Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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今回はエミヤVSクロナ、決着戦…!割と自分でも納得の行く出来に仕上がった、まるで二人の親を思い浮かべる全力の死闘。楽しんでいただけると幸いです。


♯23:約束した突き穿つ勝利の剣

「『JACKPOT(大当たり!)』」

 

 

“合言葉”と共に引き金が引かれ、目の前の少女が掲げたマグナムから放たれる弾丸と遥か下、自分が守るべき少女の構えた対戦車ライフルから放たれた弾丸。まずは近距離である目の前の脅威から捌かなければならない。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

「っ!?」

 

 

ライダーの頭上に剣を数本展開し、それを落下させて飛び退かせ壁を形成する事で足止め。すぐさま手に取った干将を振り返って投擲し、飛んで来た砲弾に炸裂させて相殺する。そしてクロ姉と向き合えば、そこには既に二撃目、三撃目を撃ち放ち反動でふら付いている彼女の姿が。

 

 

「連射はできない銃の筈だがな!」

 

 

干将・莫邪を投影し投擲して再び相殺。すると頭上に影が差す。見れば、私が砲弾を相殺している間に背後で剣身を蹴破り、ウージー二丁を手に舞い上がってこちらに降りてくるライダーの姿が。…その程度では動きを封じる事もできないか。ならば!

 

 

「ロックンロール!」

 

「無駄だ!」

 

 

降り注ぐ弾丸の嵐を、私は柵の外に翻り落下する事で回避、新たに投影した日本刀をビルの壁に突き刺す事で止まり、ライダーが屋上に着地しこちらを見下ろしてきたのを確認すると起爆した。

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

「なっ…!?」

 

 

瞬間、突き刺して壁にしていた剣が全て爆発。内包した神秘が暴力となってライダーを屋上から吹き飛ばし、ライダーは何かを大事そうに抱えてそのまま落ちて行った。

 

 

『ちょっとライダー!爆発の直前で僕を回収しに来てくれた時は嬉しかったけどさ!今の僕、壊れてたよね!?』

 

「あーもう、助かったからいいでしょエルメス!こっちはアンタと違って爆発諸に受けたんだからね!」

 

 

…着地の寸前でバイクを召喚して衝撃を殺したか。やはりあの程度では駄目らしい。が、アーチャーと同じくライダーも戦闘不能に追いこめた。後は…

 

カキン!

 

肩目掛けて放たれてきた弾丸を投影した剣で斬り弾く。…未だにこちらを狙ってくるクロ姉を再起不能にしなくては、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

クロナside

ビルの壁に剣を突き刺してそれに乗っている赤いアーチャー…英霊エミヤに向けて放った連射は全て斬り弾かれ、追撃で放った黒鍵矢を避ける様にして飛び降り、爆破と共に巨大な剣を投影して落下させ、その柄に乗る事で無事着地するエミヤ。そして間髪入れず走り出した先にあるのは、私のいる建物だ。

 

作戦は完璧だった。アーチャーの過剰すぎる火力で搖動、ライダーが急襲してこちらの勢いに乗せて逃げ場のない場所に追い込み、近距離からのマグナムと私の対戦車ライフルで挟み撃ちにして仕留める。

ライダーの宝具を使わなかったのは、使用すれば変身が解け著しく弱体化すると言うデメリットが大きすぎたためだ。だから念に入れて連射できるように改造したのだが、あちらの投影魔術を甘く見ていた。

 

まさかあの近距離からライダーを妨害しこちらの弾丸を迎撃、さらには逃げ場のない屋上から自ら飛び降りて剣を足場にして逃れるなんて誰が想像できるか。…さて、ここからが問題だ。

 

もしもの場合に備えて士郎に投影してもらったあれらをゴルフバッグに入れて来たが、私は正直言って雑魚い。接近戦だと士郎にだって負けるぐらいに雑魚い。父さんから学んだ八極拳も付け焼刃もいいところだ。

懐に入られたら、避け続けるか咄嗟に受けるぐらいしかできない。イフ戦の時に調子に乗って接近戦に挑んだが終始負けていたから私は本当に接近戦の才能は無いのだろう。

 

 

あの、元が士郎だと言う事から見ても遠距離戦より接近戦の方が強いと思われる英霊エミヤに対して何かできるとは思えない。だから…ちゃんと作戦は考えている。プランDだ。

 

