Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
つめこみ過ぎてVSエミヤ回並に長いです。楽しんでいただけると幸いです。
今よりちょっと過去、切嗣さんが亡くなって数日たったある日。遺品を士郎と共に整理していた時、彼の寝室の隠し戸棚からそれを見付けた。
士郎を拾ってからの数年を綴った手記。魔術師関係の事柄について書かれていたそれを、士郎に知られたくないがためにこっそり持ち帰って読んでみた。
第四次聖杯戦争の後の顛末について、事細かに書かれていた。アインツベルンの情報収集にちょうどいいと思って読みふけったそれには、こうあった。
旅行と称して日本から何度も離れたのは、娘をアインツベルンから取り戻し救い出すためだと。
でも、ドイツ郊外にあるアインツベルン本拠地に何度も攻め込んだが、聖杯を破壊した裏切り者とされ、弱体化した己では力及ばず、ついには諦めたと。
でも、聖杯である娘を救うための手段ならば既に考え、準備してあると。その連絡先も記されていた。恐らく、士郎との日常の中でそれだけは忘れないで置きたかったんだと思う。娘が自分を恨んでアインツベルンから離れて日本にやってくる可能性に賭けたんだ。その結果、衰弱死。真面にあの泥を浴びたらそうなるに決まっている。
私はそれを、無駄な事をと思いながら眺めてた。どうせ、その「娘」も魔術師としてこの冬木にやってくる。魔術師として立ちはだかるなら、破滅するに違いないから。取り戻せず救えなかった時点でアウトなんだと。
―――士郎達の元に駆け付けた際に、目の前で泣きじゃくる少女に銃を構える男を見るまで、そう思っていたんだ。
両腕を掴まれる。何とか振りほどこうとするも、そこに突撃した巨漢のタックルを受け、俺は意識が途絶えかけるのを何とかこらえた。
目の前の屍兵を蹴り飛ばし、逆手持ちで干将・莫邪を投影して屍兵に突き刺し、解放されると共に飛び出して干将・莫邪を一閃して吹き飛ばす、が限が無い。
蹴り飛ばす、殴り飛ばす、たまに斬り、突き、薙ぎ払う。アーチャーもイリヤを守るべく落ちていたハルバードを振り回して薙ぎ倒しているが、数が一向に減らない。
そうこうしているうちにアーチャーに多数の屍兵が圧し掛かり、身動きが取れなくなってしまう。その隙を突いてイリヤに近付く屍兵達に向け、俺はポケットから拳銃を取り出してイリヤに近付いていた奴等の内、一番大きな奴の足を撃ち抜いて転倒、潰させてその間にイリヤに駆け寄り、エクスカリバーで纏めて斬り飛ばす。
ライダーから護身用にと持たされた拳銃・・・確かに剣で斬っても再生する屍兵には有効だ。でも、扱いなれていない俺じゃ限度がある。この状態で
「・・・
ならばと、拳銃の構造を解析する。俺の思考速度なら、構造を理解してそれを元に少々の改造を加えて投影する事も可能・・・よし、イメージできた。
「
干将・莫邪を消して、代わりに投影して握ったのは干将・莫邪に酷似した二丁の大型拳銃。銃身に刃が付いていて、撃ちながら斬る事が出来るようにしたものだ。
弾をばら撒きながら近くにいた屍兵を斬り飛ばす。弾は常時投影、切嗣のキャリコからばら撒かれる弾を見て次々と撃ち、切り払う。行ける・・・!
「ハアァアアアアッ!」
一閃、イリヤとアーチャーに当たらない様に注意しながら振り回し、周りの屍兵を一掃。改めて切嗣に向き直る。数は半分ぐらいに減った。今ならアーチャーを逃がす事も・・・!?
「がっ!?」
「マスター!」
横から殴り飛ばされた。何事かと見てみれば、そこにいるのは藤ねえの同僚である葛木宗一郎の姿。・・・そう言えば遠坂が言っていたな、バゼットと同じぐらい強かったって。奴の振るう拳を、剣銃を盾に受け止める。しかし双方粉々に破壊され、後退した俺は通常の干将・莫邪を投影して葛木の拳とぶつけ合う、が受け止めるので精一杯だ。
「ウオォオオオッ!」
「ッ!」
見てみれば、俺の分まで屍兵を担当しているせいかアーチャーがイリヤの守りも覚束なくなっていた。不味い、俺もアーチャーもイリヤを守る余裕が無い。その間にも、切嗣がイリヤの傍まで歩き、銃口をその足に向けていた。身動きが取れなくした後で連れていくつもりか・・・!
