Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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今回はクロナVSアサシンの時に起こった出来事。今までサモエド仮面のせいであまり目立っていなかったライダー回です。第五次ライダーVSイスカンダル、その戦いで何があったのか。固有結界VS固有結界は次回に持ち越しです。

学園キノとキノの旅要素が多いですが、楽しんでいただけると幸いです。


♯38:真夜中のチェイス、ライダーVSライダー

「うん分かった。――――で、こっちは?」

 

「うひゃあ!?な、なんでです?確かに時間を止めたはずなのに!」

 

「モトラドには効かなかったみたいだね」

 

 

必死に頼みこんでいる自分を無視した報いとして完全に動きを止め固まっている"旅人キノ”と"シズ”の脇で一見よく分からないが固まっていないモトラド・・・大型二輪車を指差し、特別何でもない事の様に返されプライドを傷つけられたのかキッと睨みつける自称惑星の女神。

 

 

「では!あなたは全然いらないので、今ここでスクラップにでもなってもらいます!」

 

「それは困るな!できればストラップがいい」

 

「はあ?」

 

 

しかし全く困っていない口振りで言うモトラド、エルメスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロナ、士郎、イリヤがそれぞれのサーヴァントを伴って飛び出して一時間経った頃。どさっと衛宮邸の庭に何かが落とされて、桜とライダーが見に行くとそこには五体満足で気絶しているバゼットの姿が。桜が油断することなく観察していると、そこに凛がやってきて溜め息を吐いた。

 

 

「何で左手首切られてアサシンに攫われたはずのコイツがここに?」

 

「私が聞きたいですよ。姉さん。これ・・・どうします?」

 

「まあ、エミヤはもう居ないんだし、衛宮君だったら入れるんじゃない?」

 

「ですよね?」

 

 

クロナなら容赦なく切り捨てるだろうけどここの主は違う。そしてここに住むほとんどの人が賛同すると判断した二人にライダーも手伝って客室に運び込む。衛宮士郎なら、そうするだろうと確信して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。正義の味方が悪に屈する、そんな最低最悪の夢を。

 

 

圧倒的絶望だった。その顔は私のよく知る知人の養子とそっくりなのに、彼と同じように肌と髪が変色し、鬼気迫る形相でこちらに向かって何やら吠えている。

 

私は既に超えてはならない一線を超えた。もう止まれない、手段を選んでいる暇も余裕もない。全てを壊す、全てを滅ぼす、この世全ての魔術師に復讐を。邪魔をするなら  と言えど排除する。止めて見せろ、正義の味方。

 

要点を纏めればそんな内容だが、実際にはただ狂乱して叫んでいるだけ。それに対し、自分と瓜二つの姿をした抑止力の守護者と、義理の父親とそっくりなもう一人の守護者と共に、正義の味方(エミヤシロウ)は悲痛の面持ちで挑んだ。

 

 

何度、勝利が約束された聖剣は折られたのか。何度、無限の剣を内包した世界は瞬く間に炎に侵食されたのか。何度、時間を操り起源弾を繰り出しても返り討ちにされたのか。投影された剣が、一瞬で支配され大地に突き刺さって行く。

 

駄目だ、勝てない。例え数多の英霊を呼ぼうともこの世全ての悪の手先(ゴーマ・ヴリトラ)が全てを焼き払う。それを三人だけで挑もうと言うのだ。自殺行為にも程がある。それでも、彼は正義の味方だから、彼女の家族だから、止まらない。

 

もう戦わなくていい。全てを投げ出してしまえばいい。貴方は何も悪くない。そう言おうと、血塗れで全身大火傷になっても彼女を睨みつけ悲痛の声で説得しようとする彼に手を伸ばそうとする。

 

 

その瞬間、飛んで来た剣で私の左手が斬り飛ばされた。え、と声が漏れる前にさらに襲い来る剣・・・いや、黒鍵の矢の束。それらは、私を突き飛ばした彼に突き刺さって行き、最後の一刺し。彼女の持ったレイピアで胸を貫かれた正義の味方は鮮血を溢れさせ、ついに地に伏した。