失敗したのは第一案のプランABCだ。アーチャーとライダーはもう使えない。それは私からバーサーカーを奪った事から見て数多の宝具を有していると言う結論から想定されていた事だ。王様から得ていた宝具知識が役に立った。アーチャーの防御を貫通する魔槍と再生能力を封じる魔槍。さらに使い捨ての贋作だからこそ使える壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。それらを使えば二人を完封するなんて簡単だろうとは予測していた。

 

だからこそ、私一人で英霊エミヤを足止めする方法も考えているのは必然だ。彼の目的はどういう訳か私に何もできなくさせた上でバーサーカーに街を破壊させること…まあ大体は『M』の話から、私を衛宮黒名の様に【この世全ての悪(アンリマユ)】にさせないように代わりにバーサーカーにその役目を負ってもらうことだと察しが付く。なら、未だに諦めず邪魔しようとする私を無力化、もしくは何もできない様に痛めつけるぐらいはしてくるだろう。つまり、アーチャーとライダーを撃破したところで私を狙って来るのは分かり切っているのだ。

 

 

「入ったな」

 

 

四階建ての、いくつかの事務所と書物店を兼ねているこの建物に赤い外套が入ったのを確認し、私はあらかじめ手摺に巻き付けて置いて見えない様に隠して置いたロープを降し、まず無駄に重いデグチャレフPTRD1941を落としてからロープを握って一気に飛び降りた。

 

中身が中身であるゴルフバッグの重量も手伝ってスムーズに降り立った私は停めて置いたバイクに飛び乗りすぐさま全速力でその場から離脱。ある程度離れた所で、にやりと笑って右手を建物に向け、指を鳴らした。

 

カッ!

 

瞬間、閃光が窓ガラスを照らし、仕掛けて置いた無数の空き缶が爆発して大爆発を引き起こし、夜空を明るく照らすと続ける様に凄い音を立てて倒壊して行く建物。瓦礫の山となったそこで、動く影は無い。…倒した、もしくは生き埋めに出来たらしい。

 

空き缶は合図と共に爆発を起こす様に改造して置いた物だ。ちなみにこれは以前、聖杯戦争が始まる前に用意した物であり、材料はゴミ捨て場から拝借して来た。父さんから切嗣さんがランサーのマスターの拠点である冬木ハイアットホテルに爆弾を仕掛け倒壊させたと言う話を聞いて思い付いた物だ。

本当はアサシンを召喚した際の手段で、魔術師の拠点に侵入させて設置し爆殺するために用意した物だったがバーサーカーの召喚でお蔵入りし、念のために袋に入れて王様の王の財宝に入れさせてもらった物なのだが役に立った。

 

 

「作戦、大成功かな?」

 

 

私を追い詰めようとわざわざ下から突入した事が仇になったね、エミヤシロウ。でも私のバーサーカーを返してもらうためだ、いくら平行世界の士郎と言えど容赦はしない。

…しかし、プランDで済んでよかった。直接対決するプランE…サーヴァントで言う五段階表記における最低のランクであるその作戦は、正直言って私も無事で済むか分からない。

 

 

「とりあえず、まだ消滅はしてないみたいだし意識があるかを確認しないと…」

 

 

少々不気味だった蜘蛛の様な令呪が戻ってない右手を見ながらも心底安心し、瓦礫の山に歩み寄ろうとする。その瞬間、赤い外套が夜空に舞い上がった。…その手に、鳥の羽の様な白と黒の巨大な剣を構えて何かかっこいいポーズを決めていた。

 

 

「干将・莫邪、オーバーエッジ…!」

 

「そんな…!」

 

 

干将・莫邪らしい大剣を構えて急降下してくるエミヤに、私は慌ててゴルフバッグのチャックを開けて手を突っ込み、中からそれを引っ張り出す。

 

 

「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎむけつにしてばんじゃく)

 

―――心技、泰山ニ至リ(ちからやまをぬき)

 

―――心技黄河ヲ渡ル(つるぎみずをわかつ)

 

―――唯名別天ニ納メ(せいめいりきゅうにとどき)

 

―――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われらともにてんをいだかず)……!」

 

 

