Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
突如現れた衛宮切嗣の姿をした屍兵に士郎はどう挑むのか。クロナ的にも見逃せないあの方たちが変わり果てた姿で登場。楽しんでいただけると幸いです。
恒久的平和を目指した正義の味方がいた。
たった一人の少女を殺せなかったがために島を全滅させ、多を救うために少を斬り捨てる事を信条とした男がいた。そのためならば実の親だって殺した。母親とも言える恩人だって殺した。願望器である妻の命を使って願いを叶えようとした。その結果は、恒久的平和など有り得ないと言う結果だった。
その男は、機械の振りをした人間だった。故に、折れてしまった。大人になったからと、正義の味方になる事を諦めた。その夢は呪いとなって受け継がれた。空っぽだった少年、人間の振りをした機械へと。
そして、正義の味方の遺骸は悪の手先となって、最愛の娘と息子の前に立ちはだかった。
「キリツグ・・・?」
アサシンの傍でコンテンダーを構える切嗣を見て、反応する人物が一人。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。何故か俺を兄と呼び、目の敵にして殺そうとしている少女。それが、俺の養父である切嗣に反応した。
「イリヤ・・・!?」
チャカッと、音が鳴る。見れば、切嗣の手に握られたイリヤも使うキャリコがこちらに向いており、その銃口は俺の背後で呆然としているイリヤに向けられていた。
「
連射で放たれた弾丸を、咄嗟に抱えていたアーチャーをその場に寝かせてイリヤの前に飛び出し、投影した干将・莫邪を振るって防ぎ切る。すると切嗣はキャリコを仕舞うとコンテンダーを取り出してこちらに向け、俺は同じように防ごうとするも。
「士郎、駄目!」
「うわっ!?」
放たれた一発の弾丸と莫邪が接触しようかと言う瞬間に背後からイリヤに押し倒され、俺は頭から地面に叩き付けられ弾丸は俺達の上を通過して行き、
「なにをするんだイリヤ!」
「お兄ちゃんこそ!アレがどういう物か知らないなんて、本当にキリツグの息子なの?」
「何のことだ…!?」
ちょうど後ろにいた屍兵の一体に炸裂すると、異常なほどに苦しみだし血を吐いて悶え、そのまま倒れ伏して二度と動かなくなってしまった。これは…?
「アレは起源弾。私もアインツベルンの過去の資料を読んで知ったんだけど、「切断」と「結合」…つまり「切って
「…つまり、あの屍兵は魔術回路…というかアサシンの操っている魔術のラインを滅茶苦茶にされたって事か。助かったよ、イリヤ」
「礼はいいわ。それにしても起源弾をどうやって…」
「あ、気になります?気になるわよね!」
イリヤのぼやいた疑問に答える様に「はいはいはーい!」と子供っぽく手を上げて自己主張するアサシン。癪ではあるが答えを知るのは奴だけだ。大人しく聞き役に徹する…その間にも目の前の切嗣の屍兵に対する警戒は怠らない。
「私のマスターはね、第四次聖杯戦争を生き残った元マスターから情報を聞き出せるだけ引き出し、さらに独自で調査して
そこで、この衛宮切嗣の遺骸を手に入れてまず思い付いたのが、イフのライバルだったマスターを魔術師として再起不能にした実績がある、魔術師に対する切札になりうる起源弾を作る事だった。生前の衛宮切嗣は必要最低限の部位である肋骨を犠牲にしていたけど…ここまで言えば分かる?」
「…まさか、キリツグが動ける最低限の骨以外全てを使って起源弾を…!?」
「はい、よくできました。その通り、今やこの屍兵は私達の奥の手。最強の魔術師殺しとして機能してもらっている訳ですよ。まあ使ったのは今回が初めてなんだけど!アハハハハハハハッ!」
「アサシン、お前!切嗣の亡骸まで使うなんて絶対許さないからな!」
「へえ。養子である衛宮士郎がそこまで怒るんだもの。…実子のイリヤスフィールさんからしたらどう?このサプライズ」
「え…?」
…今あいつ、何て言った?イリヤが、切嗣の実子…だって…?お兄ちゃんってそう言う意味だったのか…?呆けて見つめる俺に、イリヤは溜め息を吐いて自分のキャリコを構えながら笑った。
「…先に言われたけど、確かに私は衛宮切嗣の娘。私が貴方の命を狙うのは、私を捨てたキリツグへの怒りだったと思っていたんだけど…多分、お兄ちゃんに嫉妬していたから」
「イリヤ…」
「話は後よ。早く、キリツグを解放してあげなくちゃ…!」
「ああ、そうだな…!」
干将・莫邪を構え、剣状のシュトルヒリッターを展開しキャリコを構えるイリヤと共に並び立つ。アーチャーは重傷で喋る事もままならず、現在宝具を最小限の魔力で展開し回復していた。背後の屍兵はセイバーが奮闘しているから安心できる。今は、この切嗣の姿をした屍兵とアサシンを…あれ?