「キリ、ツグ・・・?」
泣いていたイリヤもそれに気付き、表情が絶望に染まる。駆け寄ろうとするも、葛木が邪魔してくる。
「やめろォオオオオオオッ!」
今の精神状態で切嗣に撃たれでもしたら、イリヤの心がどうなるか分からない。しかし叫んでみてもどうしようもない。諦めかけた、その時。
「オラアッ!」
「ッ!?」
入り口の方から吹っ飛んで来た丸太が切嗣に横から激突し、吹き飛ばした。屍兵達まで呆然とする中で、俺とアーチャー、そして目尻に涙を浮かべていたイリヤが入口の方を向く。そこには・・・
「やっと追いついたけど・・・間に合った?」
バーサーカーと同じ右腕を振り抜いた形で過呼吸で息を整えている、クロ姉の姿があった。
数分前、私はバーサーカーとウィッカーマンがぶつかる音を聞きながら焼け野原を駆けていた。瓦礫やら大木の欠片やらが飛んでくるが、基本無視して突き進む。
そして見えて来たのは、屋根の上に飛び出してマスターソードとナイフをぶつけ合うセイバーとアサシンの姿。思いっきり城を破壊しながら戦う姿は、暗殺者には見えない。よく見ればなんか服が変わってるし宝具でも使ったのだろうか。だとしたら面倒だ、ただでさえ少ない勝算がさらに下がる。ここはセイバーに任せるが吉だろう。・・・時の勇者ならば、とっておきがあるはずだし。
そう思い、アサシンの視界に入らない様に城の入り口を目指す。しかし焦ってしまい、枝を踏んでパキッと音を立ててしまった。ピクッと片眉を上げて反応したアサシンは右手を前方にかざし、セイバーの背後に紅い水たまりを出現させてそこから二体の屍兵を召喚してセイバーを羽交い絞めにすると、その間にこちらに振り向き同じように手をかざしてきた。
「あら、貴方が来たって事はイフはやられた訳?・・・その割にはパスはまだ繋がってるけど」
「バーサーカーに任せて来たから大方気絶してるんだろうね。・・・自分のマスターを足止めにするとかバーサーカーより狂ってるね」
「マスターをサーヴァントに任せて自身がサーヴァントに立ち向かう方がよっぽど狂ってると思うけど?」
「・・・それは俺もそう思う」
セイバーまで同意して来た。失敬な、これが最善だと思ってるだけです。セイバー戦だと時間稼ぎが狙いだし、私だってマスター相手の方がいいわ。・・・でもさ。
「赦せない奴の方が、絶対に負けられないんだよね・・・!」
「へえ?・・・だったら、貴方が赦せない奴を出してあげるわ!」
そう言って突き出した手でグッと握り拳を作るアサシン。すると、私の足元からジワリと紅い水たまりが広がり、次々と屍兵が現れ始める。
中でも目立つのは、肉体まで完全に再生している者・・・赤いスーツの男と、オレンジ髪の優男。・・・待て、赤いスーツの男は間違いなく遠坂時臣・・・写真とか記録とかで見た凛の父親だろう。
でも、もう一人は・・・写真とかで見たかもしれないけど、それ以上に鮮明に思い出されるのは、10年前の記憶。
無残な姿に変えられた弟の傍で「COOL!」とかほざきながら邪気の無い笑みを浮かべている光景。その側には、ギョロ目の変な格好の男も一緒に嗤っていて・・・ああ、ああ、ああ。
「アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛アア゛ッ!」
脳が燃える様に疼く。動悸が激しくなる、がこれは炎のそれではない。歓喜、狂喜、安堵。感謝さえアサシンに感じるそれは、私の怒りの根源。
10年前の冬木を震撼させた連続殺人鬼、雨生龍之介。聖杯戦争の大海魔騒動の際に何者か・・・後から知ったが切嗣さん・・・の狙撃を受けて死亡し、その死体は警察に回収されたと聞いていた。
第四次キャスター共々、復讐するのは半ば諦めていたのだが・・・やっと、この手で復讐できる。
「いい感じに苦しんでくれて結構・・・あれ?」
瞬間、私は雨生龍之介の顔面にバーサーカーの拳を叩き込んでいた。
「吹っ飛べ!」
「ッッッッッ!?」
ドゴバキャッ!
