Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
―――――― この身は憤怒で出来ている
――― 血潮は
――― 幾たびの理不尽に対して憤る
――― ただの一度も安らぎはなく
――― ただの一度も泣きはしない
――― 彼の者は常に怒り
――― 燃える孤独の街で嘆き怒る
――― 故に、その生涯に意味はなく
――――――――― その体は、きっと怒りで満ちていた
「・・・うわぁ。引くわ、衛宮士郎。いや焚き付けたのは言峰黒名だろうけど」
「アーチャーが飛んで行ったかと思えば・・・イリヤは無事みたいだな、よかった」
思わず戦いを止め、遥か西の彼方から感じる強大な膨大な魔力に
「・・・てかアーチャーが離れられるぐらい余裕があるって事は増援までやられた?・・・衛宮切嗣と葛木宗一郎、それに遠坂時臣と雨生龍之介の屍兵を失ったのは痛いわ・・・とりあえず増援送っとこうかしら」
「隙有り!」
気だるげにワイングラスを振りながら奇襲して来たセイバーの一撃をもう片方の手に握られたナイフで弾き返し、アサシンは考える。マスターがやられ、優秀な手駒はやられ、それに加えて自身の変身は使えない。万策尽きた、後は単純な力押しのみ。
「もうこうなったら残るマスターの死体を集めてキャスターに挑もうかしら、ね!」
「っ!」
ローリングソバットを受け、後退するセイバーはアーチャーの飛び出してきた穴の下に広がる、湧き出してきた屍兵に応戦するイリヤの吹っ切れた様な表情を見てふっと笑みを浮かべた。
「何が可笑しいのかしら?」
「いいや、マスターにいい友人ができたなと、思っただけだ」
「余裕ね、気に入らないわ」
足裏のヒールに緋色の結晶を集め鋭く尖らせ、音速で放たれるアサシンのハイキック。ドレスを翻し、目暗ましから放たれたそれはセイバーの頬を掠め、アサシンはそのままナイフと右脚でセイバーのマスターソードとせめぎ合い、空中に翻って放った渾身の踵落しでついにマスターソードを空彼方へ弾き飛ばした。
「っ・・・ダイゴロン刀!」
「使わせないわよ」
ポーチから大剣を取り出し、大きく横薙ぎに振るうセイバー。しかしアサシンは宙返りでそれを回避、着地と同時に左手で強烈な掌底打を繰り出し、セイバーの手元からダイゴロン刀を手放させると右手に握ったナイフを一閃。咄嗟に取り出していた、刀身の折れた「巨人のナイフ」と呼ばれるダイゴロン刀にそっくりな剣を粉々に破壊し、貫く様に鋭い蹴りを放ってセイバーを蹴り飛ばした。
「がはっ・・・!?」
腹部から鮮血を溢れさせ、屋根を転がり落ちるセイバー。何とか縁に止まるも、ナイフの刀身を舐めながら歩み寄るアサシンに、懐から取り出したフックショットを構えて何とか立ち上がった。
「はあ、はあ・・・」
「・・・大妖精の剣とか言う剣は持ってないの?」
「俺の持っている剣はお前に飛ばされた三つで全部だ。俺は「時の勇者」であって、タルミナを旅した俺じゃないからな。・・・報酬はともかく」
「同一人物でいくつもの冒険譚を持っているとそうなるんだ。まあいいわ、そんなので戦えるとは思えないけど・・・まだ抗う気かしら」
「当り前・・・だ!」
「無駄よ!」
フックを発射するセイバーだったが、アサシンの一閃で弾かれ鎖に繋がれたフックはあらぬ方向へ飛んで行く。そのままもう片方の手で構えたロングショットを構えたセイバーは、アサシンの飛び蹴りを受けて屋根から突き落とされた。
「確か女神の勇者リンクの戦った相手の技に「無限奈落」とか言うのがあったわね・・・それでとどめ刺してやろうかしら?」
