Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
楽しんでいただけると幸いです。
【
それぞれの物語に関した名の宝具が真正面からぶつかった。
ギルガメッシュ・・・人類最古の英雄王と、アスラ・・・悪鬼羅刹の権化たる怒りの化身の激突。全盛期・・・生前の頃の二人ならば、この地球は終わっていただろう。
何せアスラは、平行世界とはいえ狂オシキ鬼との対決で月を破壊してしまった実績があるのだから。ましてや対界宝具である、いくら手加減されたと言っても、並大抵の威力ではない。
ぶつかり合う災害に等しい対界宝具の奔流で疑似的な竜巻、嵐が発生する中、それぞれのサーヴァントの助けで…綺礼は抱えたクロナと共に士郎とついでにアーチャーに守られ…何とか留まるマスター達が見たのは、壮絶なる決着。
「…なにっ!?」
「ウゥアアアアアアアアアアアアアッ!」
そして、教会が半壊すると同時に否天の劫火が暴風を突き破り、咄嗟に【
まさか、とギルガメッシュの実力を知る綺礼は驚愕し震えた。冬木を壊さないように加減した「余波」ではあったものの、その威力は対城宝具「
さらにそれは、かつてトロイア戦争で英雄ヘクトールの放った世界のあらゆる物を貫くと讃えられた【
それらは全て、怒りから生じた火事場の馬鹿力だと言う事が末恐ろしく感じた。堪らず不可視の宝具を取り出してこの場から逃れたギルガメッシュから標的を変える否天。その先にいたのは、ランサーだった。
「ちっ…いいぜ、上等じゃねえか!」
突進してくる否天の拳を石突きで跳ね上げ、柄を腹部に叩き付けるもそれでも止まらず、左手を振り下ろす否天。ランサーは槍を手放して転がり回避。槍を手にしながら離れると立ち上がり、そして独特の構えで間合いを測る。
「嬢ちゃん!」
「ええ、ランサー!宝具を使ってそいつを止めなさい!」
「おうよ!その心臓、貰い受ける…!」
赤い弓兵に秘蔵の宝石を総動員しながら発したマスターの命令を受け、赤い魔力を放出するランサー目掛けて両掌からマントラ弾を連射しながら突進する否天。しかし、それはランサーのスキル「矢避けの加護」により全て外れ、そして真正面に差し掛かった時。緋色の閃光が瞬いた。
「【
以前、キャスターに放った通称「投げボルク」とは別の使い方。クーフーリンが編み出した、対人用の刺突技。因果逆転の呪いにより「心臓に槍が命中した」という結果を作ってから「槍を放つ」という原因を作る、必殺必中の魔槍だ。幸運か直感が高くなければ間違いなく殺せる必殺の一撃。それは当然、否天の心臓を見事に貫いていた。
「…なに!?」
しかし、この男。例え心臓を穿たれようが止まらない。ガシッ!と柄を掴まれた事で慌てて愛用の槍を手放して蹴り付け、距離を取るランサー。見てみると、やはり見事に貫通して胸部から柄が、背中から石突きが突き出ている状態だ。動けるはずがない。なのに動いていると言う矛盾。
当り前だ。この男、通常状態でさえ体を真っ二つにでもしなければ止まらない、要は頭さえ無事ならいくらでも暴れられるのである。因果逆転をもってしても、通じない怪物。どうしたものかと間合いを計っていると、空から襲い掛かるソニックブーム。アーチャーだ。
「はあっ!」
