Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
クロナの過去がついに明かされる。これは、Zeroから始まる物語・・・楽しんでいただけると幸いです。
柳洞寺
「・・・ランサーがやられただと?」
自らのアサシン、百貌のハサンの女性人格の報告に目を見開く『M』。彼の計算通りなら今頃、クロナの手助けと言う建前でアサシンを始末して帰還しているはずのランサー・・・ディルムッドが敗北したと言う言葉が信じられなかったのだ。
「はっ。瀕死のアサシンと思われる少女とそのマスターをを始末しようと追った末、立ちはだかったバーサーカーに敗北。消滅を確認しました」
「・・・バーサーカーとの相性は最高のはずだぞ?何故負ける?」
「別視点の同胞の発言から敵アサシンの援護射撃があったようで・・・」
「ちっ。あのアサシンがバーサーカーに手を貸すとは。計算が狂ったな、これだから英霊共の思考は面白い」
その言葉を聞いて思わず戦慄する百貌のハサン。あろうことか、この男は我等英霊を相手にしてなおも「面白い」とほざく。それは何も分かっていないからではなく、逆に理解した上でそう嗤うのだ。
底が知れない、自分以外の全てがただ自分の興味を埋めるための道具。それが当たり前だと考える男。あまりに異質。この者なら、もしや"初代様”に狙われたとしても対処できるのでは…と思えるほどの得体の知れなさだ。正直、マスターじゃなければお近づきになりたくないタイプである。
「よしアサシン。奴等に動きがあったら伝えろ。残りの連中は"奴”の指示に従って置け。それが奴との契約だからな。あ、ついでにキャスターも見張って置けよ?記憶を引き継いでいるだけあって、あの女の存在を知ったらどうなるか分からんからな」
「奴とは…マスターがキャスター…ジルドレェのマスター権を譲り渡したあの者ですか?」
「安心しろ。お前等は手放さねえよ、俺はお前みたいな優良英霊は人様にあげねえんだ。それに奴にマスター権を渡したのはキャスターだけだ、ライダーも気が変わったら渡すかもしれないがお前とバーサーカー、セイバーだけは手放す気にはなれん。英霊が傍にいるってだけで奴へのけん制にもなる。お前も油断するな、心臓を摂られるぞ?」
「…重々承知」
そう言って去って行く百貌のハサンを見送り、『M』は奥の壁に背もたれて控えていたセイバーに目をやった。
「セイバー、お前はどうする?」
「私としてはキリツグの息子と娘を殺させてくれるならそれでいい。聖杯に興味はない」
「そりゃ結構。じゃあバーサーカーと一緒に門番でもしてるか?」
「黙れ。奴を突破するのは恐らく衛宮士郎が筆頭だ。待ち構えるのが道理だ」
「だな。じゃあ自由にしろ、だが何かあったらすぐに呼び出すからな。勝手な行動はするな?」
「令呪を持つ貴様に逆らう気はない。話が分かるマスターは実にありがたいな」
そう言って霊体化せず歩いて外に向かうセイバー…アルトリアオルタを見送りニヤリと嗤う『M』。彼個人としては苦手な一方、とある理由から最も期待しているサーヴァントであった。
それは、衛宮切嗣に対する復讐心。切嗣の令呪により最後の最期で自らの希望であった聖杯を破壊してしまった怒りと悲しみからの復讐心は、イリヤスフィールの抱いていた物以上にどす黒く燃え上がり、自分以外の王を選定し直すと言う願いさえも見失っている。
つまりは「衛宮黒名」と根本的に違う要因…彼女を殺害した衛宮士郎と言う存在の排除、という実験に最も適しているのである。若干令呪がトラウマになっている様ではあるがそれはそれで御しやすい。ライダーとキャスターとバーサーカー以外の面子が自身のマスターに恨みを抱いてそのまま顕現したのは誤算だったが、セイバーに限ってはいい誤算だった。