何時の間に放ったのか飛んでくる二対の干将・莫邪を手に取ったそれで斬り飛ばしていく。あの詠唱は不味い。よく分からないけど不味い。確実に、防がなければ行けない。

 

 

「鶴翼三連、叩き込む…!」

 

偽・約束された勝利の剣(エクスカリバーⅡ)!」

 

 

振り上げるは、士郎が投影し私が改造を施した星の聖剣。大剣と聖剣がぶつかり、せめぎ合う。…私の筋力では勝てない。だから風王結界(インビジブル・エア)の解放と魔力放出で一気に押し上げる。魔力放出だって私は出来ない。だからエクスカリバーを介して、私の膨大な魔術回路から魔力を絞り出す…!光線ぶっぱはできないが、それでも纏うぐらいなら…!

 

 

「ァアアアアアアッ!」

 

「くっ…!?」

 

 

力の限り、振り上げる。すると解放された風王結界が暴風となって吹き荒れ、竜巻となって大剣ごとエミヤを打ち上げる。この隙、逃す訳にはいかない。

私はゴルフバッグを背中から下ろすと左手を真下のアスファルトに触れ、右手にエクスカリバーを握って両足に強化の魔術をかける。

 

 

Put hit the asphalt.(アスファルトよ、跳ね上げろ)!」

 

 

そして大跳躍。打ち上げられたエミヤを追い、夜空に舞い上がった私は魔力放出(偽)で加速し両手で握った聖剣をエミヤの頭上から振り下ろした。

 

 

「ハアァアアッ!」

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

しかしエミヤはその手に投影した通常サイズの干将・莫邪を交差させてエクスカリバーを受け止め、そのまま着地。私を押し上げてゴルフバッグの元まで吹き飛ばし、その拍子にエクスカリバーは私の手から離れて近くの建物の外壁に突き刺さった。…回収は、させてはくれないか。

 

 

「…衛宮士郎の投影品か。俺でも達しきれない凄まじい完成度だ、どういうカラクリだ?」

 

「…さあね。本人と話す機会があって見続けていたらできる様になったってさ」

 

 

今私が所持している得物はマフラーと黒鍵数本のみ。後は全部ゴルフバッグの中だ。どうにか隙を見て次のを取り出さないと。

 

 

「クロ姉の事だ。あの罠で倒し切れないと踏んで俺と戦う事も想定し、衛宮士郎にあらかじめ投影してもらった物をそう簡単に壊れないように改造したってところか?」

 

「後、魔力を通せるように改造をね。私が使うのは疑似宝具だから。…でもね」

 

「っ!?」

 

 

取り出した黒鍵を投擲する。エミヤはそれを斬り弾こうとするが、その瞬間に爆発させる事で視界を塞ぐ。今のうちに…!

 

 

「士郎が投影したのは、エクスカリバー一本だけじゃない…!」

 

 

そう言って私がゴルフバッグの中から取り出したのは白と黒の夫婦剣。干将・莫邪。…ただし、これも魔改造品だ。正々堂々、不意討たせてもらうぞ!

 

 

「小癪な真似を…!」

 

 

爆発から飛び出し、接近して斬り込んできたエミヤの斬撃を受け流す。魔力放出で無理矢理軌道変更、さらに筋力を補う…!振り回されるな、エミヤの隙を突くぐらいに、私でも想像できない軌道を描け…!

 

 

「ハアアッ!」

 

「くっ!」

 

 

乱舞の様に魔力放出に引っ張られ、宙を舞って16連撃をエミヤに叩き込む。体勢を崩させたところで着地し、力任せに振り上げる事でエミヤの干将・莫邪を破壊。そのままとどめとばかりに振り下ろすも、瞬時に投影された新たな干将・莫邪とかち合い、限界が来たのか私のもろとも双方の干将・莫邪が砕け散る。ならば次だ!