 

 

嘘ですよね、アーチャー?私のせいで?そうだ、私の所為だ。私が令呪で呼び出したりしなければ、私が隙を作らなければ、貴方が倒れる事なんてなかった。

 

 

飛んで来た隕石の余波を受けて吹き飛ばされる、彼と瓜二つの弓兵。攻撃を掻い潜るも大爆発を受けて地面に叩き付けられる暗殺者。たった一人が抜けた事で、状況は一変した。否、勝ち目が無くなった。唯一彼女を殺せる存在が死に、勝負は決したのだ。

 

 

 

 

 

飛び起きる。最低最悪の悪夢から抜け出した私がまず見たのは、切られたはずの左手。令呪は浮かんでないが、何故か治っている。痺れは残っているが、それでも二度失われたはずの手が存在している。

 

次に見たのは、古めかしい日本邸であることを表す畳と障子。どうやら寝かされていたらしい。最後の記憶では、拘束された上であの卑劣な暗殺者の手に握られたグラスに満ちた赤い液体を飲まされ、強烈な空腹感と食欲に襲われ拘束されていた部屋の畳の草やらを口に詰め込み、息ができなくなって気を失ったはずだ。

しかし、ここの畳は毟られた跡は無く、私が拘束されていた柳洞寺ではない様だ。さらに空腹なのは変わらないが、さすがに畳を食そうとは思わないためどうやら思考も正常に戻っているらしい。あの屈辱は忘れない、アーチャーを殺された分まであの暗殺者は一発は殴らないと気が済まない。

 

 

「あ、起きましたか」

 

 

そう決意を固めていると、障子が開き一人の少女が現れた。思わず布団から飛び出して構える。お盆を手にしたその少女は、私と戦いを繰り広げたマスター達の一人、間桐桜だった。

 

 

「貴女は・・・!」

 

「待って下さい。私達に敵意はありません。ここは衛宮先輩の屋敷です。貴女はここの庭に投げ出された状態で見つかり、やむを得ずここで寝かせていました」

 

「・・・つまり敵地だと?」

 

「魔術師らしい仕掛けは結界しかないのでそう身構えなくても大丈夫ですよ。それよりお腹が減っていませんか?簡単な物を作ってきました。どうぞ召し上がってください」

 

 

そう言って彼女が差し出したお盆に乗っていたのは、ラップに包まれたおにぎり三つと、鳥の笹身と思われる天麩羅が数個とほうれん草のお浸しが盛られた皿と箸、緑茶のペットボトル。どうやら本当に食事らしい。空腹に耐えきれず、私はそれを受けとり試しにおにぎりをラップから取り出し頬張る。中身は鮭だ。・・・ああ、アーチャーの作ってくれたご飯と似ている。どこか、安心した。

 

 

「やはり胃袋を掴めばどんな女性もイチコロですね!ライダーみたいに!」

 

 

はい、その一言が無ければコロッと心が傾いてましたね、ええ。天然と思われる彼女の言動に呆れながら、それでも警戒心を失くしていたその時だった。

 

 

開いた障子の向こうに見えた庭の塀が唐突に吹き飛び、結界の物なのか劈く警戒音と共に、彼は現れた。まず見えたのは、巨大な神牛。その次は、赤。赤いマントをなびかせた赤髪と髭を生やした大男は、鋭い眼光で戦車の上から私と間桐桜を見下ろしていた、

 

 

 

バサッと外套を翻し、庭に着地して剣を抜き掲げる偉丈夫に、私と間桐桜は間髪入れず戦闘態勢を取る。名乗りを上げるつもりらしいが、隙は見当たらない。

 

 

「我が名は征服王イスカンダル!此度もまたライダーのクラスを得て現界したサーヴァントである!我が盟友たるマスターの(めい)を受け、小聖杯を頂きに推参した!覚悟してもらおう、間桐桜よ」

 

「ふざけるな!」

 

 