衛宮士郎を失った言峰クロナ、それがどう反応するのか。『M』はただそれが見たかった。ついでに自分達を捨て駒にした言峰綺礼に怒りを抱いている百貌のハサン達がどうするのかも見たい。『M』は百貌のハサン程使い勝手のいいサーヴァントはいないので、捨て駒にする気は毛頭ないと言う事から忠誠心を抱いているのもいい誤算である。言峰綺礼が居なくなったら言峰黒名がどう思うのかは未知数なので凄い見たいが優先すべきは衛宮士郎だ。策を練らねばなるまい。
すると、座布団に腰かけて目の前に横たわった間桐桜をどうしたものかと眺めていた『M』の背後で掠れた呻き声が上がる。それに気付き、振り向いた白衣の男は満面の笑みを浮かべた。
「おっ、起きたか。しっかしまあ…朝まで持つとはさすがの俺も驚いた。自身の宝具で縛られる気分はどうだ、英雄王」
「…
「いや。アンタは利用価値がある。役に立ってもらうぜ?」
そこには、
「アンタの変化にはさすがに焦ったがな?俺の
「慢心せずして何が王か。貴様程度に乖離剣はもったいない」
つまりは、真名解放すると見せかけて、そのままエアを剣として扱い切札殺しを打ち破った。ゲイボルクでさえも相討ちになってしまうそれを返り討ちにしてしまったのはさすがだが、如何せん相手が悪かった。
「だが、乖離剣をただ剣として扱ったのは駄目だったな。こっちには考えなしに突っ走るバーサーカーがいるんだ、そんな分かりやすい隙を突かない訳がない。セイバーも俺も面喰ってはいたがな」
今は門番をしている黒騎士の予想外の活躍に笑う『M』。それは信頼、ではなくただ単に役に立った、と歓喜しているだけだ。サーヴァント達に対する感謝など持ち合わせてはいない。そもそも道具に感謝する人間などいないのである。
「あとはバーサーカー相手の接近戦に手古摺っていた所にエクスカリバーの直撃。まあそれは鎧を犠牲にしたみたいだが、そんなチャンスさえあれば俺のブライでお前の支配権を拒絶して王の財宝の中からこれを盗み出す事は容易かった」
その手に握られた一見黄金の鍵の様な剣の柄に見える宝具、王の財宝を制御する「王律鍵バヴ=イル」を見せびらかし、懐に仕舞うと悔しげな表情を見せる英雄王に『M』は愉悦の笑みを浮かべた。王の許可なく持ち出す事はありえないそれを握っている男に怒りを隠しきれない黄金の王。よりにもよって自身の友に縛られるとは無様であった。
「邪魔はするなよ、英雄王。そしてそこで見極めな、言峰黒名の本質を。灰色でしかなかった女が白に染まるか黒に穢れるか、俺の実験の結果を見届けてもらうぞ」
「…
「ああ、それでいい。俺が欲しいのは、この中の宝具群だからな」
「なに?…まさか、あの狂犬に使わせる気か・・・!」
「ご明察だ。アンタを殺してしまったら使えなくなってしまう。アンタの言う狂犬は言峰黒名にとっては絶対に乗り越えないと行けない敵だ。全力で挑ませてやらないと失礼だろう?」
「………雑種よ。貴様の目的は一体何だ?」
その言葉に、白衣と穢れた白の外套を翻して狂気の医者は三日月の様な笑みを浮かべ、拳を構えた。
「何って?ただの実験さ。じゃあな、言峰クロナが来るまで眠れ英雄王」
そして、強烈な衝撃が頭部を襲い、ギルガメッシュはその意識を閉ざした。
「なるほど。確かに、そのスキルならアサシンの代わりになる。じゃあその黒騎士・・・恐らくは第四次のバーサーカー、ランスロットの搖動は私とバーサーカーでやるよ。その間に士郎達が突入、桜を取り返すって作戦で行こう」
イリヤから「作戦」を聞き終えた私は満足気に頷き、そう提案する。湖の騎士ランスロット。触れた物全てを宝具にする、王様の天敵とも言える狂戦士の相手はほぼ同質の魔術を有する私と無手で戦うバーサーカーにしか務まらないだろう。本来ならセイバーを選ぶべきだが、イリヤの作戦上それは無理だ。かといってバーサーカー一人を残して私が単騎で進んだら・・・間違いなく、私は『M』のキャスター相手で倒れる。その確信があった。