「ウォゥア・・・?」
「ランサー!」
「おう、助かったぜ嬢ちゃん!」
予期せぬ音速の拳を真上から受け、クレーターとなった地面に頭から引っ繰り返った否天の胸から槍を引き抜き、背後に着地したアーチャーの傍まで後退するランサー。すると否天は四つん這いになり、跳躍。
半壊した教会の壁に足を付け、崩壊するぐらいに踏み締めランクEXの速度でアーチャーとランサーに襲い来るも、アーチャーが拳で迎え撃ち、スピードに乗った否天の頬に一撃叩き込んで吹き飛ばすと、ランサーと共に突進。
「せいっ!」
「はあっ!」
「ウォアァアアアッ!」
何度も何度も距離を取り、攻撃を叩き込んではマントラのスラスターで翻弄、光弾やら拳やらストンプやら頭突きやらを叩き込んでいく否天の攻撃を、背中合わせになり何とか応戦するアーチャーとランサー。アーチャーは【
「・・・ここじゃマスター達もすぐ傍にいる事だし分が悪い。どこか広い所に移動するぞ、アーチャー!」
「異論ありません・・・!」
そのうち、四方八方に壁があり、立体的な軌道を描く否天に有利なこの場だと不利だと悟った二人は徐々に、徐々に移動を始めた。
完全に目標と定めたのか、走るランサーと飛翔するアーチャーを否天は突進で追い掛け、街並みを破壊しながら突き進む三人。否天の拳でビルが崩落し、アーチャーはその瓦礫を殴りつけ散弾にして攻撃。しかしそんな攻撃など物ともせず、アーチャー目掛けて突進する否天の背後から槍を突き刺すランサーだったが、やはり効果は無く振り飛ばされてしまい、ビルの壁に着地。
「オラオラ、こっちだあ!」
「ヴゥォアアアアッ!」
そのまま走り、追撃と放たれた光弾を全て壁面を走る事で回避、宙に散らばる瓦礫を足場に上まで昇り、そこからゲイボルクを投擲。さらにそれに合わせるように頭上からアーチャーが急降下、その頭頂部に渾身の拳を叩き込み、投擲と拳、二つの必殺とも言える一撃が同時に叩き込まれた。
「ヴァッ!」
「なにっ!?」
すると、何と否天は炸裂する直前、スラスターを急噴射して前方のビル壁に突撃する事でその二つを回避してしまった。唐突な回避行動に、アスファルトに突き刺さったゲイボルクを引き抜きながら思考するランサーは.その側に舞い降りたアーチャーに自分の推察を述べた。
「アイツの弱点はどうやら頭部みたいだな。体の傷なら何とかなるが、頭部に致命傷を与えられたらどうしようもないんだろう。そんな逸話を残している英雄かもな。まあここまでとんでもないのはヘラクレスぐらいしか聞いたことねえがよ」
「貴方の逸話も凡骨の英雄に比べたらとんでもないと思いますが…それで、どうしますか?貴方の宝具は心臓部への回避不能の一撃。私の宝具は魔力が足りないので
「…嬢ちゃんは一つ隠し玉があるんだろ?そいつはどうだ?」
「宝具ではないですが魔力が足りません。せめてライダーがいれば…」
アーチャーが思い出すのは、最弱に戻る代わりに当てれば確実に仕留める事が出来る宝具を有する同じ釜の飯を食べた仲のサーヴァント。しかし、彼女は自分のマスターを任せた為ここにはいない。あの変態剣士を警護に残せばいいだろうが、相手していた赤装束の男はありえない事だが英霊だとアーチャーの目が告げていた。それを察したのかランサーは小さく舌打ちする。
