Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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いい題名が思いつかなかった。今回は前回の続きにして久しぶりのキャスター回。そしてサモエド仮面の株が上がる回。

それはそうとFGOのアガルタの女、始まりましたね。二日にも及ぶ長い長いダウンロード時間のおかげか念願の金アサシン、不夜城のアサシンGETしました。いつかクロナと絡ませます。

異例中の異例とも言える固有結界VS固有結界。聖杯「戦争」なんだからこれぐらいしようぜと言う事で。ちょっといつもより長いですが楽しんでいただけると幸いです。


♯39:皇帝VS征服王の真・聖杯戦争

戦争。それは本来、聖杯戦争の様な少人数が殺し合う物ではなく、軍隊と軍隊がぶつかる数の戦い。数こそ命。数が無ければ抵抗すらできず蹂躙されるが定め。

 

ある征服王は、己に惹かれた軍隊で宿敵が率いる一万騎兵と戦った。

 

ある皇帝は、己が軍隊に対抗するべく亡者の群衆を召喚した冒険者と戦った。

 

 

戦争とは数だ。数を持つ英霊の聖杯戦争での強さは凄まじいの一言に尽きる。まあ、世界ごと軍隊を吹き飛ばす様な規格外がいるが・・・百には千で、千には万で。中には10万人を300の兵で食い止めたと言う例外もいるが、それでも数は強さなのだ。まあ何が言いたいかというとだ。

 

 

「いざ! 遥か万里の彼方まで!」

 

「出でよ、我が軍勢!」

 

 

全く同じ宝具。全く同じ固有結界。

 

 

「遠征は終わらぬ。我らが胸に彼方への野心ある限り。勝鬨を上げよ!」

 

「万里の長城を迎えて無敵と化せ!」

 

 

全く同じ数の軍隊。しかしてその性質は正反対と言ってもいい程異なる。

 

 

「――――――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!」

 

「――――――皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)!」

 

 

 

片や我らが一人の王に続く征服。片や恐怖で全てを支配する皇帝に続く蹂躙。酷似して異なる物、それらが邂逅した時・・・真の聖杯を巡る戦争が起こるのも、必然である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちて行く。視線の先にはこちらに向けて突き刺そうと伸びる木々。傷心気味のライダーはそれでも、相棒のためにもと奮起し構えたままだったリヴォルバーの引き金を引いた。

 

 

「くっ・・・エルメス・・・"フロム・マイ・コールド―――デッド・ハンズ”」

 

 

瞬間、一瞬光り輝いたかと思うと上空から純白のマントを纏った変態が舞い降りてライダーを抱き抱えるともう片方の手で刀を岩壁に突き刺してブレーキ。衰弱したライダーに向けて怒鳴った。

 

 

「正義の少女がピンチの時以下省略!私は君が謎のキノの時でないと召喚できないのだからあまり無茶しないでくれたまえ!」

 

「うるさい・・・凛とバゼットは無事なの?」

 

 

飛び出す中、律儀にサモエド仮面を衛宮邸に残して行ったライダーの言葉に、サモエド仮面は頷く。

 

 

「ああ、君が彼を追って行ってから追撃は無かった。どうやら彼単独の様だ。他にも知らないサーヴァントがいると言う君の考えは考え過ぎじゃないかね?」

 

「いいや、エルメスが言ってた。ライダーとして現界した、と言っていた事から他にもエミヤシロウの様なサーヴァントがいるかもしれないから警戒して損は無いって。・・・そのライダー一人にすらこの様だけどね。今ほどアンタの存在がありがたいと思った事は無い。早く桜を追い掛けないと!ほら、働け変態!」

 

「ああ、行くぞ謎のキノ・・・!?」

 

 

瞬間、襲い掛かってきた短剣(ダーク)から、岩壁に突き刺している刀の鞘の上に腕の力だけで跳躍して何とか避け再び鞘の上に着地するサモエド仮面。ライダーが何事かと辺りを見渡すと、木々の上に何かが複数立っているのを見付け、戦慄する。