「ええ、それがベストね。でも、情報は確かなの?」
「王様から直接聞いたから間違いない。既にアーチャーとランサー・・・ディルムッド・オディナは倒しているから残りの戦力はバーサーカーのサー・ランスロット、ライダーのイスカンダル、アサシンの百の貌の翁、キャスターのジル・ド・レェ・・・!」
「そしてセイバーのアーサー・ペンドラゴンだろ、クロ姉」
ジル・ド・レェの名を怒りを抑えきれない様に叫んだ私を抑える様に付け加える士郎。それを聞いて一気に私の頭は冷えた。…やっぱり、どういう訳だが士郎は『M』の言っていた異世界の士郎が従えていたセイバーのサーヴァントである騎士王を知っているらしい。ここになって『M』の言っていた士郎の中にある鞘と、召喚されたアーチャーの謎を思い出す。…王様がどうせ知っているだろうし合流してから聞こう、そうしよう。
「士郎、知ってるの?」
「仮眠した時に会ったというかなんというか・・・?」
「は?貴方、アーサー王と会ったことあるの?」
「俺の中に鞘があるらしくて夢の中で…?」
「…はあ!?」
何か凛が驚愕して問い詰めているけど、私は別の事が気になった。…夢で、会ってる?それが士郎が一時的にでもエミヤや屍兵と張り合えた理由だとしても待て。私とて夢で見るのはバーサーカーの生涯だ。でも、何で士郎は鞘を持っているとはいえ召喚もしていない騎士王と夢で会えるんだ?…仮に敵に騎士王がいるとして、士郎の中の騎士王と同一人物なのか?
「なあクロ姉」
「え、あ、士郎?な、なに?」
「アーサー王・・・いや、アルトリア・ペンドラゴンの相手は俺とアーチャーにさせてくれ」
「…一応聞くけど何で?」
「仮にも俺の師匠だ。動きの癖は熟知している。…それに、俺が決着を付けなきゃいけない気がするんだ」
そう語る士郎の顏は真剣で。いつの間にか、大人になったんだなと、そう思った。
「分かった。恐らく相手の中で一番の強敵はセイバーの騎士王だ。気を付けて。…とりあえず、ランスロットは私が、騎士王は士郎がやるとして・・・残る強敵の征服王は・・・バーサーカー、任せてもいい?」
「おう。お前が怒りを抱く限り、俺は死なん」
「うん、信頼してるよ。…セイバーとイリヤは例の作戦を任せるとして、凛とバゼットさんにはコンビで戦ってもらうことになるけどいい?一応、征服王と出くわす途中まではバーサーカーと一緒に行ってもらうつもりだけど…」
「ええ。そうしてもらえると助かるわ。…まさか、貴女と共闘する事になるなんてね。一昨日は殺し合っていたと言うのに」
「はい。私も驚いています。ですが、あの男に借りを返さなくては消えて行ったアーチャー・・・エミヤに申し訳が立たない。よろしくお願いします、遠坂凛」
呆れながら隣に座る
「まだ私も傷が完全に癒えてないし肉弾戦は任せるわ。…てか何で貴方の傷の方が早く治ってる訳?」
「さあ…?」
恐らく、エミヤの中に残ったままと思われる鞘の影響がバゼットさんの中に少し残ってるんじゃないかと思います。重傷じゃなければちまちま回復してくれるみたいだし。
とりあえず、パーティは決まった訳だ。私は搖動、士郎と凛とバゼットさん、アーチャーとバーサーカーが突入部隊。そしてイリヤとセイバーが作戦実行部隊。…できればライダーとサモエド仮面に参戦して欲しい所だけど、
「桜の体力を省みて、作戦開始は今夜ね。じゃあ各自、それぞれの準備を整えよう」
そう締めくくると、全員肯定する。…ここに王様と父さんがいれば、と思うけどしょうがない。…父さんはともかく、王様はどうしたんだろうか。
「…それと士郎、またいくつか投影してもらえる?」
「俺はいいけど…遠坂、大丈夫か?」
「ええ。セイバーから緑のクスリ?を2瓶もらってるから大丈夫よ。…というかこれ、調合してるの?」