「アサシンの奴、何処に行ったんだ…?」
「はあっ!」
ガンドで次々と撃ち抜き、八極拳も織り交ぜ、屍兵を無力化して行く。しかし頭部を吹き飛ばさないとすぐさま回復して来るので限が無い。ただでさえ衛宮君と共有しているから魔力が枯渇しているのに、これではどうしようもない。私の背後でM16とか言う銃を乱射している桜もほとんど余裕が無かった。すると視界の端で私の放ったガンドを受けながらも接近する、耐久力のある大型の屍兵がこちらに拳を振り被っていた。
「ウゥウウウッ!」
「しまっt」
「正義の少女がピンチの時!」
瞬間、細切れにされる屍兵。視界を覆うは白いマント。サモエド仮面だった。しかしすぐさま敵陣のど真ん中に突っ込み、電柱を斬り倒して押し潰す問題児。…強いのに協調性が無いってのは本当にもう…!
「正義の騎士が舞い降りる!」
「その口上、何度目なんでしょうかね…!」
「知らないわよ!」
桜のぼやきに応えながら思考する。衛宮君とイリヤをちらっと見てみたが、黒装束の屍兵を相手に手間取っていた。傍で倒れているアーチャーは胸を撃ち抜かれていて重傷で、二人の背後でセイバーが守る様に剣を振るっていた。…ランサーがいればこんなピンチ乗り切れたのに…
「居ない物を嘆いてもしょうがないか。桜、ライダーは後どれくらいで来れるって?」
「あと数分もかからないそうです!」
「じゃあそれまで、耐えるわよ!」
取り敢えず今はこちらに向かっていると言うライダー頼みだ。彼女の制圧力ならこの数程度、何とかなる筈だ。問題はそれまで耐え切れるかって事だけど…え?
「どうしましたか、姉さん…って、嘘っ…」
私が視界にその姿を捉えると共に、桜も何かを見たのか動きが止まった。しかし何故か屍兵は襲って来ない。ただ、目の前に佇む、大粒のルビーを先端にはめ込んだ杖を持ってこちらを冷めた目で見つめている深紅のスーツを身に纏った屍兵は、間違いなく。
「お父様…!?」
第四次聖杯戦争で戦死した魔術の師にして実の父、遠坂時臣だった。
「雁夜、おじさん…!?」
その声に振り向くと、10年前に姿を消したフードの男が変わり果てた姿で歪な蟲を操っていて。詠唱が聞こえて目の前を見ると、ルビーを媒介にしたと思われるゴーレムが複数出現していた。…まさか、教会近くの霊園に埋葬されたお父様の亡骸と、雁夜おじさんの亡骸を使って屍兵を…!?アサシンの奴、許せない…!
「ぐはあ!?二人がかりとは卑怯なり!」
突如、吹き飛んでくる白マント。見れば、サモエド仮面が何者かに殴り飛ばされていた。見れば、そこには二人の人物。一人は、どこか見覚えのあるオレンジ髪の優男。もう一人は、見覚えのあり過ぎる、と言うよりこの前の学校でも挨拶を交わした人物。…柳洞寺に居候していると聞いて嫌な予感がしたけど…
「…まさか、既に殺されていたなんて思わなかったわ。葛木先生」
常に付けていた眼鏡を外し、180㎝はある高身長に緑のスーツを身に纏った黒髪の男性…私のクラスの担任、葛木宗一郎が拳を振り抜いた姿で立っていた。…あの二人、サモエド仮面を殴り飛ばせるって事は少なくともバゼットと同等クラスの身体能力…?一体どうなってるのよ、本当に。
「久し振りだね、桜ちゃん」
「何で、そんな、あえりない…」
目の前で微笑んでくる、屍兵を背後に待機させ蟲を傍に舞わせている白髪と半分が壊死した顔をフードで隠した男を見て、私はありえないと首を振る。
だって、この、私を間桐から救い出すために無理をして第四次聖杯戦争に参加し儚い希望を見せてくれた優しいおじさんは。
私の目の前で、蟲に貪り喰われて肉片も残らずにその生涯を終え、私を決定的に絶望に落した人物にしか見えない。ありえない。ありえない。さっきのアサシンの言葉なら、屍兵を作るには「死体が残っている」事が最低条件。おじさんの亡骸は、残っていない。だから、此処にいる事はありえない。
「…貴方、誰ですか?」
「…ちっ。勘づいたか、さすがは桜ちゃんだ。頭がいいね」
そう嗤い、掌で隠してもう一度見せたそのフードの中身のその顔は。
「儂じゃったかの?」
「おじいさま…」
身体は雁夜おじさん、顔は間桐臓硯と言う吐き気を催す様な姿になったかと思えば顔を俯き、今度は鶴野おじさん…兄さんの父親に当たる飲んだくれで隻腕の男に姿を変え、今度は顔を隠し高笑いするワカメ髪の兄さんに。
「アハハハハハハハッ!桜!お前は本当にめんどくさい奴だよ!何せトラウマ多すぎてどれを選んでも反応が悪い!せっかく調べたのに骨折り損のくたびれもうけだ!でも、」
そう顔をつるんと取るかのように手を下げ、姿を変えたのは制服姿の、すぐそこにも居る赤銅色の髪の少年。大好きな先輩。
「桜には明確な弱点がある。そうだよな?」
「…アサシン、卑怯な…!」
「桜の大好きなこの姿で、殺してやるよ!」
両手に干将・莫邪を投影し、斬りかかってくる先輩に私は銃口を向ける事も出来ない。駄目だ、この手で、先輩だけは危害を加える事が、できない…!
