Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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前回と並行して進行する、いつもよりちょっと長い今回。珍しく士郎主役回となります。アルトリア出番なしとタグで言ったな?アレは嘘だ(でも現実には出ない)。

やっと主人公起きたり、士郎と桜が何時の間にか強くなってたり、エミヤのマスターが分かったりする回です。楽しんでいただけると幸いです。


♯19:お前にだけは、負けられない

 

 

「…士郎。起きてください、士郎」

 

 

俺に呼びかける声が聞こえる。聞いた事もないのに、何故か知っている声が聞こえる。

 

 

「…ここは…?アンタ、誰だ…?」

 

 

目を覚ますと、広がるのはこの世の物とは思えない幻想的な花畑の光景。その中心に立っていたのは、青いドレスと鎧を身に着けた金髪の少女。

 

 

「初めまして、と言って置きましょう。私の名はアルトリア・ペンドラゴン。…貴方の剣となるはずだった英霊です。…アーサー・ペンドラゴンと言った方が貴方には分かるでしょうか?」

 

「アーサー王だって!?」

 

 

その名なら知っている。世界で最も有名な聖剣、エクスカリバーの使い手として知られたブリテンの王、英国史上屈指の大英雄。最期は実の息子、モードレッドの起こした反乱の末、カムランの丘に倒れた。そんな英雄が、目の前の彼女…?

 

 

「元より、私はそんな煌びやかな伝説に謳い上げられる程の人物ではないのですが…私は性別を偽って王位を務めたのです」

 

「…それで、そのアーサー王が俺に何の用だ?ここは…」

 

「ここは士郎の深層心理の世界…に私が介入した物です。私は貴方に召喚された。ですが、現界できずにここに召喚されました。…本来ならば私は、貴方と共に戦地に赴き、剣を教えるはずでした。ですが、貴方が現実世界で召喚したのは空の王、イカロス。…恐らくは、貴方がアサシンから致命傷を受けた際に何かしら呪いか何かを植え付けられたのかもしれません。そのため貴方に埋め込まれている私の鞘が正常に機能しなかった可能性があります」

 

「ちょっと待て。俺に埋め込まれた鞘って何だ?」

 

「…文字通り、私が生前所有していた現存する宝具【全て遠き理想郷(アヴァロン)】。貴方の養父、衛宮切嗣が貴方を救うために埋め込んだ物です」

 

「…切嗣の事を知っているのか?」

 

「私のマスターでしたからね。…あのクロナも、知っていると思いますよ?」

 

「クロ姉も…?」

 

 

そう言えば説明する前から爺さんの名前を知っていたな…それにクロ姉の父親は聖杯戦争の監督役だから…爺さんが以前の聖杯戦争に参加しているなら、知っているのも当然…なのか…?

 

 

「士郎。彼女は貴方のためなら命だって捨てる様な人です。そこだけは信頼できると断言します。…魔術師に関しては本当に容赦ないですけどね。私には、以前の聖杯戦争で貴方を守れず散ってしまい、貴方があそこまで追い込まれてしまった責任がある。なので、ここだけですが助力させてください」

 

「…その俺の事は知らないが、そこまで気に病まなくていいと思うぞ。そんなに追い込まれてしまったなら、それはアンタのせいじゃなくて俺の自業自得のはずだからな」

 

「自己犠牲は犬も食わないんですよ、士郎?」

 

 

そう言いながらも笑うアルトリア。その笑顔は輝いていて…やっぱり、こんな女の子がアーサー王だと言うのは少し、許せない気がした。

 

 

「…私がアーサー王なのが不服の様ですね。いいでしょう、証拠を見せます」

 

 

そう言って何か、透明の物を構えるアルトリア。すると激しい風が弾け、その内部に隠されていた黄金の聖剣…エクスカリバーが姿を現した。…確かに、何よりの証拠だな。

 

 

「…それを見せられなくても、俺はアルトリアの事を信じるよ。俺のために力を貸そうとしている女の子を疑うなんてできない」

 

