Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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アインツベルンの森の死闘その一。まずは本気を出したバーサーカーVS本気を出したイフが激突。アサシンとセイバーは次回ですのでご了承ください。

今回はバーサーカーの本領発揮回にしてクロナのトラウマ回。プロローグ♯Zeroにて地獄を生き延びたクロナ。しかしそれで、アヴァロンを埋め込まれても居ないのに後遺症が無いはずもなく・・・楽しんでいただけると幸いです。


♯31:其は万物灼き尽くす炎の檻

それを見て、思い出すのは、始まりの赤。赤く黒い焼けた地面を踏み締めて歩いた、災厄の日。全てを奪われ、一人だけ生き延び、生き方を改めたあの日。

 

 

私にとって、燃え盛る炎と言うのは苦手な物に入る。キッチンコンロとかの小さな火ならまだいい。でも、間近で見る焚火程度の物でもどうしても、発作が起こる。

 

手が震える。足は力を失い千鳥足だ。脂汗が噴き出してくる。喉が渇く。ガンガンと頭痛が響く。体がまるで屍の様に重くなる。四肢の感覚が無くなる。心臓の鼓動も早くなる。脳裏に浮かぶ燃える人肉の音と臭い。喉は枝でも貫いたかのように声ではなく掠れた息が漏れる・・・駄目だ、どうも私は腑抜けたらしい。

10年間、一度も感じた事が無かったその熱気と恐怖。動揺して落ち着かないから魔術回路を開く事も叶わない。

 

 

私は確かにあの日、生き延びた。でも同時に、死に掛けていたのは間違いない。

 

 

父さんの治癒魔術と王様の秘薬やらで完治はしたがうっすら痕が残るくらいに全身大火傷を負っていたし、一酸化炭素中毒で一時期呼吸もままならず、直ぐに喉が渇いて一日に数え切れないぐらい水を欲していた。発見された際の衣服はほとんど炭だったらしいし、顔にも大なり小なり火傷を負っていた。本当に王様と父さん様様だろう。

 

 

つまりだ。視界を塞ぐ程の大きな炎と言うのは、私にとってトラウマになっていたんだ。

 

 

イフとの戦いの際は、夢中でなおかつ冷静に対処できたからそこまででは無かった。そもそも火事ってレベルの物でも無かったし、奴の出した炎もすぐに消えていたし、何より私には防ぐ手段があった。・・・でも、これは訳が違う。

 

 

無意識に、バーサーカーの腰布の端を握る。同時に深呼吸、頭の中を怒りで満たす。・・・よし、落ち着いた。

 

 

「大丈夫か、クロ姉?」

 

「・・・大丈夫だよ士郎。行くよ、バーサーカー」

 

「ああ。敵は目の前だ」

 

 

バーサーカーの腰布から手を放し、マフラーで口元を無意識に隠した私は前を歩いていた士郎と合流、目の前の惨状に目を向けた。

 

 

 

 

 

アインツベルンの森に辿り着き、セイバーとイリヤに追いついた私達が見たのは、森が炎に包まれ全焼する光景。そして。

 

 

「おおっ、来たか。アサシンが遊んでいる間に俺も切札を用意しておいたぜ、言峰クロナ」

 

 

森の入り口で杖を突き、立ちはだかる黒ずくめのドルイドの姿。

 

 

Meine Magie wie Flammen Käfig, Briar Green Giant(我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人).」

 

 

ドイツ語で詠唱されるのは、ドルイドの魔術儀式。その横をすり抜ける様にイリヤとセイバーが燃える森の中に入って行く。

 

 

Vergeltung,(因果応報、)An Human resources(人事の厄を)Reinigen,(清める社)───」

 

 

組み立てられていく燃えた無数の細木の枝が巨躯を作り上げ、二本の足で燃える木々の中に立ち上がる。・・・どれだけの魔術を使えばこんな芸当が・・・!?

 

 

Zurück auf der Erde, gut und Böse(善悪問わず土に還れ)───!」

 

 

顕現するは、胴体が檻になっている、全長40mはあろう巨体に炎を纏った巨人。以前、映画で見たそれとはまるで大きさの違う、規格外の魔術儀式。

 

 

「お前を強敵と認め、とっておきをくれてやる。この森を素体にした我がドルイドの秘術、受け取れ!

