三人が行く!   作:変なおっさん

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第11話

 エ・ランテルの冒険者組合にモモンとナーベが現れたのは朝と昼の中間ぐらいだろう。彼らが姿を現すと共に血なまぐさい腐臭のような物が組合の中を漂う。その臭いの元は、モモンが持つ大きな麻袋からだろう。それは、無理やり入らない物を押し入れたかのように窮屈に膨らんでいる。

 

「モンスターの部位を換金したい」

 

 モモンは、受付嬢の下に麻袋を置く。あまりの大きさに椅子に座っていた受付嬢の姿が隠れてしまう。

 

「……これが全てですか?」

 

 驚きのあまり言葉が上手く出ない。

 

「そうだ。探すのに手間取ってしまってこれだけしか狩れなかった。まだ地理にも疎く困ったものだ。なぁ、ナーベ」

 

「はい。モモンさんのお手を煩わすとは無礼な者達です」

 

 平然とモモンとナーベは口にする。しかし、組合に居る冒険者や従業員は未だに状況を呑み込めない。あれだけの大きな袋を満たすだけのモンスターを狩った? モンスターの部位はそれほど大きくはない。ありえない。彼らは、一昨日に此処を訪れたばかりなのだから。

 

「一つ尋ねたい。これだけの量になると換金までには時間が掛かるのかな?」

 

「……はい。お時間を頂く事になると思います」

 

「そうですか。それでは、また来るとしましょう。ああ、それともう一つありました。この袋の中には、ギガントバジリスクのもあります。確認なのですが、仮に依頼ではなく偶然に上のクラスが受けるようなモンスターに遭遇し、偶々狩るのは問題ではありませんよね? 今回は、カッパーらしく、ゴブリンやオークを狙いましたが二回程ギガントバジリスクに遭遇してしまいましてね。自衛の為に狩ってしまいました。もしダメでしたら謝ります。ただ、許されるのでしたら次回からのモンスター狩りの参考にしたいので危険なモンスターの居る場所を教えて頂きたい。それでは、私達はこれで失礼させて頂きます。いくぞ、ナーベ」

 

「はい。モモンさん」

 

 モモンとナーベは用件を済ませ、冒険者組合を後にする。その後、状況を上手く呑み込めない者達はそれぞれの考えを口にする。

 

「あいつらって、この前来たばかりだよな?」

 

「一昨日に見たが、依頼を探してたのは昨日だったぞ?」

 

「じゃあ、なにか? たった一日であれだけの量を? 話だとギガントバジリスクのもあるのか?」

 

 ギガントバジリスク。冒険者をしている者なら必ず聞く名前。最低でもアダマンタイト級の冒険者チームであたることを推奨されている魔獣。仮にアダマンタイト級だったとしても対策を講じなければ危険なモンスター。それを、たった二人だけで、それもカッパーのプレートを持つ冒険者見習いが? ありえないだろう。でも、一つだけ納得のいく答えもある。

 

「でもよ、言ってたよな? あのナーベとか言うのは、第三位階の魔法を使えるんだろ? あの戦士も同じぐらいだって話だし」

 

「そうだな。着ている鎧も相当なもんだ。あの背中に背負っている馬鹿デカい二本のグレートソードも冗談じゃないのなら……」

 

 第三位階の魔法を若くして使える実力者に一級品とも言える装備を身に着けている戦士。可能性はなくもない。

 

「――申し訳ありませんが、少しだけ此処を空けさせて頂きます」

 

 受付嬢は、自分では判断できない事態にエ・ランテルの冒険者組合長であるアインザックの下へと向かう。これは、冒険者組合が始まって以来の非常事態かもしれない。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 モモンとナーベは、取っている宿へと戻っていた。

 

(さて、首尾はどうかな?)