そう嗤いながらセイバーの落ちた屋根の縁まで歩み寄り、覗き込むアサシン。その瞬間、信じられない物が思わず引いた彼女のおでこを掠り、血を流した。それは、鎖に繋がれた丸太だった。
「・・・フックショットにはこういう使い方もある!」
「・・・やってくれたわね」
見れば、屋根の下側にフックショットを突き刺して地面から数メートル離れたそこらで止まり、ロングショットで丸太を引き寄せもう一度遠心力を伴って頭上に放っているセイバーがいた。続けて放たれた音速の鈍器をバック転で避け、屋根に叩き込まれた丸太の上に吸い込まれる様に着地するアサシン。
「こんなもので勝てるとでも・・・!?」
「思わないさ!」
しかし、そのロングショットに引っ張られて宙に躍り出たセイバーの振り下ろしたメガトンハンマーによる一撃を回避しそこね、思いっきり屋根の上から二階の壁に叩き付けられて呻く。切り傷に耐性があっても、生前の兄との対決の決定打でもある打撃には弱いアサシンには効力があるらしい。
「・・・あークソッ、何であの時の私はクソ兄貴のアレを防げなかったのかしら・・・!」
「行くぞ!」
剣の代わりにハンマーを叩き付けるセイバーに、アサシンは足下に赤い水たまりを出現させて屍兵を召喚、手を組ませて踏み台にして跳躍し、屍兵がハンマーで叩き潰されるのを尻目にグラスオブコンチータを真下に向け、赤い液体を放射。
それは結晶の刃となって降り注ぎ、セイバーは緑色の光が内包されたクリスタル・・・フロルの風の魔術媒体を取り出して発動、バルコニーまで転移して難を逃れるも、空中からふわりと降りていたアサシンはそれを目ざとく見つけると再びグラスオブコンチータから赤い液体を放射。
セイバーは溜まらずバルコニーから森へ目掛けて飛び降り、着地したアサシンもそれに続いて飛び降りる。と、その瞬間。
「ウオラァアアアッ!」
「ッ!?」
ウィッカーマンとの戦いに勝利し、力尽きていたはずのバーサーカーが高速で駆けて来て、強烈な頭突きをアサシンの無防備な腹部に打ち込み、城壁に叩き付けた。真下のセイバーしか視界に入っていなかったがための奇襲。予想外な一撃に宝具を使用してから初めて苦悶の声を上げ、地面に崩れ落ちるアサシン。視線を横に向ければ、そこには。
「ナイス、バーサーカー。・・・五分もあれば回復も十分だよね?」
「言峰クロナ・・・なんで、あの数の屍兵だけでなくついさっき送った増援も倒し尽くしたと言うの・・・?」
アーチャーが飛び立ったのを見届け、こちらへ戻ってきたクロナはたははーと困った笑みを浮かべた。
「いや、私が行く前に士郎とアーチャーが蹴散らしてたよ。私がしたのは切嗣さんへのとどめだけ。で、いきなりの増援はやっぱりアサシンか。全員爆発させて来たわ、「生物」じゃない物体ならば私は何でも改造できる」
「・・・クソがっ」
舌打ちしながらゆらりと立ち上がるアサシンを尻目に、セイバーがこちらに訝しげな視線を向けているのに気付いたクロナは真面目な顔で口を開く。
「・・・安心して、セイバー。イリヤは無事だ、それにアインツベルンの
「・・・そうか、よかった。イリヤは今どうしてる?」
「士郎に任せて衛宮邸まで送らせてるわ。でも、今はアーチャーが離れているから少し心配。セイバー、ここは私とバーサーカーに任せてそっちをよろしく。・・・今のイリヤには、士郎だけじゃなくて貴方も必要だろうから。こんな外道の相手より、イリヤの傍にいる方が大事でしょ?」
「・・・アンタ、変わったな」
「私は何も変わってないつもりだけど」
クロナとバーサーカーがアサシンに向けて構えているのを見ながら、側に落ちていたダイゴロン刀をポーチに戻し、焼け野原に突き刺さっているマスターソードを確認してそちらに走りながらセイバーはクロナに向けて笑った。
