Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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毎度のことながらすみません、分割しました。しかし今回は長くなったからだけでなく、前半と後半のシリアス度に差が激し過ぎる為がための配慮です。

そのため今回は士郎達、特別性屍兵と戦っていた面子の話。短いです。屍兵として甦った過去の亡霊にどう挑む。楽しんでいただけると幸いです。


♯28:これが今の俺/私だと言う事を、

彼等を囲むのは、無数に群れる屍の兵達。

 

放たれるは、一撃でも魔術で受けたら再起不能となる魔弾「起源弾」

 

迫り来るは、ルビーを媒介にした深紅のゴーレム達。

 

立ちはだかるは、無手の暗殺者と人の死を追い求めた殺人鬼。

 

それらを率いるは、最低最悪の外道たるサーヴァント。

 

 

 

マスター達が挑むには、戦力差は明らかだった。絶望、恐慌、不安、焦燥感。勝てない、敗北する、殺される。敵マスターなど放っておいて逃げるべきだ。立ちはだかるのが赦せない人物だからって逃走するべきだ。死んでは何もできない、マスターはここで死んだら行けない。

 

しかし、感情の無い人形とも言われた私は理解した。彼女を許す事は、絶対に出来ない。

 

アサシンを見るたびに思い出すあの子(カオス)と同じ、マスター(桜井智樹)の貌でこちらを嗤うその姿に、私の中で前のマスターによる抑制(ナニカ)が壊れた。

 

 

「《―――自己修復完了》…宝具(モード)空の女王(ウラヌス・クイーン)発動(オン)

 

 

私の大事な人の顔を穢すのは、赦さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリツグの起源弾はサイズの問題でコンテンダーでしか使えない。再装填をさせないで!」

 

「分かった、行くぞイリヤ!」

 

 

先制攻撃としてイリヤが放つコンテンダーの弾丸を、横に避けた切嗣がキャリコからばら撒いた弾丸を俺は干将・莫邪で斬り飛ばしながら突進する。

組み合い、死んだ目の恩人を押し倒してその頭めがけて干将を振るう。が、一瞬躊躇したところに背中に蹴りを入れられてふら付き、立ち上がった切嗣の蹴りを胸に浴びて塀に叩き付けられ肺から空気が強制的に抜かれた。

 

 

「させない!」

 

 

俺に向けて起源弾を装填したコンテンダーを向ける切嗣だったが、イリヤの放ったシュトルヒリッターが強襲。首目掛けて剣状のそれは宙を舞う。

しかし、切嗣は小さく短く「Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)」と詠唱し加速。サバイバルナイフを構え、イリヤに突進する。

 

 

「イリヤ!」

 

「嘗めないで!Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)!」

 

 

するとイリヤも同じように加速、振るわれたサバイバルナイフを低身長を利用して潜り抜け、懐から掌底打。ふら付く切嗣の背後に回り込み、後頭部に向けてイリヤはその手に持ったコンテンダーの引き金を引こうと…

 

 

「きゃっ!?」

 

 

したが、それはその場で腰を下ろして脚を伸ばし、ザンッと回った切嗣の足払いにより妨げられ、宙を舞ったイリヤは容赦なく振るわれたサバイバルナイフを咄嗟にシュトルヒリッターを潜り込ませて防御。傷が受けなかったが大きく吹き飛ばされ、俺はそれを何とか受け止めた。

 

 

「…ううっ、やっぱり子供の体じゃキリツグには勝てない…魔術と技術だけじゃ、キリツグみたいに魔術師殺しにはなれない…」

 

「…ならなくていいんじゃないか?」

 

「え?」

 

 

敵わなかった事に、いや父親に追い付けない事に涙するイリヤにかけた俺の言葉に、呆けてこちらを見上げるイリヤ。…10年前に切嗣に捨てられたと言っていた。憎悪し、困惑し、そして何より…少しでも切嗣に近付こうとしたのだろう。俺は切嗣が魔術師殺しだったなんて知らなかったが、これだけは言える。

 

 

「イリヤはイリヤだろ?切嗣じゃないんだ、魔術師殺しになる必要はない。それに切嗣は絶対、イリヤに魔術師殺しを受け継いでほしいとか思ってないぞ。爺さんは馬鹿だ、優しすぎて苦しむタイプの馬鹿だ、でも正義の味方だ。自分の子供に苦しんでほしいなんて絶対思わない奴だ。…それに、さ」

 

 

イリヤを降し、俺は干将・莫邪を構え直して、放たれていた起源弾を投げ付けた干将で相殺させた。…やっぱり、俺からパスが切れた投影品ならぶつけても問題ないみたいだな。それなら起源弾がいくらあろうが何とかなる。

 

 

「同じ切嗣の子の、俺がいる。兄妹で一緒に親父を打倒しよう、イリヤ」

 

「…うん、お兄ちゃん。切嗣に、私達を置いて死んじゃったことを後悔させてやるんだから!」

 

Time alter―double accel(固有時制御・二倍速)

 

 

