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描写があるわけでは無いが、えっちいのが嫌いな人は不快感があるかも。
夏の盛り。
艦娘をこんがりとローストしていた太陽もようやく引っ込み、夜風が海から陸へ涼しさを届けてくれる時間帯。
この時期はかの枕草子で夜がオススメされているが、陽炎もそれに賛成だ。
もちろん月の頃、つまり満月が良いというのも。
――だって、魚が釣れやすくなるし。
駆逐艦寮からほど近い、海を照らす常夜灯の下。
ビニールの魚籠にエアレーション(水槽に入れるブクブク)をセットした陽炎は、暗闇の中に竿を出した。
仕掛けはサビキという、何本もの針が付いた数釣り用のもの。
針には魚の皮を乾燥させた偽物のエサが付いていて、それで魚を騙して釣り上げるのだ。
狙うのはアジだが、手のひらサイズのサヨリやイワシ、それにサバなんかも釣れる。
「夜風に吹かれながら釣糸を垂らすというのは、なかなか風情がありますね」
横では甲型という括りでは姉妹艦になる夕雲が、フフと微笑んでいる。
元から陽炎には無いある種の色気を持つ夕雲だが、それが月明かりのおかげでよりいっそう醸し出されていた。
彼女は陽炎が連れ出した。
近頃に建造されたばかりの駆逐艦に、先輩として悪いことを教えてやろうと思ったのだ。
「そうね。これでお仕事でなきゃ、良い趣味と言えなくもないんだけど」
今日の悪いことは、アルバイトだ。
報酬は間宮羊羮が丸1本ずつ。
陽炎は陽炎型の長女として取引材料がいくらあっても困らない。
夕雲は夕雲でこちらも長女な上に最近ようやく姉妹が揃ったから、やはり何かと取引材料が必要なはずだ。
そんなわけで夕雲を伴った陽炎は鳳翔に雇われ、えっちらおっちら防波堤までやって来て、主力艦たちのお酒のお供にする魚を釣っているのである。
「よし、釣れた釣れた。群れが回ってきたみたいね」
引き上げた竿には小アジが3匹。
サビキ釣りは回遊性の小型魚が対象なため、そこに魚さえいれば必ず釣れるという初心者向けの釣法なのだ。
上手い人になると100匹は当たり前で、運がよければ300とか400なんていうとんでもない釣果になることすらある。
「よっと。今度は2匹か。もっと鈴なりに釣れないかしら」
「ううん、陽炎さんは上手ですね……。こちらはさっぱりです」
「夕雲はね、竿の煽りが足んないのよ。仕掛けを沈めたら竿をグイグイって2、3回煽って、撒き餌を出してやらないとね」
彼女たち夕雲型はどこかお淑やかで真面目な娘たちが素体になっているせいか、ギンバイはしない商売はしないギャンブルはしないで駆逐艦娘らしくない。
なにしろ「待機のときは部屋で何をしているのか」という質問に「じっとしています」と答えた前科のある娘たちだ。
もちろん釣りだってしたことなど無いのだろう。
竿の扱いはとてもぎこちない。
陽炎なんて釣りどころか訓練にかこつけたボカチン漁までやって、その成果を町で交換し物資を調達していたことすらあるのに。
「こう、こんな感じでしょうか」
言われた夕雲が竿を立て煽った。
仕掛けの半ばにセットされた小さな網篭から撒き餌のサバミンチが少しずつ零れて、周囲から魚をおびき寄せる。
そしてその中に疑似餌のついた針が踊って……小さな魚影が口を開けて襲い掛かった。
「あっ……あっ……ぶるぶるしますっ……!」
「良し。まだ上げちゃダメよ。最低でも2匹は掛けてからじゃないと、もったいない」
サビキ仕掛けに針がたくさん付いているのは、そのためだ。
