Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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今回はクロナVSアサシンの決着戦。クロナの固有結界、万物を侵せ、(アンリミテッド・)無限の憤怒(レイジング・インベイジョン)が文字通り火を噴く。
楽しんでいただけると幸いです。


♯35:悪ノ娘VS憤怒ノ娘

「じゃあね、バイバイ」

 

 

私は悪魔の手を取って海の中に入って行く。振り返って笑顔で手を振れば、そこにいるのはいっぱい迷惑をかけてしまったお義兄(にい)ちゃんの悲しげな顔。

 

 

―――――私を一人にしないでくれ

 

 

そんな言葉を聞いた気がした。悪魔と共に海の中に沈んで行く。・・・それが、「私」の最期の記憶だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、私の怒りはアサシンに向いているはずだ。でも、この固有結界がそうじゃないと告げている様だった。

 

聖杯戦争初日、士郎はアサシンに一度殺された。凛が居なかったら、生きてはいなかった。それに、私は気付いてすらいなかった。ただ、士郎と桜を巻き込まないために策を考えていただけだ。

 

イリヤとの初戦、私は「アインツベルン」と言う理由だけで初対面の彼女をいきなり殺そうとした。止めようとする士郎達を押し退けてまで、やっと復讐の対象を見付けたと興奮して。少しは考えられなかったのか、私は切嗣さんの手記を読んでいたじゃないか。少しでも、説得しようと思えばできたはずだ。

 

キャスターとの初対峙、私は何もできずにバーサーカーを敗北させてしまった。それも、大嫌いな魔術師の手で助けられたんだ。不甲斐無い、冷静になって戦況を見極めれば勝機はあったはずだ。さらにはその敗北でバーサーカーが抱いた想いに気付かずに、固有結界の決戦で彼が苦戦するきっかけを作ってしまった。後から気付いて、でもその時にはバーサーカーを奪われていた。

 

エミヤシロウの急襲。私はあの時、烏滸がましくもバーサーカーを防御に専念させ自ら迎撃しようとした。その結果が令呪剥奪による聖杯戦争脱落だ。あの時、私は防御に専念してバーサーカーを迎撃に向かわせれば勝っていたはずだ。怒りや焦燥感が邪魔して、私はいつも過ちばかり犯して周りを危険に巻き込んでいく。

 

私が自分の作戦を優先させたことで、自らのサーヴァントがいない士郎と桜をアサシンに傷つけさせてしまった。アサシンやキャスターが奇襲して来るかもと言う可能性を何故考えなかった?相手がマスターだけだと多寡を括っていたからではないか。自分の方はサーヴァントなんだから無傷で生還するために、と言う言い訳で士郎達を窮地に陥らせてしまったんだ。

 

ついさっきになってようやく気付いた、イリヤを赦せる可能性。でもあまりにも遅くて。イリヤの家族を、殺させてしまった。私がちゃんとイリヤと共闘しようと考えていたら間に合っていたんじゃないか。イリヤもそのまま脱落してくれればいい、なんてイリヤの心情も省みずに馬鹿な考えをしていた。

 

そして何より、一番赦せない事は。変わり果てた姿で助けを求める弟に恐怖を抱き、一人で逃げ出してあっさり捕まって、あの人の手でみすみす救われてしまった事だ。

 

 

私が赦せないのは魔術師じゃない、私だ。愚かにも怒りに我を忘れて選択肢を間違え続けて来た私自身だ。だから、このトラウマそのものとも言える地獄の心象風景はきっと私への罰なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処からともなく溢れて来た魔力を用いて顕現し、世界を侵食したのは、私の原初。今の私を構成する理不尽に踏み躙られたこの世の地獄の光景。これが、私の心象世界だ。

 

キャスターとエミヤは己の最後の戦いを心に焼き付けていた。それに対して私は、終わりの始まりだ。覚えている、全てを全て覚えている。それこそ、躓いた小石やナニカの胴体だって私の心には焼き付いている。その結果がこれか。

・・・まあいい、使える物は何だって使ってやろう。そうじゃないと、目の前のサーヴァントに勝つなんて夢のまた夢だ。バーサーカーが居ないんだ、やるしかない。

 