「それでこそ士郎です。…それでは本題です。貴方には、ここで私と戦ってもらいます。正直に言って、貴方は弱い。私が召喚されれば、無謀にも私を守ろうと鍛錬を望んできたでしょうが、あのアーチャーはそれを許しませんからね。…前のマスターがどうも、本当の意味で強かったようです。よくは知りませんが」

 

 

ビシッと言われて何も言い返せなかった。…ああ、そうだ。俺は誰よりも、弱い。キャスターの固有結界の一件でそれは明確になった。あの時、俺はアーチャーに指示を出す他、何もできていなかった。せいぜい桜を庇うことぐらいだ。使える魔術も強化だけ…今の俺じゃ、正義どころか何も守れない。

 

 

「弓術が貴方よりも優れ、士郎の陣営のマスターで一番強いと思われるクロナ。未熟ながらもライダーの手解きによる銃の扱いは貴方よりも優れているサクラ。魔術的な意味では一番優秀なリン。しかし貴方は、現時点では強化しかできない未熟者。それは貴方も自覚しているでしょう。ですが、貴方には剣の才覚がある」

 

「俺が…剣?」

 

「アサシンに対し、即席とはいえ紙の剣で立ち向かったのが何よりの証拠。生憎と、私の使う剣術は貴方には向いていませんが…戦い方を、教える事は出来ます。そして、貴方は投影を本当の意味で会得する必要がある。時間はいくらでもあります、貴方が満足できる強さになるまで…士郎の剣たるこのアルトリア・ペンドラゴンがお相手しましょう!」

 

 

そう言い、聖剣を構えるアルトリア。それに対し、俺の手には何時の間にか木刀が握られた。…やるしかない。俺は強くなって、クロ姉たちを守れる正義の味方になるんだ。

 

 

「ああ。頼む、アルトリア!」

 

 

そんな夢を見たのは、何時からだったか。少なくとも俺は、強くなれていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否天とサーヴァント達が交戦する一方、教会跡地で赤いアーチャー・・・エミヤと戦う士郎達。士郎がライダーから借りた銃はあっけなく破壊され、持ってきた木刀に持ち替えており、宝石を構えた凛とライフルを構えた桜と共に、ライダーを援護していた。サーヴァントと思われるエミヤに対し、対抗できるのがライダーのみだからである。

 

 

「サモエド仮面ほどめちゃくちゃじゃないけど強いわね、アンタ!」

 

『間違いなくサーヴァントだ、でもセイバーにしては筋力もライダーが張り合えるぐらいだ・・・一体何のクラスだ?・・・右だ、ライダー!』

 

「二人で一人のサーヴァントか、中々に厄介だな・・・だが!」

 

 

本来遠距離型のライダーが、ベレッタM92とM9バヨネットを装備してエミヤの剣戟と張り合えているのは、ひとえに指示してくれるエルメスがいるからだろう。これこそ「謎の美少女ガンファイターライダー・キノ」と言う真名を持つライダーの本領発揮。実質二対一に持ち込める。しかし、エミヤの技量はその上を行っていた。

 

 

投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

ライダーの突き出したベレッタの銃口に掌を押し付け、そう唱えると干将が投影されると同時に銃身を貫き、突如出現した剣の存在と引き金を引いたベレッタが壊された事に気を取られたところに、振り下ろし斬撃を受け吹き飛ばされるライダー。エルメスもその衝撃でライダーから離れてしまい、桜の傍に転がる。

 

 

「貴様自身の経験が足りない。終わりだ」

 

 

倒れ伏したライダーに向け、干将を投げ捨て代わりに投影した赤原猟犬(フルンディング)を逆手持ちで構え、振り下ろすエミヤ。

 

 

「うおおおおっ!ライダーから離れろォ!」

 

「むっ!」

 

 