 

 

偽・幻想大剣天魔失墜(バルムンクⅡ)!」

 

 

すぐさま後退して拾い上げたゴルフバッグを思いっきり投げ付けてエミヤを牽制、その瞬間にチャックの中に手を突っ込み引っ張り出したのは黄昏の剣バルムンク。英雄ジークフリートが有した竜殺しの魔剣の贋作を構え、突きの形で攻撃。しかし簡単にゴルフバッグを吹き飛ばしたエミヤの莫邪で太刀筋を逸らされ、魔力放出で無理矢理軌道修正して脇腹のボディアーマーに叩き込む。

これも竜殺しの特性を外し、切れ味も無くして打撃武器として改造しさらに魔力放出も付け加えてある。これで鎧や鎖帷子を着込んだ相手でもダメージを与えられる。問題は真名解放による半円状に拡散する黄昏の波を放つことができない点と、切れ味を失くしたため剣としては扱えない点だが切り結ばなければ問題は無い。魔力の無駄遣いな気もするけど、英霊でも無い私がサーヴァントに張り合うにはこの手しかないんだ…!

 

 

「次から次へと…!」

 

「それはお互い様だ!」

 

 

振り回し、アスファルトの破片も利用して攻撃。エミヤは飛び退いて弓を構え、フルンディングを投影するがそう簡単にはさせるか!

 

 

「こっちの方が速い!」

 

「むっ…!」

 

 

バルムンクをアスファルトに突き刺し、黒鍵を投擲。当たる瞬間に爆発させ妨害する。その間に転がっているゴルフバッグに近寄り、中から赤い大剣の様な何かを取り出す。剣verの、竜殺しの英雄ベオウルフが有したと言われるフルンディングの贋作だ。

士郎には、昨晩見た剣を全部投影してもらってゴルフバッグに入れて来た。凛の魔力が枯渇しかかっていたけど気にしない。あっちは宝石に魔力を溜めこんで使用できるんだから問題ないはずだ。

 

 

「――――I am the bone of my sword.

赤原猟犬(フルンディング)!」

 

偽・赤原猟犬(フルンディングⅡ)!」

 

 

爆発から逃れ、放たれた赤い流星。それに向けて、必中と名高い上に改造して硬度も高めて魔力放出でミサイルの様に飛ぶ魔改造フルンディングを渾身の力で投擲。エミヤの放った矢のフルンディングと真正面からぶつかって破壊し、さらに加速。

 

 

「なんだと…!?」

 

「改造魔術を侮ったな!」

 

「ッ、【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】!」

 

 

今度こそ勝利を確信した瞬間、投擲物に対して無敵な七弁の盾が展開して防御。フルンディングⅡは粉々に砕け散った。…王様も使うけど、あの盾が厄介すぎる。やっぱり接近戦で勝つしかないか。貫通とかできればいいんだけどな。

 

 

「小細工を労しても、本物を凌駕せしめた贋作には勝てん!」

 

「それはどうかな?王様も認めていたけど、この世全ての物はオリジナルを改造してできている。なら、改造でその上を行けば勝てる。一点特化させれば同じものでもこちらが凌駕するんだ」

 

「馬鹿な、一点に特化させたと言ってもその犠牲にした要素が弱点となる。それすら分からんのか?」

 

 

その物言いにカチンときた私はバルムンクを引き抜き、構える。それぐらい分かっているわ。コイツ、私が衛宮黒名より劣っているとでも思っているのか?…ああ、頭に来た。王様に鍛えられてるんだ、その程度な訳があるかっての。

 

 

「もちろん理解している、そこを突かれれば負けるってね。だから、私が使いこなす!どんな物だって悪い物だって使うのは人間だ。そして、作り手こそがその物を一番理解している!」

 

「ならば見せろ!英霊でも無い貴様が、私に勝てる物か!」

 

 

頭に血が上ったのか、攻撃的な口調になったエミヤがその手に両刃剣を二本投影して跳躍、私の頭上から同時に振り下ろしてくる。ヤバい、この魔改造バルムンクじゃ受け止められない事が既にばれている!?…そりゃそうか、直接受けてるものね。でも、こっちだって何も考えてないわけじゃない。

 

 

「そこ、よく跳ねるよ」

 

「なに!?」

 

 

跳躍でその場から逃れ、追ってきたエミヤは私が先程改造したままのアスファルトに踏み込んでバランスを崩して倒れ込み、そこに顔面目掛けてバルムンクⅡを叩き込んだ。ドゴンッ!と人を殴った音じゃない轟音を鳴らしてエミヤは頭から吹っ飛び、限界を迎えたバルムンクⅡが砕け散るのと同時に血が私の服に飛び散る。鼻血らしい。…何はともあれ、傷を与えた訳だ。どやっ。

 

 

「…私としたことが、クロ姉の得意とするちまちました小細工に気付かないとは…」

 

「さっきからなに?私が無能だと言いたいのか生意気な。こんな馬鹿な真似しているシロウよりは利口よ」

 

「…いや、アンタは狂っている。それに気付いているのに自ら止まろうとしないぐらいには、な。俺が止めねばならない。絶対にだ…!」

 

「だから、そんなの私の勝手だっての!」

 

「もはや手段は選ばん、手加減しては勝てぬからな。出し惜しみはせん、俺の全力で挑ませてもらおう。

―――――ここに我が生涯を語ろう(Ruins trace on.)