 

 

「・・・どうやらそう簡単に行かせる気はないらしい」

 

「・・・クソッ、やっぱりエルメスの言う通り新手がいたか・・・」

 

 

それは、辛うじて人型に見えるが真っ黒で全体像が掴めない。はっきり見えるは、白い髑髏の仮面のみ。アサシンのサーヴァント、ハサン・サーバッハの誰かだとライダーは直感する。足りない頭でもそれぐらいは分かった。

事実、彼等は『M』から他のマスターの監視を命じられた第四次アサシンのサーヴァント、百貌のハサンである。念話で確実に桜を連れ去るべく『M』からライダーの援護を命じられ、存在する半数以上が参上した訳だ。そしてライダーとサモエド仮面は今無防備、ほぼチェックメイトの状態だ。

 

 

「サモエド仮面、攻撃は私が弾くからアンタは上に上がる事だけに集中しろ!・・・ああ、ワンワン刑事さんなら文句なしに信用できるんだけど今はアンタしかいない、信頼してるわよ!」

 

「おおっ、ついに謎のキノがデレた・・・ありがとう謎のアサシン達!」

 

「うっさい!はよやれ!来るわよ!」

 

「フハハハ!謎のキノに頼られる、それだけで元気百倍さ!胸が無いのは残念だがね!」

 

「悪かったわね!」

 

 

襲い掛かる暗器(ダーク)に、サモエド仮面の左腕に脇下を抱えられて後ろを向いた状態のライダーは持ち前の技量で確認するやすぐさま手にしたUZIで撃ち落としていく。

サモエド仮面は右手で柄を握ると引き抜くと同時に宙返り、岩壁を当り前の様に駆け上がり、その隙を縫う様に放たれるダークもライダーが撃ち落とす。

 

 

「・・・分かってはいたけど逃げた後か」

 

「代わりにちゃんと相手を用意してくれたらしいね。先程の襲撃者は御暇した様だ」

 

 

そして何とか道路に戻ることに成功するも、そこにはイスカンダルも、破壊されたエルメスの姿も無い。その代わりに、大柄な百貌のハサンの人格の一つ、怪腕のゴズールと小柄な人格の一つ、迅速のマクールが立っていた。

 

 

「イスカンダルの本拠地知らないし、こいつ等をボコって居場所を聞こうと思うんだけど?」

 

「それはいい。だが謎のキノは疲れただろう。ここは私に任せたまえ!支援射撃、頼んだぞ!」

 

「休みながら働けってか。ふざけんな」

 

 

言いながら、飛び出して怪腕とダガーの一撃を回避して一閃を繰り出すサモエド仮面を援護するべくUZIを乱射するライダー。

 

 

「っ、速い・・・!?」

 

 

しかし弾丸の嵐を掻い潜って突進してきたマクールの一撃を受けて咄嗟に飛び退くも胸元に一筋の傷を受けて片膝を着き、それに気付いたサモエド仮面が戻ろうとするも、サモエド仮面の一閃を耐え切ったゴズールの振り下ろした拳で道路が叩き割られた事で足場を取られ、そのまま二人は亀裂の中に落ちて行く。

二人は知らないが、百貌のハサンの宝具は「妄想幻像(ザバーニーヤ)」。人格の1つ1つを別個体として分離させることができ、本来ならば分離した数が増えるとその分一人当たりの能力は低下するのだが『M』がマスターとなる事により膨大な魔力が供給され実力が以前の物より底上げされている状態だ。元より数で攻める英霊、連携ならばこの二人に後れを取る事は無かった。

 

 

「謎のキノ!」

 

「っ・・・謎のって言うな・・・!」

 

 

仮面の上からでも分かる必死の形相のサモエド仮面に手を取られ、その頭上から追撃すべく襲い来るゴズールを見上げ、ああ、とライダーは悟った。ここで自分は終わるのだと。ああ、せめて桜を取り返してから・・・しかし、天は彼女を見放さなかった。