「ああ。アインツベルン城に保管されているアインツベルンの用意した素材でな」
このセイバー、万能である。赤いクスリは体力の回復、緑のクスリは魔力の回復、さすがに体力魔力をともに全回復させる高価な青いクスリと力尽きた時に全回復してくれる妖精はいないみたいだけど、それが入る空き瓶が四つあるんだ。士郎が投影している間にまた補充するみたいだし、正直敵に回さなくてよかったと思う。アインツベルンめ、とんでもないズル英霊を呼び出したもんだ。
「ちなみにセイバーだけど、時の勇者を提案したのは私よ」
「え、イリヤが?なんで?」
「本気で勝つためよ。最初はバーサーカーのヘラクレスを呼ぼうとしていたんだけど、さすがに馬鹿じゃないかと思ったから進言したわ。アーチャーなら最強のヘラクレスをわざわざバーサーカーで呼ぶメリットが思いつかないわよ」
「…もしそれが呼ばれてたらこうならずに一日で終わってたかもね」
「そうね。でも、セイバーを召喚してよかったと思ってる」
そう言って、イリヤはヒョイッと庭に出てくるりと廻り、こちらに笑顔を向けて来た。
「アインツベルンから解放されて、士郎達と一緒にいれるんだから。バーサーカーを呼んでいたらこうはいかなかったと思うわ」
「そうだね。私も、全力でマスター狙いで殺しに行ってた自信があるよ」
「あら、最初からそうじゃない」
「アインツベルン・・・というか御三家を中心にした魔術師が大嫌いだからね」
そう吐き捨てながら、替えのマフラーを編む私。今度の敵はこちらの武器を奪い取れる上に宝具にしてくる相手だ。万全の態勢で挑まなければならない。
「…ねえ、思ったんだけど…なんでそんなに魔術師を嫌悪しているの?」
「理不尽に、私から全てを奪ったから。それが赦せないだけ。でも、根っからの魔術師でなければ赦そうかなとも思い始めてる。全ての魔術師を滅ぼそうなんて傲慢が過ぎるからね」
嘘だ、本当はそう思ってない。ただ、士郎やイリヤを見逃す理由を作りたいだけなんだ。家族だからって、贔屓するのはそれこそ理不尽だろうから。私はやっぱり、大事な人以外の魔術師は滅ぼしたいんだ。…そう、今は味方の凛もだ。妹みたいなものだけど魔術師で在ろうとするなら仕方がない。
「へえ、そう・・・貴方、あの神父に引き取られる前は何て名前だったの?」
「……岸波。岸波黒名、それが私の元の名前。魔術師でもない、本当に普通の一般家庭だった」
「岸波・・・岸波、ね」
なにやら記憶から絞り出すように呟くイリヤに首を傾げながら話を続ける。…まあ不本意とはいえイリヤの生涯(?)を知ったんだし、教えないとフェアじゃないだろう。マフラー編む間の暇を潰せるし。
「父と母、それと一つ下の弟がいた。生きてたら、士郎達と同じ年だね」
「…やっぱり、第四次聖杯戦争の大火災で亡くなったの?」
「両親はね」
「両親はって…弟さんは?」
うん、まずそれを語らないと行けないか。今、エクスカリバーを投影しながら聞き耳を立てている士郎は元より、王様や父さんでさえも知らない私の弟の話。士郎は魔術師関係に巻き込みたくなかったからだけど、王様と父さんに話さなかったのは簡単だ。間違いなく愉悦案件だからだ。
「第四次キャスターと、そのマスターに殺された。…いや、生きながら殺された。私はそれを、見せつけられた」
「え…?」
「第四次キャスターのマスターは雨生龍之介。当時、冬木を震撼させた殺人鬼だった。…そんな男がキャスターを召喚して、まずやったのが…人体を使った作品作りだ」
魔術を使って生かし続け、内蔵やら骨やらを引き摺り出してそれを元に彼ら曰く芸術作品を作る快楽殺人鬼。私が涙ながらに聞いた時、何でもなさそうに答えたその理由は「普通の殺しに飽きたからモチベーションの低下を何とかするため」。そんな理由で、語るも悍ましい所業を笑顔でやってのけた外道。それが始まりだ。