「いいや、変わったよ。イリヤの事を考えてくれて、ありがとう。ここは任せた」
「任された」
そしてマスターソードを掴み、フロルの風でセイバーが転移したのを見届けたクロナは「さてと」と呟きながら傍に落ちていた少し長い木の枝を掴み、それを直刀に改造して構えた。
「バーサーカー、両腕再生してないけど大丈夫?」
「ほざけ。――――行くぞッ!」
一声唸り、駆け出すバーサーカーに続く様にアサシンに向けて跳躍するクロナ。空中から急降下して放たれた一撃をアサシンは強烈なハイキックで破壊するも、体勢が崩れた所にバーサーカーのローリングソバットが炸裂。そのまま怒涛の連続蹴りが放たれ、アサシンはそれら全てを二本のナイフを握った両手で弾き返していく。
「ウオォオオオオッ!」
「ッ、何で、前にも思ったけど、両腕失ってるのに、こんな、動ける・・・!?」
「知るかァアアアアアアッ!」
蹴り飛ばして壁まで追い詰めたかと思えば、グルングルン空中で回って踵落し。追い詰められていたアサシンは右横に飛び退いて回避するも、城を叩き割ったバーサーカーの一撃の余波で吹き飛ばされゴロゴロと転がり呻く。
そこ目掛けてクロナが黒鍵を投擲、爆発させると中からアサシンが空に飛び出してグラスオブコンチータに赤い液体を満ちさせて横の壁目掛けて放射。壁に引っ付いた赤い水溜りから屍兵の群れが出現し、ドサドサとバーサーカーとクロナに降り注いだ。
「マスターさえやれば・・・!」
「だから、無駄だって!」
しかし瞬間、屍兵の山が爆発し、中から無傷のクロナとバーサーカーが姿を現す。右手で爆発させると同時に左手で地面に触れて簡易的な防空壕を作り耐え凌いだのだ。
「・・・でたらめね。本当にマスター?」
「いや、呪文も無しで屍兵を転移するとかそっちが凄いと思うけど。士郎の宝具投影並に魔法の域だよねそれ?」
「私の師はアビスI.R.・・・って言っても分からないか、私の時代でたった一人を除いて最強の魔道師。だから魔術については心得てるけど、この時代ってそんなにレベルが低い訳?」
「魔道師?魔術師じゃなくて?・・・なるほど、そう言う事か」
「そっちが変な魔術使うなら、こっちはレベルの高い魔術で相手するわ!」
瞬間、グラスオブコンチータをしまった手をクロナに向けるアサシン。それに嫌な予感を感じたバーサーカーは、瞬時に足下に折れた刀・・・無明鬼哭刀を召喚し、蹴り上げて口で構えた。
「借りて行く・・・」
「アハハハハハハハッ!」
「無明鬼哭刀!」
アサシンの笑い声と共に、何処からともなく無数の矢が降り注ぐ。バーサーカーは自分に突き刺さる矢は無視してクロナに降りかかる矢のみを振り払い、その出所・・・未だに緑が生い茂る木々に向けて一閃。転倒させた。矢の正体は、先端が鋭利に尖った枝だった。
「ちっ・・・私は魔術でその女を黙らせたいのよ。邪魔よ狂戦士」
「フンッ!」
紡がれる高速の呪文。すると今度は無数の蔦が伸びて来てバーサーカーを拘束しようとうねり、まるで生き物の様にバーサーカーの攻撃を避けて巻き付いていく。それを除去するべく手で触れようとするクロナ。
しかし、クロナの魔術の条件が「手で触れる」事だと調査で気付いていたアサシンは次なる呪文を紡ぎ、刃となった花弁がクロナに向けて放たれ、さすがに高速の刃に触れる事は出来ないクロナは飛び退いた。
「・・・自然を味方に付けている?」
「私はアサシン。潜入はお手の物。この冬木の地は、既に私達が細工した場所ばかり。魔力集めのために
「つまり、この冬木で戦う限り・・・」