其は灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)】!」

 

 

その肩に乗った現代のドルイドの宣言と共に、巨人は空気を震わせ轟音とも言うべき咆哮を上げた。・・・あのさあ、魔術秘匿する気ある?いや、純粋な魔術師じゃないのは知っているけどそこだけは見習って欲しかったわ。

 

 

「く、クロ姉・・・どうするんだ?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「それ大丈夫じゃない奴だぞ!?」

 

 

しょうがないじゃない士郎。今この場にいるのは、メイド二人の元に駆けて行ったセイバーとイリヤを除いた、私と士郎、そのサーヴァント二名だ。相手は某光の巨人の如き巨体を揺るがす見紛うなき巨人。そして、森を包む炎の中から燃えた体で現れた屍兵達。見た所、衛宮切嗣達は居ないがそれでもかなりの数だ。勝てる気がまるでしない。・・・だけど、私のサーヴァントなら。

 

 

「・・・バーサーカー。行ける?」

 

「アレより巨大な奴と戦って勝った。リクモドキより小さいなら大丈夫だ」

 

「・・・さすが王様より以前の英霊。頼もしいね。じゃあ、頼んだ」

 

 

帰って来た私のバーサーカーなら大丈夫だ、行ける。・・・そして、巨人が動いた。

 

 

「・・・応ッ!」

 

 

瞬間、巨人の振るった拳と跳躍したバーサーカーの拳がぶつかる。その衝撃で吹き飛ぶ屍兵達、アーチャーに掴まって飛ばされずに済んだ私達。ウィッカーマンの肩の上で体勢を立て直すイフ。そしてバーサーカーとウィッカーマン、双方共に大きく弾き飛ばされ、燃える森で新たな戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

「負けるなウィッカーマン!」

 

「ウオラァアアッ!」

 

 

ウィッカーマンが動き、その足を持ち上げバーサーカーを踏み潰そうとするもバーサーカーは転がって回避、掌からマントラ弾を形成して連続で発射し、足を崩していく。さすが、巨大戦に慣れている。

 

 

「バーサーカー、援護は任せて!・・・士郎はどうする?」

 

投影、開始(トレース・オン)!ここはクロ姉とバーサーカーに任せて、俺達は突破してイリヤ達の元に向かうぞ、アーチャー!」

 

「承知しました・・・!」

 

 

投影したエクスカリバーを一閃、穴を開けると羽ばたいたアーチャーの手に掴まった士郎はそのまま飛び去って行った。・・・残るは私とバーサーカーのみ。まあこれでいい、絶対アサシンの奴何か仕掛けているし、屍兵程度なら私でも対処できる。問題はあの巨人だけど・・・

 

 

「くたばれえっ!」

 

 

跳び上がったバーサーカーの耐空ラッシュで腕が吹き飛んだ。木製とはいえ脆いな。と思ったら、周りの燃えた枝が集まって再生した。・・・なるほど、これは面倒だ。

 

 

「バーサーカー!」

 

「細かい事は分からん。殴るだけだ!」

 

 

そう言って再び飛び上がって拳を叩き込もうとするバーサーカー。しかし、させないとばかりに凄い勢いで振るわれた拳がまるで10tトラックの様な勢いで激突。

 

 

「ッッッ!?」

 

 

横から殴り飛ばされたバーサーカーは吹き飛ばされ、まだ残っている長い木に叩き付けられたと思ったらむんずと巨大な手で掴まれ、締め上げられる。

 

 

「Ansuz!燃え尽きな!」

 

「グウッ・・・!?」

 

「・・・炎を操っているのはイフか。そりゃそうか、アレは宝具並だけど宝具じゃないしね。だったら・・・!」

 

 

両手にありったけ黒鍵を握る。念のために衛宮邸に隠して置いた私の装備一式から補充した物だ。ただ、今回はこれを改造して使わない。バーサーカーなら勝てるんだから、私がやるべき事はイフの相手だ。格闘戦は相変わらず苦手だけど、否天との戦いで編み出したアレがある・・・!