間桐桜を攫う宣言をした瞬間、一発の弾丸が迫るもそれを難なく切り払うイスカンダル。遠坂凛と共に駆け付けたライダーが間桐桜の前に立ちはだかり、UZI二丁を手に威嚇する。しかし、イスカンダルは臆せず豪快に笑った。・・・これぞ英雄、と思わせる人物だ。征服王と言うのも嘘ではないらしい。・・・実際にこの地球を一番征服したのはチンギス・ハンだろうが。

 

 

「ガハハハッ!貴様が此度のライダーか、小娘ではないか。しかしてこの覇気、気に入ったぞ!名を何と言う?」

 

『ライダー、気を付けるんだ!彼は僕達とは違う、列記とした大英雄だ!』

 

「桜は下がっていて!凛とそこのバゼット!桜を守って!」

 

「それはこっちの台詞よ!任せたわ、ライダー!」

 

「・・・止むを得ませんね」

 

 

間桐桜を庇う形で下がろうと試みる私達。しかし、英霊にはそんな小細工は通じない。

 

 

「むっ、釣れないではないか!」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 

瞬間、雷を纏った剣が振り下ろされ、放たれた雷撃が大地を裂いてライダーもろとも私達を吹き飛ばす。最後に見たのは、どこかに頭をぶつけたのか気を失う間桐桜と、それを回収し雷気を纏った二匹の神牛【飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)】に牽かれる戦車(チャリオット)神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)】に乗って去りゆくイスカンダルの姿、そして。

 

 

「くそっ・・・エルメス!」

 

『行くよキノ!』

 

 

己のマスターを取り返すべく、バイクに跨り飛び出して行ったライダーの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の街並みを走るは、この時代に似つかわしくない神牛に引かれた戦車と、それを追う一台の大型二輪車。片や神牛、片や英霊と言うトンデモ乗り物によるチェイスで、無人の街は瞬く間に破壊されて行く。

 

 

「桜を返しなさい!」

 

「それは無理な相談だな!さてライダーよ、鉄の馬で我が戦車に敵うか?」

 

「なめんな・・・!エルメス!」

 

『変形とかは出来ないけど了解!』

 

 

相棒のギアを上げ、イスカンダルに肉薄するライダー。その手に取りだしたUZIの引き金を引こうとするも、イスカンダルの傍らに気絶した桜が寝かされている事で躊躇してしまい、その一瞬の隙を突かれて再び離された。

 

 

「どうした?来ないのか?」

 

「くっ・・・」

 

 

雷と共に夜空に舞い上がった戦車を追い掛け、ライダーは一度エルメスをストラップに戻すと掴み、ビルの壁に向けて投擲すると同時に跳躍。一回転の後に再度搭乗し、全速力でビル壁を駆け上がって空に舞い上がり屋上に着地したライダーはそのままビル群の屋上を走り抜け、イスカンダルを追いかける。次のビルに移るたびに迫撃砲を仕掛け、空中にいるイスカンダルを狙うがそう簡単には当たらない。

 

 

「エルメス!無茶するわよ!」

 

『えっ、何をする気―――――!?』

 

 

取り出した糸でハンドルと自身の手首を繋ぎ、フルスロットルでイスカンダルに向けて真っ直ぐ屋上を走るライダー。そして、ポーチの中から取り出して屋上の縁に投げ付けた迫撃砲をジャンプ台替わりに走り抜け、イスカンダルのいる夜の大空へと飛び出した。

 

 

「おりゃあぁああああああっ!」

 

 

同時にエルメスをストラップに戻して糸を引っ張って手繰り寄せ、取り出したリボルバー・・・シングルアクションアーミーを手にして勢いのままにライダーは砲弾の如くイスカンダルへと突っ込むも、途中で勢いが衰えるのを見てイスカンダルは「惜しかったな」と苦笑する。しかし、ライダーも伊達に銃器の達人ではなかった。

 

 

「隙有り!」

 

「なんと!?」

 

 

一拍置いて迫撃砲から放たれた砲弾に向けてシングルアクションアーミーの引き金を引くと見事撃ち抜き、その爆発を利用して加速。イスカンダルに肉薄するともう片方の手に取りだした彼女の宝具・・・魔射滅鉄(ビッグカノン)を向けようとするも、イスカンダルが唐突に急降下を始めた事により中断。