 

「いくら舞台を変えようと・・・数の差まではどうしようもないでしょう?」

 

 

襲い掛かる炎から飛び出して来るのと同時に液体を放ち、そこから屍兵を召喚して向かわせるアサシン。すぐさま刻字印を刻み込み、加速させて来るが問題ない。ここで、生物じゃない道具を使うのは悪手だ。

 

 

「もう、効かない」

 

 

手をかざせば、四方から炎が屍兵に襲い掛かり、焼き尽くす。そしてその主導権を、握る。・・・襲え。

 

 

「爆弾にするだけじゃないってか!」

 

 

反旗を翻した屍兵を、難なく蹴り飛ばし斬り伏せるアサシンに、私はすぐ傍の標識を掴むと炎を纏わせ、"フランケンシュタインの怪物”の宝具・・・『乙女の貞節(ブライダルチェスト)』にして振り下ろす。すると電撃が地面を走ってアサシンに炸裂、痺れさせたところに跳躍し、すかさず改造。一瞬で燃やし尽くす・・・!

 

 

偽・磔刑の雷樹(イリマージュ・ブラステッド・ツリー)!」

 

「無駄!」

 

 

叩き付けた、ところに放射した雷電と共に爆発した一撃は、召喚された数体の屍兵が壁となって防いでしまった。私はすかさずブライダルチェストを投げ捨て、破壊して残った屍兵にもダメージを与えて着地。傍に落ちていた石五つを二掴み手に取り、それを布で覆って糸で繋がった投石するフォルムに改造、両手で糸を振り回し、同時に投擲する。

 

 

「アンタには改心する権利がある・・・でも、私が赦さん」

 

「理不尽ね!?」

 

「理不尽は私が与える!偽・五つの石(イリマージュ・ハメシュ・アヴァニム)・・・二重(デュアル)!」

 

 

放ったのは、合計10つの流星群。八発は当たる事無く地に落ちるが、最後の二発がレーザーの様に加速し一直線に突撃。ダビデ王の宝具にして、元々ただ巨人を倒しただけの投石だから普通に再現が可能な代物を固有結界を用いる事で二発同時に放ったものだ。これなら・・・と思っていた時期が私にもありました。なので冷静に次の手も考える。

 

 

「ハアッ!」

 

 

手に取った二本のナイフで真っ二つにする事で防ぎ駆けてくるアサシンに、私は第二撃として構えた街灯を改造した槍を大きく振り回し、突進を迎撃。そのまま街灯槍を鎌の様な形状・・・不死殺しのハルペーもどきに改造、クルリと手元で回して突き出してきたその腕を両断しようと試みるが、それはフェイントで空振り、体勢が崩れた所に強烈な蹴りを右肩に受けて吹き飛ばされる。

 

 

「がはっ!?」

 

「ただの小娘と暗殺者として幼少期から鍛えられた私じゃ経験が物を言う。例え屍兵を封じられたとしても、十分すぎるぐらいにね」

 

 

・・・ああ、もう。まだこの固有結界の力をちゃんと分かってないのに・・・というか、今ので右肩が外れるところだった。接近戦に持ち込んだら駄目だ、ならば・・・!

 

 

「王様、とっておき借りるよ!簡易再現(イリマージュ)・・・」

 

 

アサシンのナイフを足で地面を叩いて出現させた壁で防ぎながら集中。周囲の建物をさらに大きな炎で纏い、その形状を改造、一気に変化させる。・・・神性に対して効果が増すとかそんなの付いてないけど・・・充分だろう?

 

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

「なっ!?」

 

 

四方八方の建物、全てが変化した鎖の山が、まるで生きているように、彼のヤマタノオロチの様にアサシンに襲い掛かる。逃げ場など存在しない。王様のは縛り上げるだけだが・・・生憎と、私のこれは出来の悪い模造品だ。だから縛って潰す。物理的要因が全く意味を成さない英霊でも、魔術的な圧殺ならば効果はある。

 

 

「・・・レクレス・レブ!」

 

「そう簡単には行かないか・・・ならば!」

 

 

さすがのアサシンも焦り、高速移動で退避。上手くは行かなかったが、切嗣さんの魔術と似ていると気付いた時点で把握していた事だ。でも、今の攻撃が少なからず通用すると言うのは分かった。十分すぎる、あとは追い込むだけ。だったらまあ、うってつけのがある!