人間じゃ絶対にしない音が響き、雨生龍之介は城壁に叩き付けられてダウン。赤いスーツの屍兵の放った炎をイフ戦と同じ炎を誘導する黒鍵を遠坂時臣に突き刺し、自らの炎を持って燃やす。さすがに燃えれば肉は残るまい。そんな事より今は、
「復讐だァアアアアアアッ!」
雨生龍之介の首根っこを左手で引っ掴み、右拳を構える。まずは腹パン。続けてフック。アッパーで顎を打ち、そのままタコ殴り。
最後に左手を放し、右手で頭部を鷲掴みして城壁に叩き付ける。潰れた頭を無視して空中に放り投げ、落ちてくる間に拳をググググッと構える。何か屍兵が群がって来ているけど気にするか。噛まれても引っかかれても髪を引っ張られても無視を決め込み、仇敵にとどめを刺さんと振り被る。
「お前が笑顔で死んだのだけは、絶対に赦さない!」
お前のせいで、お前のせいで。弟は、人としてあるべき死に方さえできなかった。尊厳を踏みにじられ、道具にされて生かされながらも殺された。例え、待っていたのは劫火に焼かれる最期だとしてもだ、そんな死に方であっていいはずがない。
許すまじ、許すまじ。弟の助けを求める目を見ても、変わり果てた姿に嫌悪し恐怖し目を逸らし、何もできなかった自分も。いや、何もできずあの人に助けられるしかできなかった自分こそ、許すまじ。これは、私のケジメだ。
「―――――
バーサーカーの腕にしている右手が炎に包まれる。肘から炎を噴いて周りの屍兵を蹴散らしながら莫大な推進力を生み出し、燃え上がった拳を高速で落ちてきた胴体に叩き込む!
「
胴体をぶち抜き、そのままぐるりと回って周りの屍兵を一掃。吹き飛んだ雨生龍之介の屍兵は、骨まで燃え尽きて灰となって空に舞った。・・・ギロリとアサシンを睨みつける。セイバー共々呆気にとられてこちらを見ていた。
「・・・礼を言うよ、きちんと復讐させてくれて」
「そ、そう。気が済んだならいいけど」
「お礼に今からアンタをぶちのめす」
「丁寧に断るわ。今はこの勇者様の相手で忙しいし、ね!」
「ッ!」
未だに屍兵に拘束されているセイバーに、ナイフを突きつけるアサシン。させるかと言わんばかりに黒鍵を投擲するも、簡単に弾き飛ばされてしまうがその間にセイバーは拘束から脱出、イリヤも使っていたデクの実を叩き付けてアサシンを目暗ましする。さすがだ。
「言峰クロナ!すまないが、イリヤを頼めるか!衛宮士郎も居る!」
「何か問題が?」
「メイド二人が殺されてイリヤの精神が参っているんだ。それを守ろうと衛宮士郎とアーチャーが奮闘している、がこのアサシンの宝具は「どこにでも」屍兵を召喚できるらしい。でもアンタなら、何とか出来るだろ?」
「・・・・・・アサシンは任せた」
そう叫び、近くに倒れて落ちていたちょっと大きめの丸太を手に取り、先を急ぐ。・・・いい情報をもらえた。士郎には悪いけど、戦えなくなったイリヤに用はない。アサシンの狙いは間違いなく小聖杯だろうから、私が先に頂けばいい。セイバーを失うことになるだろうけど、アサシンだけならバーサーカーがいるから大丈夫だ。・・・キャスターは、まだライダーとアーチャーもいるしどうにかしよう。これはチャンスなんだ、雨生龍之介に続いてアインツベルンにも復讐できるチャンスだ。
最悪、士郎と敵対関係になるかもだけど・・・どさくさ紛れに撃てばいいかな?
