Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
楽しんでいただけると幸いです。
それは、久しくぶりの人智を超えた戦い。いや、私が慣れていただけなんだろうけどね?何の魔力の強化も無く、純粋に私の瞳で見る戦いは、やはり付け入る隙が無い、
赤と黄の閃光が瞬き、暴力の嵐で押し返される。六つの拳が縦横無尽に駆け巡り、絶技を以って払われる。
敏捷と技が売りの槍兵と、筋力と逆境の強さが売りの狂戦士の対決は、それの繰り返しだった。それはまるで、夢で見た
「
「ッ・・・!」
もう一つ注意すべきは、あの二槍だ。片や魔力を打ち消す、私の改造魔術の天敵とも言える
バーサーカーはいわゆるノーガード戦法だ。怒れば怒る程傷が癒えて行くから当り前である。しかし相手の黄槍は当たる訳には行かないから、フェイントも織り交ぜた一撃を常に警戒しないと行けない。
さらに言えば、バーサーカーの六天金剛の四腕はマントラで形成している物だ。足りない時は私の魔力も使っている為、刃に触れれば簡単に捥がれてしまう。つまりこちらも迂闊に当てられない上に受けれない。
さらに、
だから、信じるだけだ。どんな苦境であっても打破して来た男を。私のサーヴァントを。
「ウオォラアアアッ!」
「甘いぞ狂戦士!」
腕一本ずつで槍の柄を掴み、そこに残り四つの拳が殺到。しかしディルムッドは曲芸の様に槍をクルリと回してバーサーカーの腕を弾き飛ばし、そのまま二槍でバーサーカーの二腕を切断。あっ、という暇もなく流れる様に黄槍の突きがバーサーカーの胸を穿ち、突き飛ばした。鮮血、ではなく火花が散る。内部の機械が露出して黒く焦げている。アレは不味い、重傷だ。
「バーサーカー!」
「どうした、女マスターよ。治癒魔術はかけないのか?」
「・・・ッ」
まただ。また、この自分への憤りだ。ちょっとでも治癒魔術を使えれば、バーサーカーを少しは楽に出来たかもしれない。意固地になって「強化」しか覚えなかったツケだ。いや、どちらにしても使えなかったかもしれないけど。
「そいつは関係ねえ。俺はまだ戦えるぞ糞野郎・・・!」
「ほう。致命傷であろうにまだ立てるのか。気に入ったぞ、バーサーカー」
「俺はテメエが気に入らん!」
傷口を押さえて立ち上がり、睨みつけるバーサーカーに好敵手を得たとばかりに笑うディルムッド。残った四椀を振るうバーサーカー。しかしキレがなく、あっさり避けられたところに斬撃。二腕がもがれ元の一対に戻ったバーサーカーは、跳躍して光弾を掌から放射するがディルムッドはバックステップで後退して冷静に回避、降りてきたところを迎撃し、バーサーカーは槍の柄で殴り飛ばされてしまう。
駄目だ、圧倒的に魔力が足りない。このままじゃやられる。任せるとは言ったけど、私も援護した方が・・・いや、何ができる私に。下手すれば決して癒えない傷を両足に受けるかもしれないんだぞ?もう、不相応な事は止めろ。バーサーカーを、・・・信じろ。
「オラアッ!」
「なんの!・・・むっ?」
すると、バーサーカーの拳を回避したディルムッドのカウンターが、初めて外れた。いや、バーサーカーが頭をずらした事により頬に掠っただけで済んだのだ。そこから、流れが変わる。
「な、なんだ?」
「オラ、オラ、オラアッ!」
ディルムッドの突きを避け、カウンターの拳が顔面、胸部、腹部に叩き込まれて行く。大振りなのは変わらない。だがしかし、逆転した。バーサーカーの動きを見ていて、私はそれに気付いた。
