三人が行く!   作:変なおっさん

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第15話

 計画は実行される。ナザリックからエ・ランテルに戻り、ナーベと共にモモンはトブの大森林へと移動。陽が沈み、夜の暗さが現れる頃にアルベドが周囲の確認を行い、偽装する。そして、何食わぬ顔で、ンフィーレア・バレアレと共にエ・ランテルへと戻る。

 

「――そうだったのかい、ンフィーレア……」

 

「お婆ちゃん……」

 

 バレアレ商店には、ンフィーレアの祖母であるリイジー・バレアレが居た。どうやら、予定を過ぎても戻らないンフィーレアの事を心配していたようだ。今は、ンフィーレアの事を優しく抱きしめている。話によると、冒険者組合に捜索の依頼を出すところだったらしく危なかった。

 

「モモンとやら、心から感謝する。お主が居てくれなければ、ンフィーレアもどうなっていた事か……」

 

「私達は、トブの大森林からの帰りに偶然に会っただけ。人助けに関しては、特に感謝されるような事ではありませんよ。困っている方が居たら助けるのは当たり前ですからね」

 

 これは、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一人がよく言っていた言葉だ。カルネ村の時は、この言葉を思い出し助けた。後悔はしていないが、やり慣れない事はあまりするものではないと学んだ。まぁ。今回は違うが。

 

「モモンさんが居てくれて本当に安心したんだ……」

 

「そうかい……よかったのう……」

 

「どうやらお邪魔のようですね。ナーベ、私達は帰るとしよう」

 

「はい。モモンさん」

 

 家族の間に水を差してはいけないのでもう帰る。と言うよりも、自分達が居ては計画が進まない。

 

 モモン達がバレアレ商店から去り、ンフィーレアの様子が落ち着いた頃の事だ。ンフィーレアがリイジーにある話をする。

 

「そうだ。お婆ちゃん」

 

「なんだい、ンフィーレア?」

 

「僕を助けてくれる時にモモンさんがあの赤いポーションを使ってくれたんだ」

 

「赤いポーションを?」

 

 先ほどまでのンフィーレアを心配していた家族の顔から、一人の職人へとリイジーの表情が変わる。元々は、ンフィーレアがモモン達に依頼をし、その過程で赤いポーションの事について聞く予定だった。しかし、それは失敗した。代わりに別の冒険者に依頼をする事になった。内心では、どのようにして話を聞き出そうか考えていたリイジーにとっては、ンフィーレアの言葉は十分な魅力を持つ。

 

「助けてもらった時に少しだけ話をしてみたんだ。そしたら、この赤いポーションは知り合いの方が製作しているんだって。モモンさんは、それを幾つか貰ったみたい」

 

「あれを作りだした者が居ると。それで、他には何か言っておったか?」

 

「それが、お婆ちゃん……」

 

 ンフィーレアは、言い辛そうに顔を伏せる。

 

「何かあったのかい? 言ってごらん?」

 

「僕、その人の下に行こうと思うんだ。モモンさんが紹介してくれるって約束してくれたんだ。だから、行かせてほしい」

 

 リイジーは、考える。ンフィーレアがこういった事を言うのは珍しい。確かにそれだけの魅力のある話だ。なにせ、劣化しないポーションは薬師にとっては夢の産物だ。それを作りだせる者の場所で学ぶ事ができる。それは、エ・ランテル最高の薬師とまで言われるリイジーにとっても魅力的な話だ。

 

「ンフィーレアがそうしたいのなら止めはしない。行っておいで」

 

「ありがとう、お婆ちゃん! それと、もしよかったらお婆ちゃんも行かない?」

 

「ワシもか?」

 

「うん。僕がお婆ちゃんも興味があるってモモンさんに言ったんだ。それに、エ・ランテルでも最高の薬師だって。そしたら、本人が望むならって言ってくれたんだ。一緒に行こうよ」

 

 これには、リイジーも驚くが悪い話ではない。しかし、ンフィーレアはここまで積極的な性格だったか?