 

 

剣を杖代わりに立ち上がり、破棄するエミヤ。そして真っ直ぐその場に立ち目を瞑って詠唱を始める光景に既視感を感じ、私はそれを発動させないように思考する。

 

今ゴルフバッグの中に残ってるのはかつてローマの暴君と呼ばれたネロ皇帝の愛用した、特徴的な形状をしていて扱いにくい原初の火(アエストゥス・エストゥス)のみ。そんなもの使えば勝ち目は無い。ならばと、ビルの壁に突き刺さったままのエクスカリバーに向けて走り、手を伸ばした、

 

 

「―――この体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

我が血潮は鉄で心は硝子(Steel is my body,and fire is my blood.)

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 

ただ一度の敗走もなく、(Unaware of loss.)

 

ただ一度の勝利もなし(Nor aware of gain.)

 

その担い手はここに独り(Withstood pain to create weapons,)

 

あの剣の丘で鉄を鍛つ(waiting for one's arrival.)

 

ならば我が生涯に意味は不要ず(I have no regrets.This is the only path.)

 

この体はそう、(My whole life was.)

 

―――――――無限の剣で出来ていた("unlimited blade works" )

 

 

 

星の聖剣を手にし、構えたその瞬間。世界が塗り替えられた。夢の中で…いや、おぼろげだった現実でバーサーカーが私を守るために一方的に圧倒された、あの剣の丘。

世界の終末の様な黄昏の空。錆びた歯車がいくつも浮かぶ暗雲立ち込める空には、うっすらと巨大な影が動いて見えた。そして墓標の様な無数の剣。

 

 

「俺が作るのは、無限に剣を内包した世界。その名は―――【無限の剣製(UNLIMITED BRADE WORKS)】」

 

 

その丘の頂上に、エミヤは佇んでこちらを見下ろしていた。その後悔と絶望が浮かぶ目を見て理解する、これは彼が最期に見て焼き付けた光景だ。キャスターがあの夜見せた、心象世界で現実を侵食する大魔術…固有結界。なるほど、確かに本気だ。これなら王様にだって対抗できるかもしれない。

 

 

「ご覧の通り、クロ姉が挑むのはいくら奪われようと尽きる事のない無限の剣。剣戟の極地!俺を止めるつもりならば、恐れずしてかかってこい!!」

 

「いいよ、私だって本気だ。シロウを倒してバーサーカーを取り戻す、そして今度こそ聖杯を得てやる。衛宮黒名と同じ道だけは、辿らない!」

 

 

周りに武器はいくらでもある。しかし、私は私の知るただ一人の衛宮士郎が作ってくれた、この聖剣を信じて使う。魔力はまだ問題ない、枯渇するぐらいの勢いで突き進む!

 

 

「行くよ錬鉄の英雄、私の進む道を邪魔するなら叩っ斬る!」

 

「ならば私はこう答えよう…行くぞ言峰黒名、魔力の貯蔵は十分か!」

 

 

無限に飛んでくる剣の雨を魔力放出を利用し高速で斬り弾いて行く。強度を高めろ、出力を上げろ、まだ足りない。絞り出せ、いや吸い尽くせ、魔改造エクスカリバー。

 

 

Awaken Ready.(魔術回路・起動)!…改造、装填(カスタム・オフ)

 

 

魔力をありったけ回し、黄金の聖剣を黒く染め上げ、赤いラインを走らせる。もはや邪剣だが、この一瞬だけだ。耐えて…!そして、敗北の闇を照らし勝利の夜明けへ導け!