 

 

「逃がさない・・・!」

 

『死ぬかと思ったよ!せめて一言言ってよね!?』

 

 

空中に投げ出されたライダーは峠の道路に激突する寸前でバイクモードになったエルメスに搭乗、何とか難を逃れるとそのままアクセルを捻って走りだし、同じ道路に着地して道路と岩壁を削りながら爆走するイスカンダルを追跡する。

 

 

「ガハハハッ!まさか再びこの道で鉄の馬と速さを競う事になろうとは!なんたる運命の悪戯だろうな、ライダーよ!ウェイバーの奴めがここに居ない事が口惜しいわい!」

 

「訳わかんない事を言ってないで、桜を返せ!」

 

「残念だがな、それはできん。これは我がマスターとの契約なのだ、無下には出来ぬ。ところでだライダーよ!……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある。貴様も聖杯を望んでおるのだろう?聖杯に何を期するのかは知らぬ。だが今一度考えてみよ。その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのかどうか」

 

『どうやら僕らの願いと彼の願い、どちらを優先すべきか考えろーって事らしいよライダー?』

 

「私の願い何てそこらにあるくだらないものだっての!何が言いたいのか知らないけど桜を返せ!もしくはスピードを落とせ今畜生!」

 

「うむ、噛み砕いて言うとだな。ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様を朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる。そうすれば我らは戦わずに済むではないか!」

 

「ふざけんな!んなことより桜を返せ!」

 

 

頑として話を聞こうとしないライダーにイスカンダルは残念そうに笑う。それが逆撫でし、ブチ切れてさらにスピードを上げるライダー。しかし、差はそう簡単に縮まらない。スタート時の場所からしてかなり距離が開いていた様だ。

 

 

「こりゃー交渉決裂かぁ。勿体ないなぁ。残念だなぁ」

 

『そうは言うけどね征服王。この相棒はそもそも交渉とかには応じないよ。貴方がうちのマスターを連れている限りは特にね』

 

「いやなに、“ものは試し”と言うではないか。しかし言葉を介す乗り物とはまた面白いな。やはり惜しい・・・どうしても我が軍門に降らんか?」

 

「『くどい!』」

 

 

その返事に、本当に残念そうに溜め息を吐いたイスカンダルは、すぐさまニッ!と笑みを浮かべ手綱を握る手に力を込めた。

 

 

「ならば仕方あるまい、しかし面白いぞ。そういうことなら余も相応の趣向で望んでやらんとな。()くぞライダー、尋常に車輪で勝負を決めてやる。見事征服王イスカンダルたる余を倒して貴様のマスターを奪還するがよい!」

 

「言われなくてもそのつもりだっての・・・!」

 

『もしこんな小娘に負けたら征服王の面子が立たないけどいいのかな?』

 

「案ずるな!天にも地にも、我が疾走を阻むものなど無い!」

 

 

さらにスピードを上げ、近づける事無く差を広げられていくことに歯噛みするライダー。しかし当り前だ、彼女はバイクの操縦などろくにしない四年生・・・高校一年生なのだ。エルメス合ってこそのライダーであり、征服王との練度の差は歴然である。それでも、根性で喰らい付くライダー。技術云々ではない、食に対してのみ使われてきた常人離れした執念によって、ただのガンマニアの女子高生が征服王に徐々に、しかし確実に肉薄していた。

 

 

「ほう、我が走りに着いてくるか。しかし生憎とこちらは戦車でな?お行儀よく駆け比べとはいかんぞ!」

 

「なっ!?」

 

 

神牛の蹄から発生する雷撃と車輪の棘により破壊された瓦礫が飛来、ライダーは咄嗟に取り出したUZI二丁を手にバイク上で対抗するが、ハンドルを放したことによるスピードダウン。一気に差を離されてしまう。既にカーブのガードレールの向こう側に見える道路を独走するイスカンダルに、ライダーは無い頭を振り絞って思考する。こういうのはエルメスの役割だが、定石では無理だ。ならば・・・