「・・・そうか、得物のリーチで翻弄されていたのか」
バーサーカーは、雑魚以外だと武器を持った強敵と戦ったのは二度しかない。彼の師にして無明鬼哭刀の使い手、オーガス。そしてバーサーカーを一度殺した仇敵にして七星天の筆頭、デウス。この二人の共通点は、どちらも共に伸縮自在の武器を使っていたと言う事だ。
まず無明鬼哭刀。これはかなり離れた所から突きの形で成層圏までバーサーカーを突き飛ばしてしまう程の勢いで、地球を貫通する程に伸縮する。イメージとしては如意棒だ。実際、バーサーカーは地球と一緒に団子みたいな状態にされてしまったが、地球に貫通している事で生まれた隙を突いて刀身を叩き折り、奪い取って勝利した。
そして問題はもう一人。デウスの武器は鎖の部分が雷になっているヌンチャク型法具「ヴァジュラ」を使う。雷の束を周囲に放って寄せ付けず、近付けたところで雷速の一閃が敵を沈める。実際、アスラとヤシャ二人がかりでもかなり苦戦し、夢で見た私からしても「よく勝てたな」と言えるほどの圧倒的な実力だった。例えるなら、王様とキャスターを合わせた感じと言った所だろう。勝てる気がしない。
なにが言いたいかと言うと、バーサーカーは得物を手にする敵の場合、必ずと言っていいほど伸縮自在のリーチに苦戦していた。だからこそ、ディルムッドの槍も伸びる類の物ではないかと警戒していた様だ。実際は「触れれば脅威」だったが。伸びないと分かれば、得意の接近戦だ。しかも両腕が残っているのだ、負けるはずがない。
「ウオラァアアアッ!」
「ぐはああ!?」
槍の連撃を掻い潜って繰り出された裏拳がディルムッドの頬を捉え、殴り飛ばす。しかしカウンターでゲイ・ボウがバーサーカーの脇腹を穿っていた。・・・クロスカウンター、と言えるのだろうか?傷は、バーサーカーの方が大きい。さらに一閃、二閃。赤と黄の閃光が瞬き、バーサーカーは吹き飛ばされる。
「貴様は強い。だが主の命を遂行するべく、我が絶技を持って屠らせてもらう・・・!」
「・・・来い!」
全身から赤と黄の魔力を放出し、二槍を構えるディルムッド。まさか、あの二槍を同時に・・・!?構えるバーサーカーだけど、傷が深いのは目に見えている。不味い、もうここは援護するしか・・・!でも、どうする?
「穿て!
考えている間にも、ゲイ・ジャルグがバーサーカーの防御を切り払い、必殺のゲイ・ボウがバーサーカーの胸元・・・恐らくディルムッドは知らないが、バーサーカー達「神人類」の心臓部を成す「炉心」を穿とうと迫る。左側にある心臓と違って分かりやすく胸部の中央に配置されている上に、アレを破壊されたら動けなくなるどころか、消滅しかねない。と、その時だ。
「勝手に決めるな!終わりを決めるのは俺だ!」
何かに気付いたようにハッとした顔になったバーサーカーが首を右にずらした瞬間、ディルムッドの槍が何かに弾かれた。その隙を逃さないバーサーカーではなく、アッパーを腹部に叩き込んでディルムッドは胃液混じりの吐血をしながら宙を舞い、拳にマントラを込め、肘から噴出して打ち出すバーサーカー。
「ぐっ、あっ・・・!?」
「俺が、決める!」
落ちて来た整った貌に顔面ストレートが炸裂。アインツベルンの城壁まで吹き飛ばし、城壁を粉砕して倒壊させディルムッドは胸から上のみ瓦礫から出ている状態で動かなくなった。消え始めているところから、勝利したのだろう。でも今のは・・・?