「マスターが私達に勝てる道理はない訳。まあさすがにサーヴァントは弱点突くしかないけど・・・今の私には、それすら関係なくごり押しできるわ。現に、最初は敵わなかったバーサーカーにもこうして一歩踏み込めば殺せる所まで来た。さあ、攻略できるものならしてみなさいよ!アハハハハハハッ!」
「くっ・・・!?」
次々とクロナに襲い来る枝の矢、蔦の鞭、花の刃、根っこの槍。クロナは服を防刃に改造して防ぎ、マフラーを改造した刀で斬り、弾き、裂いて行く。その間にもバーサーカーは雁字搦めにされ、両腕が無いため解放される事も出来ない。ジリ貧だ。マフラーを元に戻し黒鍵を両手に構えて振り回して迎撃しながら此方を窺うクロナに気分をよくしたのか、グラスオブコンチータを掲げ天を仰いで狂喜の笑みを浮かべて叫ぶアサシン。
「さあ跪きなさい、屈しなさい、嘆きなさい、折れなさい、諦めなさい。万が一にも貴女に勝機は無いわ!」
「諦める?」
その言葉は、言峰黒名と言う少女にとっては最も禁忌たる言葉。その言葉を聞いた瞬間、その口元は笑みに歪んでいた。
「私の特技は諦めの悪さ。生きている限り、私は絶対に諦めない。打開策を見出してやるよ」
「へえ?・・・やっぱりアンタ、嫌いだわ。諦めなさいよ、これは絶対に覆らないから」
笑顔が消えたアサシンの、容赦ない攻撃がクロナを襲う。さらに鋭く尖った枝の矢、花の刃、根っこの槍がまるで王の財宝の如く一斉に射出される。それに対し、バーサーカーを見やって黒鍵を構えてクロナは笑った。
「・・・触れられなければ・・・」
「ほらほら、どうしたあ!」
「触れなければいい!」
「なっ!?」
刀身を巨大化させて一回転、第一波を弾き飛ばして攻撃の手が止んだその一瞬の隙を突き、元の形状に戻した黒鍵を投擲。バーサーカーを縛っていた蔦を斬り裂いて解放させた。
「バーサーカー!」
「貴様は気に入らん!」
「があっ!?」
瞬間、解放されると共に跳躍したバーサーカーの一閃がアサシンの胸元に炸裂。大きく斜めに斬り裂いて吹き飛ばす。傷を受けたアサシンはにやっと笑みを作ると目を閉じ、祈るような体制を取った。
「なに?今更神頼み?」
「まさか。・・・この私が、神を信じるとでも?」
追撃せんと迫るバーサーカーに怖気付かず、祈る体制を止めないアサシン。すると、無明鬼哭刀が触れるか否かの瞬間、アサシンの頭上、何もない空間に大輪の白い花が咲き、その中央から熱を帯びた光線が放たれた。
「レオルフ・レサル!」
「ッッ!」
攻撃態勢の際に放たれたそれに回避も出来ず、真面に浴びて吹き飛ぶバーサーカー。それと入れ替わる様に飛び出したクロナがバーサーカーの腕にした右拳を振るい、アサシンは祈りの体勢を止めて同時に空中の花も消え、それを軽くいなした。
「ハアッ!」
「見た目だけね。バーサーカーのは全体を使ってこその一撃だってのに台無しよ」
「ッ!」
そう言いながら右ストレートを避けて回し蹴りでクロナを蹴り飛ばして、それと同時に取り出したナイフの柄にもう片方のナイフでガリガリと何やら刻印らしき物を刻み込むアサシン。体勢を立て直した二人が同時に飛び出し、クロナは右拳を、バーサーカーは振り下ろし斬撃を叩き込まんと迫る。瞬間、
「レクレス・レブ!」
「ガアアアアアアアッ!?」
呪文と共に、音速を突き抜けて放たれたナイフの一撃がバーサーカーの咄嗟に体勢を変えて振り抜いた蹴りを避けてからその背中に一閃。巨大な切り傷を倒れたバーサーカーに地面ごと大きく刻んだ。
「さっきのは森を味方にする魔術、今のは対象の時間の流れを早める加速の刻字印・・・貴方達で言う固有時制御かしら?対象の寿命も早めるからすぐ壊れるって言う生き物にはお勧めできない反動が大きい代物だけど・・・サーヴァントには関係ない。ただの剣士で巨熊を瞬殺できるのよ?