 

「魅力的な話だ。老い先短いワシにとっては最後の選択になるだろう。ワシも共に行こう」

 

「やった! お婆ちゃんと一緒だと嬉しいな」

 

「それで、ワシはどうすればいいのだ?」

 

「場所は、カルネ村になるんだって。あの場所は、トブの大森林から近いから研究の材料が手に入るあの場所を今は拠点にしてるんだって。準備ができたらすぐにでも来てほしいって」

 

「カルネ村? 確かにあの場所は、トブの大森林に近い。研究をするにはもってこいの場所だ」

 

「そうだよね。エンリも……ううん、なんでもない」

 

 顔を赤くして否定するが、ンフィーレアがカルネ村に居るエンリ・エモットに惚れている事は知っている。カルネ村は、トブの大森林で薬草を採取する時には必ず寄っている場所だ。

 

「これは、別の方でも期待できるのかのう」

 

「――もう、エンリとはそういうのじゃ……あっ、そうだ。それと、この事については秘密にしてほしいんだって。あくまでも赤いポーションの事は秘密。それが守れないなら今の話はなしだって言われたんだ」

 

「うむ。分からなくもないな。劣化しないポーションの事を知れば、ポーション製作に関わる者なら誰しもが師事を願い出るだろう。この事は隠しておこう」

 

 表向きはトブの大森林にある薬草の為にカルネ村へ工房を移す事にした。あくまでも赤いポーションの事は秘密にしたままで。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 これは、バレアレ家の問題を解決してすぐの事だ。執務室に戻った途端に報告があった。

 

「不審者?」

 

「はい。ンフィーレア・バレアレ、リイジー・バレアレの監視をしていたのですが家の様子を窺う者がおりました。今は捕らえて、ニューロニストが目的を調べています」

 

 ニューロニスト・ペインキル。ナザリックの五大最悪の一角である《役職最悪》の異名を持つ拷問官だ。誰かは知らないが今まで捕らえた者達同様、碌な目にはあわないだろう。

 

「そうか。あれから時間はそれほど経ってはいないが何か分かったか?」

 

「いえ、まだ何も。捕らえた者は、人間の女になりますが変わった物を持っていました。持ってきなさい」

 

 アルベドの言葉を受けて、控えていたメイドが金属製のプレートに何かを載せて持ってくる。どうやらその女が持っていた物だろう。いろいろとある。

 

「これは……冒険者のプレート?」

 

 最初に目についたのは、冒険者が身に着けるプレートだ。今は、カッパーのプレートを冒険者モモンとナーベが身に着けているがそれと同じ物だ。しかし、なんだこの数は? カッパー、アイアン、シルバー、ゴールド。多くのプレートが鎧に縫い付けられている。

 

「殺しが趣味なのか?」

 

 殺人鬼の中には、殺した者から戦利品を奪う者が居ると聞く。この者は、冒険者を狙う殺人鬼なのだろうか?

 

「それで、どれが変わった物なのだ?」

 

「こちらになります」

 

 アルベドが一つを拾い上げると、丁寧にアインズの手の上に載せる。

 

「《オール・アプレーザル・マジックアイテム》」

 

 アイテムを鑑定する中で上位の魔法。これで、詳細が分かる。

 

「叡者の額冠……確かに変わった物のようだな。これは、どうもユグドラシル由来の物ではないようだ」

 

 調べてみたところ面白い効果がある。大量のMPを消費する代わりに本来使えない位階の魔法を行使できるようにする物。仮に一般的な最高の位階である第十位階の上にある超位魔法で試したらどうなるのか? ワールドアイテムクラスの事でもできるようになるのか? 好奇心をくすぐられる物ではある。

 

「だが、使えないな。これを身に着けたものは自我を失うようだ。それに、使える者も限られている。あのンフィーレアなら使えるかもしれないが、あれには別の役割がある。しかし、ただの殺人鬼が持っている物としては不思議だ。殺した時に手に入れたのか? まぁ、いい。念の為に監視者を増やしておいたかいがあったな、面白い物を手に入れられた。アルベド、この者からは情報をできる限り集めろ」

 

「畏まりました。情報を集めた後は、どうなさいますか?」

 

「その時に考えるとしよう。冒険者相手に殺人鬼として働けるだけの腕があるんだ。もしかしたら価値があるかもしれない。仮にあったとしても大したものではないだろうが……この世界の人間だと言うだけでも価値はある。壊れてもかまわんが、殺すなとだけ言っておけ」

 

 やっと問題が解決すると思ったら新しい問題が。明日は、昇級試験があるというのに。

 

(いつになったら問題がなくなるのかな?)

 

 この世界に来てから問題だらけだ。アンデッドだから心労などで死ぬことはないだろうが、いい加減にしてほしい。

 


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