そんな事を思っていた私の考えは、すぐに改められることになる。・・・そもそも、既にそれは選択肢に上がっていたんだ。
丸太をぶん投げて切嗣さんを奇襲した私は、辺りの様子を見て状況を把握する。戦えないイリヤを守るために士郎とアーチャーが奮闘している。・・・ああ、もうこれは使えない、な。
「クロ姉!助かったよ」
「士郎、イリヤを守るのは私に任せて士郎とアーチャーで屍兵を一掃して。私じゃ爆発で巻き込むかもしれないから」
右腕で屍兵を殴り飛ばしながら、それしかできない事をアピール。実際、私の攻撃方法って基本的に足りない攻撃力を爆発で補っているから乱戦だと使えないんだよね。一対多ならともかく。
「分かった、イリヤは任せたぞクロ姉!アーチャー、頼む!」
「はい、マスター。殲滅します」
イリヤを守っていた時とは段違いの速度で次々と屍兵の胴体を殴り飛ばしていくアーチャー。王様やエミヤシロウの時も思ったけど、アーチャーの定義可笑しくね?まあいいや。
士郎とアーチャーが、イリヤを巻き込まないために離れるのを待つ。雑魚はアーチャーが相手して、士郎はこの場で一番強いと思われる葛木宗一郎先生の相手か。・・・話に聞いたところサモエド仮面とも打ち合えてたんだっけ。何それ怖い。まあいい、切嗣さんの屍兵は丸太に潰されているし、士郎とアーチャーの視線もこちらから離れた。邪魔する奴は、誰もいない。
「イリヤ。聞こえてるか知らないけど、もう戦えないみたいだね。これじゃあセイバーと士郎の足手纏いだ」
そう言って、外装をマフラーに戻して首に巻き直し、右手に黒鍵を構える私。士郎に嫌われたっていい、此処で殺す。むしろ、何で私は今の今まで我慢して来た?10年待ち望んだ復讐対象がすぐ傍に居たんだぞ。士郎と敵対する事になるから?聖杯戦争で不利になるから?
・・・いいや、違う。単に迷っていたんだ、イリヤが魔術師なのかそうでないのかを。今でも迷ってる、ホムンクルスのメイド達の亡骸に泣きじゃくるその姿は、魔術師のそれじゃないのは分かっている。ただの寂しがり屋なんだろうとも。
だがそれがどうした?イリヤはアインツベルンの魔術師だ、理由はどうあれ自分で冬木に赴き、士郎を殺そうとしていた事実は変わらない。なら、迷うな。踏ん切りがつかなくなる前に殺せ。今ならチャンスだ、「足手まといだから」と言う大名義分で殺せる。自分を正当化する気はないが、もしかしたら士郎達にも嫌われないかもしれないじゃないか。
・・・いや待て、私は何を考えている?別に嫌われたっていいだろう、私は独りだ。独りで地獄への片道を歩いている復讐者だ。だったら士郎達に嫌われたって問題ないだろう。・・・そもそも何で、私は士郎達に必要以上に接している?