サーヴァントで、しかもグラスオブコンチータでステータスが上がった私が使ったら・・・まあこうなるわよね。早く使えばよかったかも?」
「バーサーカー!」
白目を向き、倒れ伏すバーサーカーにクロナは慌てて駆け寄る。八神将アスラではありえない、気絶と言う状態。消えてないだけマシだが、ありえない事態にクロナは混乱した。
「さすがにランクA相当の不意打ちには耐えれないみたいね。逆に言えばこれぐらいしないと倒せないって事だけども。さて、今度こそ諦めてくれるわよね?」
「・・・私は諦めない。エミヤシロウに勝てたんだ、貴女に勝てない道理はない」
「ただの人間の魔術師が悪魔の力を持つ私に勝つ?・・・・・・・・・不可能よ!」
再びグラスオブコンチータから零れた液体が足下に水溜りを形成し、そこからぞろぞろと湧き出てくる屍兵達、およそ20体がいっせいにクロナに群がる。再び爆発させようと両手を構えるクロナだったが・・・一瞬、アサシンの姿がぶれたかと思えばスピードの増した屍兵達の一撃が次々とクロナに叩き込まれ、その華奢な身体を吹き飛ばした。
「速い・・・っ、そうか!」
何が起きたかとまた混乱するクロナだが、すぐに気付いた。屍兵達の背中に、加速の刻字印が彫られていた。にやにやとアサシンは切り傷のある胸元を撫でながら笑う。
「アハハハハハハッ!さっき貴方が自分で言った事よ?触れられなければ、触れなければいい。その手に触れなければうちの屍兵でも十分に対抗できるでしょ?」
「・・・うん、切嗣さん×20とか何それ無理ゲー。父さんじゃないだけマシだけど。確かに、諦めざるを得ない戦力差だ。バーサーカーもいつ起きるか分からないし」
そう言ってお手上げと言わんばかりに左手を上げ、右手は懐に突っ込むクロナ。アサシンは勝ち誇った顔で刻字印が刻まれたナイフを構える。自分でとどめを刺すつもりらしい。
「悔いる事は無いわ。むしろ、よくここまで健闘した。正直セイバーより手古摺ってるし・・・諦めたら後悔して、死になさい!」
「・・・うん、諦めざるを得ない。でもね」
ナイフを構え、突進するアサシンに対してクロナは何も握られていない右腕を振り抜く。瞬間、アサシンの視界が赤に染まった。
「諦めざるを得ないだけで、諦めるとは一言も言ってない!」
「なあっ!?」
放たれたのは、炎。クロナの右手から放たれた紅蓮の炎はアサシンを避けてその手に握られたナイフ二本と、背後に控えた屍兵20体全てを飲み込み、集束するかのように包み込む。瞬間、その全てが爆発。アサシンは溜まらず大きく後退する。
「私の改造魔術は手で触れない限り作用しない。でもこれは、ライターの様な物。じっくりと焼いて、焦がしていく。それが私の魔術の正体」
クロナが初めて魔術を使ったその日、燃える様に体が熱くて、そのまま気を失った。父親二人は「失敗しただけだ」と言っていたが、治療していたのは明白だった。それ以降、彼女はさらに魔術を嫌悪して「強化」だけを練習してきた。その結果が「改造魔術」だが・・・その理由を考えると、納得できてきた。
何故炎のトラウマがあるのか。それは、常に傍に在ったから。そう、あの火事の時、恐らくは「彼」から与えられた彼女の起源は・・・全てを飲み込み変質させる「炎」だ。焼き尽くし、全く別の物に変える。それこそが言峰黒名の魔術。溢れる炎は、抑えきれなくなった怒りの顕現。
「何度も言ったね、諦めろって。サーヴァントに小手先じゃ通用しないのは私も分かっている。だからさ、分かり切っている事を何度も言われるのって凄いムカつくんだわ。
私が不甲斐無いせいでバーサーカーが倒れたし、魔術もろくに使えない私じゃ貴方には勝てない、私にできるのは怒る事だけだ。それは、昔も今も変わらない。きっと未来も、私は生涯をこの怒りに捧げる」
「だったら怒り狂ったまま死になさい!」