 

 冒険者組合に居た者達の表情を見るに少しやり過ぎたかもしれない。ただ、度肝を抜くという点だけでみれば合格点だろう。

 

「ナーベ」

 

「はい。モモンさーん」

 

 惜しい。さっきまでは上手く行っていたのに。

 

「予定より多くはなったが順調と言えよう。あの場に居た者達の表情から察するに、こちらの力を見せる事には成功した」

 

 昨日行われたトブの大森林でのモンスター狩りは、正直に言うと微妙な結果だった。と言うのも、冒険者チームモモンとナーベでモンスター狩りをしたのだがその際に制限を設けた。早い話が生命探知などモンスターを探す事のできる魔法やスキルの禁止。当然、アウラからはモンスターの居場所を報告してもらわない。他にも、魔法やスキルに頼らずに相手に気づかれないように行動する。チームでの戦い方の確認と練習など、今後を考えていろいろと試した。その結果、予定していたよりも時間が掛かり、多くのモンスターを狩る事になった。

 

「だが、ナーベ。冒険者モモンとナーベには多くの課題が残った。チームワークに関しては、まぁ……仕方がない部分があると思う。状況にとっては、ナーベが私に指示を出すこともあるのだが無理は言わない」

 

「申し訳ありません。モモン様に私程度が指示を出すなど……」

 

 指示と言っても何かあった時に「逃げろ!」「伏せろ!」「俺に任せろ!」とか言うぐらいだ。それでも至高の存在に指示を出すのには抵抗があるようだ。特にナーベは、馬鹿正直なまでに真面目で不器用だ。二人だけなので周囲に気を使う必要もないから油断でもしているのだろう。もう、様付けしている。

 

「戦闘においては、不敬などと思わなくてもいい。初めは、確かに問題が起きる事がある。指示の出し方や内容によっては相手に与える印象も違うものになるだろう。だが、それを乗り越えた先に真のチームワークがある」

 

 そう、あるのだ。初めは、喧嘩もした、ムカつきもした。だが、最終的には何も言わなくても仲間が思い通りに動いてくれた。チームワークとは、言葉にしなくても伝わる物だと思う。

 

「必ずやモモン様の御期待に応えてみせます!」

 

「うむ。これからに期待するぞ、ナーベ」

 

「はい!」

 

 いい返事だ。やる気に満ちている瞳だ。後は、結果が付いてくるのを待つだけか。

 

「しばらくは、此処で待機する。冒険者組合での換金が終わるまでな。もっともそれだけで済むとは思えんが」

 

 あれだけ実力を見せたんだ。少しは、何かしらのアクションがあるはず。そうでないのなら同じことをするだけ。仮になにもなくても金は稼げる。

 

「では、私は一度ナザリックに戻る事にする。なにかあれば、すぐに連絡を寄越せ」

 

「畏まりました。モモン様」

 

 此処は、ナーベに任せ《ゲート》の魔法で作りだした門を潜り、ナザリック地下大墳墓に帰還する。冒険者モモンからナザリックの支配者であるアインズに戻り、支配者としての仕事をするために。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

「フンフンフーン」

 

 アウラは、トブの大森林の中を木々に飛び移りながら移動していた。昨日のモンスター狩りで、モンスターの生息場所に変化があったのでそれを調べる為だ。

 

「まだ居るけど、この辺りからはだいぶ居なくなったかな」

 

 モモンとナーベの存在に気づいた者達は、逃げるようにして移動した。アウラは、それを知ってはいたが、あくまでも護衛がお仕事だったので見逃すことにした。

 

「――何か聞こえる? この声は……人間?」

 

 アウラの耳に人間の声が届く。距離はまだまだあるが、アウラの耳はそれを捉える事ができる。

 

「んー、様子だけ見ようかな?」

 

 トブの大森林に来た人間には手を出さない事になっている。問題を起こして、森に注意が向くのを避けるためだ。例外として、拠点に近づいた場合は殺すか、捉えるかする。これらの判断は、アウラとマーレが一任されている。

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

「これは、いい場所を見つけたのである」

 

「これだけあれば、モンスター狩りの分にはなるな」

 

「よかったですね」

 

