三人が行く!   作:変なおっさん

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第13話

 モモンは、ナーベからの《メッセージ》の魔法で連絡を受け、エ・ランテルへと舞い戻る。どうやら宿の方に冒険者組合の方から人がやって来たらしい。内容は、冒険者組合長であるプルトン・アインザックから話があるので至急冒険者組合へ向かうように、と。二人は、早速冒険者組合へと向かい、アインザックの居る部屋へ通される。

 

「初めまして、私がエ・ランテル冒険者組合長のプルトン・アインザックだ。君達の事は、いろいろと聞いている」

 

 簡単な挨拶を済ませ、向かい合うようにして座る。

 

「先ずは、幾つかの確認をさせてもらいたい。あのモンスター達は、君達が二人で狩ったのかな?」

 

「はい。私とナーベの二人で」

 

「そうか。随分と頑張ったようだな。質はともかく、あれだけの数となると大変だったろう」

 

「一日ほど掛かりました。トブの大森林にまで足を運んだのですが、終わり次第こちらへ」

 

「なるほど」

 

 アインザックは、モモンとナーベの顔を見る。話の最中に特に変化はない。嘘は言っていないのだろう。しかし、此処からトブの大森林まで往復で一日は掛かる。馬などを使えば別だが、二人が馬を利用している話は調べたがない。馬を借りた形跡も、預けた形跡もなし、怪しい。

 

「一つ聞くが、移動はどうしたのかな? 往復で一日程掛かるのだが?」

 

「企業秘密というものです。手の内を明かす気はありませんので」

 

「私は、冒険者組合長だ。それでもか?」

 

 アインザックは、心の内では少しだけ怒りの色が現れる。しかし、それは隠す。どうもこの二人からは、得体のしれない何かを感じる。元ではあるが冒険者として窮地を潜り抜け生還した勘だ。信頼はできる。

 

「組合長殿を信用していない訳ではありません。しかし、何処から情報が漏れるかもわかりませんので」

 

「場合によっては、君達の冒険者としてのクラスの判断材料になるが?」

 

「それでもです。他で十分に判断して頂けるものと考えていますので」

 

「……腕に自信があるのだな? でなければ、先日のような騒ぎは起こさないか。クラスを設けているのは、信頼を得るためだ。冒険者組合が信頼を得られたのは、依頼を確実にこなしてきたからだ。誰かの我儘で壊していいものではない」

 

「ええ、理解しています。信頼を築くのは簡単な事ではありませんから」

 

 どうやらただのバカではないようだ。身に着けている物も見た事が無いほどに素晴らしい物。何処かの世間知らずの貴族だと思っていたが違うようだ。

 

「クラスを上げるためには、昇級試験を受けてもらう事になる。それを、今回は特別に受けてもらおうと思うが、やってみるかね?」

 

「是非」

 

「そちらのナーベさんだったな。確か、第三位階の魔法を使えるとか? 嘘を吐くと今後困る事になるが本当なのかな?」

 

「ナーベは、第三位階の《ライトニング》を得意としています」

 

 ライトニングは、一直線の貫通する雷撃の魔法だ。本来ならそれよりも上が使えるが、一般的な実力者の使用できる魔法が第三位階の魔法なのでこのようにしている。

 

「では、後はモモン君の実力を知るだけだな。戦士としての実力を知るには、なにをすればいいと思う?」

 

「戦士として……」

 

 モモンは少し考えてから口を開く。

 

「同じ戦士と、戦うでしょうか?」

 

「そうだ。君には、上のクラスの者と戦ってもらおうと思う。まだ誰にするか決めてはいないが、最低でもシルバーで考えている」

 

 シルバー。少し足りないな。

 

「ミスリル級ではダメなのでしょうか?」

 

「本当に腕に自信があるのだな。残念ながら無理だ。わざわざカッパーの昇級試験の為に力を貸す者は居ない」

 