仕掛けを何度も投入することなく数を釣るために、1匹掛かっても次が掛かるまで引き上げてはいけない。
そうやって手返しを少なくすることが、結果的に大きな釣果へ繋がるのだ。
「あっ……でも、凄く元気がよくて」
「我慢すんの。すぐに慣れるから」
「あぁっ! また、また来ました!」
「良いペースね。もうちょっと頑張って」
「んぅっ……あ、また! ちょっと強すぎます!」
「上手くやれば6匹は来るわよ」
「あぁっ……凄いっ……奥に、奥に持っていかれそう……!」
「じゃあそろそろいこっか。ゴリゴリしちゃって」
リールを巻くジェスチャーをして見せると、夕雲は大きく頷いた。
さすがに小型魚とはいえ5匹も6匹も掛かっていると重いのか、顔を赤くしてリールのハンドルを回し始める。
「んっ……うんっ……しょっ……」
「がんばれ、がんばれ」
陽炎にとって夕雲は、艦型としては違うものの類型としては同じ甲型駆逐艦の妹にあたる。特型駆逐艦で例えるなら、吹雪にとっての暁のような関係だ。
そんな妹の初めての釣りなものだから、陽炎の応援にも知らず熱が入っていた。
「あっ……やだっ……ゴツゴツしてます……!」
「がんばって竿を立てんのよ! あんまり擦られたら切れちゃうからね」
「んっ……あんっ……あぁっ! 何か、何か来ました!」
「もうちょっと、もうちょっとだから」
「これならいけそう……いきますっ!」
言うなり、夕雲が竿をぶっこ抜きにした。
常夜灯の光をばらばらに反射した水しぶきが暗闇の中で白く煌き、白銀の魚体が宙に踊る。
サビキ仕掛けには、アジが7匹も掛かっていた。
8本針のものだったから、ほとんど全部が埋まっていることになる。
「やった、凄いじゃない夕雲!」
「はぁ……はぁ……これも陽炎さんのおかげですね」
「ん? もっとおだてても良いのよ?」
「もう、陽炎さんたら」
ドヤ顔をかましてやると、夕雲がケタケタと笑った。
いつもの夕雲型長女として余裕のある微笑みではなく、年相応に自然と破顔している。
これを切欠として駆逐艦らしい「悪さ」を覚えてくれると良いと、陽炎はそう思った。
○
購買や酒保の入った建物の一階部分。
昼間は普通の軽食コーナーなのに、夕暮れと共に小料理屋へと変貌する店。
居酒屋、鳳翔。
これは正式名称ではないが、空母娘の鳳翔が切り盛りしている艦娘向けの士官クラブなために、いつしかこう呼ばれることになった。
開店は鳳翔の都合次第で閉店は消灯時間なため、一部で幻の居酒屋とも言われている。
「あらあら、大漁ですね。これは頑張らないと」
陽炎と夕雲の二人が胸を張って突き出した釣果は、合計で100匹あまり。
それを見た鳳翔が驚きに一瞬だけ目を見開くほどだ。
内訳はアジがほとんどで、イワシがちらほら。サバは無し。
サバは防波堤から遠いところや港の外を回遊していることが多く、普通のサビキではちょっと釣りにくいのだ。
「そうだ。二人とも、アルバイトの延長をお願いしても良いかしら。お料理の手伝いをしてもらいたいのですけれど……もちろん、ご褒美は出しますよ」
可愛らしく小首をかしげる鳳翔だが、彼女に逆らえる駆逐艦……いや、艦娘など存在しないだろう。
ましてや報酬はきちんと出るのだ。
否やなど、ある筈もない。
「「アイアイ、マム!」」
揃ってしゃちほこばりながら敬礼すると、鳳翔はおかしそうにクスクス笑う。
そうしてから二人の頭を撫でた。
何だか気恥ずかしいが、振りほどくわけにもいかない。
これが愛宕なら話は別なのだが……。
「駆逐艦の娘たちはあまり店に来てくれないから交流は少ないのですけれど、これは愛宕さんがお姉ちゃんになりたいなんていうのも、解る気がしますね」