しかしそれは背後から強化した木刀を構えた士郎の突進によって阻止され、エミヤは振り返り様に木刀を真ん中から斬り飛ばすと、士郎はそれを地面に落ちる前に受け止め、小太刀の二刀流の様にして強化、構えた。それを見て関心を持ったのか赤原猟犬(フルンディング)を投げ捨てて破棄し、干将・莫邪を投影しこちらも二刀流で構えるエミヤ。

 

 

「・・・ほう。まだ出会ったばかりの私からその構えを見出したか。だが、彼女の手解きを受けていない貴様では・・・!」

 

 

ぶつかる。同一人物と言えど、技量も歴史も違い過ぎる二人。特に士郎の方は、騎士王を召喚していないためエミヤからすればあまりにも無謀。しかし、拮抗した。

 

 

「なにっ・・・!?」

 

「俺だって・・・クロ姉に何時も守られてばかりじゃねえ!」

 

 

次々と打ち合い、火花となって剣戟が幾度も交わっている事を意味していた。あり合えないその光景。エミヤからすれば理解できない、目の前の己の強さ。完全に、こちらの動きを見て対応して来ていた。

 

追い付けている理由は簡単である。士郎の、クロナにより培われた思考能力の速さだ。強化した目で見た光景をすぐさま分析、どう来るかを、今までのエミヤの動きから判断しているのだ。しかしそれでも、英霊であるエミヤと互角に張り合えている理由も、何時ここまでの剣術を身に着けたのかも説明できない。

ただ、衛宮士郎はエミヤシロウよりも速く、成長していたのは確かだ。

 

 

「・・・っ!嘗めるな、小僧!」

 

「っ!」

 

 

エミヤの激昂と共に音速で放たれた剣戟によって、木刀が双方共に砕け散る。すかさず後退する士郎。追撃するべく、干将・莫邪を投擲するエミヤ。しかしそれは、

 

 

「先輩!」

 

 

ずっと後ろで見守っていた桜の放った銃弾が、弾き飛ばして士郎から守った。今度はエミヤだけでなく凛も驚愕する。ろくな魔術も使えず、習いたての銃で何とか援護射撃しかできなかった桜が、いきなりプロ顔負けの腕前を見せたのである。投擲物を撃ち落とすその技量は、まるでライダーだった。

 

 

「桜・・・、今のは?」

 

「英雄目線の夢と言うのは、どうやら経験も得られるみたいです。ライダーの生涯は、私に技量を与えてくれました」

 

『撃ち方?って物をライダー目線を得て学べたのかな?これはいい誤算だよ、ライダー』

 

「そうね、エルメス。マスターが頑張った事だし、負けてられないわ・・・!」

 

「なんだと・・・っ」

 

 

予想もしていなかった援護射撃に硬直していたエミヤはその言葉を受け我に返り、背後からAR15カスタム拳銃・・・通称パトリオットを取り出してその重量を利用し殴打して来たライダーの攻撃を辛うじて回避。そのまま干将・莫邪を投影して士郎に斬りかかった。体勢が崩れていたライダーにも、動きに反応できなかった桜と凛、クロナを抱えている綺礼に邪魔立てされない完璧な奇襲だった。

 

 

「ピンチだな!」

 

 

しかしそれを、白刃で受け止める一人の変態がいた。

 

 

「正義の少女がピンチの時…今、一人の騎士が天空の彼方より舞い降りる!」

 

「今度は何だ・・・!?」

 

 

受け止められたばかりか、一太刀で干将・莫邪を破壊されたエミヤはすかさず新たな干将・莫邪を投影。構えるも、次から次へとそれを破壊して行く白き騎士。否、変態。

 

 

「私の名は、純白の正義の騎士・サモエド仮面!いざ、尋常に参る!」

 

 

夜だと言うのに純白のハトがスローで横切り、その真っ白な歯は煌めき、きりりと引き締まった口元は笑みを絶やさない。頭に乗っけた犬耳とリンゴ、怪しいマスクとシルクのマントを身に纏った男など、一人しかいなかった。