 それもそうか。格下、それも最底辺の人間の為に動くわけもないか。まぁ、上に行くきっかけにはなるな。

 

「それでお願いします」

 

「では、相手が決まり次第連絡をしよう。できれば、宿で待機してほしいのだが?」

 

「宿で待機ですか……」

 

 少し困る。予定だとそろそろエ・ランテルを出発しなければならない。本来ならトブの大森林の近くでバレアレと会う事になっている。エ・ランテル近郊だと人が居るので偽造がバレる可能性があるからだ。

 

「なにか困る事でも?」

 

「いえ、少し手持ちを考えていただけです。よく考えましたらモンスター狩りの報酬がありましたので問題はありません」

 

「では、決まり次第宿に使いを送る。君の戦士としての腕を楽しみにしている。懸賞金に関しては、下で受け取ってくれ」

 

 モモンは、アインザックと別れの挨拶を交わし、ナーベと共に部屋から出ていく。

 

「……さて、どうするか?」

 

 アインザックは、考え込む。実は、モモンとナーベが部屋に入った時から威圧感を向けていた。これでも元はオリハルコン級の冒険者だったのだ。その自分の威圧感にモモンもナーベも微塵も反応が無かった。

 

「何者だ、あの二人は?」

 

 話し通り、ギガントバジリスクの物が袋の中にはあった。ギガントバジリスクは、アダマンタイト級が担当するような相手だ。それをたった二人だけで……。

 

「確か、まだあの者達はこの街に居るのだったな。話によると、王都で戦士長と剣を交えたとか」

 

 王国戦士長であるガゼフ・ストロノーフの事は知っている。話によると負けはしたらしいが、あの者は冒険者組合が目を付けるだけの才能を持っている。前に見た時よりも実力をつけている事だろう。

 

「本当なら依頼を幾つか受けさせてから昇級試験を受けさせたかったが、いい機会だ。たっちの腕はゴールド級。成長していれば、更に上もありえる」

 

 アインザックは、たっち達が冒険者組合に顔を出したら自分の所に来るように従業員に申し付けて置く。突如現れた二人組の実力を知るために。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 大量の薬草を手に入れた三人と漆黒の剣は、予定とは違うが十分な儲けを得たので、エ・ランテルへ暗くなる前には戻ってきた。薬草を取り扱う組合に薬草を卸し、約束通り分け前を漆黒の剣が少し多めで分ける。その後は別れ、三人は念願の目的を果たした。

 

「ふふふっ、これこそが俺の真の姿」

 

 木製の山羊の仮面を身に着けたウルベルトが不気味に笑っている。わざわざ街の中だと言うのにフードまで被っているので衛兵に何度も職質されているが、当人はあまり気にしていないようだ。

 

「本当ならミスリルが欲しかったんですけどね」

 

「十分ですよ。私の装備を優先してもらいありがとうございます」

 

 たっちは、鋼鉄製の全身鎧を身に着けている。手には、買ったばかりの盾もある。ミスリル程の強度はないが、これで本来の戦い方ができる。

 

「三人パーティーですからね。前衛がたっちさんしかいないから仕方ないですよ。それに、俺も買いましたし」

 

 ペロロンは、砂漠の民が身に着けるようなターバンを被っている。今は街中なので顔が見えるが目元以外は布で隠す仕様だ。

 

 はっきり言って、たっち以外は完全に趣味だ。山羊の仮面は、特に魔法的効果はなく人目を集めるだけ。ターバンは、カッコいいから買っただけだ。

 

「でも、ウルベルトさん。そんな仮面、ラキュースさんに嫌われますよ?」

 

「別にいいんだよ。ラキュースさんの前なら外すから。これは、あくまでも冒険者……いや、偉大なる魔法詠唱者としての顔なんだからな。ラキュースさんの前では、ただのウルベルト。しかし、敵対する者にとっては畏怖の象徴となる物になる。ダークヒーローみたいでカッコいいだろ?」