そのまま回転し、近くに来ていた屍兵を惨殺した私はその勢いのまま回転を乗せ、投擲した。

 

 

「行、けーっ!」

 

 

投擲した黒鍵は階段の様にウィッカーマンの足から胴体に掛けて突き刺さり、私は燃えるそれを足場に肩まで駆け上がる。バーサーカーを締め上げてるからろくに動かない巨人なぞ、ただのオブジェクトや!何か目の前で燃え盛っているけど気にするな!

 

 

改造、装填(カスタム・オフ)。ハアァアアッ!」

 

 

マフラーを右腕に巻いてバーサーカーの腕に改造、強化した脚で熔けかかっていた最後の黒鍵を蹴って跳躍。

 

 

「なんだと・・・!?」

 

「邪魔だ、吹っ飛べ!」

 

 

バーサーカーを燃やす事に集中していて、上空から襲い掛かった私に反応できなかったイフの腹部に右の鉄拳を叩き込む。肘からの魔力放出で加速した強力な一撃はイフをウィッカーマンの肩から大きく殴り飛ばし、共に燃える森の中に落ちた。

 

 

「がはっ!?」

 

「・・・ひっ」

 

 

・・・ああ、もう、考えるな!火とか見えない!何か目の前で轟々と燃え盛って存在をアピールしているけど私は認識しないぞ!赤い背景だ、黒と赤のコントラストだ、熱気は私の記憶が呼び覚ましているだけでただの映像だ、そう思え!トラウマなんかじゃない、むしろこの光景を作り出すあの黒ずくめの魔術師を・・・あれ?

 

 

「・・・ランサー?」

 

「は?俺がクー・フーリンな訳ないだろ、燃やすぞ」

 

 

獰猛な獣みたいな輝きを放つ満月の様な金色の目は違うけど、その群青色の髪と顔はランサー・・・クー・フーリンにそっくりだった。・・・・・・ドルイド、ねえ。まさか血縁な訳無いし・・・・・・他人の空似?

 

 

「何はともかく、これでウィッカーマンは操作できないはず!」

 

「残念、ありゃ俺の命令を聞いて暴れるだけの人形だ。バーサーカーを倒せって命令しているからそのまま叩き潰すぞ」

 

「・・・それは便利。だけど、細かい命令は出来なくなった。それならバーサーカーの敵じゃない」

 

「炎の勢いは収まったが巨躯と再生能力を持つ俺の最高傑作だぞ?そう簡単に勝てないとは思うが・・・な!」

 

「っ!」

 

 

ローブをベルトごと外し、こちらに投げ付けて来るイフ。飛んで来たローブは視界を隠し、私がそれを押し退けると、その隙を突いて突進してきたランサー似の男は杖の先端を突き出してきて、私はそれをバーサーカーの剛腕にしている右腕で防御して左手に持った黒鍵を投擲するも、それはすかさず離れたイフの杖で弾き飛ばされてしまった。

 

・・・しかし、これで何時もローブで隠していたイフの全身が明らかになった。令呪を隠すためか右手にのみ付けられた黒い手袋、黒いオフショルダーとレザーパンツを身に着け、両手にルーン文字の刻まれたシルバーリングをはめていた。・・・ルーン文字と言うのは分かるけど、どういう意味なのか分からないから何か仕掛けてそうで油断できない。しかし、杖を構えるその姿は・・・やっぱりランサーを思わせた。道理で杖が強いはず。

 

 

「俺のサーヴァントは生憎お人形ごっこで忙しくてな。遊び相手のアインツベルンと衛宮はともかく、テメエだけは行かせる訳にはいかないんだよクロさんよ」

 

「へえ、それはなおさら・・・貴方をブッ飛ばして士郎の元に急がないとね」

 

「それでだ。・・・キャスターの乱入でお開きになっちまった先日の決着・・・着けないか?」

 

「前から思っていたけど戦闘狂?生憎、私は正々堂々戦うのは嫌いでね」

 

 

そう言いながら、後ろ手に黒鍵を構える。・・・ああそうさ、私は正々堂々戦うのは大嫌いだ。だから使える手は何でも使う。例えば、周りにあるトラウマだって。

 

 

「そう言わずに……戦おうぜ言峰黒名!Ansuz!」

 

「ッ、Escort the flame(炎を導け)!」

 

 