 

 

「貴様が正義だと?ふざけるな!」

 

 

しかしそれを全く知らない正義の味方(エミヤ)はふざけまくっている男の言動にキレた。注意がそちらに向き、もう何回その神速の斬撃で破壊されたのか分からない干将・莫邪を破棄し、代わりにかのネロ皇帝の愛用した原初の火(アエストゥス・エストゥス)を投影。炎を纏い、サモエド仮面の剣戟を弾き返していく。

 

 

「貴様が正義だとは、死んでも認めん!」

 

「正義とは複数の形がある物。例えば謎のライダーは自分が美味しくご飯を食べる為に正義を為す!どこかのムッツリスケベの黒装束の場合、何故か私を殺すついでに正義を為す!他人からそれは正義じゃないと否定されるだろう。だがそれは、彼女彼等の持つ確かな正義であり!それは誰にも否定されるべきものではない!」

 

「サモエド仮面が真面な事を言っている・・・!?」

 

「ちなみに私は私こそが正義!と言う正義の下、戦っているがね!」

 

「やっぱりサモエド仮面だった」

 

 

怒りの形相で剣を振るうエミヤにそう笑いながら語るサモエド仮面。ライダーがぼやくがまあ何時もの事なので誰も気にしない。しかし、さすがに普通の日本刀でローマ皇帝の剣に打ち勝てるはずもなく、エミヤの振り上げにより刀身が見事に根元から折れ、それに一瞬気をとられたところに横蹴りを浴び、サモエド仮面はポーンと蹴り飛ばされ顔からべしゃっとライダーの傍に叩き付けられダウン。

 

 

「ごふぅ・・・」

 

「・・・あんな格好いいこと言うならそのまま勝って欲しかったわ」

 

「あっはっは!得物の差が致命的だ!」

 

「貴様たちにはここで退場してもらおう・・・!」

 

 

二人纏めてとどめを刺すつもりなのか干将・莫邪を投影して振り上げるエミヤ。二人を助けようと、エルメスを拾った桜は銃を構えるが、カチンと虚しく弾切れの音が響くだけ。慌てて士郎が突進して組みつこうとするが、それよりも前に動く赤い影がいた。

 

 

「させるか!」

 

「!?」

 

 

サーヴァント二体にとどめを刺す、その際に生まれる僅かな隙。そこを目掛けて凛が投擲した宝石が炸裂して爆発、両腕で顔を防ぐために体勢が崩れたエミヤに向けてさらに黒い影が飛び出し、強烈な拳をその腹部に叩き込んで吹き飛ばした。

 

 

「不躾で悪いがアレは私の娘なのでな。お返しはさせてもらおう!」

 

「言峰、綺礼・・・!」

 

 

手ぶらの士郎にクロナを投げ渡し、距離を詰めて得意の人体破壊術である拳を手加減なく叩き込んだ綺礼である。ギルガメッシュが敗れ、本腰を上げた元代行者の一撃は英霊と言えど強力であり、エミヤは叩き付けられた教会跡の壁から何とか立ち上がろうとするも、そこに続けて綺礼が背中からの体当たりである鉄山靠を炸裂。エミヤは壁を突き破って吹き飛び、干将・莫邪を手放し礼拝堂跡を無様に転がる。

 

 

「どうやって現界したのかは知らんが、私はサーヴァント相手に油断する気は無くてな。非戦地帯である教会で暴れたのだ、それ相応の罰は受けてもらおう」

 

「…生憎だがな。私もここで終わるつもりは毛頭ない。まだ、マスターと彼女を残して消える訳にはいかないからな…!投影、開始(トレース・オン)!」

 

 

そう言って投影したのはまるで十字架の様な、黄昏の剣。竜殺しの英雄が有した、約束された勝利の剣(エクスカリバー)には及ばないものの、かなりの知名度を誇る魔剣。

 

