Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
今回は前回深手を負ったクロナVSランスロットの決着戦。一般人が英雄に勝つにはどうすればいいか。英雄に挑む一般人の話その二。真面目にシリアスですが、楽しんでいただければ幸いです。
「ッ・・・
一瞬の油断。バーサーカーの腕を盾として身に着けていたからこその油断から、非情の一撃が私の左腕を切断した。
「ああ、うああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛‼︎」
初めての体験だった。四肢の欠損。バーサーカー・・・アスラが何度も何度も、
しかし、一瞬意識が飛んだ。痛い、痛い、痛い、イタイ、イタイ!意識が戻ってすぐ、喪失感と激痛が津波の様に襲いかかってくる。ああ、またこれだ。人間が抱く当り前にして原初の欲望。怒りに我を忘れて尚、完全に怒りに捧げていないからこそ抱く、情けない想い。
――――嫌だ。死にたくない。私はまだ、死にたくない。
――――いや、私は、こんなところで死んだら行けない。
――――見捨ててしまった弟の為にも、生きなければいけない。
――――私は、二度と負ける訳には行かない。
死にたくないなら、全てを燃やせ。怒りを滾らせ、魔力を溢れさせ、この世界全てを焼き尽くせ。目の前に落ちている『私』を、命を燃やせ!
「
「まだ、立つか」
右手で目の前に落ちている自分の左手を掴み、瞬く間に燃やしてそのまま自身の左腕にくっつける。ジュゥと肉の焼ける音と激痛が襲いかかって来るが、まだ切り離されて数秒だ。間に合って然るべき。
「
何とか、繋がった。神経、魔術回路、血管も全て接続している。骨は微妙なラインでずれているかもしれないけど、それでも一応指も動く。痺れというか火傷で痛いけどそれはしょうがない。付け根の部分から炎が漏れている上に切断された部分が黒ずんでいるけど、大丈夫のはずだ。
今、この左腕は「私の体」ではなく、常に触れている「物体」になった。怪我の功名、私は転んでもタダじゃ起きないんだ。
「
「
放たれる光の斬撃を、小指から肘までかけて刃に改造した左腕で防ぎながら突き進む。さっきの、私のアスラの腕を切断した一撃は恐らく、アロンダイトに過負荷を与えて籠められた魔力を漏出させ攻撃に転用したモノ。いくら魔力があろうとそう何度も放てる物じゃない。エクスカリバー程じゃない光の斬撃ならば、防げる。
「何と言う無理を・・・Arrrrrr!」
「正気なのか狂気なのか。いや、私と同じで半狂乱状態か。行くぞ・・・ッ!」
左腕を背後に向けてググッと勢いよく伸ばす。すると瞬く間に炎に包まれ、手から異形の姿、五本の鉤爪と化した手から肘前まで繋がり赤く焼けた鎖に変わったそれは、遠心力を伴って勢いよくランスロットに向かって突き進む。イリマージュ・エルキドゥで捉えられないのなら、直接あの剣に斬られない様に捉えるしかあるまい!
「
「Arrr・・・!?」
放たれたそれは、ランスロットの振るったアロンダイトを迂回して避け、その手首を掴んだ。これで自由にアロンダイトは振り回せないだろう。鉤爪が食い込んでいるからそう簡単に離す事も出来ないはずだ。
私の改造魔術は、元々の質量に
グレイプニルとはフェンリルを捕縛し繋いだ足枷であり、ドワーフ達の手で猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液と言ったグレイプニルに使ったためにこの世に存在しなくなった物から作られてる。だから私の左手の部位でイメージするのは割と簡単だった。実物は王様に見せてもらったことが無いから知らないが、私の改造魔術は士郎の投影と違い、隅々までイメージする必要はない。私だからこそできる、最大の一手だ。
・・・凄まじく痛いけども!痛覚まで元に戻さない方がよかった!骨とか血とか肉とかを常時磨り潰して伸ばしている状態なのだ、痛くないはずがない。それでも耐えるしかない。捕えろ・・・!
「Arrrr!」
「はっ・・・!?」
ぐん、と引っ張られ、私はすぐ傍の建物の外壁に頭から叩き付けられた。失念していた。例え今の私の左腕が絶対逃さない魔法の紐でも、それを支える私の肉体は何の強化もされてないし重くも無い。筋力Aだ、こうなる事は分かっていたはずなのに。
「ぐぅぅ・・・離すものか・・・」
離したら終わりだ。またアレが振られたら今度こそ真っ二つだ。この固有結界内で、さらに腕だけだから何とかなったけどさすがにそれは不味い。とにかく地面を改造した鎖で脚を縛って縫い付けて、引っ張られるのを防ぐ。
何か、突破口は・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば、何でランスロットは振りほどこうとするだけで直接殴って来ない?いくら剣士とはいえ狂戦士だ、拳で来てもいいだろう。・・・そうか、もしかしてさっきの令呪は・・・ならば、勝機はある!