 

 

偽・灼き尽くす炎の檻(イリマージュ・ウィッカーマン)!」

 

 

記憶から引き出したのは、王様の宝物庫からではなく、ついさっき戦ったアサシンのマスターの切札。瓦礫と鉄骨で形成された炎に包まれた巨人が立ち上がり、アサシンはそれを見上げて顔を引き攣らせる。

 

 

「・・・やってくれるわ」

 

 

舌打ちしたアサシンは振り下ろされた拳を舞う様に飛び避け、瞬間的に爆弾を取り付けて爆破。腕を失って後退するウィッカーマンを追撃とばかりにナイフで一刀両断したアサシンは、その間に私が改造し、矢として放ったそれを見るや否や目の前に屍兵を召喚して防ぐ。

 

 

「汝は竜!罪ありき・・・って奴なんだけども?」

 

「私は悪ノ娘だけど竜にされるのはごめんだわ。それが力屠る祝福の剣(アスカロン)の真実か。ゲオルギウスとか言う聖人もまああくどい事を」

 

「王様曰く、本当は竜殺し(インテルフェクトゥム・ドラーコーネース)って言うらしいね。まあそんなこと関係なく、上手く引っ掛かったね」

 

「は?・・・っ!?」

 

 

にやりと笑う私にアサシンが訝しんだ瞬間、パンッと軽い音を立てて、足元に転がったウィッカーマンの瓦礫が破裂。爆発ではなく、破裂。これが目処だ。その瞬間に私はすぐ近くのビルに飛び込み、楔と化した破片はアサシンの全身を貫き、プシャッと血飛沫を上げる。

 

 

「姑息な手を・・・面倒なだけ、すぐ回復する」

 

「それでも、痛い物は痛い。そして・・・それはただの楔じゃない」

 

「ッア!?」

 

 

私が魔力を送ると肥大化し、アサシンの肉を抉って行く破片。本当なら爆発でもよかったのだが、それでは時間稼ぎにはならない。今はとにかく、この固有結界の特性を把握しなければ。アサシンがナイフで破片を全部抉り出す前に。

 

 

(・・・考えろ、今の私は何ができる?)

 

 

・・・とりあえず、この世界の物は別に触れなくてもすぐに改造、操る事が出来ると言うのは分かった。建物を鎖の山にするのだって、骨組みをそのままウィッカーマンに活用したり、その破片をトラップにするのだって数秒あればできた。でもそれでは何も変わらない。確かに物量で攻める事は出来るが、それだけだ。英霊に勝つことはできない。

 

では逆に考えろ。今まで見て来た固有結界の使い手・・・キャスターとエミヤシロウが何をしていたか、思い出せ。

キャスターの宝具は、恐らく生前最後の戦いの記憶を再現したもの。しかし砂漠の砂を利用して兵隊を再生できるようになっていた。最大の物量で押し潰す最強の軍隊。アーチャーみたいに纏めて吹き飛ばす様な宝具がないと太刀打ちできない。

シロウの固有結界、無限の剣製は今まで投影して来た剣類を貯蔵し、それを自在に操れる。・・・だと思う。あんな剣の雨降らせるぐらいだし、王様みたいに射出していた。

 

つまり、固有結界は使用者の思い通りに操る事が出来る、と言う事だ。文字通りの「私の世界」・・・なんだ、簡単な事じゃないか。

 

この世界全てが、私の炎が届く領域(テリトリー)、そう言うことだ。

 

 

「・・・やっと取れた」

 

 

全部ナイフで抉り取る事は出来なかったのか、口から血と共に楔の山を吐き出し終えたアサシンは恨みを込めた視線をこちらに向け、加速の刻印が刻まれたナイフを構えた。

 

 

「今のうちに隠れていればよかったものを・・・!」

 

「アサシン相手に逃げ切れるはずがない。それに、十分過ぎる時間だ!」

 

 