立ち上がり、シュトルヒリッターを傍に浮かばせキャリコとコンテンダーを構えるイリヤと並び、俺は投影し直した干将と共に莫邪を構え、加速し突進してきた切嗣と、今の今まで動かず静観していたのに連なって突進してきた屍兵達に身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ein KÖrper(灰は灰に) ist ein KÖrper(塵は塵に)―――!」

 

 

先制攻撃とばかりにありったけの火力を叩き込むが、ルビーゴーレムの軍勢はビクともせずこちらに歩み寄って来る。さすがはお父様のゴーレム、一筋縄ではいかないわね。

 

しかも、それに加えてゴーレム達を縫うように放たれる紅蓮の炎。お父様自慢の魔術礼装だ。本体を潰そうにも、迂闊に近づけない。避けるだけで精いっぱい。せめて相乗を行なえるだけの隙さえあれば一体は仕留められそうだが…

 

 

「切る!斬る!KILL!」

 

 

すると、剣閃の煌めきと共に目の前のルビーゴーレムが一体バラバラにされ転がった。見ると、ゆっくり追い詰める様に歩く葛木から逃げる様にこちらに後ずさっていたサモエド仮面が。

 

 

「やあマスターの姉君。一つ提案があるのだが、どうかね?」

 

「…交代だって言うんならそれは嬉しいけど、残念ながら護身程度にしか八極拳を習っていない私じゃ葛木の相手は無理だと思うわ」

 

「ふむ、それは残念。では真っ向からぶつかってみるとしよう!強化でもされているのか知らないが、正直かなり厄介だがね!」

 

 

そう笑うと突貫、高速の剣戟を、恐らく強化と硬化がかけられている拳で弾き返していく葛木。…やっぱりバゼットと同類か。しかし、こっちの方が問題だ。手持ちの宝石もあとわずか…相乗を用いても一体倒すのが必至。これがサーヴァントと魔術師の明確な差か…やはり、冬木を守るためとはいえランサーを切るのは早かったか。

 

 

「…遠坂は常に優雅たれ、ね」

 

 

ルビーゴーレムを向かわせながらも私に業火を放ってくるその姿はまさしくその言葉の体現者。私の目指していた姿だ。だがしかし、「魔術は秘匿するべき物」その矜持を守らないのはやはり、お父様ではない。ならば遠慮は無用。

 

 

「やっぱりお父様は凄いわ、ゴーレムなんて私じゃまだ作れない。でも…火力なら、私の方に分がある!」

 

 

最大の一撃でこのゴーレム共を駆逐し、お父様に一撃を浴びせる。純粋に推し通る、それしかない。手持ちの宝石を全部取り出す。遠坂の誇りを、取り戻す!

 

 

Fnf,Drei,Vier(五番、三番、四番)……!」

 

 

迫り来るルビーゴーレムに叩き付け、解放した宝石は三つ。加えて虎の子の四番を用いて禁呪である相乗を重ねる。

 

 

Der Rieseund brennt dasein Ende(終局、 炎の剣、 相乗)――――!」

 

 

私の、限界を超えた魔術。…昨晩、魔術刻印移植の際に私は衛宮君にこう言った。

 

 

―――術者の許容量を上回る魔術は、決して使ってはならない

 

 

まあ、許容量とかそんなの関係ない馬鹿(クロナ)が彼の傍にいるから説得力は無かったけど。そう彼に告げた私自身がその禁を侵してまで放った一撃は、周囲の家屋ごと巻き込む強大な爆発を引き起こしルビーゴーレムを飲み込んだ。

 

 

「…!?」

 

「取った!」

 

 

爆散したルビーゴーレムの居た場所は火の海となり、粉々に砕け散った赤い宝石の中に私は突進する。その先には、魔術師だと言うのに突っ込んできた私の姿に面食らうお父様の姿をした屍兵がいた。…今時の魔術師は、肉弾戦もできないと生きていけないのよ!…なんて叫べたら、どれだけいいか。まさか私が兄弟子に八極拳を習った事なんてお父様は考えもしなかっただろう。

 

ぶっちゃけ、年上で、学園のアイドルである私と同じく八方美人の癖して仲のいい人間にだけ怒りしかない本性を見せる姿が私とそっくりなアイツに。

 

10年前、同じく家族を失ってそれでも一人で未来へと歩いていた私と同じアイツに。

 

兄弟子の娘と言う一番近しい存在で、時には同じ釜の飯を食べ、何か嫌っているのに(理由は私が魔術師だったからだが)私が泣きそうになると慌ててあやし、何だかんだで面倒を見てくれる、かつて姉だった私が欲しかった姉的存在だと一方的に思っているアイツに。

 

どこまでも私と似ている癖に、他人になった妹()とも普通に話し、死んだ両親に対しても「生きようとしなかったから死んだんだ」とドライに言いのけ私を激怒させ、親と同じで嫌味たっぷりで、同族嫌悪なのかどこか気に入らないのに、何でも私以上に平然とこなすアイツに。

 

 