「不覚・・・伏兵の少女の存在を忘れるとは、主の期待に応えられなかった俺自身の未熟さに恥を覚えるな。見事だ、狂戦士。ぜひ名を聞かs」
「ふざけるな!他に恥じる事は無いのか!」
「・・・なんだと・・・?」
自重の笑みを浮かべ賞賛を送ったと言うのに何故か怒り狂っているバーサーカーに怪訝な表情を浮かべるディルムッド。そう言えばと思い、ユキナの居た方を見ている。いつの間にか、イフと共に消えていた。あんな戦いの中逃げるなんて凄い度胸だ。
「貴様は、主の命だからとあんな女子供を付け狙ったのか?!貴様が恥じるべきは、くだらない物のために無力な奴等を襲っていた自分自身だクソッたれが!」
ディルムッドの憂いを帯びた目に、誰かを思い出したのか珍しくブチ切れているバーサーカー。まあ確かに、少しどうかしてるよこの騎士。私には理解できないね。
「・・・そうか、そうだったな。騎士の誇りとはなんだったのか。狂戦士の言葉で思い出されようとは・・・ふっ、これでは主にも前の主にも、誉れ高き騎士王にも顔向けできん。・・・すまなかったな、言峰黒名。俺はどうかしていたのだ」
・・・でも、それでも。ディルムッドが抱いていた激情は、恨み辛みの怨念が籠った怒りは、そこから来る八つ当たりは、ついさっきの私と一緒だ。それでも八つ当たりで女子供に手を出すのは如何なものかと。・・・はい、私ですごめんなさい。
「いいよ、分かるから。それに、前襲ってきたサーヴァントみたいに何か奪われた訳じゃないし。でも、私を邪魔者扱いする貴方のマスターって何者?」
「すまない。白衣を着ている事しか知らんのだ。名前は聞かなかった、また主の機嫌を損ねる訳には行かなかったからな。ただ命令を与えられただけで、コミュニケーションすらとっていない」
「・・・よくそれで言う事聞いたね?」
「ああ。何せ、私に任せると言う事は即ち、信じている事に他ならないからな!全力で戦い、果てた。悔いはない。ああ主よ、貴方を置いて逝くことをどうかお許し願いたい・・・」
そう言って完全に消滅するディルムッド。安らかな笑みだったからまあ、本人的には満足なんだろう。ちょいと哀れに見えたけど。本人がいいならそれでいいのだ。それより・・・
「バーサーカー、さっきのはなに?」
「・・・ただの気まぐれなそよ風だろう。俺は知らん」
「そっか。運がよかったね」
・・・絶対違う。バーサーカーは嘘を吐くのが下手過ぎる。でも、まさかね。アレは、矢の様に尖った枝だった。あんなことができるのは、私は一人しか知らない。でも、この手で殺したはずだ。だから、気にするのは止めよう。アレは運がよかった、そう考えよう。またグルグル同じ事を迷い続けるのは駄目だ。
「・・・じゃあ、帰ろうかバーサーカー。士郎と桜、イリヤが待っているはずだ」
「・・・・・・トオサカはいいのか?」
「知らんよあんな魔術師。士郎の魔力タンクでしょ?」
「お、おう」
おいなんだその呆れ顔は。これでもかなり妥協した方だぞ?居ない物として考えてもいいんだからね。・・・なんか私を姉の様に見ていたから何か、放っておけないだけだから。でも、立ちはだかったら・・・私は、凛でも殺せるのかな。
帰路につく私達を、倒壊したアインツベルン城の窓の中から見ていた少女が居た。ユキナ・・・ユキナ=フリージスと言う名のご令嬢は、私達が去った事を確認すると腰から崩れ落ち、傍らの廊下で呑気に寝ている相棒を見下ろし微笑んだ。
「・・・気絶させたのは私ですけど、令呪で助けてくれたお礼ぐらい言わせてくださいませ。サーヴァントと戦って生きているなんて本当に頑丈ですことマスター。でも、おかげで助かりました。ありがとうございます。なんて、聞こえていませんよね?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、前から思っていたけどフリージス家のお嬢様は何か合わないわね。せいぜい観察眼ぐらいしか持ってないから魔力消費が少ないメリットが無いとなりたくもない・・・ですわ」
そんな事を呟いたユキナは、恥ずかしくなったのか顔を赤らめ、その姿を一瞬黄色いサイドテールの少女の姿にぶれさせると、壁にもたれかかって辛いのかそのまま目を瞑り、体力の回復を図った。
「・・・魔力が枯渇寸前だってのに何で私は助けたんだか。あのバーサーカー、私の正体に気付いていたのに言及しなかったのはもう害はないとでも思ったのかしら?