「その標的に、私達姉弟が選ばれ攫われたんだ。まず、目の前で他の子供が解体される様を見せつけられた。そして半ば狂乱していた弟の番になった。変わり果てた姿になった弟を見て、次は自分だと思った私は弟を見捨てて、逃げ出した」
「それで?」
「工作に夢中だったアイツにはばれなかったけど、直ぐに私が逃げ出したことに気付いたカエル男…その時は知らなかったけど、第四次キャスターのジル・ド・レェに追いかけられたよ。笑顔でね」
何で魔術が解けたのかと訝しんでいたっけ。あまりにもショックだからだったからだと思うけど。
「泣き喚きながら逃げる事しかできなかった。そこで出会って、途中で諦めたジル・ド・レェの召喚したヒトデから助けてくれたのは・・・蟲だった」
「は?」
「正確には、蟲の大群を連れた白髪の男。多分、第四次バーサーカーのマスターだったと、思う」
「…間桐の魔術師か」
その人は、「爺に言われて見に来たけど」とか何とか言っていたけど、泣き喚く私を泣き止ませようと優しく撫でてくれた。あの間桐の魔術師とは思えない人だったけど、父さんから聞いた話によると一般人になろうとしていたけど桜のために魔術師になった人だったらしい。とにかく、何故だか私は父親の傍にいるかのように安心したんだ。
「そのまま、交番に連れられてその人は去り、私だけは両親の元に帰れた。でも、血塗れの私が殺人鬼やらヒトデやら言っても信じてもらえず、囚われていた場所も覚えていなかったから弟を助けに戻る事も出来なかった。…いや、あの時弟は生きていたけど、もう死んでいたと思う」
「…」
「その時の、逃げ出した私を見る弟の絶望した目が忘れられない。その時から、私は弟を見捨てて自分だけ助かった私を赦せない。理不尽を弟に与えた存在を・・・魔術師を、赦さない」
そして、私を救ってくれたあの人を殺した魔術師も…赦さない。何であんないい人が死なないと行けないんだ。魔術師何てものが存在するせいだろう。ならば、魔術師を滅ぼすしかない。
「その後、大火災に巻き込まれた私は、行方不明になった弟と狂乱した・・・と思われる私のせいで半ば廃人と化していた両親を見捨てて、自分だけ逃げた。そして生き延びたんだ。また、一人だけ」
士郎がいたけど、切嗣さんに救われたから違う。私とは、違う。それでも、同じ火災を生き延びた士郎を、弟と重ねる様になってしまった。だから、今度こそ私は見捨てない。
「…魔術師を恨む気持ちは分かったわ。御三家を憎悪するのは、理不尽の元になった聖杯戦争を生み出したから?」
「そう。だからイリヤも凛も、当初は桜も赦すつもりはなかったんだけど…正直、分からなくなった」
凛は魔術師だとは思えないし、イリヤは寂しがり屋だ。桜は父さんから事情を聞いて、魔術師の理不尽から救わなきゃと思ったんだ。恨む対象が消えて行っている事に、私は恐怖してるかもしれない。
「…今からでも、私を殺す?」
「それは嫌。大事な人は見捨てないって決めてるの」
そう言い終えた時、二つ目のマフラーが完成した。…うん、ちょうどいいし私は仮眠する事にしよう。少しでも温存しないと。
「じゃあ私、少し寝るから」
「うん。私は士郎を見ているわ」
イリヤから離れ、元々切嗣さんの物だった部屋に入り、適当に畳の真ん中に寝転ぶ私。…そう言えばここでイリヤを赦すきっかけになった手記を見付けたんだっけ。…そうだ、忘れてた。
「…起源弾、どうしようかな」
あの時、衛宮切嗣の屍兵にとどめを刺した時にとりあえず回収していた物だ。本当はキャスターのマスターにでも当てる気だったんだけど魔術回路が無いって凛は言うしなぁ…どうしようか本当にこれ。
「寝れないのか?悩みがあるなら話してごらん」
「…戦力外が何の用?」
するとそこにひょこっと頭だけ障子から出して現れたのは、未だに寝ているライダーの傍にいるはずの変態。私は真面に取り合わず、文句を吐き捨てるとサモエド仮面は朗らかに笑いながら部屋の中に入って来た。