いやいやいや、それは解ったらダメなやつです。
心の中でそう言い放っておいて、鳳翔を見上げる。
「それで、手伝いと言っても何をすれば良いんですか?」
「さすがにこれだけあると時間がかかってしまうから、魚を捌いて欲しいんです。あと、衣を着ける係もお願いしてしまおうかしら」
「あの、私はあまりお料理をしたことが無くて……」
「あれ? 訓練学校でやらなかったっけ?」
不安げな夕雲を見て、陽炎は首を捻った。
たしか訓練学校では一応だが炊事や調理も教わったはずだ。
もっとも、本格的なものではなく緊急時の応急的なものが多かったが。
「私達夕雲型のころは、もう促成訓練に切り替わっていましたから」
戦況が思わしくなくて、訓練学校の卒業が6ヶ月も早まったのだ。
そうなると最低限のことしか教わらないから、戦いに必要でない教科はどんどん削られていくことになる。
料理もそれに含まれていたのだろう。
「なるほど……ではなおさら、お手伝いをしてもらった方が良いですね。料理は覚えておいて損は無いですよ」
「そうそう。急にほとんど無人の泊地に送られたら、自炊しなくちゃいけないんだし」
陽炎はリンガのことを思い出す。
あそこは提督と二人の艦娘以外は本当に誰もいなくて、まるでキャンプのように皆して交代で料理をしたものだ。
「そうですか……では、ありがたく頑張らせて頂きます」
むん、と鼻息荒く決意を表明した夕雲を見て、陽炎は呆れた。
ちょっと肩に力が入りすぎている。
横では鳳翔が小動物でも見るような柔らかい目つきで、またクスクスと笑っていた。
○
アジを天ぷらやフライにするとき、たいていの場合は背開きにする。
まずアジには尻尾の付け根辺りにゼンゴとかゼイゴとか呼ばれる鎧のように硬い鱗があるので、それをしっかり削ぎ落とす。
そうしたら頭を落とし、背中から包丁を入れてお腹で繋がるよう切り開き、中骨を切り落として、肋骨の辺りの小骨も削いでおく。
あとは流水で洗ってキッチンペーパーなどで水分を拭き取れば完成だ。
小アジとは15センチくらいのサイズを指すから、それを捌いてしまうと本当に手のひらと同じくらいの大きさになるのだった。
「なかなか手際が良いですね」
「えっ!? えぇまぁ、これでも料理は結構得意なので……」
カウンターの向こうから手元を覗き込んでくる高雄に、愛想笑いを返す。
言えない。
ボカチン漁で入手した大漁の魚を捌き冷凍倉庫の隅っこで凍らせた、冷凍アジフライを売りさばいた経験があるなどとは。
あのときは町の食堂と取引をして、同じ重さのアイスクリームを入手したものだ。
「夕雲さんは、鋭意努力が必要ね」
「あう、申し訳ありません」
翻ってこちらは、鳳翔の指導の下で悪戦苦闘中。
陽炎の捌いたアジに塩コショウをし、片栗粉を全体に塗し、小麦粉と卵の溶液を塗し、パン粉を着ける、という工程なのだが……。
慣れない作業のためか指先がパン粉でびっしり。
このままではアジフライより先に夕雲フライが出来そうなほど。
もっとも、それはそれで需要がありそうな気もするが。
「まさかお姉ちゃんにお料理してくれるなんて思わなかったわ」
「駆逐艦の手料理……胸が熱いな!」
この人たち限定で。
既にカウンターも座敷もかなり埋まってきている上、陽炎と夕雲が手伝いしているのを見て仲間を呼びに行った戦艦や空母のお姉さま方が戻ってくれば、更に客は増えるだろう。
だから陽炎は、必死になって魚を捌く。
今日のアジは小さいから、1皿に3匹が乗る。
ということは33皿か34皿程度の注文で全部がなくなるというわけだ。