「・・・剣、振れないでしょ?」
「Ar!?」
「さっきの令呪。全力の剣で私を倒せとかそんなところだっけ?剣以外で戦う事ができないんじゃない?」
「・・・よく分かりましたね。私の受けた令呪は聞いただろう・・・
「・・・英雄なら、それぐらい抗えってのも無理な話か。バーサーカーだもんね」
・・・でもおかげで、突破口は見えた。意地でも剣を使わせなければ、相手はろくに攻撃も出来ない!・・・・・・いや、私もメインウェポンは弓だからあまり攻撃できないんだけど。バーサーカーの腕で殴るぐらいだろうか。効きそうにない・・・何か、何か使える物は・・・!
「・・・標識?」
視界に入ったのは、よく見る「止まれ」の標識。私が引き摺られている道路のすぐ脇に立っている。私にとっては、かつて日常の象徴だった光景の一つだ。焼けてちょっと焦げているけど・・・これは、使えるか・・・?
「
右手をかざし、炎で包み込んで地面に突き刺さった大弓に改造。何とか弦を片手で引っ張り、袖から五本の黒鍵を取り出して一纏めに改造、以前エミヤが見せたカラドボルグⅡにして引き絞る。・・・私の左手に当てない様に狙い、放つ!
「
「Ar!?」
あの鎧を貫いて、内側から爆散させる!それなら確実に勝てるはず・・・しかし私は失念していた。彼も、片手が空いていた事に。
「Arrrrrr!」
「は!?」
ランスロットはすかさず左手で落ちていた石を手に取り、投石。何と、宝具でもないそれでこちらの矢を弾いて爆発、撃ち落としてしまった。・・・宝具って逸話の具現だから別に使わなくてもできるんだよなぁ・・・これだから英雄様は・・・勝てる気がしない。というか近くに枝とか武器になりそうなものがあったらこんな鎖すぐ外れそうだ。
「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」
「引いて駄目なら押してみろ・・・ッ!?」
引っ張っていたら埒が明かないと見たのか突進してくるランスロットに、私は飛び退くが引っ張られて足が地面から抜け、まるでチェーンハンマーの如く宙を舞い、再びビルに叩き付けられて意識が遠のく。駄目だ、放したら駄目だ。そしたら、今度こそ真っ二つにされて終わる。
――――死んでも放すな、死なないために・・・!
「あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛‼︎」
思いっきり叫んで気を取り直し、倒れ様に右手で地面を撫でつけ、それは焼け付く大地の蛇となってランスロットに襲い掛かる。しかしランスロットは、私以外は剣を使わなくても倒していいとばかりに拳で粉砕。
なおも私から解放されるために右手を振り回し、私はそのたびに叩き付けられて骨が折れ、肉が潰れ、血管が千切れ、意識がどんどん保てなくなっていく。まさに狂戦士、まだ私が生きているのが奇跡と言っていい。
・・・いや、何でサーヴァントの筋力Aで振り回されて私はまだ原型を保っているんだ。・・・それは、まだ彼が私に対して手加減していると言う事じゃないのか。自分から狂化を受け入れているからかある程度足掻けるのか。というか、間違いなく令呪も働いてるな。誰だか知らないけどランスロットのマスターめ、しくじったな。その隙を突けば勝機はある・・・!
「があ!?」
再度叩き付けられ、意識が混濁したところに今度はハンマー投げの様に振り回され、私はビルに頭から叩き込まれて頭が埋まり、そのままビルが倒壊して行き、私はその瓦礫の中にドシャッと崩れ落ちる。咄嗟に右腕で頭を庇い、意識を失うのを阻止した私は、ランスロットが私の意識が消えて解放されるのを待っているのか止まったのを確認。何とか這い出し、ランスロットの視界の端に落ちていたゴルフバッグに近付いて、中からそれを引っ張り出す。
・・・セイバーのフックショットを見て思いついた戦法だけど、やるしかない。とにかく、生き残る。それが先決だから・・・!
「縮め・・・
ジャラララー!と凄まじい勢いでグレイプニルは私の左腕に螺旋になって戻って行き、私はその勢いのまま右手に握った赤い大剣に火を灯して突きの形で構える。行くぞ!
「夜を彩れ、
「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」
「アーサーアーサー五月蠅い!吹き飛べ!」
「Ar!?」
勢いのままにランスロットの腹部に突き刺し、私は殴り飛ばされるがその瞬間に起爆。炎で迂闊に触れる事が出来なかったそれが大爆発を起こしたことでランスロットは私が再び伸ばしたグレイプニルに繋がれたまま宙高く舞い上がる。そうだ、体格、体重、怪力に影響されないこの状態を待っていた!
