Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
拙い描写かもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。
最初に感じたのは、寒い。次に感じたのは、痛い。どうやら、俺は全身大火傷を負った上で大雨に打たれているらしい。ああ、全身に染み渡るな。・・・これは、涙か?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
懺悔の声が聞こえる。・・・そんなに泣くな。俺が勝つためにやっただけの事だ。そう言ってその頭を撫でたいのに、口も腕も動かない。・・・人間の身でサーヴァントに挑んだ代償か。雨に打たれながら笑う事しかできない。道化か、俺は。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・」
今度は壊れたように礼を言ってきやがる。本当に恐かったんだな。気を失っていた時に見た夢で、コイツの悲痛な顔を見て鞭打ち、無理にでも起きてよかった。今まで見て来た夢でもコイツは一切泣かなかった。サーヴァントになってやっと初めて泣いているのか。
・・・コイツには、嬉し涙を流して欲しかったんだがな。ビジネスライクと言う関係と言っても、俺達がそれぞれ抱いている願いは違う。それでも、共通する願いがあった。ありえたかもしれない可能性を渇望している事だ。だから俺達は一緒に戦えた。一方的だったかもしれないが、俺はコイツの「夢」を応援していた。
その結果は焦った挙句にこの様だ。・・・コイツが負けそうになったのも、俺の所為だ。…なにしているんだ、俺は。マスターはマスターらしく、サーヴァントを信じて任せればよかったんだ。あの女みたいに前線に立つからこうなる。謝る事は無い、礼を言う事は無い。これは全部当然の事だ。
「・・・だから、泣くな」
「・・・・・・・・・生きてる?」
「・・・この程度で死ぬかよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね!」
「!?」
天敵、アサシンとの戦いが終わった。
火事の所為か、雨が降り出す。アインツベルンの森を覆っていた炎が、黒煙となって沈火して行く。私はただそれを、呆然と見上げていた。虚しかった。ただ無性に、心に穴が空いた感じだ。
・・・ああ、ついに殺した。殺してしまった。今まで、重傷を負わせる事はあっても私は一度もその命を奪う事は無かった。屍兵は既に死体、人形で殺しではない。壊した、だ。先刻のアインツベルン消滅だって、手を出したのはアーチャーだ。私は提案しただけに過ぎない。
怒りのままに復讐を遂げる覚悟はあった。あった、はずだ。でも私は、このまま続けていいものかと迷ってしまっている。結果、私は何を残せた?
士郎の命をむざむざ奪わせてしまった。サーヴァントを得たらすぐにでも救うと思っていた桜はライダーに救われた。イリヤの家族を守る事が出来なかった。バーサーカーの暴走を止めて冬木を守ったのは凛とランサーだ。エミヤシロウは、私を守るためだからと冬木を犠牲にしようとしていた。
王様も、私のために珍しく本気を出して死に体で戦ってくれた。あの外道の極みとも言える父さんだって、私を奪い返すためにあのエミヤシロウに拳を向けたと言うではないか。そしてバーサーカーは、何時も私を守ってくれた。否天の暴走だって元を辿れば私の所為だ。
何もできていない。そればかりか私はバーサーカーや王様に守られてばかりだ。守る必要はないと言わんばかりに一人で戦い、そして勝った。・・・シロウの時と違うのは、私の手で引導を渡したと言う事だ。
なんだろう。雨生龍之介を文字通り灰塵にした時はただ狂喜に満ち溢れていたのに。アインツベルンの本拠地を消滅させたときはただ笑いが込み上げて来たのに。
なんで、アサシンを殺した今の私は、雨に紛れて泣いているんだろう。泣かないって、決めたのに。あの日、シロウにバーサーカーを奪われて冬木市を破壊されて、士郎の前で悔しさのあまり泣いたあの時みたいだ。・・・いや、あの時とは心境は真逆だ。悲しくない、悔しくも無い。嬉しいはずなのに。
「なんで・・・」
「アサシンをやったのか?」
「・・・バーサーカー・・・・・・」
持ち直したのか、背中に大きな傷を残し両腕を失った姿でこちらに歩み寄って来るバーサーカーに、私は涙を拭いて振り向く。するとバーサーカーは、怒っていた。
