三人が行く!   作:変なおっさん

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第12話

 気が付けば、トブの大森林にある拠点まで戻っていた。どう戻ってきたかはあまり覚えていない。

 

「どうかしたのお姉ちゃん?」

 

 心配そうにアウラの事を見るマーレの姿がある。

 

「ううん、なんでもない……」

 

 心配をかけまいと笑ってごまかすが、双子としてあるからか伝わるようだ。

 

「何かあったならボクに言ってよ。力になれるか分からないけど、頑張るから」

 

 マーレなりに励ましてくれているのだろう。拠点に居たシモベ達もそれぞれが力になりたそうに見ている。

 

「なにかあったのでござるか? これでも森の賢お――」

 

 アウラのシモベとなった森の賢王は、周囲からの視線に恐怖から口を閉ざす。アウラとマーレの会話を邪魔してはいけない。アインズが拠点の守護者として認めていなければ殺されていただろう。

 

「……ありがとう、マーレ。でも、本当に大したことじゃないの。さっきね、人間が森の中に居たの」

 

「人間?」

 

 別に不思議な事ではない。トブの大森林は、王国や帝国に住む人間にとっては重要な資源のある場所だ。多くはないが、毎日のように誰かしら訪れる。

 

「そう。でもね、不思議なんだ。人間なんだけど、なんだか懐かしい感じがして。至高の御方々と似た名前だったからかもしれない。しれないんだけど……」

 

 あの時感じた物をどう言葉にすればいいか分からない。特にあの中の一人には強く思うところがある。

 

「ペロロンって呼ばれていた人……凄く似てたの、ペロロンチーノ様に。ぶくぶく茶釜様と一緒に居た時のペロロンチーノ様に似てた気がする」

 

「そ、それって本当なの!?」

 

 これには、マーレも驚く。ぶくぶく茶釜は、アウラとマーレの創造者だ。そして、ぶくぶく茶釜には弟が居るのだが、それがペロロンチーノになる。至高の四十一人は、アインズを残して自分達の前から消えた。会いたい。会いたいが、もう二度と会えないと何処かで思っていた。しかし、もしかしたらその手掛かりがある。そう、思ってしまう。思いたい。

 

「うん。でも、ペロロンチーノ様じゃないと思う。声は似てたけど、人間だったし、弱かったから。それに、何も感じなかった」

 

 これは、至高の存在であるアインズもそうなのだが、ナザリックの者達には特別な繋がりがある。アインズ・ウール・ゴウンのギルドに所属しているシモベ達には、揺らめくような気配がある。至高の四十一人ともなると――今は、アインズだけだが絶対なる気配をまとっている。しかし、アウラが見た人間にはそれが無かった。だからどれだけ似ていても違う。

 

「そう、なんだ……残念だね」

 

 期待を裏切られた。心に暗い物が落ちる思いだ。

 

「でもね、興味はある。もう一度会ってみたい。会って話してみたい。そう思う。ねぇ、マーレ……あたしおかしくなったのかな? 人間にこんな事を思うなんて」

 

 どう答えたらいいのだろう。マーレは考えるが相応しい答えを見いだせない。偽物でも会ってみたい。そう思うのは、至高の御方々に対しての不敬だろう。それでもアウラがそれだけ思うのなら自分だって興味がある。無いわけがない。

 

「ボクじゃ分からないよ……誰かに相談してみようよ」

 

「相談? でも、誰にすればいいのかな?」

 

 至高の存在に関しては、アインズに相談するのが一番だろう。だが、至高の四十一人に何があったかを知らない。もしかしたら大きな何かがあったのかもしれない。その内容によっては、アインズの機嫌を損ね、自分達の下から他の御方々と同じように消える可能性すらある。考えれば考えるほど不安になる。

 

「デミウルゴス……デミウルゴスに相談してみる」

 

「デミウルゴスさんに?」

 

「他にも、たっち、ウルベルトって呼ばれていた人が居たの。もしかしたらデミウルゴスなら分かるかもしれない」

 

 ウルベルト・アレイン・オードルは、デミウルゴスの創造者だ。たっち・みーに関しては、セバス・チャンの創造者になるのだが、現在はアインズから下された任務の為に出かけている。それに、デミウルゴスは、至高の四十一人を除けば、ナザリック一の知恵者で通っている。デミウルゴスなら何か分かるかもしれない。

 

「うん、聞いてみよう。もしかしたら、何か分かるかもしれない」

 