「あの嬢ちゃんにはマスター達の警護を頼んでるからな、力を貸してもらう訳には行かねえ。…一つ、手はあるっちゃある。如何に奴と言えど、確実に仕留められる手がな」
「ではそれを・・・」
「…だが、自爆宝具だ。嬢ちゃんの指示があれば使うが、勝手に使う訳には行かねえよ」
「そうですか。では、別の手段を考えましょう」
共に裏切りを嫌う英霊同士。ランサーの意を汲み取ったアーチャーは姿を現し突進してきた否天目掛けて翼を大きく振るい、撃墜。否天は巨腕を顕現してアーチャーを握り投げ飛ばすも、その瞬間をランサーが真横から蹴り付け、槍の柄を首に叩き込んで地面に埋めると、投げ飛ばされた先で翼を広げエアブレーキして着地していたアーチャーと合流。そのまま共に、目的の地へ走り出した。
「だったら目的地は決まりだな」
「はい。被害が少なく、また人目につかない場所・・・」
「港の倉庫街だな」
「ウオゥォアアアアアアアッ!」
スラスターを噴き、追い掛けて来る否天に瓦礫を蹴り飛ばし、投擲しながらランサーとアーチャーは共に最速のサーヴァントとしてのスピードで新都の街並みを駆け抜けた。
港の倉庫街
深夜であるため人気のまるでないそこ、第四次聖杯戦争では初戦の舞台になったそこで再び激闘の幕が上がる。木端微塵に吹き飛ぶ倉庫にコンテナが多数散らばる中を飛び出し、着地したランサーとアーチャーが迎え撃つは、修羅と化した狂戦士。
「オラアッ!」
「はあっ!」
「ヴォアァアアッ!?」
突っ込んできた否天に対し、共に脚と拳を突き出してその勢いを利用し撃墜。散乱したコンテナに頭から突っ込み一瞬静止する否天だったが、四つの巨腕を顕現してコンテナを引き裂いてその断片四つを投擲。飛んで来たコンテナの断片を飛翔して回避するアーチャーと、いわゆるマトリクス避けで回避するランサーだったが、それぞれ二つ目が続けて投擲され真正面から受けてしまい、ランサーはアスファルトの地面に、アーチャーは倉庫の屋根に転がる。
「ウゥォアアアアアッ!」
再度巨腕を引っ込めてスラスター噴射、否天はアーチャーが屋根にいる倉庫に両腕を振り翳して突撃すると破壊。落ち来た柱を槍の様に構えて投擲し、ランサーがゲイボルクでそれを弾くと狙ったように突進し、その顔を掴んでアスファルトに引き摺るとボウリングの様に投げ飛ばしてコンテナの山に激突させダウンさせた。
「ランサー!…ッ!?」
「ウォゥアアアアッ!」
それを助けようと飛翔するアーチャーに向けて跳躍、巨腕を出現させて二本でアーチャーを翼ごと鷲掴みにして拘束すると残り二本で真下のコンテナを掴みそれをアーチャーに叩き付けて撃墜した否天は、その勢いで着地しクレーターを作り上げると、慟哭の咆哮を上げた。
二人は被害を抑える事に固執し、選択を誤った。元々無手で戦い、自分より大きな敵を掴んで投げ飛ばす事を得意としていたアスラと言う
「ウゥアアアアアアッ!」
終わりだと言わんばかりに再び巨腕を顕現し、ギルガメッシュを打ち倒した劫火の砲撃を放つべく四つの巨腕の中心にマントラを収縮し光弾を形成してそれを膨張させていく否天。それに対し、コンテナに押し潰されて動けないアーチャーとランサー。積み。チェックメイト。王手。絶体絶命かと思われたその時・・・!