 

「そうですかね?」

 

「私は、少しわかりますね。私も全身鎧を着ている時は、正義のヒーローだと思っていますから」

 

「男なら憧れるもんな!」

 

「ええ、本当に」

 

(あぁ、なんだか場違いな感じがする)

 

 今思うと、ウルベルトは悪として世界を変えようとした。たっちは、正義として世界を変えようとした。ある意味では、似た者同士なのかしれない。ただ、ダークヒーローと正義のヒーローは同じ立ち位置なのだろうか?

 

 傍から見れば変わり者の集団は、宿に戻る前に冒険者組合で依頼を確認しておく。

 

「すみません。シルバー級の依頼で何かいいのはありませんか?」

 

 まだこの世界の文字が分からないので受付嬢に尋ねる。この世界は、識字率が低いらしく読み書きができる者がそこまで多くないので不思議な光景ではない。

 

「……たっち様ですよね?」

 

 受付嬢になんだか変な目を向けられる。おそらく、後ろで控えているウルベルトの影響だろう。視線が行ったり来たりしている。

 

「はい。私に何か?」

 

「冒険者組合長からお話があるとの事です」

 

「私にですか?」

 

「はい。ご案内いたしますので、こちらで少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

 

 たっちの返事を聞いてからアインザックへ話を持っていく。その後、戻ってきた受付嬢の案内で部屋に通され、昇級試験の話を受ける。

 

「――つまり、私がモモンさんと剣で戦えばいいのですね?」

 

「そうだ。これは、相手もそうだが君達にとっても昇級試験になる。結果ではなく、あくまでも内容によるものなので頑張ってもらいたい」

 

「まさか噂の貴族様と戦う時がくるなんてな」

 

「漆黒の剣の皆さんの話だとデカい剣を持ってたんですよね? たぶん、馬鹿力の持ち主ですよ」

 

「それにおそらくだが、モモンは強い。ギガントバジリスクを同じチームのナーベと二人だけで倒せるほどにな」

 

「ギガントバジリスクは、確かアダマンタイト級の相手ですよね?」

 

「そうだ。だからこそ君に頼みたい。王国戦士長と戦った君に」

 

 たっちは、考える。石化の視線に対する対策を講じたとしてもギガントバジリスクに勝てるかはわからない。しかし、相手はこちらよりも一人少ないにも拘らず倒した。結果を素直に受け止めれば、相手は自分よりも実力は上だろう。

 

「勝負は、いつに?」

 

「モモンの方の都合もあるだろう。私の方でまとめておく」

 

「わかりました。私は、相手の方に合わせますので、いつでもかまいません」

 

「そうか。引き受けてくれるか。では、決まり次第使いを送ろう。頑張ってくれ」

 

 アインザックから差し出された手をたっちは固く握り返す。

 

「アインザックさん。その戦いって俺達は必要なんですか?」

 

「いや、あくまでもたっち君だけだ」

 

「だったら俺達は外していいですかね? 時間があるなら読み書きの勉強をしたいんですよ」

 

「そうですね。興味はあるけど、いい加減読み書きできないと不便ですからね」

 

「応援をしてくれないのですか?」

 

「俺達関係ないからな」

 

「そうですね。あっ、でも、ナーベって人は気になるかも。アインザックさん、美人でした?」

 

「話通り、美人だったな。いや、あれが美人なら今までそう呼んでいた人達をどう呼べばいいか分からなくなる」

 

「そんなに……いや、ウルベルト。お前には、ラキュースさんが居るだろ!」

 

「別にウルベルトさんのじゃないですけどね。んー、悩むなぁー」

 

「私の応援は?」

 

 たっちの事よりもウルベルトとペロロンは、ナーベの方が気になる。二人がたっちの応援をするかは分からないが、未知の相手との戦いが決まる。

 


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