足裏の下に意識を集中、骨組みを組み立てる。イメージするは最強の一撃。否、鉄槌。

 

 

「唸れ、Fist of fury(怒りの鉄拳)!」

 

「はあ!?」

 

 

右側の地面が隆起して巨大な右腕の形を取り、それが私の動きに合わせて振り被るとアサシンは絶句。慌てて防御の体勢を取るも、振り抜いた一撃が真正面から炸裂。燃えたアスファルトが下の大地ごと変形した物だ。威力は、絶大。

 

 

「ぐうっ!?・・・負けるか!」

 

 

するとアサシンは殴り飛ばされながらも手に持ったワイングラスから赤い液体を流して巨腕に塗り付け、そこから大量の子供の屍兵が現れてその拳の連撃を持って巨腕を破壊。したかと思えばそのままこちらに突撃して来て、炎を向かわせようと手をかざしたらそのまま子供の屍兵全てが大爆発を起こして私は吹き飛ばされ、咄嗟に背後に迫る電話ボックスの成れの果てに炎を纏わせてクッションみたいな柔軟性に改造、何とか無事に着地する。・・・今のは、士郎の話に聞いた奴か。

 

 

「今のが噂の対正義の味方爆弾?」

 

「一応念のために補充して置いたのよ。普通の屍兵じゃ改造されてアンタの物にされてしまうから、使い捨てがあって助かったわ」

 

「・・・分かっていれば爆弾を無効化できた。だから無駄に子供の死体を壊すのは止めろ」

 

「ん?もしかして頭に来た?案外、優しいの・・・ね!」

 

「っ!」

 

 

速い・・・!一瞬、姿を消したかと思えば背後からの奇襲。首を掻っ切る勢いで放たれた不意打ちを、私は気付いた瞬間に地面を文字通り動かしてはるか前方に高速で平行移動。難を逃れる。今のはアレだ、移動歩道的な奴だ。咄嗟にだったがこれはいいな。しかし今のは・・・イフも使った「転移」と言うよりも・・・、

 

 

「・・・気配、遮断?」

 

「ご明察。私の気配遮断はランクB、攻撃さえしなければ貴女が私を察知する事は不可能。生前は養母を殺すために用いた技術だけど・・・私に対する情があったとはいえ、最高峰の暗殺者でさえ刺されるまで気付かなかった一撃。何時まで避けれるかしら・・・!」

 

「っ、また・・・!」

 

 

再び姿を消すアサシン。どうする?周囲を守りで固めるか?いや、完全に防御壁で私の周りを囲んだとしても、その中に入りこまれていたらアウトだ。逃げ場が無くなる。じゃあこの場一帯を薙ぎ払う?いや、アサシンの事だ。私の背後にぴったりくっついて攻撃が終わった瞬間グサリとか平然としそう。

 

考えろ、考えろ。今の私に何ができる?どうすればアサシンに・・・人間を超越するサーヴァントに勝てる?

まずは攻撃を防ぐ、ないしは避ける事から。これはさっきの移動歩道でいいだろう。アサシンの殺気は濃厚すぎるから気付きさえすれば避けられる。でも、それもジリ貧だ。

 

いや、その前にだ。奴の居場所を把握できればいいんじゃないか?気配遮断と言っても、実体はあるはずだし。でも、私は父さん並の達人じゃないから空気の流れとかで居場所を把握するとか不可能・・・足場をぬかるみにして足跡を取る?馬鹿か、そんなの気付かれて逆に利用されかねない。

 

でも、場所さえ分かればさっきの鉄槌を足元から出現させて空中に打ち上げて決める事が出来るはずだ。今の私には、それほどの物量がある。・・・・・・・・・・・・アサシンに気付かれず、こちらのみ相手の居場所を把握できる方法か・・・タイガー並の直感EXがあれば楽なんだろうけどな。よし、決めた。

 

 

「・・・サーヴァント相手に無傷で戦おうって言うのが無理な話か」

 

『そうよねえ!むしろ、セイバー相手に無傷で済んだ貴方が異常よ。私を倒したいなら、それこそ捨て身じゃないとね!私を倒した馬鹿兄貴みたいに!』

 

 