そしてその程度の量なら、主力艦が全員1皿を注文するだけで売り切れとなる。
要するに、100匹を全部捌かなければ仕事は終わらないというわけだ。
「ひえ~!」
「あ、ちょっと陽炎! それは私のセリフですよ!」
座敷席のほうで比叡がプリプリ怒っているが、気にしている余裕は無い。
「釣れたてアジフライ」と銘打たれた本日のオススメメニューは、ひっきりなしに注文が入るのだ。
おかげで陽炎は、血まみれで魚を捌きまくった。
生臭さが染み付いて、当分は取れないような気がした。
○
カウンター席の隅っこで、ぐでんと突っ伏す陽炎と夕雲。
ようやくお手伝いから解放された二人は、息も絶え絶え赤疲労。
陽炎は作業量の多さに、夕雲は慣れない料理と雰囲気に、それぞれ目を回しながら頑張ったのである。
「ご苦労様でした」
そんなねぎらいの言葉が鳳翔の口から出たのは意外と早く、あれから1時間ほど後のこと。
1900前後に魚を届けに来たのだから、今は2000を回らないくらい。
途中、満席になったころから鳳翔自身も魚を捌くのに参加したため、早く終わったのだ。
「ではこれが、延長の分のご褒美ね」
コトリと音を立てて置かれたのは、本日のオススメであるアジフライが乗った白い皿だ。
陽炎が苦心して開いた身は狐色の衣を纏いカラリと揚げられていて、フライに特有のちょっと饐えたようなラード臭さが、逆に食欲をそそる。
「うわぁ……!」
「い、いいんでしょうか?」
戸惑う夕雲を尻目に、陽炎は瞳を輝かせた。
釣りたての揚げたてで、しかも腕は一流の鳳翔が調理したものだ。
ある意味で最も贅沢なアジフライである。
こんなもの、提督ですら食べられないんじゃないだろうか。
「いいのいいの。でも、他の駆逐艦には内緒ですよ」
鳳翔が人差し指を口に当て、パチリとウィンク。
話では結構な年上のはずなのに、可愛らしい仕草も似合うのだから恐ろしい。
「それとこれは、愛宕さんから」
取り出されたのは、キンキンに冷えたサイダーだ。
主力艦のお姉さま方ならビールだったのだろうし、頼めば駆逐艦にもビールを出してくれる鳳翔ではあるが、さすがに愛宕の奢りではアルコールを勧めたりはしない。
「ありがとうございます!」
頭を下げる夕雲に対して、陽炎は半目でじとりと愛宕を見つめる。
「そんなにみつめちゃいやん」
「これは疑いの目です」
「お姉ちゃんの何が疑わしいのかしら」
「奢りにかこつけて、夕雲にお姉ちゃんと呼ばせようとしてませんか?」
「してないわよう」
「じとー」
「もう、陽炎ちゃんは反抗期ね」
「それはないです」
冷たいわぁ、と泣真似をする愛宕をばっさりと切り捨て、陽炎は割り箸を手に取った。
せっかくの揚げたてだ。
冷める前に食わねば女が廃るというもの。
「「いただきまーす!」」
同じ考えに至ったのだろう夕雲と同時に手を合わせ、アツアツのアジフライにかぶりつく。
1匹目はまずウスターソースだ。
タルタルだのマヨネーズだのは後でいい。
まずは香辛料がピリピリに効いたソースでガツンと一発くれてやらねばならぬ。
もちろん、カラシだってたっぷりだ。
「あちっ! はふ、ほふ」
衣をザクリと食い破り、今にもほぐれそうなホクホクの身へと歯を突き立てる。
脂の強い青魚たるアジの魚の旨味。
揚げ油に使われたラードの獣の旨味。
ウスターソースにこれでもかとぶち込まれている果物や野菜、そして香辛料。
全てが渾然となる。
「っつ、効いた~!」
嚥下するころになって、カラシの香気が鼻にツンと抜けた。
思わず涙目になるが、それも乙。
ここですかさずサイダーを流し込み迎撃してやるのが陽炎流。