ああ駄目だ。雨生龍之介と遭遇してからの熱が、変な風に考えさせてくる。イリヤを、アインツベルンを生かそうと思い始めている。私と同じだから、救えと誰かがほざく。
「・・・だから、死ね」
私はそれを振り払うように黒鍵を投擲した。全然力が入らずに投擲された黒鍵はいつも程じゃないにしても、それなりの速度で少女の額に迫る。私は突き刺さる瞬間、爆発するべく構えた。でも、それは。
「
そう唱えてすぐに凄まじい速度で丸太を押し上げ、イリヤを守る様に立ちはだかった切嗣さんの胸に突き刺さり、そのまま私に突進してきた。
「グッ!?」
突き飛ばされ転がった私は起爆。切嗣さんの屍兵は胸から上が吹き飛び、崩れ落ちた。・・・反応できなかった。でも、今この屍兵は・・・
「キリ、ツグ・・・?」
「・・・丸太で潰した時にアサシンの繋がりが切れたのか?」
倒れた切嗣さんに、我に返るイリヤ。思考する私。・・・いや、その考えが正しいにしても、死体に意識が戻る?そんなことがありえるか?・・・それほどまでにイリヤを守ろうとしていた、と考えれば納得は行くけど・・・
「ハァアアアッ!」
見れば、葛木に殴り飛ばされながら無手の拳を突き出し、その瞬間にエクスカリバーを投影して葛木を貫いて勝利した士郎の姿が。既にアーチャーも殲滅を終えていた。・・・イリヤを殺す事は出来なかった、か。・・・これを機に諦めるかな。
人間とホムンクルスの混血児、それが私の知るイリヤの出生だ。その時点でアインツベルンの悪趣味さがよく分かる。
10年前の聖杯戦争で母親を失い、それを「聖杯だから」と考えているからその死を悲しんでさえいない。
しかし、唯一残った父親は10年間帰らず、恨み続けて。彼女は知らないけど、その理由は彼女が尽くそうとしているアインツベルンそのものであって。
その怒りの矛先として、士郎を狙って。
何だ、よく考えてみればイリヤに悪い所は何もないじゃないか。私達と同じ、被害者だ。駄目だ。やっぱり、見捨てられない。・・・説明はすべきだな。
「ごめん、イリヤ」
「・・・今さら何よ。私を殺そうとしていた癖に。・・・恨んでいた切嗣に守られて助かるなんてお笑い草だけどね」
「私は笑わない。切嗣さんの思いが届いて、よかった」
「どういうこと・・・?」
呆けてこちらを見上げるイリヤに、私は懐から一冊の古ぼけた手帳を取り出した。手入れしてないから染みだらけだ。私は士郎に向き直り、無言で手を動かして呼んだ。
「どうしたんだ、クロ姉?」
「まず、ごめん。私は今、イリヤを殺そうとしていた。でも、無理だ。だからイリヤの答えで決めようと思う。・・・これは切嗣さんの手記。士郎に魔術に関わって欲しくなかったから黙って持ち出した物。読んで、そして決めて。イリヤはどうしたいのか」
「う、うん・・・」
何時もの私とは違う真剣な態度にたじろぎながら頷き、私は士郎を連れてちょっと離れた窓の下に向かい、そして手記の内容をあらかた伝えた。さすがに手記の方も「泥」の部分は消して置いたが。アレを知られたら不味い。
切嗣さんは「戦いの根絶」「恒久的な平和の実現」を叶えるべくアインツベルンのマスターとして聖杯戦争に参加した事。
イリヤはその際8歳で、母親であるアイリスフィールの後継機「最強のマスター」として調整された存在であること。ついでにイリヤの方が年上だとも説明した、士郎は驚いたが同時に納得したらしい。
切嗣さんは聖杯戦争に勝利するも、聖杯の真実を知って拒み、サーヴァントであるセイバーに令呪の重ね掛けをして宝具で聖杯を破壊した事。その時士郎が「アルトリアのことか」と納得していた。
しかし、拒んだことにより聖杯が別の人物の願いを叶えた事であの大火災が起きた事。自分のせいで起きた様な物である火災の中必死に生存者を捜し続けて士郎を見付け、本当に安心した事。
士郎を引き取って落ち着いた後、旅行と称してアインツベルンにイリヤを迎えに行ったが、裏切り者とされて拒み続けられ、それを何度も繰り返したが弱った自分ではイリヤを助け出す事は敵わなかった事。それを、イリヤは恐らく知らないだろうとも書かれていた。本当にそうだったらしく、見ればイリヤが再び泣き出していた。
・・・ちなみに、やっぱり私の保護者は知らない様だ。知ったら多分どんな手を使ってでも私を引き取りに来ただろうけど、その場合は王様が殺していたかな。
とまあ、全部話した。士郎は黙って怒りに震え、アーチャーは無言でその側に控える中、私はイリヤに歩み寄った。