 

 

暁に約束された勝利の剣(ドーン・エクスカリバー)!」

 

「むっ…!?」

 

 

銀の星光を刀身に溜め大きく魔改造エクスカリバー(黒)を振り上げる。瞬間、扇状に光線が放たれ飛んで来た剣類を全て迎撃。間髪入れず元の色に戻ったエクスカリバーの魔力放出で加速し、エミヤに向かって宙を駆ける。しかし、そうは問屋が卸さないらしい。

 

 

「くっ…この!」

 

「宙に浮くとは、格好の獲物だ!」

 

「なめん、なーっ!」

 

 

尽きる事無く私に向かって放たれ続ける剣群を空中で斬り弾きながら突き進む。しかし続けて飛んで来た巨大な剣によって大きく吹き飛ばされてしまい、エクスカリバーは私の手から離れ、私が叩き付けられた地べたのすぐ傍に突き刺さった。…クソがっ。もう何でもありか。この空間全てがエミヤの支配下だから可笑しくは無いんだけど。剣は射出する物とは誰が決めたのか。…王様かな。

 

 

「何か、手は…!」

 

 

辺りを見渡す。突き刺さっているのはゲイ・ボルク、ゲイ・ジャルグ、カラド・ボルグ、ゲイ・ボウ、マク・ア・ルインと言ったケルト神話の宝具達だ。…他の聖杯戦争で戦ったのか?いや、それよりも…私の魔改造エクスカリバーじゃ弾幕を突破できない。ならば、届く術を探さなくては……

 

 

「ハァアアア…ッ!」

 

 

飛んでくる剣の雨を近くに突き刺さっていたフィン・マックールの有した槍であるマク・ア・ルインを咄嗟に掴んで改造して主導権を私に移行させて振るい、弾き飛ばしながら考える。

 

弓を使うか?…いや、エクスカリバーを矢にしたところでそんなに効果は薄いだろう。もし使えたとしてもあちらの超絶技能で撃ち落とされるのがオチだ。

ならば近くにある槍をひたすら投擲?…論外だ。私自身、強化した程度の筋力じゃ届く前に撃墜される。

だったら再び突貫?…また同じ様に迎撃されて今度こそ四肢を撃ち抜かれて動けなくなるだろう。

ひたすらこの剣類を改造するってのはどうだ?…いや、駄目だ。魔力が足りなさすぎる。それにあっちはいくらでも投影できるのだ。イタチゴッコの後にこちらが負けるのは目に見えてる。

ならば…ふと、私に凛と同盟を組む理由ともなった今亡きランサー、クーフーリンの有したゲイボルクに視線が行く。…心臓にホーミングするアレを投擲したところで防がれるのがオチ何だろうな…いや、待てよ?

 

 

 

 

 

…よし。弾き飛ばしながらだから雑だけど思いついた、起死回生の一手。これならば…行ける!

 

 

「…このままじゃ私が力尽きて終わるね」

 

「そうだな。私にとっては願ったり叶ったりだ」

 

 

だろうな。私が完全に動けなくなればあっちはそれでいいだろう。だからこそ…その勝利を確信している慢心を利用させてもらおう。

 

 

「だったら提案だ。次の一撃で決着を付けようよ」

 

「ほう…?」

 

 

私の言葉で剣の雨が止まったところに、エクスカリバーを引き抜いてそのまま歩き、ゲイボルクも瞬時に改造して主導権を私に移行し引き抜く。それを勝利を確信した笑みを浮かべて見つめるエミヤ。

 

 

「これから私は全力全壊の一撃を叩き込む。シロウはそれを防ぎ切れば勝利。私の負けを認めるよ」

 

「…いいだろう。何を考えているかは知らんが俺の剣製とクロ姉の改造、どちらが上かを見せてやる」

 

「…ふん、後悔しないでよ?」

 

 

…エミヤはこれが本気だと言った。でも衛宮黒名に挑み、恐らく負けたんだろう。…あっちは魔術師絶対殺すウーマンだったらしいからしょうがないとは思うけど。だからこそ、自分の剣製で私に勝つことにこだわっているんだと思う。…まだ、子供なんだ。今の俺なら、貴方を止めることができる…そう示すための、ちょうどいい機会。それを活かさない訳がない。

 

 

「―――改造、開始(カスタム・オン)

 

 

エクスカリバーとゲイボルク…イギリスとアイルランドが誇る二大英雄の宝具を、重ね合わせる。エクスカリバーをゲイボルクの穂先に、ゲイボルクをエクスカリバーの柄に。重ね合わせ、改造。一体化と同時に効果の相乗を試みる。