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今、落陽に至る。撃ち落とす!」

 

「っ、桜!」

 

 

尋常ではない魔力を放出し始めた魔剣を構え詠唱するエミヤに、士郎が後輩の前に立ちはだかり、抱えたクロナと共に庇うように背中を向けたその時、視界に雪の様に真っ白な髪とルビーの瞳を捉え驚愕に染まった。

 

 

「―――【幻想大剣・天魔失墜(バルムンk)】・・・!?」

 

 

今まさに魔剣を振り下ろし、斬撃を飛ばそうとしていたその瞬間。投擲された種の様な物がエミヤの前で破裂。強力な光源が視界を塞ぎ、それを見た事があるため咄嗟に目を瞑った綺礼達に対し知り得もしなかったエミヤは視界を奪われて左手で目を押さえ、そこに飛んで来た銃弾に右手のバルムンクを弾かれ、地面に落ちて魔力に還元された。

 

 

「お兄ちゃんはやらせないわよ。私以外にはね」

 

 

そこにやって来たのは、デクの種を投擲しコンテンダーの引き金を引いた張本人であるイリヤスフィールその人であった。予期せぬ訪問者に、驚愕する面々の中で、こちらを呆然と見つめる士郎に笑みを浮かべるイリヤ。

 

 

「安心しなさい。今頃、私のセイバーがバーサーカーの方に行っているわ。それで…何なの、アイツ。8人目・・・いや、あの金ぴかも合わせて9人目のサーヴァント何てありえない。私の知らないサーヴァント何て、存在していいはずがない」

 

「…その声、雪の姫君か。バーサーカーに手を出すのはやめておけ、如何に最優のクラスと言えど奴には勝てんぞ」

 

「私のセイバーは最強なの。そんな心配いらないわ」

 

「そう……か!」

 

 

視界が失われている為にその声目掛けて、投影した短剣を投擲するエミヤ。牽制代わりだったのだろうそれはイリヤの撃ったコンテンダーの弾丸により弾かれ、しかし続けて放たれた短剣に、一発しか撃てないトンプソン・コンテンダーに再装填していたイリヤは対処が遅れ、覚悟したその時。

 

 

「させるか!」

 

 

その前に立ち塞がった、衛宮士郎が無手で構える。その際、普通より高速の思考で行われたのはただ一つ。

 

 

(奴に、勝つための武器がいる…!)

 

 

咄嗟に思い浮かぶは、夢で見た彼女の持つ聖剣。

 

 

(敵はサーヴァントだ。英雄、反英雄。そのどちらかは分からないが、今ここでイリヤを守るためには、どんな武器が必要か)

 

 

己に埋め込まれた、鞘と対になる騎士王の武器。

 

 

(それには剣だ。やはり剣がいい。数多の伝説、物語を彩って来た勇者たちの剣。正義を、クロ姉たちを守るために必要な物)

 

 

それは、目の前に迫り来る凡骨の短剣の様な物では駄目だ。

 

 

(鋭利、絢爛。刃こぼれなどしない、ただの一撃で敵を断つ。それができる王者の剣を、俺は知っている)

 

 

別の己に仕えた、彼女が持つ黄金の剣…!

 

 

(奴は俺だ。間違いなく、俺だ。何がどうなってああなったのかは、クロ姉を傷つける様になったのかは知らないが、アイツは彼女が仕えた俺だ。だからアルトリアは俺に協力してくれた。

現実世界で俺が英雄に勝つ事なんて不可能。だがアイツは俺自身だ。ならば、己に勝つ自分を想像しろ…!)