 

 

「セイバー、お願い!」

 

「掴まれ・・・!」

 

 

そんな聞き覚えのある声と共に。頭上に見えたゴズールが真っ二つにされて消滅すると同時に伸びて来たフック付きの鎖がサモエド仮面の手首に巻き付いて引き寄せ、その手に引かれたライダーが見たのは、亀裂の側で自分達を引き上げた剣士の傍に立つ雪を彷彿とさせる少女。その傍らには首が斬り飛ばされたマクールが倒れていて消滅して行き、不意打ちでやられたのだと分かる。

 

 

「イリヤ・・・なんで・・・」

 

「帰って来る途中で見かけたから助けに来たのよ。安心しなさい、桜なら士郎とアーチャーが追いかけてるわ」

 

「我らはやや危険な状況ではあったが、実際ソレくらいどうってことはなく助けなど必要ではなかったが、それでも助けてくれて心から感謝してやる!ダンケシェーン!」

 

「相変わらず元気だな。・・・それより、もう一人・・・エルメスはどうした?」

 

「ライダー……?」

 

「それは・・・」

 

 

自身の中(聖杯)にランサーの他に中途半端な魂が内包された事に気付いたイリヤの言葉に口をつぐむライダーに察したのか居た堪れない表情になるイリヤとセイバー。彼等も今日、家族とも言える二人を失った。だから気持ちは分かった。

 

 

「・・・とりあえず帰りましょう。貴方もこれ以上戦ったら消滅してしまうわ。士郎なら桜を助けてくれる」

 

「でも、私が・・・」

 

「謎のキノ。彼は最期に何と言った?」

 

 

イリヤに提案されても尚、追おうとするライダーに真剣な顔で述べるサモエド仮面。怪訝な表情をしながらもライダーはそれに応える。

 

 

「エルメスは・・・後は任せるって・・・・・・」

 

「そうだ。ならば、自棄になって挑むべきではないだろう。今は退くべきだ。それとも、君は衛宮士郎を信じられないのか?」

 

「そんなこと・・・っ」

 

「君なら大丈夫。大丈夫さ。それに夜更かしはお肌によくない。おやすみ謎のキノ!早寝早起きは三文の徳だぞ!」

 

「ちょっ、サモエド仮面、何を・・・!?」

 

「今日もお疲れ様。今日起こった良い事、悪い事は全て自分の糧にして明日を迎えよう」

 

 

トスっと、自分達の目にも止まらぬ速度でライダーの首に当身して気絶させ抱き上げるサモエド仮面に、呆れた様な表情を見せるイリヤ。

 

 

「・・・中々に紳士なのね、貴方。嫌いだけど」

 

「ふむ。解せぬな。私のどこに君に嫌われる要素があったかな?私は正義の清い心を持っているために、純粋である小さい女の子と結びつくものがあるんだ。だから決してロリコンというわけではない」

 

「・・・そう言う変態な所と、自分も怪我を負っているのに隠している事よ」

 

「勝手な価値観で物を決めるのは良くないけれど、それを口に出した時点で、知らないうちに自分でも勝手な価値観を決めてしまってるんだ。――だから君が私の事を変態って呼ぶのは勝手な価値観なのだよ」

 

「誤魔化さないで。何でそこまでするのよ。それが正義の味方な訳?」

 

「・・・ふっ。一つだけ言って置こう。正義に休む時間など無いのだよ。これくらい、正義の味方にはなんてことはないよ、心配ご無用」

 

「足がふらついているぞ、正義の味方」

 

「ハハハハ、何の事かな?」

 

「・・・切嗣が目指した「正義の味方」がまるで理解できないわ」

 

 

ふら付くサモエド仮面からライダーを受け取ったセイバーと共に帰路に着くイリヤは溜め息を吐く。今亡き父親と、義弟の目指していた夢の先に何があるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎二が、キャスターのマスター・・・?」

