Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
それでも、楽しんでいただけたら幸いです。
「…ようこそ少年、久しくだな。初めましての少女もいるようだから改めて自己紹介しよう。――――私は言峰綺礼と言う」
神父としての態度で士郎に接する我が父親。相変わらず、愉悦を感じている目と笑みは薄気味悪い。が、これでも私の恩人で義理の父親なのだから割り切るしかない。
「それでは衛宮士郎、君が最後のマスターと言う訳だな?」
「待てよ。言っとくけど俺はマスターになるつもりなんかないからな!」
「ほう?…我が娘よ。そう言う事か?」
「…ええ。私からの説明じゃ不十分だから連れて来たの。桜にも話を聞いてもらうつもりで。できればリタイアしてもらいたいのだけど」
「…そうか。ならば聞こう、衛宮士郎。どんな手違いがあったにせよ、君は聖杯が選んだマスターだ。聖杯を手に入れればどんな望みも思いのままだと言うのに…それを知りつつ何故戦いを拒む?」
この義父は・・・私が聖杯を壊そうと思っているのを知っている上でこの台詞を吐くとはホント悪趣味だ。そこまでして士郎を引き留めたいのか、さすが愉悦部だ。
「だって可笑しいだろ!聖杯がどんなものだったとしても、そのために殺し合いをさせるなんて」
「殺し合いを恐れる、か。魔術師の言葉とも思えんな。うちのクロナも覚悟の上で参加する事を決めたぞ。魔術師たるもの何時でも命を懸けて戦う覚悟をしておかねばならない。だが君はただの腰抜けだったようだ。…もう既に四回も聖杯戦争は起こり、そしてどれもが終決していると言うのに、な」
「違う!別に俺は逃げ出したい訳じゃ無い。ただ、俺は聖杯なんて欲しくないし得ようとも思えない。戦う理由が無いんだ。ただ、桜とクロ姉が戦うって言うなら手伝うつもりだ。放って置けないからな」
「それはどうかな?」
我が弟らしい言葉を述べる士郎に、父さんは腰の後ろで腕を組み歩み寄って来る。それは何所か愉しんでいるような笑みだった。…この男は何処まで愚かなのか、と。
「…どういう事だ?」
「考えてもみろ。聖杯はどんな願いも叶えるのだぞ?マスターの中には私利私欲に目がくらむ者もいるだろう。名声を得ようとする者もいるが、大半はそんな連中だよ。この聖杯戦争に参加する輩はな。そうだろう、間桐桜」
「そんな…私は…」
「君はあのご老体のために聖杯を得ようとしていたんだろうが、彼は不老不死を成就するためならばどんな手段でも使っていただろう。それこそ、この冬木市を犠牲にする事ぐらいはな。…さて衛宮士郎、問題だ。そんな連中が好き勝手に聖杯を使ったらどうなると思う?」
「え……それ、は…」
気付いたのか、ハッと顔を呆けさせる士郎。…そう、そんな魔術師たちが聖杯を手にしたならば…
「答えは簡単だよ。今も言った間桐のご老獪の様に、魔術師と言うのは目的のためなら手段を択ばない連中だ。まあそれがうちのクロナが魔術師を嫌悪する原因でもあるのだが…話を戻そう。君は知っているかな?ここ最近、この新都でガス漏れ事故が多発しているだろう。事故と報じられてはいるが、真実は違う」
「…まさか」
「そう。アレはマスターの仕業と見て間違いないだろう。恐らくはアサシンかキャスターか…人の魂を喰らわせれば霊体であるサーヴァントをより強くすることができる。人の命を何とも思わない、そうした輩が実際に聖杯を狙っていると言う事だ」
「俺の知らないところで、既に無関係の人達が巻き添えに・・・?」
長椅子にドカッと倒れ込む士郎。興奮が解けた、かな。私と桜もその後ろに座ると、父さんは言葉を続けた。
「もう一つ教えて置こうか、少年。先程も言ったように聖杯戦争は今回で五度目となる。本来の聖杯戦争は60年経つたびに行われるのだが、前回の聖杯戦争はちょうど10年前に行われた。今回の聖杯戦争はイレギュラーの様な物だ」
「10年前…だって…?」
「ッ…!」
反応する士郎。嫌な思い出からか身を震わせる桜。…抑えろ。怒りを抑えろ、ここで怒りを覚えても何にもならない。父さんは士郎にわざわざ教えてくれているんだから、止めるな。
「あの時、愚かなマスターの手によって・・・無関係の市民に大量の被害を出す大惨事が引き起こされたのだ」
「え…ま、待て」
「まだ人々の記憶にも、君達の記憶にも新しいだろう」
「待てよ…」
「そう、あの死者数百人を数えた未曾有の大火災。衛宮士郎、君とクロナが巻き込まれ全てを失ったあの火事だ。覚えてないかね…?」
「…父さん!」
我慢ならなかった。士郎の静止の声を聴き入らず焦らす様に、士郎と私にわざわざあの記憶を呼び覚ます様に言葉を唱えた義父に私は黒鍵を向ける。これ以上、聞けるか。言わせるか。いくら恩人でもそれ以上は許さない。
「ふむ…クロナ、落ち着きたまえ、彼にも真実を話さねばならない、そうだろう?」