勘違いしないで欲しいけど、助太刀したのは助けてもらった礼とイフの為よ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトのサーヴァントなんて見付けたら、何するか分かった物じゃないから。いや、ケルトマニアだからそっちの方向でも暴走するかもしれないか。全く、馬鹿なマスターを持つのも困った物よ」
ふぅ、と一息吐く。とりあえず安定したらしい。これで消える事はまずないだろう。マスターが起きるまでこのアインツベルン城に潜伏する事を決めたのか、再びイフを担いでほとんど半壊している廊下を歩きだす。
「とりあえず、ベッドがある場所・・・それと、魔力のストックになるホムンクルスとかないかしら・・・って私が壊しちゃったのか。やってしまった・・・飯でも食べれば少しは回復するかしら」
そんな事言いながら見付けたイリヤの物と思われるベッドにイフを放り投げ、ユキナは一人廊下を歩く。吹き込んでくる隙間風に体が震えた。
「でも私、イフみたいに料理作れないし・・・・・・・・・・・・・・・アレンかクラリスなら作れるかしら?とにかく、少しでも魔力を回復しないと・・・」
ぼやきながら、生きている事を実感してユキナは笑う。まだ、チャンスはある。生きているなら何だってできる。だって、今の私は独りじゃないから。そんな希望に満ちた笑みを浮かべるユキナを余所に、雨が降り終え、深々と雪が降り始めた夜は明けて行く。
そんなこんなで辿り着いた衛宮邸。バーサーカーを回復させるために霊体化させ、魔力もほとんど尽きていたため鍵がかかっているバイクを拝借できずにまさかの徒歩である。もうすっかり朝だ。これが朝帰りか。いや、違うか。
「・・・何事?」
帰るや否や、違和感に気付いて悪寒が走る。・・・なんで、衛宮邸の塀にあんな巨大な穴が開いている?嫌な予感がして、私は慌てて玄関に飛び込み、居間に走る。そこにいたのは・・・
「士郎!イリヤ!桜・・・・・・?」
まるでお通夜の様な暗い空気の中で机を囲んで座る士郎、アーチャー、イリヤ、セイバー、凛、何故かここにいる五体満足のバゼットさん。・・・そして、傷だらけで布団に入れられたライダーの姿だった。・・・待て、待て、待て。なんで、なんで、なんで。
「士郎、桜は・・・?」
「・・・ああ、おかえり。クロ姉」
「クロナ・・・私達が着いた時には、もう遅かったの」
沈んだ顔でこちらを見上げる士郎とイリヤ。その顔は罪悪感がいっぱいで、私は事情を知っていると思われる凛に歩み寄る。
「・・・凛。何があったの?」
「・・・クロ、帰ったのね。私が不甲斐無いばかりに桜が・・・・・・ライダーに、連れ去られてしまったのよ」
「・・・ん?」
その言葉に言い様も無い違和感を覚える私。・・・エミヤシロウも、ディルムッド・オディナも始まりに過ぎなかった。私達は既に、イレギュラーな聖杯大戦へと巻き込まれていたらしい。
アスラっぽい台詞をいっぱい書けて満足。相変わらずギリギリの勝利でした。
アスラを一度は圧倒して見せたディルムッド。アスラ、どうも武器持ちの相手が苦手の様なんですよね。というかリーチ自在の武器。だから警戒して攻撃を受けていたけどそんな事は無かった。→圧倒。ノーガード戦法のアスラにとって回避は基本です。具体的に言えば格ゲーなのに防御が無い感じ。
ユキナの正体はやっぱり彼女。今際の際にイフが意識を取り戻して令呪で助けていました。ユキナの口調は気持ち悪い様子。でも魔力消費しない姿がそれしかないからしょうがない。身長や能力が小さい程使う魔力も減るんです。
生きていた彼女の助太刀も合って辛くも勝利したクロナを待っていたのは、守らないと行けないはずの少女の誘拐。次回はクロナ達が死闘を繰り広げていた時系列に戻ります。
次回、ライダーVSライダー!固有結界VS固有結界!の二本立てでお送りします。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。