 

「マスター、それも気になりますがここは隠れる事が得策かと」

 

 

イリヤとセイバーをライダーの元に置いて、そのままイスカンダルの放つ轟雷を目印に空から追いかけるアーチャーに抱かれ手ごろな木の影に隠れた士郎が見たのは、信じられない光景だった。それは、避難していたはずの悪友が、マスターの一人として妹を誘拐したサーヴァントの前に立つ姿だった。

 

 

「むぅ・・・何かと思えば我が盟友のサーヴァントとその仮初のマスターではないか。いきなり突進して来て何のつもりだ?」

 

「それはこっちの台詞だ。あの男は何を企んでいる?」

 

「桜は僕の獲物だ。勝手に持ち逃げするなってあのヒゲに言伝頼むよ。もちろん桜は置いてな」

 

 

同じく戦車に搭乗しているキャスターと慎二に、イスカンダルは「ふむ・・・」と考えるそぶりを見せるが、すぐさま剣を抜いて臨戦態勢を取った。

 

 

「生憎とだがな。この娘は我が野望に必要な存在だ、殺されては困る。それよりもどうだ、我が軍門に降る気はないか?余と共に征服する悦を味わおうぞ」

 

「戯言を。私が世界を征服するのだ。貴様なんぞにくれてやる土地はありはしない」

 

「なるほどなぁ。余と野望を同じくした者か。同じ男に召喚されたのもまた縁であるな」

 

 

ケタケタと笑い、しかし油断せず構えるイスカンダルに「気に喰わん男だ」とキャスターは内心舌打ちし、魔力を絞り上げる。何かに使われたのか横取りできる量は減ったが、それでも維持には十分足りる。

 

 

「キャスター。戯言は無しだ。全力で叩きのめすぞ、この間みたいな無様だけは見せるなよ」

 

「誰に言っている慎二?この男にだけは私は負けん。・・・私を殺したいならば龍剣でも持ってくることだ。目覚めよ!」

 

 

その言葉を合図に、イスカンダルもまた魔力をマスターから受け取り、全く同時に発動する。世界を塗り替えて顕現するは、共に砂漠。ありえない事ではあるが、同質と言ってもいい固有結界は融合し、それぞれの軍隊が相対する形で出現して行く。

 

 

「いざ! 遥か万里の彼方まで!」

 

「出でよ、我が軍勢!」

 

「遠征は終わらぬ。我らが胸に彼方への野心ある限り。勝鬨を上げよ!」

 

「万里の長城を迎えて無敵と化せ!」

 

 

そして、二人の征服者は全くの正反対と言える形で相対する事となる。魔法に限りなく近い現象であるそれは、片や圧倒的な五行の魔力をフルに活用して形成した物。全てを得ようとした男だからこそできる「力」の具現の大魔術。

片や召喚される臣下の英霊たち全員が心象風景を共有し、全員で術を維持するメカニズムであるがために魔術師でなくとも形成できる「絆」の具現の大魔術。

その証拠に、中国の皇帝は自らの軍隊の最奥の石像の上に位置し、桜を部下の一人に預けたマケドニアの征服王は愛馬(ブケファラス)に搭乗して自ら先陣に立つ。この二人、全く似ている宝具を有する癖して絶対に相容れない天敵であった。

 

 

「――――――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!」

 

「――――――皇帝率いる(フゥァンディ・リュ・)兵馬俑の軍勢(ビンマーヨン・ジュンシー)!」

 

 

イスカンダル側は、延々と広がる砂漠と自らが率いる「絆」で結ばれた、数多の英傑の集った大軍勢。キャスター側は、絆など存在しない「力」にただ従う土くれで形成された不死身の兵隊、兵馬俑の大軍勢。数は最強の軍隊と言わしめた兵馬俑が僅かに上。しかし質は一人一人英傑の軍勢が勝る。まさしく、互角。