「・・・うん、やったよ。この手で、やった。殺したよ」
「そうか。・・・・・・・・・だったら何故泣いている?」
「泣いて、ない・・・!」
「・・・そうか」
ただのしのしと、歩み寄って来るバーサーカー。顔を向ける事ができずに俯く私。ばれているだろうな、とは思う。誰よりも涙に、誰かが泣く事に敏感なこの人に隠す事なんてできない。それでも言って来ないのは、彼なりの不器用な優しさなのだろう。
「・・・魔術師達に復讐しようと思っていた」
「・・・」
「アインツベルンも、間桐も、時計塔も、一般の魔術師だって魔術使いだって・・・根源やら私欲やらを優先して理不尽に人の命を簡単に奪って行く奴等を、赦せないと思ったから、私は聖杯戦争に参加したんだ」
私の原初である雨生龍之介を葬ったせいで怒りが消えてしまったのか。それとも、単純に私は何かを殺す事が出来ない性分なのか。いや、もしかしたら・・・エミヤシロウに言われた言葉に、納得してしまったのかもしれない。まだ間に合う、だから諦めて大人しくしろと。
「でも、なんでだろ。アサシンを殺して、彼女の純粋な願いを復讐のためにと踏みにじって・・・震えが、止まらないんだ」
「・・・」
「確かにやっていた事は人道なんてへったくれもいい所の外道な所業で許される物じゃないけど、でもそれは私も同じなんだ。
魔術師達と同じだから、一般人を巻き込むのは嫌だ。ただ、それだけの違い。・・・だから、アサシンは私と同じなんだ。そんな、どんな手を使ってでも平穏を得ようとしていた純粋な願いを・・・理不尽に潰してしまった」
他人の純粋な願い。それを潰してまで、私は何を得ようと言うのか。・・・何もないんだ。私は、ただ赦せないから戦って、それを今後悔している。このまま進んで・・・いいのか?このままだと、守ろうって決めた人達まで殺しかねない。赦せないから殺す、なんていうのは間違いだ。でも分かっていても止められない。私にとっては息する事と同義だからだ。だから、魔術師以外をうっかり殺してしまうかもしれないんだ。私自身が理不尽の体現だ。それは、嫌だな。
「私は、復讐を続けていいのかな・・・」
「・・・復讐するは我にあり」
「え?」
「俺の誓いだ。今は英霊の身に成り果てたが、それは変わらん」
バーサーカーの怒りは、私の偽善的な物とは違う壮絶な物だ。ゴーマ・ヴリトラとの血戦の翌日に同胞達の企みで神皇暗殺の犯人として反逆者の汚名を着せられ、妻は殺害され娘は誘拐された。そして、「世界を救うための犠牲となれ」と命を奪われて地獄に叩き落とされ、バーサーカーは最期に自分を裏切った同胞達へ復讐して娘を取り返す事を誓い、一万二千年の時を超えて甦った。怒りを魂代わりにすると言う荒業で。まさに怒りの具現そのものだ。
「ミスラが生きる世界を見届け、俺は安らぎを得た。だが、俺の怒りは、今もなおこの世界に対して燻っている」
「・・・分かっていたけど強いね、バーサーカーは」
違い過ぎる…怒りを復讐に捧げたバーサーカーと、怒りのまま復讐を為そうとしているだけの私。境遇の差か、それとも覚悟の差か。・・・どう考えても後者だな。私の覚悟なんてそんなものだ。勢い任せの怒りにかられた衝動だ。
「・・・お前はこの戦いから降りろ」
「・・・嫌だ」
「だったら聞くぞ。キャスターを倒した後、お前は残る三騎のマスターと戦えるのか?」
「それは・・・」
残る三騎、と言えばセイバー・アーチャー・ライダー・・・守ると決めた三人のサーヴァント。・・・確かに、考えて無かったと言うのは嘘になる。サーヴァントだけなんてそんな甘い考えが通じるはずもない。もし士郎やイリヤ、桜と対面した時・・・私はちゃんと戦えるのか、今も分からない。でも、私は聖杯を得ないといけない。そのためならば・・・
「泣きそうで泣けない顔だ」
「ッ・・・大丈夫、私は聖杯を得るんだ。キャスターを倒したら、あの三騎もちゃんと倒す。それで聖杯への道が開けるんだから・・・」
正直、凛のランサーが最後に生き残ると思っていた。あの英霊ならばどんなことがあっても生き残り、セイバーをあの槍で穿ち、ライダーやアーチャーをも仕留めて、最後の敵になるんだと思っていた。でも、他ならぬ私がシロウにやられたせいでランサーは最初の脱落者となった。誤算にも程があると言うか、獲らぬ狸の皮算用というか。私は、甘い考えだったんだ。士郎と桜だけ守ればいい、遠坂凛なら実力もあるし最後まで生き残ったところを殺せばいい。士郎と桜が参戦すると聞いて、そう考えていた。