―――成功。出来上がったのは、英雄ヘクトールの有したドゥリンダナによく似た聖槍。ロンゴミニアドには及ばないが、これで十分だ。赤い柄と黄金の刃にミスマッチを感じる。

 

 

「約束する、我が槍は貴方を守りもろとも穿ち勝利に導くと」

 

「いくら聖剣と魔槍と言えど所詮は贋作、我が【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】を貫く事は敵わん…!」

 

 

だろうね、例え本人のクーフーリンが放ったゲイボルクでもアレをやっと貫く事が出来ていい方だろう。贋作でそれができるとは思えない。…だけどね、私の改造は贋作でも本物以上にする…それだけは、王様にも保障されているんだ。

 

 

「――――約束した(ゲイ・)

 

「――――熾天覆う(ロー・)

 

 

槍を投擲の構えを取り、柄の先端から魔力放出しブーストをかける。同時に展開される、七弁の盾。さあ勝負だ。魔力をありったけ、この宝具に打ち込め…放つ!

 

 

突き穿つ(ボルク)…!」

 

七つの円環(アイアス)…!」

 

 

投げた瞬間音速に到達し、一瞬で突き進み激突する聖槍と最強の光の盾。魔力放出で聖槍は突き進むが、それ以上は進まない。それを見てエミヤは勝利を確信したかの様に不敵な笑みを浮かべた。…だけどね、私が聖剣を合体させたのは…魔力放出と切れ味を上げる為だけじゃない…!

 

 

勝利の剣(ァリバー)ァアアアアアアッ!」

 

「なに…ッ!?」

 

 

瞬間、黄金の星光が剣身から零距離で放たれ、七弁の盾を一瞬にして飲み込む光の断層による“究極の斬撃”。心臓を穿つ、そこまではゲイボルク。そしてその直後、零距離で星光をぶっ放す、絶対逃がさない一撃必殺宝具。

さらに言えばあの放たれた星光はロー・アイアスが無敵と称される投擲による攻撃ではない。つまり、防ごうが大ダメージ必至。しかも内包された膨大な魔力は魔力放出のためだと思わせた上での不意打ちだ。間違いない、勝利を確信する。

 

 

 

そして、聖槍とは名ばかりの魔改造贋作は形状を保てずエーテルへと還り、そして舞台は深夜の新都の道路に戻る。その場には、消し飛んではいない物の左半身を吹き飛ばされ、満身創痍の身となった英霊エミヤが、立っていた。

 

 

「…私の勝ちだ、エミヤシロウ」

 

「ああ、そして俺の敗北だ…」

 




衛宮切嗣っぽいゲリラ戦方→言峰黒名。言峰綺礼っぽいスペックで押し込む力押し戦法→エミヤと見事にそれぞれの親と正反対になった二人。相容れない二人だからこその死闘でした。

建物ごと爆発、地形改造、士郎に投影してもらった魔改造剣類をゴルフバッグに入れ次から次へと出して応戦と正々堂々なぞ糞喰らえとも言うべきクロナの対サーヴァント用戦法。どうだったでしょうか。真正面で戦ったら負けるなら仕込めばいいじゃないと。英霊クロナの持つスキル破壊工作Bの片鱗です。勝つためなら手段は選ばん。やっぱりどこか切嗣に似ている。

対して鶴翼三連、無限の剣製と手札を出し切り、油断した事で敗北を得たエミヤ。…セイバールートの綺礼を思わせる油断からの一撃でした。慢心持ったら駄目、絶対。

最後に登場し決着をつけた魔改造宝具【約束した突き穿つ勝利の剣(ゲイ・ボルクァリバー)】簡単に説明すればドゥリンダナ+デッドエンド・アガートラムみたいな宝具です。絶対殺す、一撃必殺の聖槍。一点特化って最強だと思う。ただしこれも壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)です。シロウが作った完璧贋作エクスカリバーの自壊を持って成立する現時点でのクロナの切札。今後も使うかどうかは不明。士郎がゲイボルクを投影しない限り不可能ですし。

次回はエミヤを令呪で呼びだしたバゼットさんに場面は移り、VS否天にもついに終着が…!感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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