 

 

「・・・猿真似王が、ここまで真似るか」

 

「それはこちらの台詞だなぁ、アジアの皇帝よ」

 

「ほざけ。支配する者が先頭に立つなど、頭の湧いた阿呆めが」

 

「王とは民を率いる者だ。お前さんこそ高みの見物か?」

 

「どうかな?」

 

 

バチバチと、火花が散るかのように睨み付け大声で会話する二人の征服者に慎二はキャスターの傍で頭を抱えた。

 

 

「・・・なあキャスター、勝てるんだよな?」

 

「私があの猿真似王に負けるとでも?」

 

「いや・・・ならいいんだよ。桜には傷つけるなよ。アイツは僕の獲物だからな」

 

「分かっている。貴様は見物して置け」

 

 

喧嘩は同レベルの間でしか起こらない、その事を言い掛けた慎二だったが・・・死亡フラグどころの話じゃないので即やめた。もはや自分はこの場の戦争に置いては部外者だ。戦争に部外者が乱入したらひどい目に遭うのは間違いないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・アーチャー、まだ飛べるか?」

 

「イエスマスター。空に待機します」

 

「頼んだ」

 

 

固有結界に巻き込まれた士郎とアーチャーが太陽に重なり一部始終を見守る中、イスカンダルを先頭に走り出した軍団と、規則正しく歩いて行進し槍を構えた軍団がぶつかった。斬って突いて薙いで穿って射る。それが戦場のあちこちで当り前に起きる乱戦だ。

 

 

「・・・この戦争、巻き込まれたら死ぬぞ。慎二の奴大丈夫か・・・?」

 

「纏めて、やりましょうか?」

 

「桜と慎二も巻き込むから駄目だ」

 

 

実力の差で蹂躙される土くれの兵隊。しかしすぐさま波となって押し寄せ、イスカンダルと英傑たちを押し戻す。その様はまるで土石流。並の力では瞬く間に飲み込まれてしまう。

 

 

「鶴翼の陣だ。簡単に蹂躙できると思うな?」

 

「ふむ。ならば正面突破あるのみだ!いざ行かん、共に彼方へ至ろうぞ!始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)!」

 

 

対してイスカンダルが行なったのは並の力以上の物、自らの騎馬である対軍宝具の真名解放。そのランクB+に匹敵する雷纏った蹄が兵馬俑を消し去り、空いた穴から一気に攻め込む英傑達。敵の策を自ら突破して突き進む姿は、まさしく覇王だった。

 

 

「・・・貴様、この中でも他の宝具が使えるのか・・・」

 

「ああ。他の者を巻き込むがために戦車は使わぬがな。逆に問うが貴様は使えんのか?」

 

「ッ・・・なめるな!」

 

 

瞬間、キャスターは獣に変化して飛び降り、着地して四つん這いで走り回り自身を狙っていた英傑達を吹き飛ばし消滅させて行く。それを見て士郎は違和感を感じた。

 

 

「・・・そう言えば、クロ姉が驚いていたって事はキャスター、あの戦いで初めて変化したって事だよな・・・俺は見てないが、クロ姉は炎やら使ってきてかなり苦戦したって言っていたし・・・」

 

「どうかしましたかマスター?」

 

「何で、サーヴァント五人と戦うのに魔術を使わなかったんだ?変化だけで十分だと感じた?いや、だったらアーチャーに押されてなおも魔術を使わなかった理由にはならない・・・」

 

「マスター?」

 

「今回の戦いだってそうだ、相手はライダーのサーヴァント、対魔力があってもキャスターは五行を操る稀代の魔術師だ。力押しだってできるはず・・・魔術を使わない・・・いや、使えない理由があった?」

 

 

そこで士郎は気付いた。違和感の正体に。

 

 