だからこそランサー陣営とキャスターを倒すまでと言う名目で同盟を結んだし、私があそこで倒れなければ確実にそうなっていたはずなんだ。・・・完璧だった計画を壊したのは、そんな私の驕り。一瞬の油断。何より、私と言う存在が招いたイレギュラーのせいだ。
平行世界からわざわざやって来た『M』のせいで父さんと王様が傷付いた。私の中で「最強」に確立されていた二人がやられた事で、私は間違いなく動揺していた。だから、バーサーカーには防御だけ任せて自分で迎え撃つなんて馬鹿をやったんだ。私が放った矢を相殺された事により生じた隙を突かれ、敗北した。セイバーやキャスター相手に生き残った自分なら大丈夫、勝てると驕っていた。
ああ、嫌だ。
エミヤシロウがどうして召喚されたのかは知らないが、バゼットのサーヴァントだったはずなのにまず私を狙ったのは、平行世界とはいえ私の所為だ。『M』の話を聞いていたはずなのに、士郎の面影を持つ彼に気付かず、警戒を怠ってしまった。さらには私が不甲斐無くあの短剣を受けて気を失ったせいで、バーサーカーはシロウに負けた。一瞬の油断が招いた最悪の事態。
考えも無しに突っ走って周りに迷惑をかける自分が嫌だ。
私の怒りのために冬木は破壊され、それを止めるためにランサーは捨て身の一撃でバーサーカーを止めた。私が怒りを抱いてなければ、責任なんて考えてもいなかった怒りと憤りをどこかにぶつけたい、と思っていなければシロウの令呪に乗せられて冬木が破壊される事もなかったはずだ。だって、バーサーカーには命令を強制する令呪なんて本来、効かないはずなんだから。
抱いた怒りで周りに理不尽な被害を与えている自分が嫌だ。
挙句の果てには死体に庇われたからってイリヤを許した癖して、それで晴らせなくなった怒りも上乗せして外道じみた
何時の間にか自分を見失っていた自分が嫌だ。聖杯を得る為なら何だってすると息巻いていた癖して、一人自分で殺して置いて今更止まろうとしている自分が嫌だ。呆れた、虚しい、どうしようもない自分に対する怒りが沸々と心で燃え上がり、それは魔力の炎となって掌から溢れ、雨が当たって水蒸気を上げる。それを雨か涙か分からない物で濡れた視界でぼんやりと見つめた。・・・ああ、私がこの炎を、固有結界を使えたのはどうしてだったか。
・・・・・不甲斐無い自分への怒りの矛先をアサシンへ向けた、ただの八つ当たり。アサシンに対しても怒りを抱いていたとはいえ、八つ当たりで純粋な願いを踏みにじったのか、魔術師以上に最低じゃないか。
「・・・バーサーカーは、何で私と一緒に戦ってくれるの?」
たまらず、聞いて見た。正当性が欲しい。私が怒りを抱いている正当な理由が。私がアサシンを倒さなきゃいけなかった理由が、たまらなく欲しい。
「テメエがこの世界に怒りを抱いているからだ。それ以上もそれ以下もない」
「じゃあ、私じゃ駄目だね」
「・・・どういう意味だ?」
不機嫌な顔から怪訝な表情を向けて来るバーサーカーに、私は申し訳なく感じた。この戦いを降りろなんて言われてもしょうがない。私に、聖杯を手に入れるばかりか、それを破壊する権利なんてないんだから。
「・・・私の怒りは、バーサーカーみたいに世界に向けていい物じゃない。独りよがりだ。自分勝手で、最低だ。抱いていい物でも、正当な物でもない。ただ、弟を見捨てた自分が赦せなかっただけなんだ。この怒りは、世界へ向けた八つ当たりだ。・・・純粋な怒りで突き進んだ貴方に見捨てられてもしょうがないかもしれない。私はこの戦いを降りるべきだ」
「・・・」
溢れる思いをそのままに懺悔する。今の私は、全てを投げ出した廃人の様になっているだろう。バーサーカーは憤怒の表情を浮かべ黙っている。マントラが両腕の付け根から漏れているのは怒りで再生が速まっているのか。・・・だろうな。こんな私の戯言に乗せられたんだ、怒って当然だ。
・・・ああ、もういっそキャスターを殺してから私も死んでしまうかな。そうすれば、士郎達はサーヴァントを残したまま、聖杯を手に入れる事無く平和な日常を送れるかもしれない。キャスターさえ倒せば、聖杯を狙うのは私だけなんだから。うん、それがいい。