 

 

――――士郎は、黄金の王に贋作者(フェイカー)と称された男です。貴方の真髄は、貴方が使えないと決めつけている投影にあります。

 

 

そんな言葉を胸に、衛宮士郎は右手を大きく振るう。そして、投影され短剣を弾くばかりか粉々に破壊したのは、約束された勝利の剣。

 

 

「…何故だ、彼女に会っていない貴様が何故それを投影できる…衛宮士郎!」

 

「…イリヤ、下がっていてくれ。桜、遠坂、ライダー、言峰。手を出さないでくれ」

 

 

目の前のサーヴァントと同じように、宝具をその手に取りだした少年の言葉に押され、頷く面々。それに対し、黄金の輝きに視界を取り戻したエミヤは激昂し、干将・莫邪を投影して斬りかかる。

 

 

「お前にだけは、負けられない!」

 

「…ッ!?」

 

 

一閃。擦れ違い様に放たれたそれは、干将・莫邪と共にエミヤの胸にも大きな切り傷を作り上げた。

 

 

「貴様、は…」

 

「お前には負けない。誰かに負けるのはいい。けど、俺の大事な人を傷つける自分にだけは負けられない!」

 

「…その大事な人を傷つけるのが己自身だとしてでもか?」

 

「俺はお前の様にはならない。クロ姉が今まで俺を守ってくれたんだ、だから今度は俺が守ってみせる」

 

 

砕けない黄金の剣を、眩しそうに見つめて。エミヤは再び剣を握る。

 

 

「貴様は、俺は、衛宮士郎は彼女を守る事も、救う事もできん!貴様は分かっていない!彼女が、何を抱いているのか!彼女が戦う理由も、貴様を守る理由も、知りもしないだろう!」

 

 

エミヤが叫んだその言葉で、クロナの事を知る綺礼と凛は少しだけ目の前の男が何を言っているのか分かった気がした。睨み合うエミヤと士郎に、全員動く事も喋る事も出来ないまま、沈黙が支配していたそんな時。

 

 

「…随分と知った風な口を聞くんだね」

 

「クロ姉!?」

 

 

怒りの声と共に、目を覚ますクロナに視線がずれる士郎。それに対し、呆然とするエミヤを睨みつけながらクロナは綺礼に手を借りながら立ち上がった。

 

 

「貴方、士郎だよね?…それも多分、衛宮黒名の世界の方の士郎。『M』の話を聞いてないと混乱して誰か分からなかった。それで、私からバーサーカーを奪って何をするつもり?脱落させるんならもう目的は遂げているよね?それでも何かしようって事は…冬木を、壊すつもりなの?」

 

「…アンタにはもう少し寝ていて欲しかった」

 

「まず王様が赦さないだろうけど、私も赦さないよ。バーサーカーに令呪で止まる様に命じて。さもないと…」

 

「さもないと、どうすると言うのかね?」

 

「貴方を倒す」

 

 

そう言って、エクスカリバーを構える士郎の隣に並び立ち、ボロボロのマフラーで弓を形作り黒鍵矢を番えるクロナ。綺礼により止血はされたが、フラフラで今にも倒れそうでありながらちゃんと立っていた。

 

 

「…変わらないな、クロ姉。アンタは赦せない物に対しては絶対に折れない人だ。五体満足で黙っていてもらおうと言うのは甘かったらしい!」

 

「よく分かっている事で。…言って置くけど私、怒ってるよ?」

 

 

瞬時に右手に投影した莫邪を投擲しようと構えた瞬間、その言葉と共に放たれた矢が莫邪ごと右掌を貫き、強制的に止められる。

 

 

「士郎!」

 

「おう!」

 

 

黒鍵矢を抜こうとして動きが止まったところに、クロナの指示で突進してきた士郎の振り下ろしたエクスカリバーを避け、しかしそこに再び矢が放たれ、右肩に受けて後ずさるエミヤ。宝具を使い、否天と戦い、サモエド仮面と戦い、さらにはこの場にいる全員と連戦。さすがの彼も、これ以上は不味い。

 

 

「こうなれば…―――ここに我が生涯を語ろう(Ruins trace on.)