「そうか、キャスターは五行の魔力をフルに使う事でこの固有結界を顕現すると同時に、常に魔術を・・・それも大魔術である固有結界を維持し続けているんだ。だから、他の魔術に使う魔力が無いから格闘戦と変化のみで戦っていた・・・でもだとすると、遠坂は術者の許容量を上回る魔術は決して使ってはならないと言っていたから、つまりこの固有結界には限界がある・・・」

 

 

そして逆に、イスカンダルの方にはマスターの魔力にまだまだ余裕がある。この明確な差からか、キャスターは自ら戦いに参加する程に勝負を急いていた。それが、今まで「絶対強者」だったはずのキャスターに感じた違和感だった。

 

 

「もしかしたら、一定時間耐えるだけでこの固有結界を封じる事が出来るんじゃないか・・・?」

 

「・・・私の宝具は無駄だったのでしょうか?」

 

「いいやアーチャー。あれは間違いなく大打撃になったはずだ。魔力だって有限だ、もう固有結界を使えないぐらいに魔力を消費させれば五人がかりでも勝てなかったキャスターに勝てるかもしれない。・・・マスターの慎二を殺さずに、倒せるかもしれないんだ。それをクロ姉に伝えよう」

 

 

その目は、召喚した時と同じ崩れる事の無い鋼の信念に燃えていた。それを見たアーチャーは微笑み、かつてのマスターと重ねる。誰かが犠牲になる事を良しとしない心、それは間違いなくいい物だ。アインツベルンの一件でそれが消えたかと危惧していたが杞憂だった様だ。

 

 

「・・・はい、マスター。貴方は貴方のままでいてください。私はその為に共に在ります」

 

「ありがとうアーチャー。これからも頼む。・・・それより、どうにかして桜を奪還できないか?」

 

「・・・ニンフが居れば、透明になって行けるのですが私は戦闘用エンジェロイド・・・お役に立てません」

 

「いや、すまん。だけどチャンスは必ずあるはずだ、その時は頼んだぞアーチャー」

 

「イエス、私の鳥籠(マイマスター)

 

 

龍に変化して低空飛行し口からの炎で英傑達を焼き尽くしたキャスターがそのまま獣に変化して目の前にいた英傑の頭を引き裂いた光景を見やる。戦況は、キャスター側が押していた。

 

それは当り前の事だった。英傑よりも力が足りない、しかし無限に再生する軍勢。数と言うのはそれだけで利となり、力となる。それに対してイスカンダルの軍隊は一度死ねばそのままだ。再生はしない、彼等はただの宝具を持たない英霊だからだ、兵馬俑の様に道具ではない。ただそれだけの違いが、戦局を変えた。

イスカンダルはアーチャーの様に一度に全て一掃する術を持たない。そもそもそんな事が出来るのは彼の知る限り、聖剣を持つ騎士王と英雄王ぐらいだった。

 

 

「絆よりも力が勝つ。世の道理だ」

 

「・・・よもや我が軍勢が負けようとはな」

 

「ふん。・・・ミイラならばもう少しマシな戦いになったであろうな」

 

 

集った英傑達の過半数を倒され、維持できなくなったイスカンダルの固有結界が繋がっていたキャスターの固有結界もろとも解けて元の夜道に戻って行く。しかして、再び戦車に搭乗したイスカンダルの目に降参の文字は無かった。

 

 

「では、戦車ならばどうだ?」

 

「なに?」

 

 

そこでキャスターは気付く、自らに戦車を作り出す程の魔力が残ってない事に。完全に無防備な自分達に向けて突進してくるイスカンダルに対抗する術など当の昔に無くなっていた事に。

 

 

「兵を再編成するたび魔力を消費するのであろう?我が盟友・・・貴様の召喚者を侮ったな。誘拐するのはアサシンでもいいのに、お前達が介入すると見越してわざわざ余に頼んだのだ。アー・シン・ハンよ、不確定要素である主を脱落させる絶好のチャンスだと踏んでな!・・・だから余の軍門に下らんかと誘ったのだ。余とて結果が分かり切っている戦いなどしとうないからな」