私の怒りを捌け口である聖杯戦争を始めた御三家。アインツベルン、間桐は滅び、遠坂は聖杯を得ることすらできなくなった。怒りの根源である雨生龍之介はこの手で灰塵と化した。この聖杯戦争で一番赦せなかったアサシンも倒した。・・・魔術師全員への怒り、復讐なんて傲慢にも程がある。確かに根源を目指すためなら外道も侵す連中だが、自分への怒りを晴らすために八つ当たりで
・・・もう私に戦う理由なんて、存在価値なんてキャスターと戦って死ぬぐらいしかない。王様は勝手に死なせるかとか言うかもしれないけど、怒りを見失った私なんて価値は無いだろう。何で気に入られているかも知らないが見捨てるさ。こんな人間を好む奴なんてどこにいる。
士郎がエミヤシロウみたいに後悔しない程度に、潔く死んでやろうじゃないか。
「この戦いから降りる。・・・でも、その前にキャスターを倒す。バーサーカーには悪いから、一人でやるよ。『M』から令呪を譲渡されたマスターを殺せば問題ない」
そう言って、踵を返したその時だった。
「テメエは何を言ってやがる」
「・・・え?いや、だから一人でもキャスターは倒せる・・・」
「そうではない。怒りに正当も糞もあるか。俺はミスラを泣かせるクソッたれがいたから神も世界もぶっ壊しただけだ。このどこに正当性がある?正当性があるのは世界から見れば俺ではなくデウスの野郎共だ」
・・・ああ、そうだった。
「・・・でも、バーサーカー・・・アスラの怒りは優しさ故だ!人の泣き声が大嫌いで、人を苦しめ泣かせるものがこの世で一番許せない・・・熱い優しさの裏返しである怒りだ!」
「俺はただ、気に入らないだけだ」
「でも、アスラは不器用故に、人に手を差し伸べて救う事ができない不甲斐無い自分自身にも、理不尽な苦しみが繰り返される世界そのものにも怒っている!・・・あまりにも優しい怒りと、私の自分勝手な物とは全然違う。・・・正当性とかそんなものじゃない、アスラの怒りは・・・・・・・・・正しいんだ。私の怒りは、根本から間違っている」
「正しいか間違っているかも関係ねえ。それでも、怒るのは自由だ。それで身を滅ぼすかどうかなんて知らん。テメエのしたいようにすればいい。怒りを見失っているんなら、怒りを思い出すまでこの戦いから降りろ。・・・それまでぐらいなら、俺は死なん」
そう言って雨の中立ち尽くす私を置いて踵を返すバーサーカー。・・・本当に不器用だ。言葉が足りないよ、バーサーカー。いや、一度怒りを納めたからこそ少しは分かりやすくなっているのか。生前だったら「知るか!」「好きなだけ悩んでいろ!俺は知らん!」とか言いかねない。
「・・・ありがとう、バーサーカー」
「礼などいらぬ。俺は最後までテメエに付き合ってやるだけだ」
「・・・それでも、ありがとう」
・・・ああ、自棄になっていた。頭を冷やそう。その為の時間なら、バーサーカーが作ってくれる。
「・・・俺が言うのも癪だが、一つ言って置いてやる」
「なに?」
「言峰黒名。テメエに、怒りに捧げる覚悟はあるか?」
・・・ただ怒るだけじゃない。怒りに捧げる・・・つまり、殉じる覚悟、か。・・・あるのかな、私に。
「・・・ムッ」
「・・・今のは?」
今にもバーサーカーがここから立ち去ろうとしていた時、女の悲鳴が聞こえた。聞き覚えの無い声だ。明らかに、悲鳴だ。
「バーサーカー!」
「行くぞッ!」
思わず今の状況を忘れて何時もの様にバーサーカーの背に飛び乗り、バーサーカーは一跳躍でその現場に着地した。そこで見たのは、黒く焦げた焼け野原となったアインツベルンの森で、この場に似つかわしくない上品な旅行服を纏った14歳ぐらいの茶髪の少女が、全身に大火傷を負って気絶したイフ=リード=ヴァルテルをその小さな背で担いで、赤と黄の二槍を振るう緑の戦闘衣を身に纏った泣き黒子が目立つ美男子から逃げている姿があった。
・・・あの無駄にイケメンな奴はまさか、シロウみたいな番外のサーヴァント・・・?どういう訳だか知らないが、この場からイフを連れ出そうとしていた迷い込んだ一般人であろう少女を見付け、イフを始末しようと追いかけていると言った所か・・・?でも、この冬木市にまだ非難していない人間がいるなんて・・・いや、逸れた子供とかじゃなかろうか。
何にしても、イフなんかを背負ったせいで
「―――――
「なっ!?」
転んでイフの長身に潰された少女に向けて赤の槍を振り上げる槍兵に、私は右腕にマフラーを巻いて改造してアスラの背から飛び出し、肘から魔力の炎を噴き出したその推進力で人間には出せないスピードを乗せた一撃をその、こちらに気付いて驚いているムカつくイケメンの顔に叩き込む・・・!