何処からともなく響くアサシンの声。なるほど、声で居場所を悟らせる気は無いらしい。まあその気はないんだが。

 

 

「じゃあ、腹を括るよ」

 

『はい?』

 

「この辺一帯を私ごと爆発させる。それで運がよければ私の勝ち、運が悪ければ負けだ。シンプルでしょ?」

 

『・・・焦らせて私に攻撃させようとしても無駄よ、今の貴方には隙がまるで無い』

 

「だからそんな気はないってば」

 

 

言いながら、背後にそそり立つ今にも崩壊寸前のビルへとじりじりと後退、できるだけ自然に背後を盗られないポジションへ立ち、手をかざす。さあ、我慢比べをしようか。

 

 

「・・・準備完了。私が合図を送ればこの辺一帯は木端微塵に吹き飛ぶ。いわば冬木市全土が爆弾だ。貴方が攻撃しなければ私は起爆する。ムカつくアンタと心中するなら本望だよ」

 

『嘘を言え、嘘を。キャスターが残っているのに衛宮士郎達を置いて貴方が死のうとする訳がない。それぐらい分かってるわ、脅しても無駄よ』

 

「もう気付いていると思うけど私はこの固有結界全てを改造する事が出来る。後ね、私はこの火事を、この世の地獄を生き抜いたんだ。爆発程度で死ぬ気はない。さあ、地獄への片道切符を受け取れ!」

 

『させるか!」

 

 

読み通り、アサシンは私の頭上から襲い掛かって来た。その手に握られたグラスから赤い結晶の雨を降らし、さらに自身もナイフを手に加速。一秒もかからずに私に凶刃が迫り来る。だけど、

 

 

「ごめん、やっぱ嘘だわ。JACKPOT(大当たり)!」

 

「しまっ・・・がああっ!?」

 

 

私が後ろに倒れ込むと、ビルの外壁に穴が開いて私はそのまま受け身を取って立ち上がり、そして起動(・・)。私が今の今までいた場所の地面が隆起し、一気に盛り上がって強烈な巨拳をアサシンに叩き込み、そのまま掴んで今私が下にいるビルの外壁に叩き付けた。そのまま巨腕ごと大爆発。ビルまで巻き込み、その瓦礫も連鎖爆発させる。

 

 

「ぐぅ・・・」

 

Die(死ね)!」

 

 

さらに、崩れたビルの瓦礫の山から出てきて呻くアサシンに向け、集中砲火。集中する様に周囲の建物を引き寄せて倒壊させ、それを爆発させていく。逃げ場なんてない、対魔力の無いサーヴァントは魔力の圧倒的火力で押し切るのが一番だ!

 

 

「集束、放射!燃え滾れ、私の憤怒!」

 

 

召喚した屍兵をドームの様にして爆発を凌いだのか、片膝をついているアサシンが見えた瞬間に、私は右手をかざして拳を握り込む。それに合わさる様に周囲の炎が津波となってアサシンを飲み込み、燃やしていく。

 

 

「・・・ッ、こんなもの、すぐにでも突っ切って・・・」

 

「そう簡単に逃がすか。士郎を、イリヤを、桜を。私の大事な人達を心身ともに傷つけた貴女は絶対に赦さない。簡易再現、(イリマージュ・)天の鎖(エルキドゥ)!」

 

「があっ!?」

 

 

加速して脱出しようと試みるアサシンに、私はさらに周囲の物体に炎を回して改造し形成した鎖の群れでアサシンの四肢を拘束、さらにその上から球体上に鎖を伸ばして閉じ込める。熱された鎖の球体、その中に閉じ込められたアサシンの体力を炎と熱で根こそぎ奪って行く。私の怒りに呼応して、炎の色が赤から青に変わる。高温になった証だ。

 

 

「逃げ場はない、このまま燃え尽きろ!」

 

「クソッ、クソッ、クソッ!・・・・・・・・・嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!また、また、また!青い炎で私を殺すか!ふざけるなふざけるなふざけるな・・・!」

 

「なっ・・・!?」

 

 