 

 

宝具…固有結界を使い、形勢逆転しようと試みるエミヤ。しかしそれは、目の前のクロナや士郎ではなく、第三者によって止められた。

 

 

《それ以上は無謀です、アーチャー。帰って来て下さい》

 

「邪魔をするなバゼット!如何に君と言えど、口出しは…」

 

《私は貴方のマスターです。貴方を尊重し好き勝手やらせましたが、一晩で宝具を二回も使うなんて私の事を考えているんですか?》

 

「…すまなかった。速やかに撤退する」

 

「逃がすと思ってるの?」

 

 

マスターから指示を受けたのか足から霊体化して行くエミヤに、黒鍵三本を投擲しながら突進するクロナ。エミヤはそれを投影した干将を左手だけで振るって弾き飛ばし、そのまま干将を投擲してクロナの動きを無理矢理止める。

 

 

「生憎だがな、クロ姉。私はアンタがどれだけ傷付こうと、いくら怒ろうとも成し遂げると誓っている。邪魔しようが無駄だ」

 

「…私は衛宮黒名じゃない、言峰黒名だ。衛宮黒名と違って、私はしぶといよ?それに、どうしようもないぐらいに怒ってる。よくもバーサーカーを…私から奪ったな」

 

「…その方がやりやすいと言う物だ!」

 

 

間髪入れず、続けざまに投擲される魔剣類。しかしそれはクロナに届く事無く、飛んで来た弾と振るわれた剣戟で弾き飛ばされる。士郎、桜、イリヤ、ライダー、サモエド仮面である。

 

 

「…どうやら親が変わると頼もしい仲間も得られる様だ。潔く退く事をお勧めするよ、クロ姉」

 

 

それを見届け、エミヤは完全に姿を消してこの場を去って行った。

 

 

 

「…生憎だけど、止まれないんだよ、シロウ」

 

「クロ姉!」

 

 

限界が訪れ、倒れ行く体を受け止める士郎に、クロナは枯れていた涙を流して、

 

 

「士郎、…父さん、皆、アインツベルンも。お願い、バーサーカーを止めて。私が喚んだサーヴァントで…冬木の街が燃えるのは、見たくないから」

 

「…ああ、任せろ。クロ姉は休んでいてくれ」

 

 

そのまま泣き崩れる様に、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

激動の夜が明ける。

 

たった一晩で、相棒を奪われ、聖杯への道を閉ざされ、家族に傷つけられ、自分の召喚したサーヴァントの手で街が燃やされ、ただ自分を守るためにと10年前の地獄がまた冬木を襲い、怒りが湧き上がる。

 

しかしその怒りをぶつける事さえできず、ただただ弟分に守られた事に安心して、怒りに人生を捧げた少女は10年前に枯れたはずの涙を見せた。

 

 

そして言峰黒名は、新たな怒りを胸に目を覚ます。

 

 

あそこまでエミヤシロウを追い詰めた、その自分が赦せない、と。

 




そんな訳でアルトリア登場+投影魔術覚醒。夢の中で士郎を鍛えてました。本人は自身が召喚されなかったことをアサシンのせいだと言ってますが そ れ は ど う か な ?

エミヤのマスターも行方不明のバゼットだと判明。筋力がフラグだった。アルトリアを出すのも含めて今までフラグをあまり建てなかったから難航しました。…『M』初登場の回にあれだけ入れたのにまだ足りなかかったとは思わなかった。まだ中盤なのになぁ…

キノとサモエド仮面を参戦させたのはぶっちゃけ、キノとエミヤを戦わせたかったのとサモエド仮面の台詞をエミヤに言わせたかったからです。桜が見た夢もまた特殊だったり。

士郎とクロナにエミヤの正体がばれました。他の人は訳が分からない感じですが。まず異世界とか認めないと行けないからなぁ…士郎はアルトリアってイレギュラーがいたから気付いた様な物だし…そもそもエミヤがイレギュラーなんですが。

次回はVSエミヤ編最終決戦に入ります。その後はキャスターとかアサシンとかセイバーとか色々。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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