何か一瞬ムラッとしたけど怒りがそれを塗り潰す。死ねェエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!英霊(多分)の癖して幼気な少女を狙うとは!ロリコン死すべし!慈悲は無い!
「
「――――
「・・・えっ!?」
するとどうした事か、右拳に咄嗟に振るわれた槍の切っ先が受けた瞬間、解けてマフラーに戻ってしまった。・・・ゲイ・ジャルグだって・・・?王様が、第四次聖杯戦争を説明するとき見せて来て、先日アーチャーがシロウから受けた宝具・・・その使い手で、泣き黒子ってまさか・・・!
「フィオナ騎士団・・・ディルムッド・オディナ・・・!?」
「ほう。俺を知っているとはな。女のマスター、もしや言峰黒名か?」
「・・・だったらどうする?」
コイツの話は王様から聞いている。私が大嫌いな、騎士道精神溢れる騎士の中の騎士。何でいるかは知らないが、とにかくこいつは倒さなければいけない。・・・バーサーカー、合図でお願い。
「マスターから貴君の助太刀を命令されていたのだがな?その本人が邪魔立てすると言うのなら仕方ない、足の一本は覚悟してもらうぞ?」
「っ、バーサーカー!」
「オラァアアアアッ!」
ディルムッドが嘲笑を浮かべて構えたと同時、私の合図と共に無明鬼哭刀を召喚して蹴り上げ、歯で噛み締めたバーサーカーが私の背後から跳躍、斬撃を叩き込む・・・が、ディルムッドは完全に見切って華麗な身のこなしで回避、そのまま無明鬼哭刀を絡みとったかと思えば上空に放り投げてしまった。
「我が主の命により、少し大人しくしていただこう!」
「・・・またか。どいつもこいつも、・・・そんなに私を止めたいか」
沸々と湧き上がる。これはどうしようもない私自身への怒りじゃない。ただ、私を否定しようとしている周り、世界への怒り。次から次へと、そんなに私が邪魔か。ふざけるな。私は私だ、理不尽な戯言に屈して堪るか。
「ねえ。名前は?」
「・・・ユキナ、です」
「そう。じゃあユキナ・・・下がってて。危ないから」
ディルムッドの背後でこちらを窺っていた少女、ユキナにそう告げて。私は炎を手から溢れ出させる。魔術の秘匿?知った事か。
「・・・バーサーカー。まだ、捧げる程の覚悟ができた訳じゃない。でも私はやっぱり、この怒りに従うよ。だからこそ、私はアイツをぶちのめしたい」
「・・・そうか」
ニッと笑みを浮かべ、その言葉と共に両腕が再生したバーサーカーが六天金剛になって跳躍すると同時、私は炎でディルムッドとユキナの間を割き、飛び出したバーサーカーを援護する様に炎を放つ。うん、ここはバーサーカーに任せた。信じろ、私と違って純粋な怒りのままに駆け抜けた男を。
「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ。推して参る!」
「押し通る!」
そして、木々を吹き飛ばして、二槍と六拳がぶつかった。
アスラズラースは名言ばかりなのにそれを上手く使えない自分がもどかしい。
正直、こういう主人公の心理描写は苦手です。苦悩とか特に。今まで表面楽観的なキャラばかり書いて来た報いですね。
颯爽登場、ディルムッド・オディナ。加勢しに来たはずが、何故か少女を襲って、クロナに攻撃すると言う何ともなアレ。若干オルタ化してます。主の命令こそ絶対。
独りよがりな怒りを抱くクロナと、クロナ曰く「純粋な怒り」を抱くアスラの違い。ずっとそばにアスラが居たから、逆に自分の怒りは抱いていい物なのかと苦悩してたんです。それがアサシンを倒したのを拍子に爆発したのが今回。根本的な部分で某復讐者みたいな破滅願望を抱いてるので、怒りの理由が無くなれば自棄になって死にに行きます。FGO編でも「心中する」と普通に言ってのけたクロナの本性はこれです。王様は気付いているのかいないのか。
そして地味に初登場、ユキナと名乗る謎の少女。通りかかったところでイフを助けた模様。でも何でこんな所にいるのか。バレバレですね、はい。
次回はバーサーカーVSディルムッドの手数対決。洗練された槍兵と力が売りの狂戦士、勝敗や如何に。今度こそ衛宮邸へ帰還したいです。
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