 

「・・・あの男め、よもや私を騙すどころか切り捨てる腹心算であったか。生かしてはおけん、裏切りには必ず報復すると伝えてくれ、負け犬の征服王殿?」

 

 

剣をしまい、手持無沙汰となった手をだらりと下ろし、厭味ったらしくそう述べるキャスターに訝し気な表情を浮かべるイスカンダル。

 

 

「どこからそんな余裕が来るのだかな!」

 

「・・・残り少ない魔力でもできる芸当があると言う事だ。慎二よ、私に着いてくるつもりならば掴まれ!」

 

「お、おう!」

 

 

今にも目前に迫っている戦車に対して不敵に笑み、手を伸ばしてそれにビビりっぱなし慎二が掴まったのを確認すると、そのまま全力で後方に飛び退くキャスター。その瞬間、イスカンダルの戦車が横転した。

 

 

「・・・なにぃ!?」

 

「ふっ、仮初のマスターの妹などくれてやる!」

 

 

それは、峠上から押し寄せてきた土砂崩れ。ちょうどキャスターの手前まで押し寄せた大量の土石流はイスカンダルを戦車ごと飲み込んで崖下まで突き落とし、さらには桜を奪還しようとしていたアーチャーと士郎までもを吹き飛ばしてしまった。

イスカンダル、アーチャー。英霊である彼等でさえ直前まで気付かなかった土石流。それは、キャスターが無言で残った五行の魔力を振り絞り、うっすらと水の魔力で地盤を緩めてゆっくりと動かし、それをイスカンダルの戦車の響かせる轟音に隠れる様に一気にスピードを速めた物だった。さらに、水の魔力を薄く充満させた霧のスクリーンでカモフラージュしたため、空から見ていたアーチャーでさえ気づかなかった。直前で異変に士郎が気付いた物の、間に合わなかったのである。これは生前の雪山での雪崩の応用だが仮にもキャスターのサーヴァント、小細工は得意であった。

 

 

「・・・おい、桜は僕の獲物だって言っただろ?」

 

「諦めろ。資材(魔力)も無しに戦争を仕掛けるなど阿呆のする事だ。仕切り直しだ、あのサーヴァントが戻って来る前に引くぞ。どうしてもというなら一人でやるんだな、私は知らん」

 

「ちっ、分かったよ・・・どうせあの藪医者の所に桜は連れ去られたんだろうし、ついでにするさ。だからキャスター。・・・僕に付き合え。全力を持って策を考えてやるよ、だからあのヒゲをぶっ倒すぞ!」

 

 

その言葉に当り前だと言わんばかりに鼻を鳴らすキャスター。共通の目的が生まれたことで、初めて意見が一致した。

 

 

「異論無し。ただし裏切るな?私にとってそれは禁忌(タブー)と知れ」

 

「アー・シン・ハンを裏切るなんてそれこそ命知らずの馬鹿しかしないよ。そして僕は馬鹿じゃない」

 

「道理だな。・・・ところで帰り道はどうする?」

 

「・・・そりゃ、戦車も使えないし歩きだろ?」

 

「・・・致し方ない」

 

 

その後、徒歩で去った慎二たちの後に続き、土砂から飛び出して空を駆けて行くイスカンダル、木の天辺で目が覚め桜を見失った事に後悔する士郎とアーチャーも去ってゆく。こうして、クロナとアサシンの対決の余所で行われた戦いもまた終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現代に至り、クロナは憤慨していた。

 

 

「ライダーは単純に魔力切れと霊基を半分失われた事で戦えるかどうかも分からない、それに加えてサモエド仮面もライダーの傍から離れる気が無いと。一気に戦力が削がれたね、桜がいないだけでこうも傾くか」

 

「クロ姉、慎二はどうするんだ?」

 