「なに。乙女の会話を聞いてしまってね。ライダーの傍にいるのも暇になったんで」
「…言い訳いらずの変態ね」
「話は聞いた。本来なら君のサーヴァントが相談相手になるべきなんだろうが…まあ言わせてほしい。悩みを多く抱えていた人ほど、笑顔が絶えない」
「なに?私がへらへら笑っているのがそんなに辛く見える?」
これでも、心の底から笑っているつもりだ。私はどうやら自分の感情に正直らしいから。
「人は悩みを克服し、人に笑顔を向け、優しくなれる。君は自分が変わった事を嘆いていた。でもそれでいい、人は成長し続ける物だから。我々サーヴァントと違ってね」
「…私が悩みを克服したから、イリヤ達を赦す事ができたって?」
「そうとも。しかし、それでも怒りを収まらない…だから君は苦しんでいる。どうしようもなく辛いなら、投げ出してしまえばいい。持っているから、辛いんだ」
「簡単に言う…私には、それができないの。弟を見捨てたこの重責を捨てるなんてできない」
そうだ、背負うしかない。これは私に科せられた罰なんだ。そう思い直し、サモエド仮面を睨みつける。その顔は、へらへらとした笑顔だった。…こいつこそ、何か悩みを克服したからこんなに笑っていられるんじゃないだろうか。
「なるほど…どうやら私程度の言葉では君をその悩みから解放する事は出来ないらしい。やはりここは専門家に任せるべきだね。まあそれはそれとして、持っているから辛いのは本当だ。せめて、少し荷を軽くしたらどうかな?君には、私なんかよりも頼れる相棒がいるだろう?」
「…なんで、そこまで」
「いやなに。昔、怒れる少女に気付かず手痛い一撃を受けてね。…ま、トラウマ克服と言う奴さ。君は関係ないから安心したまえ。これで少しはぐっすり眠れるかな?だといいな♪」
そう言い残して去って行くサモエド仮面に、私は考える。…正義の味方なりに私を助けてくれようとしたのだろうか。とんでもないお人好しだ、ちょっと自己中なのがタマに傷だけど。…あれはきっと、泣いている人に迷うことなく手を差し伸べられる人種だ。士郎が見習うべき英雄だ。…変態な所は見習わないで欲しいけど。
ああ、少し疲れた。あんな戦闘の後に夜通し朝まで歩いたんだ、さすがに眠らないと・・・きつい・・・
そして、私はまた夢を見る。それは、自分達を滅ぼそうとする母なる星に挑む二人の英雄の物語。私が見習うべき、一人の
サモエド仮面かっこいいよサモエド仮面。サモエド仮面主役回は本当に好きです。そんな訳でクロナの背負う物が明かされました。つまりは士郎と似た動機。見捨てた自分だけ生き残ったからの重責がクロナの怒りの根源です。元より、魔術師に怒りを抱く士郎のような存在をイメージして作ったキャラです。
上手くフラガラックを攻略して見せたのに敗北し、よりにもよって自身の友に囚われてしまった英雄王。桜と一緒にヒロイン枠です。アルトリアオルタが『M』に従う理由も判明。その目的は士郎とイリヤの殺害による切嗣への復讐。クラスがアヴェンジャーでも可笑しくないけど一応セイバー。士郎が勝つ鍵は、もう一人のアルトリア・・・胸熱展開を上手く書いて行きたいです。
凛とバゼットのコンビってあまり見かけないですけど普通に相性いいと思います。エミヤと関係ある二人は絡ませるしかあるまい。
イリヤに自身の身の上を明かすクロナ。本名は岸波黒名、モデルはザビ子、つまり弟は・・・。さらに雁夜おじさんとの意外な関係。そしてイリヤの抱く懸念とは・・・?
次回、『♯41:騎士でなくても徒手にて死せず』柳洞寺に突入、今度こそ血戦開始です。感想や評価をいただけると励みになります。その前に特別回を入れるかもしれませんが、次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。