 ウッドワンダーに教えてもらいながらウルベルトとニニャが薬草を採取している。未開の地である為に手付かずの群生地を見つける事ができた。これまで採取した分を含めると相当な稼ぎになる。

 

「ペロロンさん。そちらはどうですか?」

 

「んー、何もないかな?」

 

「ルクルット。こっちは?」

 

「いや、何もないな」

 

 三人を守るように囲み、たっちとペロロン。モークとボルブで分かれて森の様子を見ている。

 

「結局、なにもありませんでしたから森へと入りましたが……なにもいませんね」

 

「そうですね。こんな事は初めてです」

 

 たっち達と違い、漆黒の剣はエ・ランテルを拠点としているのでトブの大森林には足を運ぶ機会がそれなりにある。しかし、この状況は初めてのようだ。

 

「ペロロン。油断するなよ」

 

「するわけないでしょ。ニニャちゃんが居るんだから」

 

 口ではふざけている二人も緊張感から額から汗が止まらない。何かあれば、自分達が先に気づかなければいけない。そうでなければ、この視界がまともに取れない足場の不自由な場所で未知の敵と戦わなければいけないかもしれないのだから。

 

「ふーん」

 

 そんな彼らを木の上から眺めている者が居る。

 

「至高の御方々と似た名前なんて人間の癖によくないよね……」

 

 声がした場所に来たアウラは彼らの様子を見ていた。此処に来るまでに、「たっち」「ウルベルト」「ペロロン」の名前が聞こえたからだ。もしかして至高の御方々が? そう思うと、胸が高鳴るのを抑えきれなかった。普段よりも速く動いたかもしれない。少しでも早く確認したかったから。しかし、声の場所に辿り着いて見たものは、至高の存在ではなかった。それどころか、下等な人間だった。

 

「どうしようかな……アインズ様の御命令だと見逃すことになるんだけど……」

 

 問題を起こさないように手を出さない。この世界のモンスターに殺されるのなら仕方がない事だが、こちらから手を出してはならない。でも、自分の期待を裏切ったことは許せない。許せるわけがない。どれだけ会いたいか、会いたいと思っていたか。もう会えないと思っていた。でも、名前を聞いた時に、声を――その時、アウラの頬を何かが触れる。

 

「――えっ……」

 

 それを確かめるように頬に触れてみる。水だ。雨は降っていない。なら、なにが?

 

「……泣いてるの? あたし?」

 

 今も流れるそれは、アウラの目から流れている。

 

「……なんで? なんでなんだろう?」

 

 腕で何度も涙を拭う。しかし、涙が止まる事はない。

 

「期待を裏切られたから? ……そうじゃないの? なんだろう……なんだろう……」

 

 訳が分からない。あの人間達を見ていると、声を聞いていると涙が止まらなくなる。胸が苦しくなる。記憶の中にある何かを思い出しそうになると、涙がより流れ、胸の苦しさも強くなる。

 

「分かんない……分かんないよ……」

 

 感情が抑えきれない。涙も止まらない。胸も苦しいまま。初めての物に戸惑う、戸惑うがどうしていか分からない。

 

「――そろそろ引き上げましょう。これだけあれば十分です」

 

「そうですね。あまり長居はしない方がいいでしょう」

 

 人間達が帰り支度を始める。

 

「……居なくなっちゃうの?」

 

 アウラは、思わずそう呟く。

 

 人間達は、アウラが悩む間も動いている。そして、少しずつだが遠くへと、アウラの下から遠ざかっていく。

 

「あたしは……どうすればいいの?」

 

 追いかける理由が見当たらない。なぜか必死になって考えるが、追いかける理由が見つからない。

 

 アウラは、何もできずに人間達を見送る。ただ、見送る。その後ろ姿を。

 




この作品では、性格にカルマ値を考慮してやって行こうと思います。
いつ、誰に、何処で、どうやって出会うかでルートが決まります。
会う順番も重要になるので正直に言えばどのルートになるか自分でも分からない。
全ては書いている時の気分です。

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