鎖が軋む。それは、アサシンが尋常では無い力で鎖を破壊しようとしている事と同義で。私の簡易再現した天の鎖は、王様の持つ本物程強度は高くない。このままだと、壊される。だったら、どうすべきか。・・・さらに縛るだけだ。

 

 

「ゆゆゆ許せない!絶対に許せない!殺してやる!ここから抜け出したら、すぐにでも貴女を殺して殺し殺し殺し・・・ああ、魔力が・・・」

 

 

宝具発動に用いる魔力がついに切れたのか、アサシンが元の姿に戻り力なく雁字搦めにされるのを感じる。このまま、焼き殺す。慈悲は無い、アサシンに対する慈悲なんて存在するはずがない。

 

 

「何で、魔力のストックがまだあったはず・・・そうだ、私が宝具を使ったせいでイフの意識が・・・体力回復に魔力を回していたからこんなにも早く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあいいわ。悪魔の力がなくたって、私は悪い奴なんかには負けない!」

 

 

・・・ああ、もう完全に錯乱して来たらしい。悪い奴とは、私の事か?まあ完全に今は私が悪役だろうな。士郎が観たら絶対非難されるであろう戦い方だもの。でも、悪いのはアンタだ。だから、このまま死んでくれ。お願いだから、私に罪悪感を抱かせないでくれ。

 

 

 

ガキン!っと、音が響いた。アサシンがナイフで鎖を叩いたらしい。ビクともしていないが。そのまま闇雲にナイフが振るわれているのか、連続して金属音が響く。拘束されてなお、そんな事が出来るとはさすがサーヴァント。でも、無駄だ。セイバーだったら何とかなっただろうけど、宝具も使えない上に、憶測だが体力が無くて変身も出来ないアサシンじゃどうしようもないだろう。

 

 

「衛宮士郎達を傷つけた事に対する仕返しって訳?・・・ああそうだ、私はあの正義の味方気取りの偽善者を殺さないと行けないんだった。邪魔をするな言峰黒名!死ね!死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」

 

 

ガツンガツンと響き渡っていた金属音が、だんだんと小さくなってきた。もう、何もできない。最後の悪足掻きだ。

 

 

「聖杯で叶えるんだ・・・!私は、皆と一緒に仲良く遊びたいの!悪食の悪魔に邪魔された願いを、叶えるんだから!」

 

「そのためならどんなことだってする、か。聖杯を壊そうなんて思わなければ私もそうなっていたかも。私が貴方を赦せない理由が分かった、同族嫌悪って奴だったんだ。・・・・・・そんなに出したいなら、出してあげるよ」

 

 

まるで一人の少女の様な、純粋な願いに。憐れみを感じてしまった。だから、終わらせる。起爆させる、アサシンを拘束している鎖とその周りを囲んでいる鎖の球体を、爆弾に改造する。

 

 

「私の勝ちだ、アサシン」

 

 

踵を返し、拳を握るとそれを合図に大爆発。同時に、固有結界が解けて元のアインツベルンの森に戻ってきた。そして振り返ると、そこにアサシンのクラスで召喚された少女の姿は無かった。

 

 

 

 

 




アサシン、完全敗北。かなりえげつない方法でクロナは勝利を収めました。

クロナの固有結界は、一言で言えば全てクロナの思い通りになる世界。ただし、炎を回さないと改造は出来ません。逆に言えば炎が回っている場所全てがクロナの領域であり、圧倒的物量で敵を攻める事ができます。宝具でなければ相手の武器を奪う事も可能。
ただしデメリットとして、常に炎に当てられているので体力の消費が尋常ではなく、また炎は全てクロナの魔力であるため魔力もすぐなくなります。今回魔力が持ったのはとある要因のせいなので、同士討ちもありえました。さらに言えば視界に入った「手」が起動キーになっているので、手を自分の視界に入れる事が出来なければ何もできません、手を封じられたらただの燃える街です。

考えなしに突っ走ったせいで魔力が無くなり、敗北に帰すことになったアサシン。もう最後は完全に錯乱状態でした。でもその願いはこの聖杯戦争に置いて最も純粋な物。悪逆非道の限りを尽くしても、そんな願いを抱いてもいいじゃないかと。

次回は衛宮邸へ帰還、そして・・・?感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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