「慎二・・・ああ、キャスターのマスターだっけ?『M』の話によれば譲渡したとか言っていたから間違いなく偽臣の書を持ってるからそれを燃やせばいいと思うよ。てかぶっちゃけ魔術師でも無い奴を気にする程余裕が無い」

 

「あ、ああ・・・ごめん・・・」

 

 

唸るクロナ。敵ははっきりした、『M』と正体不明のサーヴァント一派。エミヤシロウとディルムッド・オディナが倒された事で残り五体のサーヴァントを有する未知のマスター。桜を攫って何をするのか見当がつかない上に、事情を大体知っていると思われるギルガメッシュもまだ留守のまま。

桜が聖杯だとか意味が分からない、バゼットとイリヤが味方になってもこちらのサーヴァントは実質バーサーカー・アーチャー・セイバーのみ。最悪『M』のキャスターのサーヴァントをマスター達で挑み、相性がいい英霊が居た場合クロナが一人で戦うにしても、あの言峰綺礼とギルガメッシュを倒した得体の知れない『M』が控えている。あまりに分が悪すぎた。

しかもそのサーヴァントの一人は大英雄、イスカンダルだ。もう一人判明しているアサシンも分身する事から百貌のハサンだと分かったが、前者だけでも戦意が大きく削がれていた。

 

 

「本拠地はバゼットさんの情報で元アサシンの根城だったと思われる柳洞寺だって分かったのはいいけど凛の使い魔の偵察だとなんか正体のわからないサーヴァントが門番していて突入も難しいし・・・こっちにアサシンがいれば私達が搖動してその間に桜を救出してもらう手もあるけど・・・」

 

 

あのアサシンが協力してくれるはずがない、というか生きていたとしても協力したくないと言うのがクロナの本音であった。しかし現状使えるサーヴァントは隠れるとは無縁の狂戦士に悪目立ちする天使な弓兵と緑衣の剣士である。さすがのクロナもお手上げだったその時、光明が差した。

 

 

「・・・ねえ、クロナ・・・?」

 

「何よイリヤ、魔術師殺しの腕を使って自分が潜入するとか言ったら殴るよ?」

 

「違うわよ。・・・その陽動作戦、もしかしたら名案かも知れないわよ?」

 

「え・・・?」

 

 

クロナと和解したイリヤの言葉によって。・・・しかし、誰に似たのかイリヤは悪い顔であった。




セイバーに瞬殺されたゴズールとマクールには悪いと思っている。だが私は謝らない。サモエド仮面をサモエド仮面らしく書けたからそれだけで満足。・・・正直分けるべきだと思いましたが何処で切ればいいのか分からず断念。不甲斐無い。

サモエド仮面と言う身近な「正義の味方」の存在のおかげで士郎と切嗣の在り方に疑問を覚え始めたイリヤ嬢。これでクロナと条件は互角、士郎の姉の座は誰の手に・・・!

『M』と完全に敵対する事を決めたキャスター陣営、イスカンダルと対決。固有結界勝負に勝ち戦車に窮地に追い込まれるもキャスターらしい小細工で辛くも勝ち逃げ(?)。映画ハムナプトラ3の雪崩の絶望感はヤバい。
「力」に対し「絆」と言う似ている様で全然違う両者の固有結界。そしてキャスターの固有結界の弱点、それは圧倒的なまでの燃費の悪さ。固有結界発動中は他の魔術を使えない、ギルガメッシュが見抜いた通り時間制限付き。イスカンダルと違い三流マスターには優しくない代物です。まあだからこそ、前回は慎二の一計で一気に決着を付けようとした訳ですが。

そして地味に仲良くなった士郎とアーチャー。実は士郎とアーチャーはいちゃついてなければ桜を奪還できてました。慎二とキャスターは共通の敵がいないと・・・

第四次聖杯戦争の詳細を聞いているからこそ何時にも増して悩むクロナ。次回、イリヤの言葉の真意とは・・・?柳洞寺突入作戦実施、血戦開始です。
感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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