「確かに士郎にも知る権利はあった。でも、知るのは私だけでよかった。あの地獄を、思い出さなくてもいいように。父さん、いくら貴方でもこれ以上私達の記憶を悪戯に開こうとするなら許さない」
「やれやれ、実に恐ろしく強く育ったものだ我が娘は。落ち着け、今私にそれを向けたところでどうにもならんだろう。君が剣を向けるべきは魔術師だろう?」
「…」
その通りだ。言い返せなくなった私が黒鍵をしまい椅子に座りなおしたのを見て満足したのか、さっきから顔を俯かせている士郎に問いかける父さん。
「…さあどうする?衛宮士郎。もちろん、これだけ知ってもまだ戦いを拒むと言うのならばそれもよかろう。誰だって我が身は可愛い物だからな。…ちなみにだが、クロナが言っていた通り君と間桐桜にはここでリタイアする権限がある。その後は我が教会で保護し聖杯戦争が終わるまでの間その身の安全を約束しよう。無理にこの戦いに参加する必要はない。どうかね?」
「ふ・・・ふざけるな!俺は
士郎の言葉に、私と桜の身が震える。ああ、やっぱり士郎は衛宮士郎だと。桜はおずおずと挙げようとしていた手を下ろし、憧れの先輩の決意に震えた。斯く言う私もだ、・・・私は全てを奪った魔術師への復讐を選んだのに、士郎は他人を守るために立ち上がった。ここが私と士郎の一番の違いだろう。私としては、他人がどうなっても構わない。だから士郎の言葉が眩しかった。
「10年前の悲劇をまた繰り返させる訳にはいかない!そのためならマスターにだってなんだってなってやる!」
「…私もです。逃げるつもりはありません、ライダーのマスターとして戦います」
「…だってさ、父さん?」
士郎に続く桜。ああもう、この二人は…眩しすぎる。自分が惨めになる、私とは違うこの後輩達は凄い。
「それでは、衛宮士郎を最後のマスターと認めよう。今ここに、聖杯戦争の開幕を宣言する。各自が己の信念に従い、思う存分競い合え。…喜べ少年、君の願いはようやく叶う…!」
「…どういう意味だよ?」
「そのままの意味だ。君の望む正義の味方と言うのはだな、明確な悪の存在なくしては成立しえない。だからこそ君は望んでいたはずだ、人々の生活を脅かす悪の登場を!」
その言葉に、ショックを受けたかのようにふら付く士郎を桜が受け止める。…この父親は、衛宮切嗣への鬱憤を息子の士郎で…でも止めれない、言っている事は多分正しいから。
「皮肉なものだな。誰かを救いたいと言う思いは同時に・・・その誰かの危機を望む事でもあるのだから。正義の味方になりたいと言うのは、そう言う物だよ。少年、よく考えその願いを存分に叶えるといい…!」
愉悦。この神父は、聖職者らしからぬそんな感情を乗せた笑みを士郎に送った。私と桜は士郎を庇う様に一緒に教会から出て行く。
「…父さん、また後で話がある」
「何時でもよいとも。頑張れクロナ、応援しているぞ」
「…どの口が」
最後の笑みは愉悦も何も感じない、清らかな笑みだったがそんなはずがない。あの義父が、言峰綺礼があんな笑みを浮かべるはずがない…これまでも、そしてこれからもきっと。
「マスター?どうしましたか、顔色が…」
「大丈夫だ、アーチャー。ちょっと気分が悪くなっただけだよ」
私達の姿を見るなり、駆け寄ってくるアーチャーに士郎は任せ、私と桜はライダーの元に向かう。
「ライダー、大丈夫だった?」
「問題ないわ、やっぱり非戦地帯である教会にまで乗り込んで来ようって馬鹿は居ないみたい。それよりもクロナのサーヴァントの気配を感じないのが気になるかな」
「霊体化して回復しているから当り前」
『…士郎も参加する事にしたんだね』
エルメスの言葉に全員で振り向くと、其処にはアーチャーに手を差し出す士郎の姿が。アーチャーはきょとんと首をかしげている。
「アーチャー。俺はこの戦いを見過ごせない、だからマスターになることを受け入れた」
「戦うと、決めたんですね…」
「ああ。ちょっと頼りないマスターかも知れないけど、これからよろしく頼む」
「…はい、
握られる手。…正義の味方として、何と言われようとも人を助ける事を選んだか。茨の道だと思うが、私の歩む道も人の事言えないからしょうがない。
「そっか。お兄ちゃん、戦う事に決めたんだ。じゃあ行こうセイバー、私待ちくたびれちゃったわ!」
「ああ。イリヤ、君が望むままに」
戦って欲しくないクロナを余所に、戦う事を選んだ士郎と桜。一応これはセイバールート主体です、決して桜ルートでは(言い訳)
しかしこの神父、実に愉しそうである。クロナからしたらムカつく養父です。
次回こそセイバー戦です!因縁のアインツベルンを前にクロナはその怒りを解放する…!主人公TUEEEEE回になります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。