 アウラとマーレの二人は、デミウルゴスの知恵を借りる為にナザリックへと帰還する。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 拝啓、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの皆様、お元気ですか? 私は、アンデッドになったので元気かどうかは分かりませんが胃に穴が空きそうな思いで過ごしています。もう、胃はないけど。今は、ナザリックの支配者として粉骨砕身の思いで頑張っていますがなかなか上手くは行きません。――敬具

 

「アルベド、もう一度報告を頼む」

 

「はい。カルネ村にて、ンフィーレア・バレアレとエンリ・エモットが接触を致しました。それで、アインズ・ウール・ゴウンとモモンが同一人物だと気づいたようです」

 

 エンリ・エモット。この世界で初めて接触した人間。正確に言えば、エンリの妹であるネムも一緒に接触した。初めて接触した時に怪我をしていたのでポーションを渡した。その時は、この世界でのポーションの効果を確かめる考えもあったのだが、どうやら世の中はなかなか上手くはいかないようである。

 

 現在、ナザリック地下大墳墓にある執務室にて、ンフィーレア・バレアレの監視をしていたアルベドから報告があった。どうやら二人は知り合いだったらしく、エンリが村での出来事をバレアレに話した。その話の内容に赤いポーションが出てきたのだが、確証はないものの村を助けたアインズ・ウール・ゴウンとモモンが同一人物ではないかと疑問を持ってしまった。アインズ・ウール・ゴウンの時は、魔法詠唱者として振舞った。モモンの時は、戦士だ。しかし、そんなものは未知のポーションの前では些細な問題のようで、バレアレの中では繋がったようだ。そして、バレアレの言葉を受けてエンリもそう思ったらしい。

 

「アルベド、お前はどう思う?」

 

「予定通り捕らえるべきかと。あの後も調べさせてみましたが面白い事が分かりました」

 

 ん? 何かあるのか? てっきり殺すべきです、と言われると思っていた。

 

「面白い事?」

 

「はい。どうやらあの者は、タレントを持っているそうです」

 

 タレント。この世界にある概念の一つだ。才能とは少し違う、生まれ持っての特殊技能のような物である。どうやらかなりの種類があるらしく、現在は魔法や武技、アイテムと共に調べさせている。

 

「どのようなタレントなのだ?」

 

「これは噂話になりますが、あらゆるマジックアイテムが使用可能との事です」

 

「あらゆるマジックアイテムが使用可能? それは、どの程度の物だ?」

 

「それは、まだ分かりません。ですが、役に立つと思われます」

 

「なるほど」

 

 程度にもよるが確かに面白いタレントだ。マジックアイテムの中には、使用者制限のある物もある。代表的なのはクラスの習得での使用制限である。他にもギルドの者でしか扱えないなどだが……興味が湧いてきたな。

 

「エンリ・エモットは、このままでかまわない。当初の予定通り、アインズ・ウール・ゴウンからの使いとしてルプスレギナ・ベータを使者としてカルネ村に送れ。他にも監視は付けておこう。あの者は、この世界で最初にできた繋がりのある村の者だ。利用価値はある。ンフィーレア・バレアレに関しては、私が魔法で洗脳しよう。確か、冒険者達が同行していたな? 適当に野盗の仕業にみせかけて捨て置け。物語はこうだ。野盗に襲われて逃げていたところをトブの大森林から帰る途中のモモンとナーベが発見し保護した。これで、一人だけの洗脳で済む。あれは、MPを無駄に多く必要とするから節約をしておきたい。あぁ、それと捕らえる時に姿などは見られるな。洗脳が解けたときに私達の事が知られる恐れがある。目隠しなどをして此処まで連れてこい」

 

「ナザリックに人間を入れるのですか?」

 

 ナザリック地下大墳墓は、異形種以外の立ち入りを固く禁じている。例外として、ギルドメンバーの妹であるエルフを入れた事はあるがそれ以外に前例はない。あぁ、一つあったな。捕らえた者は別だったな。今頃は、どうなっているかは知らないが。

 

「あくまでも安全に事を運ぶためだ。此処なら邪魔は入らない」

 

「アインズ様のお決めになった事ですので、私からは何も。ただちに捕らえさせます」

 

 アルベドは、バレアレを捕らえる為に部屋から出ていく。

 

(支配者って大変だなぁ……)

 

 愚痴を零すのも立場上難しい。そもそも誰に零せばいいのやら。愚痴を零している姿などを配下の者達に見せるのは支配者としては失格だろう。せめて、愚痴の零せる場所と人が欲しい。

 


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