放ってきた炎に合わせる様に改造した黒鍵を三メートルぐらい離れた横のちょっと盛り上がっている地面に投擲する私。すると、私に向けて放たれた炎は「炎を引き寄せる」様に改造された黒鍵に集束。ついでに近くの炎も引き寄せ、炎が燃えていないステージを作り上げる。

 

 

「オラアッ!」

 

「くっ…!?」

 

 

アンサズが放たれていたと同時に飛び出していた私は、杖を突き出していた体勢のイフに急接近。炎が誘導された事に驚いているその顔に、アサシンへの鬱憤と言う名の怒りを込めた拳を叩き込む。

しかしそれは杖で防がれ、さらに炎を纏った杖による打撃が叩き込まれて私は後退。・・・なるほど、飛ばした炎が誘導されるなら纏う事で戦闘に用いて来たか。

 

 

「…お前の様な気持ち悪い戦い方の魔術師は初めてだ。ケイネスみたく普通に斬撃放ってくる方が分かりやすいんだがな?」

 

「魔術使い、だ。私は弱いからね、策を使うのは当然。魔術師みたく誇りを重要視するのは馬鹿のする事だ」

 

「それは俺も同感だ!」

 

 

するとイフは何を考えたのか、傍にある燃えて黒焦げになっている木に杖をかざす。

 

 

Baumriesen Asche(焼き尽くせ木々の巨人). 其は灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

 

 

すると炎が木を細かく丁寧に切断、複数の小枝となった木を炎が広がり、それは巨大なウィッカーマンの腕を作り上げる・・・ってなにぃ!?

 

 

「使える物は何だって使うぜ、俺の相手は格上ばっかりだからな?」

 

「・・・なるほど、認めたくないけど似た者同士な訳だ。私は「強化」、貴方は「アンサズ」にだけ長けているからかな?」

 

「残念ながら儀式魔術も得意なんだな、これが。準備をするのは大好きでよ?まあ降霊とかは苦手なんだが」

 

「頭いいのか悪いのかはっきりして欲しいね」

 

 

言いながら、蛇の様に動きながらこちらを叩き潰してくる巨腕を避け、右拳を叩き込む。しかし魔力放出で加速した拳でもビクともせず、そのまま薙ぎ払われてしまった。

・・・つえー。上着を脱いだのは周りが燃えて熱くなってきたからかと思ったけど、直ぐ近くに燃やした物を操るためだったか。あのローブ暑そうだったし。・・・炎に当たっても燃えないとか特別性?

 

 

「バーサーカーが倒れるか、お前が倒れるか。どっちが先に折れるか見物だな?」

 

「・・・そっちこそ、どこまでほざけるかな?」

 

 

そう悪態を吐いてみるも・・・私が先に折れそうだ。てか今ので多分肋骨折れた。死ぬ、いや死なない。何故なら・・・正直、頼もしすぎてちょっと引いちゃう相棒がいるから。

 

 

「・・・先に謝っとく、ごめん」

 

「な・・・に・・・!?」

 

「ウオォオオオオオラァアアアアアッ!」

 

 

そんな雄叫びと共に、六天金剛となったバーサーカーに拳をむんずと掴まれ振り回された巨体が宙を舞い、イフの真後ろに落ちた。その胴体に飛び乗り、再生していくその胴体にラッシュを叩き込んでいくバーサーカー。

 

 

「なあ・・・っ!?」

 

 

それに驚愕し、思わず顕現していた巨腕を戻してしまい呆然とするイフ。隙だらけだったので、こちらも渾身の一撃を放つことにした。いや、エミヤに向けて放った程じゃないけど。喰らいやがれ!

 

 

「すっぽ抜けろ!」

 

「今度はなnグハッ!?」

 

 

肘から魔力放出をしたまま、左手でマフラーを外してすっぽ抜けたバーサーカーの腕を模したそれが振り向いたイフの顔に直撃。

 

 

「魔術何て糞喰らえ、“即席ロケットパンチ”だ!」

 

「・・・それは、ない・・・だろ・・・?」

 

 

顔面パンチをめり込ませ、その反動で引っ繰り返されたイフはグルンッと一回転してウィッカーマンの顔にベチャッと叩き付けられた。それを無言で見つめるバーサーカーと、元に戻ったマフラーを回収して首に巻き直した私。さあ、どう出る?