「空中じゃ身動き取れないでしょ?これでッ!終わりだァアアアアアアアアアッ!」
「Arrr・・・!?」
燃えているのも構わずグレイプニルをマフラーを巻いて剛腕に改造した右手で握り、渾身の力を持って振り下ろす。自身の体重も合わさり何もできずに急降下したランスロットは、そのまま頭から地面に叩き付ける・・・!それだけじゃ、勝てない。だから…
「唸れ、
足裏の下に意識を集中、以前の記憶を思いだし一瞬で骨組みを組み立てる。イメージするはアサシンに与えた最強の一撃。ランスロットが叩き付けられる瞬間、地面が隆起して巨大な拳の形を取り、それが私の動きに合わせて振り抜いた一撃が真正面から炸裂。以前と同じく燃えたアスファルトが下の大地ごと変形した物だ。フルアーマーの鎧も来ている分、アサシンの時よりも威力は絶大だろう。
「Arrrrrr・・・!」
「なっ!?まだ・・・なの・・・?」
しかし大きく吹き飛ばされたランスロットは、それでも立ち上がり宝剣を構える。そして私がグレイプニルを慌てて引っ張る一瞬の隙を突き、一閃。光の斬撃を飛ばして私の横のビルをいくつもの瓦解に変えた。不味い・・・!?
「ッ!?」
地面に落ち、バウンドして来た小さい瓦礫が、グレイプニルに逆に引っ張られて動けなかった私の右腕に運悪くぶつかり、嫌な音が響く。骨が、ついに折れたらしい。苦痛に呻いたところをランスロットに綱引きの様にグレイプニルを引っ張られて引き摺られ、体勢が整わない私を引き寄せるや否や宝剣の腹で後頭部を殴られ、暗転。
意識を取り戻した時には、ランスロットの手からグレイプニルが解放され、アロンダイトが振り上げられていた。・・・とどめの瞬間か。感じる時間がゆっくりになる。走馬灯の様に、これまでの記憶が浮かんで行く。そして思い出すのは、この死地に飛び込む瞬間の事。
―――――「・・・行ってくる!」
ああ、そう言った。死んでも勝つって、そう
―――――死んだら行けない理由が、また一つ増えたな。
考えろ、この一瞬に。長い長い一瞬に、生死の境で生をもぎ取るための手段を考えろ。
「・・・
右腕の感覚は無い。マフラーを巻いたところであの一撃は防げない。左腕はまだ、グレイプニルのまま。懐の黒鍵は持てない。それ以外の武器が入っているゴルフバッグは遥か彼方。コートはもはや原型を保っていない。・・・この条件で、この円卓最強の騎士に勝てる方法、それは・・・
「・・・
振り下ろされる、断頭台の刃。訪れる死の瞬間、私は死力を振り絞る。
「・・・・・・正々堂々、」
「不意討たせてもらう!」
「Ar・・・!?」
瞬間、ランスロットの動きが止まる。そして、その手からアロンダイトが零れ落ちると共に血飛沫がその背中からブシュッと噴出、溢れだす。そして、その左胸から鉤爪の付いた私の左手が飛び出した。
「ッ!?・・・
「……Ar……thur……」
力なく倒れ行く円卓最強。私がしたのは、簡単な事。たまたま遠くまで伸びていたグレイプニルを、全速力で回転も加えて突撃させ、彼の霊核を突き破ったのだ。例え鋼の鎧とて、どんな物質でも「捻じる」力には弱い。ドリルの様に回し、鎧に穴をこじ開けた。とどめの一撃という、完全な隙を突いた一撃は、大英雄を屠る事に成功した。
「・・・・・・私ももう、動けない、かな・・・」
今ので完全に体力を使い果たした。固有結界が解けて行く。この左腕は現実世界でも自由に動くか、それは分からないけど。少なくとも、もう私は士郎達の力になる事は出来ないだろう。
「幸運のランク、高いのか・・・まさか、最後の最期まで令呪の命令を完遂するなんて・・・不忠の騎士、なのにね・・・」
あまりにも、目を覚ました時点で手遅れだったのか。力尽きた彼の落とした宝剣は、そのまま私の腹部を貫いていた。これは、無理だ。実感する、私はもうすぐ死ぬのだと。
ああ、バーサーカー・・・もう私は駄目だけど、貴方なら多少持ちこたえるだろうからバゼットさん辺りとでも再契約してくれたらいいなぁ・・・
ふざけるなと、怒りの声が聞こえた気がした。それに応える元気は、もう無い。長い時間炎の中に居たのもあるだろう。激痛に耐えながら己の体を改造した反動もあるのだろう。
この戦いに置いて、私が生き残る可能性はどう考えても、アロンダイトで左腕を両断された時点で
そして。
黄金の星光が視界を塞ぎ、妙な安心感と共に目は閉ざされ、今度は走馬灯などを見る事も無く、私の意識はスッと、途絶えて行った。
クロナ渾身の一撃、完全オリジナル改造宝具
グレイプニルの見た目はフックの部分が鉤爪付いてる左手になったフックショットです。イメージ元はジャスティスハサン先生のザバーニーヤですが肘から鎖が伸びて付いているので絵面が酷いです。
途中のランスロットのキャラがブレブレで一部すまないさんになっていたけどアレでよかったのか。何気に幸運Bなのでこうした結果になりましたが、彼本人としては女を手にかけた訳だから不幸なんじゃないかな。
次回からクロナは暫し休み、士郎&アーチャーVSアルトリア・オルタとなる「♯43:遥か遠き勝利の剣製」をお送りします。クロナの影響を受けた士郎は、衛宮を恨む騎士王にどう挑むのか。
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