 

 

「ほう!よくぞ耐えた!だが第四次のセイバーの妙技程にはいかぬな!余の後塵を拝するとはこういうことだライダー!」

 

「・・・いっつも瓦礫の山を作り上げるサモエド仮面に比べたらどうってことないわ!エルメス!歯を食い縛れ!」

 

『無茶を言うけど何をする気なの!?』

 

「無茶する!」

 

『だよねこのおバカ!?』

 

 

ポーチから取り出したRifle,Anti-tank,.55in,Boys・・・ボーイズ対戦車ライフルを二丁ぶん投げ、カーブのガードレールに斜めに立てかけ、銃身長910mmのそれに全速力で突進。ジャンプ台替わりに使い、空中へと飛び出しイスカンダルに向けて綺麗な放物線を描いて落ちて行く。

 

 

「桜を返せぇええええええっ!」

 

「なんと!?」

 

 

UZI二丁を再び手に取り、神牛に向けて乱射して足止めを行ない、戦車を停めたイスカンダルの真ん前に何とか着地。エルメスをストラップに戻してUZI二丁をポーチに戻し、代わりに取り出したのは自らの宝具・・・一撃必殺のリボルバー、魔射滅鉄(ビッグカノン)

 

 

「これで終わり・・・!」

 

「それがお前の宝具か!受けて立つ!彼方にこそ栄えあり(ト・フィロティモ)!」

 

 

御者台の上(・・・・・)で剣を抜いて高らかに宣言し、真名解放して完全解放形態からの雷撃を纏った突進を仕掛けるイスカンダル。対軍宝具と、必殺宝具の真っ向勝負。本来ならば当たれば勝てる必殺宝具の勝利である。

しかしだ、前提が覆ればがらりと変わる。例え必ず当たる距離、真っ直ぐ突っ込んでくると言う格好の標的であっても、前提が変わればそれも入れ替わる事になる。

 

 

「いざ征かん!遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)!!」

 

 

完全な静止状態から100mの距離を瞬時に詰める加速力を持つ神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)による蹂躙走法。雷気を迸らせる神牛の蹄と車輪による二重の攻撃が迫るも、ライダーは冷静に標的を見据え、今まで数多くの魔物をただの一発で仕留めて来た魔射滅鉄(ビッグカノン)の引き金を引いた。

 

 

「魔を撃ち払え!必殺!【魔射滅鉄(ビッグカノン)】!」

 

 

たーんと放たれるは、変身が一発で解ける程の多大な魔力消費と引き換えに起源弾的な弾丸を放って【魔】の特性を持つ相手を必ず殺す、必殺の魔弾。【魔】とはもちろん使い魔であるサーヴァントも含まれており、聖杯戦争に置いては圧倒的な切札(ジョーカー)となりえる宝具だ。

 

しかし、ここで前提が覆る。まず、ライダー・・・木乃本人は覚えていないがこの宝具は元々「自称惑星の女神的存在が四大魔王宇宙の手下とか言う奴等が唆した魔物を元の人間に戻すために、疑似人格を与えられた"旅人キノ”が元々所持していた銃が変質した物」と言う事。つまりはその力の持ち主とも言える女神・・・神性持ちに対しては効果が半減する。それを知り得るのは、木乃やサモエド仮面とは異なり本来の記憶を有しているエルメスのみ。

ギルガメッシュの持つ宝具、神性が高ければ高い程効果を増す天の鎖(エルキドゥ)とは正反対だと言う事だ。余談ではあるが多くの伝承によって最高神ゼウスの息子であると伝えられているイスカンダルは神性C持ちであり、第四次聖杯戦争ではギルガメッシュの天の鎖(エルキドゥ)によって敗北した。

 

そしてもう一つは、これはあくまで魔術的な物ではなくただの弾丸であること。そして神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)の御者台には防護力場が張られており、これにより衛宮切嗣は同乗していたイスカンダルのマスター、ウェイバー・ベルベットを狙撃する事が出来なかったと言う事だ。

 

 