「
「ヒヒーン!」
「ウゥア!?」
真横から突進してきた、栗毛の馬が否天に体当たり。光弾を霧散させて二人の窮地を救った。現代に似つかわしくないその馬。ましてやライダーがバイク乗りであるこの聖杯戦争ではありえないその存在に搭乗していたのは。
「死んでないよな?ランサー、アーチャー」
「「セイバー!?」」
三騎士クラス最後の一人にして、最優のサーヴァント・セイバーだった。彼の真名は時の勇者リンク。その二つの時代、異世界にも置ける冒険の脚として活躍したのがこの名馬、エポナである。エポナに搭乗した彼は無敵とも称され、それを象徴するかのようにこのエポナ、下手な攻撃ではビクともしない。
しかし彼は
「マスターに命令されてね。アーチャーを脱落させたらつまらないから手助けして来いってさ。援軍、いるかい?」
「ああ。正直助かったぜ。俺達の宝具だと奴に対して有効打にならなくてよ。ほぼ積んでたんだ」
「セイバー、助力を願います」
「了解。行くぞエポナ。奴に追い付かれるな!」
「ヒヒーン!」
任せろと言わんばかりに嘶きを上げ、再度突進するエポナ。体勢を立て直した否天の投げ付けて来たコンテナはエポナに乗ったまま構えた弓に番えた氷の魔力を宿した矢をセイバーが放ち、氷漬けにして体当たりで破壊してそのまま直進。直前で振り返り、後ろ足による強烈な蹴り上げで否天を蹴り飛ばし、そこに矢を数本番えた弓を構えたセイバーが次々と射って攻撃。
いくら再生すると言っても急所に当てられた矢は明確なダメージになり得るため、徐々に押されて行く否天に驚くアーチャーとランサーだったが、同時に納得もする。今まであちらの一撃の威力が高い為、こちらも一撃で沈めようとばかりに気を取られていたが、確かにこの戦法の方が効果的だ。
「動きを制限させるぞ!」
「はあっ!」
ランサーは否天の背後に移動して槍による連続突きを。アーチャーは翼を羽ばたかせて舞い上がり【
「ウゥォァアアアアッ!」
前方にはセイバー、後方にはランサー。上空にはアーチャー。三騎士に囲まれた否天はダメージを受けながら何やら思考すると、矢と穂先、光弾を浴びながらも両腕を振り上げ、怒のマントラを溜めると地面に叩き付け、爆発。
「「「ッ!?」」」
エポナに乗ったままセイバーは吹き飛ばされ、何とか飛び退いたランサーと上空にいたアーチャーは難を逃れるも、その隙に顕現した巨腕から放たれた幾重もの光線が二人を貫き、鮮血が舞った。
「やはり、強いなアンタは!【
エポナも共に光線に撃ち抜かれた為エーテルに戻し、盾と聖剣を構えた勇者は悪鬼に飛び掛かる。拳を盾で押し退け、振り下ろされる巨腕を真名解放した聖剣で斬り捨て、まるで相撲の様に押し合い、押され合い拮抗する両者。しかしスペックの差か、それとも文字通りの手数の差か、徐々にセイバーが押され始めた。
「ヴゥォァアアアアッ!」
「クッ…!」
巨腕に聖剣を抑えられ、盾も取り上げられ、セイバーはポーチからメガトンハンマーを取り出して盾の代わりに振るうも、それすらも抑えられ何とか押し止まってはいるが、これ以上は限界である。
すると、否天の背後から四つの鎖が放たれ、巨腕に巻き付きグイッと引っ張り拘束した。その拍子に解放され、アスファルトを転がるセイバー。
「あ、貴方は…!」
「人の世に害を為さんとする悪鬼だ。
四肢だけでなく翼も撃ち抜かれたアーチャーが声を上げる。彼女と共に体中から血を流したランサー、頭から血を流したセイバーが見てみると、そこにあったのは姿を消して逃れていたはずの英雄王の姿だった。しかし何時もは立てられている髪は降ろされ、右手をかざしてはいるものの左手で胸元を抑えており、その表情には珍しく余裕はなかった。
「アレで逃げる
「ウゥォアァアアアアッ!」
「むっ、“神を律する”ものであるこの鎖を持ってしても抗うか。いや、貴様は元より神性は低かったな…ならばクロナのためだ、ありったけくれてやろう!