 

 

「クソがっ、ありったけの魔力をくれてやる・・・バーサーカーをそのマスター共々、灰塵も残さず灼き殺せ!

其は万物灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)】!」

 

 

すると、胴体の檻になっている部分に潜り込んだイフが何やら杖を手に魔力を叩き込み、今まで以上の炎を纏い熱気のみで周りの木々を焼きながら立ち上がるウィッカーマン。しかし私は、それを見てもバーサーカーが勝利すると信じて疑わない。

 

 

「・・・バーサーカー、一つ聞くけど」

 

「・・・なんだ?」

 

「最初に戦ったって言う八神将、何かアレぐらい大きくなったあとに地球レベルで大きくなって叩き潰そうとして突き指で死んだって本当?」

 

「ワイゼンの事か?死因は知らんが、アレぐらいの大きさだったら・・・俺の方が強い」

 

 

不敵に笑むバーサーカー。・・・なんか、本当に感じが変わったな。まあいいことだ。元より私は信じるだけだ。

 

 

「頼もしいお言葉。じゃあ任せた、私は士郎の元に急ぐわ」

 

「応ッ!」

 

 

ハイタッチ。どっしり構えたバーサーカーを背に、私は走り出す。逃がさんとばかりに火球弾がウィッカーマンの胸・・・イフの杖から放たれるも、それは全て走り出したバーサーカーが六腕で圧し潰し、その勢いのままウィッカーマンに向けて駆け抜けた。

 

 

「サーヴァントと言えど、俺の切札に勝てるものか・・・!」

 

「・・・デカいだけのデクノボーだ。俺の戦った奴の方がまだ強い」

 

 

振るわれるとんでもない質量の拳を、三連ワンパンチで弾き飛ばす。バーサーカーは一切動じてない、しかしその目は、しっかりと目の前の巨人を捉えていた。

 

 

「奴の方が速かった」

 

 

瞬間、目にも止まらぬ一跳躍でウィッカーマンの眼前に浮かび上がり、拳を振り下ろすバーサーカー。巨体が揺れ、ウィッカーマンは後退するも体勢を立て直して拳を振り上げる。しかし、

 

 

「奴の拳の方が重かった」

 

 

バーサーカーはガシリと右腕を掴んだかと思えば捻じり、もぎ取ってしまう。すかさず踵落しで左腕も破壊、イフが声に鳴らない悲鳴を上げる。・・・もう余裕は無いんだろうな。バーサーカーは、策士であればある程・・・それを崩して絶望させるのが得意らしいし。相性最悪ではなかろうか。

 

 

「奴の方がしぶとかった。・・・お前は、俺の眼中にさえなかった奴の足元にも及ばん!」

 

 

思い浮かぶは、地獄から這い上がって目覚めてすぐ、記憶が曖昧な彼の前で人を襲いミスラの名前を出して記憶を呼び覚ました張本人であるデブの顔。生憎、名前は覚えていなかったのだが英霊になった事でようやく思い出した。

その名はワイゼン、【暴】のマントラの適合者で、無垢なる民から搾り取ったマントラに頼り切り、延々と巨大化する巨躯を持ってアスラを叩き潰そうとするも、決死の猛反撃により倒された八神将にして七星天の中でも最弱と言える者である。

 

 

「それは聞き捨てなるものか!」

 

 

瞬間、周りの木々を組み入れて巨大化し、重量も増したその巨躯でバーサーカーを踏み潰すウィッカーマン。イフは勝利を確信した様だが、それは違う。・・・と言うか、バーサーカーに対して「潰す」は圧倒的に勝ちフラグでしかないと思う。

 

 

「ウオォォォォオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「なっ、馬鹿な・・・!?」

 

 

持ち上げ、立ち上がって姿を見せたバーサーカーは歯を食い縛り、上空に向けてウィッカーマンを投擲して己も跳躍。しかしイフも空中で体勢を立て直して巨大な拳を構えて急降下。

 

 

「こんなところで負けるか、とっておきのとっておきだ!Asche zu Asche(灰は灰に) Staub zu Staub(塵は塵に)!」

 

「ウオォオオオオオオッ!」

 