ただの道具ではあの炎に飲み込まれてしまうため、手刀でその心の臓を貫こうと跳躍。それに対し、右手からの炎で目暗まししたかと思えば大きく後退し、スッと右手をかざすクロナ。
「アサシン、私は貴方が気に入らない。でもそれ以上に、不甲斐無い私が一番気に入らない。この怒り、ぶつけていいかな?」
「レクレス・レブ!」
自身の手の甲に加速の刻字印を刻み、瞬間的にランクEXとなった速度でクロナに肉薄し、拳を振り上げるアサシン。その瞬間、アサシンは突如溢れだした炎の波を押されて宙を舞い、そして広がる炎に飲み込まれ目を疑った。
「シロウの真似だけど―――
―――――
「・・・キャスターやエミヤシロウだけでも十分だってのに、これは・・・固有結界・・・!?」
視界に収めたのは巨城と焼けた森ではなく、かつてこの地を襲った地獄。冬木市、と呼ばれた場所ではあるが赤い空、道なき道、崩れた建物、熔けているナニカがそこらに転がる業火に飲み込まれた街並が広がるそれは、クロナと言う少女とは切っても切れない忌まわしき記憶だ。
焼け付く風が喉から水分を奪う感覚に、懐かしさを感じたクロナは淀んだ目で周囲を見やる。10年前の地獄が己の心象風景。自虐気味に笑うしかなかった。こんなのが心に広がっているんじゃ、そりゃあんなトラウマも残るだろうし、魔術師への怒りが収まる筈もない。よくイリヤを赦せたもんだ、と自分に呆れる。
魔力がよく足りたものだとか疑問に思いながらも、そんな事よりも目の前で混乱する天敵を速く仕留めるとしよう。ここなら、やれる。そんな確信があった。
「これで貴方が有利に戦えるテリトリーは無くなった。さて、名付けるとしたら、そう。
―――――
かな?」
溢れる怒りはクロナの背後で巨大な炎となって燃え上がり、クロナが手をかざすと炎が一直線にアサシンを飲み込まんと燃え広がった。
ついに発動、英霊クロナの宝具でもある固有結界「
士郎とイリヤ、アーチャーとセイバーが戦線を離脱。代わりに両腕を失い無明鬼哭刀を振るうバーサーカーと、屍兵を爆発させる様に改造できることに気付いたクロナがアサシンと対決。フックショットってあんな使い方できれば強いと思います。フックよりクローの方がよさそうですが。
今回アサシンが使った「自然を味方に付ける術」と「加速の刻字印」これは「悪ノ娘 青のプレファッチオ」にてアサシンの師であるアビスI.R.と対決したグーミリアと言う魔道師(魔術師とはちょっと違う)が使った戦法です。文字通り自然を味方につける為、アインツベルンの森(半分以上焼けている)は文字通りアサシンにとって最強の武器となりえます。
加速の刻字印は固有時制御と似てますがより危険な代物。物体自体の時間を早める為、人間に使えば寿命も早まりますし、大砲などに使えば一発使えばすぐ壊れてしまう様な物です。サーヴァントと屍兵の再生力の前では意味がありませんが。
ステータスも上昇し、原作にはないグラスオブコンチータの使い方で液体を結晶の刃にして放つと言う攻撃も可能で、準備は要りますがセイバーとバーサーカーと言う強者にも真っ向から戦えるアサシン。キャスターより強敵かも知れない。
そして判明、クロナの起源。それは「火」です。正確には「炎」。凛の五属性や桜の虚数属性、士郎の「剣」に比べると割と平凡な部類ですがとんでもない、真骨頂は炎は全てを飲み込むと言う点。それを魔術として使える、それがクロナの改造魔術の正体です。生物に使えないのは文字通り焼いてしまうため。
最初に魔術を使った際は全身発火と言うとんでもない事態でした。だから綺礼は知っていてもわざと黙っていた感じです。
それが今回、度を超えた怒りのために漏れ出して中距離でも改造ができるようになりました。固有結界に至っては・・・?
次回はクロナとアサシンのタイマン対決。感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。