即ちそれは、ライダーの宝具は御者台の上に立つイスカンダルに対して無効であることを意味する。

 

 

「なっ・・・!?」

 

『ライダ・・・キノ!避けろ!』

 

 

ライダーの放った魔弾がイスカンダルの脳天を撃ち抜く事は敵わず、無防備な状態で遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)と真正面から相対すると言う事だ。確定する敗北にマスターを救う事無く消滅する未来を幻視するライダー。

 

生前でも、勝てる訳がないと思い知らされた敗北が多々あった。しかしそれは、サモエド仮面やらの仲間の解説で「何故負けたのか」と考える事は無かった。しかし、何故負けたのかが分からない。それ故に、得体の知れない恐怖がライダー・・・木乃の動きを完全に静止させた。もはやエルメスの言葉は聞こえない。認識するのは、刹那の中で迫り来るイスカンダルに対しての恐怖のみ。

 

 

『キノ!』

 

「・・・え?」

 

 

ふと気付くと、ライダーはガードレールの外側に吹き飛ばされていた。眼下にあるのは切り立った崖。落ちて行くその瞬間、ガードレールの向こう側に見えたのは・・・

 

 

『後は任せたよ、キノ。君ならできる』

 

 

モトラド・・・大型二輪車の姿に戻ったエルメスが轢き飛ばされ、粉々に粉砕された光景だった。

 

 

「ッ・・・エルメス――――――――――――――――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲痛の叫びを残し、為す術もなく崖の下へと落ちて行く相棒に申し訳なく思いながら、そのしぶとさを知るエルメスは口も無いのにふと笑う。人格が変わった事でまるで別人ではあるが、やはり彼女は自分の相棒だ。

 

 

『・・・スクラップになるのを拒否してストラップになってまでキノと一緒に居れてよかったなぁ・・・』

 

 

最後の最期、勝手に彼女の腰からバイクに戻る事でライダーを突き飛ばし、身代わりとして受ける。それがエルメスのやった事だ。小柄なため案外上手く行った。ただのモトラドの身でかの征服王を出し抜いたのだ、してやったりである。

 

 

「敵ながら天晴れだ物を言う不思議な乗り物よ。時世の句があるなら申せ、次にライダーに会ったら言っといてやろう」

 

『はは・・・だったら、一人でも頑張るんだよと言って欲しい。僕らは二人でようやく一人前の英霊だ』

 

「よし。必ずや伝えよう」

 

 

そう言って満足そうにハンドルをバイクの残骸に置き、戦車に飛び乗った征服王が去って行くのを感じて。

 

 

『叶うのならば・・・またキノと旅を・・・』

 

 

その言葉を最後に、謎の美少女ガンファイターライダー・キノと言う名の英霊の片割れ"エルメス”は黄金の粒子となって消滅した。

 

 

― The world is not beautiful: therefore it is. ―




最後の言葉に深い意味は無いです、ただ書きたかっただけ。そんな訳でライダーの片割れ、エルメスが脱落。敗北の理由は圧倒的な相性の悪さ。第四次鯖を参戦させる過程でかなり考えてこの二人を戦わせるのは確定してました。

序盤ではバゼットが自身のミスを、セイバーとアサシン=クロナの夢として見たせいでクロナと自身への嫌悪がマシマシ。でもバゼットのせいで負けた以外は合っていると言う。是非も無いネ!

装甲やらを貫く当たれば勝てる魔弾。マキリの本体を撃ち抜いたこれ、一見負ける要素が無いですが割と穴だらけの宝具。セイバーや魔物に変身できるキャスター、神性が低いバーサーカーに対しては効果的。でもランサーやギルガメッシュには太刀打ちできない。これは理解していなかったライダーが悪い。でも神性持ちに対して使ったことが無い上に自称女神と出会った記憶がエルメスにしか残ってないからしょうがない。そもそもエクスカリバーでもないと、ランスロットでも撤退させるあの戦車に勝つのはなあ・・・

次回は落ちたライダーの元に・・・?バーサーカーとディルムッドが戦っている時系列の士郎達を描きます。今度こそ固有結界VS固有結界です。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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