「エルメスアターック!」
『またーっ!?』
「なにっ、ぐはあっ!?」
しかしその瞬間、私の真横からバイクが吹っ飛んで来て先輩に真横から炸裂、大きく吹き飛ばすとそこに走って来たのは、誰よりも頼れる私のサーヴァント。
「桜!無事!?」
「え、ええ。ありがとうライダー。間一髪だった」
『今夜だけで投げ飛ばされたの三回目なんですけど!いくら何でも酷くないライダー!』
「桜がピンチだったからしょうがないでしょ!操られている士郎だったら撃つ訳にもいかないし。アーチャーとクロナが怖い」
『それは分かるけど…どう見ても、士郎じゃないよ』
「ん、だよねえ」
見てみると、先輩の姿は崩れてフード姿のアサシンに戻っていた。…雁夜おじさんの亡骸だけ用意できず私に対して有効な屍兵が居なかったから、自分で化けて私を精神的に追い詰めようとしていたのかな。…正直、今も膝がガクガクと震えている。どうやら未だに、私は間桐に囚われているらしい。
「ちっ…ライダーまで来て、せっかくバゼットを回収できたのにめんどくさい。雨生龍之介!お前はこっちの相手しなさい!剣士相手だったら先生で十分よ!」
そう言って私の傍に倒れていたバゼットさんを担ぎ、呼び寄せたのはオレンジ髪の優男。…その名前には、聞き覚えがある。10年前、冬木市を騒がせていた連続殺人鬼だ。
「特別に教えてあげるわ。この屍兵も特別でね。警察の死体安置所からわざわざうちのマスターが魔術使ってかっぱらってきた死体を、魔術回路があったからそれを媒体にここまで再生させたのよ。魔術師としてはからっきしだけど、肉体ならバゼットには及ばないだろうけど強い。じゃあ私はおさらばさせてもらうわ」
そう言ってバゼットさんを担ぎ、跳躍するアサシン。私はそれを狙ってM16を構えるが駄目だ、バゼットさんに当たってしまう。しかも、追わせないと言わんばかりに他の屍兵も寄ってきている。…悔しい。私には、何もできなかった。
「セイバー!そっちは任せたわ!」
「了解した、マスター!」
その声が響くと共に、アサシンは狙撃を受けて撃墜される。その視線の先に居るのは、弓矢を構えたセイバー。
「…貴方のマスターには相応の数の屍兵を向かわせてるんだけどいいの?」
「その前にアンタを倒せば、問題無しだ。そうだろう?」
不敵に笑う緑衣の勇者に、アサシンは観念したように己が宝具であるワイングラスを構えた。
「貴方は今の所、私でも情報無しよ。知名度なら抜群なのにね」
「それは俺も助かっている。弱点がばれずに済んでいるからな」
「こちらとしては早く準備を進めてキャスターを倒したいんですよ。だから…推し通る」
バゼットを地面に下ろし、その姿を紫髪の傭兵に変えて刀を構えるアサシン。瞬間、月下で剣がぶつかり火花が散った。
この小説だと珍しい幕引きの仕方ですが、正直どう幕を下ろそうか迷っただけですすみません。
さてさて、イリヤの事情が士郎にばれた現在の状況はと言うと。
士郎&イリヤ(+回復中のアーチャー)VS骨がほとんど削られた衛宮切嗣+屍兵軍団
凛VS何か首に切れた跡がある遠坂時臣+ルビーゴーレム軍団(FGO/AZOの奴)
桜&ライダーVS歓喜の笑みを浮かべたまま硬直している雨柳龍之介+屍兵軍団
サモエド仮面VS実は既に殺されていた葛木宗一郎先生
セイバーVSバゼットを早く持って行きたいアサシン
となっています。ちなみに服とか銃とかルビーとかはイフが調達したものです。
桜のトラウマはそう簡単には無くならない様で…雁夜おじさんを出そうとして、死体が無いって思い出した時は焦りました。アサシンが居たのですぐ解決しましたが。ちなみに、凛が会っていた葛木先生はアサシンが化けていた偽物です。これがキャスター騒動の際にいきなりアサシンがいた理由になります。ランサーでさえ騙せてたのにアーチャーには感づかれてました。
次回、VSアサシン&屍兵軍団に一応の決着が。そしてクロナのターン。感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。