Rotes Kreuz blutsaugenden killer(吸血殺しの紅十字)!」

 

 

バーサーカーの拳とウィッカーマンの拳がぶつかる瞬間、ウィッカーマンの手に炎の十字架が出現して加速。バーサーカーが完全に振り切る前に、空中でぶつかった。

質量+加速+急降下+上からの攻撃。その威力はバーサーカーの拳の有に倍を行っていて、そのまま地面に叩き付けられた。クレーターができ、粉塵でその姿は見えない。・・・が、バーサーカーが折れる事はありえない。

 

 

「・・・行くぞッ!」

 

 

瞬間、拳の下で放たれたバーサーカーのラッシュが炸裂。徐々に、徐々にその巨体を押し上げて行く。

 

 

「・・・ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

砕けて行く、バーサーカーの拳。如何に木製でも魔術で補強されている魔術儀式の産物だ、堅さはウィッカーマンの方が上。それでも、バーサーカーは殴り続ける。それしかできないのはいつもの事だから。

 

 

一つ目、砕ける。

 

 

「ッ!」

 

 

二つ目、折れる。

 

 

「ッ!」

 

 

三つ目、燃え落ちる。

 

 

「ッ!」

 

 

四つ目、拉げる。

 

 

「ッ!」

 

 

五つ目、最後の左腕が潰れた。同時に、ウィッカーマンの押しつける力が緩んだ。理由は分からないが、急激な魔力消費でイフの意識が一瞬途絶えたのだ。・・・恐らく、アサシンの宝具か。

 

 

「ッ、ウオラアッ!」

 

 

その隙を逃すバーサーカーではない。グググググッ、と時間をかけてマントラを込めて握りしめた最後の右拳が叩き込まれ、ついに、罅が入る。その罅は徐々に広がり、ウィッカーマンの全身を覆い尽くした。

 

 

「!? しまっ・・・」

 

「押し通る!」

 

 

その言葉と共に、六つ目、右腕が吹き飛んだ。そして同時に、このアインツベルンの森の燃えている木をあらかた集めて組み立てた巨体のウィッカーマンもまた、粉々に粉砕された。・・・私のトラウマである燃え盛る大きな炎を、バーサーカーが文字通り打ち破ったのだ。

 

 

「調子に・・・乗りすぎたか・・・」

 

「・・・見たくない面だ」

 

 

投げ出され、地面に叩き付けられ白目を剥くイフを確認し、何を思ったのかそう呟いて力尽き、背中から倒れるバーサーカー。

 

残されたのは、バーサーカーの一撃で生じた衝撃波で火が吹き飛び焼け野原となったアインツベルンの森。城方面はまだ無事な木々は残っているが、もう森とは呼べないだろう。

 

 

 

そして、残されたアインツベルンの城の屋根で赤いドレスの少女と緑衣の勇者がぶつかっていた。・・・アサシンって、なんだっけ。もう少し隠れて活動すべきじゃなかろうか。




※イフは生きています。念のため。

今回のバトルの元はアスラズラースの第五話「哀れな男だ」。僕がアスラズラースを知るきっかけにもなったMMD作品の元ネタです。地球レベルの巨大な奴と戦うと言う、アスラズラースの壮大さの決定打とも言えるバトルですね。「A!」やら「B!」やら殴るシーンで思い浮かべた人はきっと仲良くできる。
ワイゼンは通常の大きさでの戦い方が好みなのもあって地味に好き。少なくとも苦手なオルガよりは好印象。

クロナの意外なトラウマ、それは燃え盛る火。焚火でも近付いたらアウトと言うちょっとヤバい奴です。ちなみに設定にも載せてます。イフは本能的な天敵だった訳です。苦しむクロナの顔を見て意地を見せたバーサーカーでした。

そして登場、クーフーリン[キャスター]の宝具としてFGOに登場するウィッカーマン。更なる巨大化、周りに燃える木があれば再生できる、檻の中に入って直接操縦などオリジナル設定多いです。腕だけウィッカーマンもできます。バーサーカーを倒す直前まで追い詰めるなど、普通に強いイフの切札。でも怒りには勝てなかった。


次回、ついにアサシンが宝具真名解放。セイバーと互角の戦いを・・・?感想や評価をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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