その言葉と共に波紋が四つ現れ、そこからさらに四本の鎖が放たれて否天の四肢も拘束。背後に向けて引っ張り、拘束を壊そうとしていた否天の動きを完全に封じる。どうやら巨腕を消す事も叶わないらしく、暴れる否天。その絶好のチャンスに対し、動かない英霊達ではない。
「セイバー!」
「頭を狙え!」
「ああ!時の女神に七人の賢者達よ…我が聖剣に彼の者を打ち倒す退魔の光を宿したまえ!」
アーチャーとランサーの声を受け、盾を捨てて立ち上がったセイバーはマスターソードを両手で構え、詠唱と共に突進。それは、あの夜と同じ。バーサーカーと引き分けで終わったあの対決の続き。願わくば、あの時と同じく信念のぶつかり合いを望みたがったが是非も無し。勇者とは、魔を打ち倒す者の事を言う。
「【
一閃、二閃、三閃。次々と叩き込まれていく聖なる光を纏った退魔の斬撃。それは
「デヤァアアアアアアッ!」
そして最後の一閃が打ち込まれ、描かれた
「やりました…か…?」
「やった、だろうぜ…あんなの喰らえばヘラクレスでも一溜りもねえ。ったく、さすがは勇者様だよ」
「…何とか、やった・・・かな、英雄王?」
「遠見の魔術で観ていたか。王の雄姿を覗き見するとはよい度胸だ、後で迷惑料を要求してやろう」
「それは困るな。アンタの財には遠く及ばないからな、うちの姫様も」
疲れ果てた顔でギルガメッシュ以外どっと倒れる英雄達。唯一立っているとはいえギルガメッシュもかなり疲弊している様だ。
クランの猛犬クーフーリン、時の勇者リンク、英雄王ギルガメッシュに加え、空の女王と呼ばれる程の力を有するイカロス・・・これ程の英雄達が死力を尽くして奮闘した悪鬼討伐、これにて完了かと思われた・・・しかし、人類史以前の英雄は、文字通りの
「ウゥゥゥ…ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「「「「!?」」」」
慧眼を持つギルガメッシュと言えど、予想もしなかった事態。巨大な川である未遠川が完全に干上がり、その中心に立つのは四つの巨腕を顕現し、その内二本で大地を踏み締め、残り二本をこちらに向けて翳しその両掌に光球を形成し今にも放とうとしている、否天の姿。
「ヴゥォアアアアアアアアッ!」
「っ…
「
咄嗟にギルガメッシュが全員を守る様に絶叫する顔が掘られた黄金の盾を展開、それに重ねる様に残り数分が限度である
拡散された熱線は倉庫街を焼き払い、火の海となる。猛烈な怒りが生み出したその攻撃によって通常状態に戻り、倒れ伏すアーチャー。ランサーとセイバーは己の得物を構え、ギルガメッシュもオハンを仕舞い代わりに
「アレでも死に切らないってのか…!」
「おい金ぴか!さっきのアレはまた撃てねえのか!?」
「無理をほざくな雑種めが!さっきのせめぎ合いでオーバーヒートを起こしている乖離剣で奴を仕留めるのは不可能だ!」
ランサーの言葉にそう吠えるギルガメッシュ。すると。
「アーチャー、無事か!」
「ランサー!」
「セイバー、魔力一気に喰われたけど大丈夫!?」
「ギルガメッシュ!大事ないか!」
教会から走って駆け付けたのか士郎と綺礼、凛と桜、ライダーとイリヤ、そして綺礼に抱えられた気絶したままのクロナがやって来てギルガメッシュ達と合流。士郎は力尽きたアーチャーに駆け寄った。
「アーチャー!おい、アーチャー!」
「安心しな。その嬢ちゃんは力尽きているだけだ、致命傷は負っていない。ところでそっちはどうした、あの赤いのは」
「マスターに呼ばれたみたいで逃げたわ。あともう少しで勝っていたって言うのにね。それより状況は?……何か私が管理している街が燃え盛っているんだけど」
「…凛、さすがの聖堂教会もここまでの被害だと隠し通すのも「同時多発テロ」とかしか無くなるぞ。…ギルガメッシュ、エアが敗れた様だが大丈夫か?」
「愚問だな綺礼。奴は痛い目に遭わさんと気が済まん。…クロナはどうだ?」
「先程一度だけ目を覚ましたがそれっきりだ。バーサーカーを頼むと言われた」
「それよりどうすんの!あれ、こっちに来てるみたいなんだけど!?」