同じ魔術師で、しかも私より容量も高く実力サーヴァント共に遥かに強くて悔しかったアイツ…クロに、幼い頃からただ勝つためだけに習得した八極拳だ。お父様には申し訳ないが、これが今の私だと言う事を見せつけたい。

 

 

stark(二番)―――Gros zwei(強化)

 

 

放つは、寸勁。肘を諸に受け、杖を叩き折られたお父様の顔が苦悶に歪む、体が揺れる。そこへ、すかさず足払い。体ごと回した旋脚は、お父様の両足を断たんとばかりに炸裂。

 

 

「―――」

 

 

足を払われ、声帯が魔術詠唱しか発せないのか声にならない声を上げて背中から地面に倒れゆくお父様。足払いの後、お父様に背中を向けたまま立ち上がりかけ、反撃を許さずに回転する勢いのまま私は肘をさらにその顔面に叩き込む。もはや倒れるまで秒読みだがそれでも、この屍兵達がとんでもなくしぶといと知っている私は。

 

 

「これで…決める!」

 

 

体の回転を止め、腰の入った渾身の正拳をそのどてっぱらに叩き込んだ。正拳突き。基本にして、最速で打ち込まれる剛の突き。くの字に曲がって吹き飛び、無様に地面に転がるお父様。全身骨折間違いなし、魔術による回復がなければこれで動けないはずだ。

 

しかし私もルビーゴーレムの攻撃が少なからずも掠り、全身から浅いが血が流れている。瞬時の肉体強化も負担が大きいし、何より私も爆発をもろに受けた。許容量を上回る魔術の代償だ。さらに言えば今現在も衛宮君に魔力を吸われていてもう魔力タンクにしかなっていない。これではもう、戦力になるかどうかも怪しい。

 

 

「…もらえるものは、もらっておかなきゃね」

 

 

怪我を負った体で何とかお父様の傍まで歩き、叩き折った杖…アサシンに盗まれたのか家の地下室に保管しているはずのお父様の魔術礼装を回収し、私は残った塀に背を預けてその場に蹲る。

爆発の影響でまだ炎と瓦礫が残っている事もあり、私の今蹲っている場は一種の(サークル)を構築していて屍兵もこの中には入って来ない。ゆっくり休んでも、いいわよね?

 

 

 

見れば、サモエド仮面は何やら黒ずくめの服にサングラスをかけて白髪の少年の援護射撃を受けて葛木を圧倒しており、もうすぐ決着がつきそうだ。

桜とライダーの方は桜が右手に大きな切傷を受けていて、代わりにオレンジ髪の男の腹部が大きく吹き飛んで崩れ落ちていた。ライダーの手に名前はよく知らないけどデカい銃が握られているため、それを受けたのだと分かる。…そう言えば、桜にはまだ事情を聞いていなかったっけ…クロの乱入ではぐらかされたけど、後でちゃんと聞かないと…

 

そして衛宮君達は。昨夜までの殺し殺される関係が大きく改善されたのか見事な連携で黒服の男を圧倒していた。…本当、本来は使い物にならない投影魔術でよくあそこまでできるものね。私、「五大元素使い(アベレージ・ワン)」って呼ばれる超一級の魔術師の筈なんだけど、やっぱり姉弟揃って化物かって思うわ。

 

そう言えば、英霊エミヤが半身を失った姿で来たと言う事は、クロがやったのかしら。ライダーでもアーチャーでもあんな事は出来ないだろうし。人の魔力使って衛宮君に作らせていた贋作宝具の山も持って行ったしありえないことでもないか?だとしたら、ついに英霊に勝っちゃったか…本当、追い付かせてくれないものね。…あれ、忘れていたけどアーチャーとセイバーはどこに……!?

 

 

それを見たのと、私が気を失ったのは同時の事だった。しかし、それだけは認識した。

 

 

…アレは、アーチャーなの…?

 




そんな訳で、打倒親回でした。子が親を超えるっていいよね。

最初の独白はもちろん彼女・・・次回の混乱の要ですね。
見事な連携で切嗣に対抗する士郎とイリヤ。士郎のイリヤへの言葉は、未来の自分にも聞かせて欲しい言葉。しかし、決着は…?

そして今回のメイン。凛VS時臣。メディアと同じく根っからの魔術師である時臣に対しての鬼札である八極拳を切った凛。今作ではその理由にクロナが入っています。あちらがどう思っていたかは知らないが、それでも凛からしたら超えたい存在。そんな思いの籠った八極拳炸裂です。メディアだから効かないだけであってあの魔術は最強だと思うんだ。

何気に参戦してサモエド仮面を援護している黒ずくめサングラス白髪の少年・・・一体誰なのか。それは次々回にて。地味に桜VS龍ちゃんは抜きました。銃VS肉体はバゼット戦で十分です。

そして次回。アーチャーとセイバー、そして外道を窮めてしまったアサシンside。外道の先に一体何が起こるのか。そらのおとしものを知っている人はアサシンを許せないかもしれません。感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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