい。力になれるかは分かりませんが、できる限りの事はさせて頂きます」

 

 こうしてみると優しい。人間に対しての姿勢が嘘のようだ。

 

「その時は頼むとしよう」

 

 今は今後の策を考える時だ。アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーとナザリックの者達。双方ともに大事な物だ。だからこそ円満に事を解決したい。

 

(協力者が必要か?)

 

 守護者達を見るに創造者に対しては強い忠誠心がある。そうなると、自分にとって最高の味方になるのはあの者しかいない。宝物殿を任せているあの者しか。

 

(コロシアムに行く前に会いに行くか)

 

 アインズは、宝物殿へ向かうとする。自らが創りだしたNPCの下へ。

 


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