「ぷ、はぁっ」
「いやぁ、良い食いっぷりに飲みっぷり。こいつは将来が楽しみだね」
「言っておきますけど、陽炎ちゃんを酒盛りに引っ張り込んだら、いくら軽空母ノンベーズでもさすがに許しませんからね」
「えー! せっかく仲間が増えると思ったのになぁ。硬いこと言うなよぉ」
「だめです」
横で隼鷹と愛宕が言い争いを始めるが、知ったことではない。
陽炎にとって最大の目標は、待ち構えている2匹目だ。
今度のアジフライには目先を変えて醤油をかけよう。もちろん、レモンも忘れずに。
こいつは油切れの良い上手に揚げたフライにしか使えず、下手なフライだと醤油が油に撥ねられて不味くなるが……。
しかしそこは鳳翔さんのこと、心配などあるはずもない。
「ん、おいし」
魚には醤油である。
ウスターソースが全体を楽しむオーケストラ的な旨さだとしたら、醤油はアジの旨さを楽しむソロパートだ。
醤油のしみ込んだ衣という調味料でもって、中のアジを食うスタイルである。
焼魚とも煮魚ともちがう揚げ物だけが持つ食感の軽さと醤油のさっぱりした味わいで、陽炎の食欲は留まるところを知らぬ。
「おい、誰か赤城を止めろ!」
「加賀さん、離して! 私は今から釣りに行くんです! もっとアジを食べるんです!」
「落ち着いてください赤城さん。今から行っても、もう時間が遅いです。明日一日使って、根こそぎにしましょう」
「加賀さん……! 素晴らしいアイデアね!」
「さすがに気分……食欲が高揚します」
「おい、明日はこの二人を一歩も鎮守府から出すんじゃないぞ」
何だか生態系が危険になりそうな会話が交わされているが、それでも陽炎には関係が無い。
今もっとも大事なのは、最後のアジフライ。
これにはタルタルソースをたっぷりと。
さすがに3匹目ともなると少々冷めているが、タルタルソースというのはフライが冷め始めて肉汁が落ち着いた頃にこそ力を発揮する。
「これこれ……はむっ」
オーケストラにソロパートときて、最後のタルタルソースはミュージカルだ。
冷めてくると生臭さの出てくる海鮮のフライだが、タルタルソースはそれを打ち消し旨さへと変換してしまうシステムを持っている。
黄身の濃厚さと、刻み込まれた野菜やピクルスの爽やかさがそれだ。
ひたすらに濃い味わいが、最後を締めくくるのにふさわしい。
「はぁ、美味しかった……」
「もう食べてしまいました……」
美味しいアジフライを一気に食い終え、呆然状態の駆逐艦娘。
そんな二人に魔の手が忍び寄る。
「陽炎、夕雲。明日は私と赤城さんに着いてきてもらいます」
「いやいや、こっちが先に酒盛りへ招待しようと思ってたんだよぉ」
「お酒はダメです! 陽炎ちゃん、お姉ちゃんはゆるしませんからね」
「加賀たちについていくのもダメだからな!」
怪獣カガモンと怪獣アカギンの食欲コンビや、軽空母ノンベーズのリーダーたる隼鷹からのお誘いであった。
もちろん、当然のように秘書艦の愛宕たちに阻止されているが……。
ともかく、これで夕雲もだいぶ「悪さ」を覚えただろうし、主力艦のお姉さまたちに顔を売ることも出来ただろう。
これを活かせるかどうかは本人次第だが、今日のいじらしさを見る限りはそれも大丈夫。
遠くない日に「甲型の姉と妹」から「陽炎型と夕雲型の長女同士」へと関係が変わるときが来る筈だ。
陽炎は少しの寂しさと多くの期待を胸に、夕雲を眺める。
加賀と隼鷹に腕を引っ張られ大岡裁き状態の彼女は、困ったように陽炎を見つめていた。
(とはいえ、まだまだ妹でいいわよね)
苦笑した陽炎は、二人を引き剥がすのを手伝ってやることにした。