「…マスター達だけでも逃げろ、アイツには俺の宝具も通用しなかった。いよいよ後が無い」
状況確認をするそれぞれだったが、そうしている間にも巨腕を動かし歩み寄って来る否天を視界に捉えたセイバーとライダーが各々の武器を構えて叫んだ。すると、ランサーが槍を肩に置き、笑顔で凛に提案する。
「なあ嬢ちゃん。聖杯戦争に勝ち残ろうとしているアンタには悪いが…アレ、使ってもいいか?」
「…アレって…まさか、あの宝具!?駄目よ、確かにアレなら止めれるかもしれないけどランサーが…」
「俺はこの現界で強い奴と嫌って程戦って来たからな。満足してる。…いや、最後にセイバーとは一度手合せしてみたかったがな。アンタの承諾さえもらえれば、この命に代えて奴を殺す事を誓う。ゲッシュとは言えないが…約束するぜ」
そう真剣な顔で述べるランサーに、凛は暫し思考し否天が未遠川の中腹を抜けた頃、覚悟を決めたのか不敵な笑みを浮かべて令呪を掲げた。
「そうね。聖杯戦争のマスターとしてではなく、冬木のセカンドオーナーとして奴を止めなければいけない。…ランサー、令呪三画を持って命じる。宝具を全力全霊でぶちかまして、奴を必ず倒しなさい!」
「おうよ!承ったぜ、マスター! よし!テメェら、どいてな!」
そう叫び、全員己から10メートル離れた事を確認したランサーはまた独特な構えを取り、右手で魔槍を構える。
「行くぞ。この我が最大の一撃、狂いに狂ったアンタへの手向けとして受け取るがいい───!!」
地面を踏み締め、全身をバネにして全ての力を右腕に集中、自らの肉体の崩壊も辞さないほどの全力投擲を放った。
「穿て、抉れ、ブチ抜け!―――【
全力スイングで放たれたホーミング魔槍ミサイルは背後のアスファルトに亀裂を生み出し、さらには大地を裂きながら否天に一直線。否天が反応する事も出来ず、その胸から下をぶち抜き、
「―――ヴゥ…ァア…」
何も理解できず、干上がった未遠川にできた巨大なクレーターの真ん中に落ちて行く、胸から上だけとなった否天の肉体。しかし、その代償として。
「―――どうだマスター、アンタのサーヴァントは…」
「…ええ、一流の私の召喚に応じたサーヴァントだもの。超、一流の働きだったわ。ありがとう、ランサー」
「おうよ…また、機会が在ったら喚んでくれや……」
その言葉を最期に、ランサーは、クランの猛犬と謳われたアルスターの光の御子はエーテルへと還って行った。
「…雑種にしてはよい全力全壊の一撃であった。賛美をくれてやろう…クー・フーリンよ」
ギルガメッシュの言葉に、最期に残った顔でしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべ、槍の英霊はここに脱落した。
ランサーが死んだ!この人でなし!をただひたすらかっこよく書きたかったがための話でした。…まあ否天は神様もどきだから人じゃないし。
ランサー脱落。この聖杯戦争で最初の脱落者ですね。だって皆しぶといんだもの…何気に、ギルガメッシュとエミヤと言う番外サーヴァントを抜くと原作鯖で唯一の脱落者となります。これはしょうがない。
セイバーの第二宝具、
序盤に吹っ飛ばされたけど助太刀に復活。やられてもただでは起きないのがうちの王様です。「M」にやられた傷が残っているのにこの奮闘、よほどクロナが大事なのか。ただ英霊達と共闘するギルが書きたかっただけとかそんな訳じゃないです、はい。
抉り穿つ鏖殺の槍。…クー・フーリン・オルタの宝具ですね。再生できるから使える様なのを使うから…どれぐらいの威力かと言うと、幸運Aで心臓破壊を回避した嫁王様が心臓以外の臓器を丸々抉り砕くと言う重傷を負うぐらいの威力です。それが心臓に当たったんだから胸から下消滅も納得いくはず。
さて、何とか否天を止める事は出来ましたが次回はエミヤside。主人公そろそろ起きろ。エミヤのマスターも判明したりします。もう誰か分かっている人多いと思いますが。
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。