「それで、どうする?まだ、アインツベルンのために聖杯として終わる気?」
「・・・既にランサーが脱落して、私の聖杯としての機能は働き始めてるわ。もう遅い」
「そうじゃないんだなこれが。切嗣さんは貴方が聖杯として調整されている事も見越して、「人形師」って封印指定の魔術師を探し出して話を付けたらしい。手配すれば直ぐにでも本物同然の肉体を用意してくれるらしいから、貴女が救われたいなら私が手配する。・・・私としても、貴女は被害者だからアインツベルンから離反すると言うなら止めはしないし、もう殺そうとは思わない。むしろ守る、だからイリヤがどうしたいか教えて」
もう、イリヤは殺さない。そう決めたけど、これでもまだアインツベルンの悲願のために戦おうとするなら彼女はアインツベルンだと割り切って殺そう。・・・なんだろ、甘くなったな私。
「・・・もう、アインツベルンには帰らないわ。キリツグに会わせてくれなかったなんて、知らなかった」
「そう、よかった。士郎、提案なんだけどさ」
「何だクロ姉。俺は今、手が届かないところにいる巨悪に何もできなくて悔しいんだが」
「手が届くよ、士郎なら」
そう笑い、私は士郎にその提案を話す。魔術の秘匿?正義の味方としての意義?そんなの知らん。許せないから殴って何が悪い。私達には、それをする権利がある。
「・・・『M』から手を退けとか言われていたけど、今やっと理解したわ。私がアインツベルンに残ったままだったら酷い死に方だったんでしょうね」
「切嗣さんが守ってくれてよかったね」
イリヤさん、据わった目をしてるけどそれは私に対して?それともアインツベルンに対して?まあどっちでもいいや。少し考え、頷いた士郎は右手を掲げる。光るのは翼を広げた天使の様な形状の令呪だ。
「アーチャー、令呪を以て頼む」
「命じる、でよいのでは?」
「いいや、俺はお前に命じるなんてしないさ。だから頼む、アインツベルンの本拠地に宝具を撃ち込んでくれ」
「承知しました、マスター」
何やら「人じゃない」やら「人形」だとか聞いてから目が沈んでいたアーチャーは何所かやる気を増して頷き、天井をぶち破って飛び上がった。
・・・うん、今日は本当にいい日だ。10年もかかった復讐が一気に二つも片付くなんて。士郎が頷いてくれてよかった、自分の恩人の身内であるイリヤを思う怒りが正義感より上回ったらしい。そうだ、アインツベルン滅すべし。
令呪のブーストを受けた超音速で飛翔し、ドイツの空に浮かんで黒い弓と矢を構え、引き絞るアーチャー。その眼下では城の中であたふたする白髪のホムンクルスやら翁の姿が見える、がアーチャーはマスターからの令呪以前に、許せなかった。死ぬことが前提で作られた人形を作りだした存在を。
冷酷な目で標的を捉え、弦を放すアーチャー。
「【
その日、ドイツの郊外に存在する巨城がその周りに広がる広大な森ごと焼滅した。
それを確認した『M』が「そう来たか」と爆笑し、クロナもまた笑みを隠しきれず「アハハハハハハハッ」と不気味な笑い声を上げて士郎とイリヤに引かれたのは別の話。
ツッコミ不在の恐怖。おい誰か止めろ。ついに士郎とイリヤがクロナの考え方に共感してしまったの巻。桜も似た様な物だし、凛が最後の希望か。
何気に士郎がオルタな戦い方を編み出したり、クロナが謎の炎を出し始めたり、色々魔術的にも動きがあったり。地味に士郎の令呪が残り一画になりました。二画ともドブに捨ててると言うね。
龍之介をフルボッコ、時臣氏を焼き殺し、切嗣の頭を爆散させ、アインツベルン消滅。ついでに士郎が葛木を串刺し。容赦ないオーバーキルでした。これでもまだクロナの怒りは消えないんだからヤバい。その代わり生き残り、クロナに赦してもらったイリヤさん。切嗣の動向を知って、アインツベルン裏切る事に決めました。正直知っていたらヘラクレスを大暴れさせてアインツベルン壊滅させてても可笑しくないと思うんだ。
ちなみに分かるかと思いますが、クロナの思考は割と極端です。聖杯戦争開始直後とは思考がかなり変化してます。後先細かく考えていたのから、後先考えなくなった感じ。直情的なのはちょっとアスラに似て来た。
アサシンの宝具効果、屍兵召喚はニトクリスのミイラ召喚と似た様な物です。どこからでも召喚して羽交い絞めにもできる。しかも制限なし。これを上手く使えば・・・
さて、次回。ついに勃発アサシンVSクロナ。クロナの「起源」が判明、そして―――・・・?
感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。