Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争 作:放仮ごdz
楽しんでいただけると幸いです。
冷たい夜の礼拝堂。
その入り口に立つ赤い外套のサーヴァントは、端が血に塗れた純白のマフラーを開け放たれた扉から流れる風に揺らしながら、胸元から血を流して気を失い足元に倒れている黒髪の少女をそっと優しく抱え上げた。
狂戦士は己が
それを確認し、自身の胸に抱かれた少女に微笑むと、有り得ざる三人目の弓兵は静かに、しかし周囲に響く様に詠唱して行く。
―――
―――
そして生じたそれは、紛れもなくクロナ達が昨夜体験した大魔術。
俺は、
そして
なあ、クロ姉。俺はアンタを殺す事でしか救えなかった。止めることができなかった。その怒りをもっと早くから知っていれば、止めれたかもしれない。
だけど俺は、知ろうとしなかったんだ。…アンタが「悪」だって、認めたくなかったから。
その結果、アンタは望まぬまま人類を殺戮して。
それを信じたくなくて、誰かを頼る事も出来なくて、罪に押し潰されて狂乱して。俺を俺とも最期まで認識してなかった。
人類全員から「
でも、それだけじゃ足りなかった。「
同じ冬木の、俺から見て過去。第四次聖杯戦争では
今回のとは大前提が違う第五次聖杯戦争では
月の聖杯戦争では、彼女とよく似た雰囲気と容姿を持つマスターに召喚された俺と同じ
…そこもクロ姉に似ていて、でも違う強さがあって、彼女のために戦えてよかったと思えたマスターだった。しかし、初めてサーヴァントとして勝利を得た際の感覚は、嫌な物だったと記憶している。
終始冷静だったその顔を怒りに歪ませ、呪詛を吐きながらも一緒に消えゆく彼女のマスターに窘められ、悔しげに黙って消滅して行くクロ姉を見たかった訳じゃ無かった。マスターに慰められて、思わず涙を流してしまった。そのおかげで絆は深められたけども、そんな形でだと言う事が後ろめたかった。
また、もう一度参加した月の聖杯戦争では、クロ姉と前のマスターとよく似た雰囲気の少年をマスターとして、
マスターを囮にして宝具を零距離から放つと言う荒業で、何とか勝利に持ち込めたが…その後、
何度も戦い、そのたびに何もできなかったと、救われて欲しいと、いつも彼女は苦痛と共に消えていくのかと、絶望した。俺は償い続けるしかないのかと、それでも戦うしかなかった。もう、俺の参加する聖杯戦争全てにクロ姉が召喚されたのは、彼女を救えなかった俺に対する呪いなのだと受け入れるしかなかった。
だが、今回の聖杯戦争で彼女の呼びかけに応えて召喚され契約した際、俺の天敵である言峰綺礼に引き取られたクロ姉がいると言う話をマスターから聞いて、思ったんだ。
言峰といつも一緒にいる英雄王なら、あの男の在り方ならばクロ姉を正しく、少なくとも悪くは無い方向に導けるはずだ。でも言峰から悪い影響を受けてるかもしれない、そう思いマスターに許可をもらって偵察に来て、やはりクロ姉はクロ姉だったと思うしかなくなった。
彼女は戦っていた。俺の知っているかつての
怒りを抱いて戦う事が「悪」であることを受け入れ、傲慢にも自分の命のみを対価に魔術師を撲滅しようとし、そのために怒りを燃やし続け煉獄への道を歩いて行く。
「理不尽」にだけは屈しない。一言で言えばそれが彼女の在り方だ。だが、破滅の道だと知って進んで行くのは間違っている。彼女は弟に対する罪悪感から自分を救おうとしていない。
あのクロ姉もまた、怒りから解放され自分を救おうとは絶対にしないだろう。だとしたら、どうすればいいか。もう答えは決まっている。
無理矢理にでも彼女を救う。例え傷つけてでも、その命だけは救って見せる。その在り方を踏み躙ってでも、その怒りを助長させても、嫌われて否定されようとも、そう決めた。
手段ならば、分かっている。簡単だ。
クロナと言う少女が世界中の人間から【
その代わりに、【
その人物ならば、今目の前に居る。条件を満たしていて、手段として利用できて、その怒りは誰よりも純粋で、そして現在自分に従う立場のサーヴァント。マスターとしてでなく、クロナと言う少女のために嘆き怒ってくれるであろう、その男。今まで彼女を守って来たこの男を使うのは申し訳ないが、それでも手段を選んでいられない。
何より「悪鬼羅刹」の語源となった「悪」だ。遠慮なく、利用させてもらおう。これで、ようやく救える。
俺の救いたかった「衛宮黒名」ではないが、それでも「言峰黒名」と言う少女は救うことができる。
顕現するは、炎に包まれ焼けた大地。果てなき荒野に無数の剣が突き刺さっている心象風景。赤茶けた空にはギシギシ軋む巨大な歯車がひしめいている。その丘に、赤いアーチャー・・・真名、エミヤシロウは言峰黒名を抱えて佇み、バーサーカーはそれを地面に縫い付けられる形で見上げていた。
「ッ…!オォオオオオオオッ!」
手と足の甲に穴が開き、それでも構わず立ち上がるバーサーカー。そのサーヴァントの声は、自分が最も嫌い、競い合った親友であり義理の兄である男と似ていた。そして直感した、その在り方は…この赤い外套の男と同じだと。大義のために、家族を斬り捨てる。そんな男だと、気に入らないと、彼の怒りが言っていた。
「くたばれェエエエエッ!」
「…さすがはクロ姉のサーヴァント」
例え今のマスターだろうが構わず、守るべき女に手を出したこのサーヴァントを殴ろうと、走り出すが、それを許すエミヤではなかった。
「受け止めてみせろよ?
「ッ…!?」
一見乱暴に、しかしちゃんと受け止められるように抱えていた少女を投げ付けるエミヤ。バーサーカーは狼狽えながらも受け止め、クロナをゆっくりと下ろす。しかしその瞬間。
「どのバーサーカーも、総じてマスターが弱点の様だな」
「なに…ッ!?」
空に巨大な太刀が二本、投影されて放たれ、バーサーカーの両腕が斬り飛ばされた。火花が飛び散り、ゴロンと転がる己が武器。それはいつもの事だ。しかし、それだけでは済まなかった。
「それで守り切れるか?悪鬼羅刹!」
次々と空に投影され、設置されて行く数多の剣。そのほとんどが、宝具に該当される物で。無銘の剣もあるが、それらが全て、バーサーカーではなく、その真下に下ろされた少女に向けられていた。
「ちっ…このッ!」
放たれて行く聖剣魔剣妖刀の類を、唯一残った脚で蹴り飛ばして行くバーサーカー。何とか蹴り飛ばせてはいるものの、相手の弾幕は厚い上に着弾速度も速い。このままでは、危ない。
「テメエは、気に入らん!」
「そうか?私は貴様に感謝しているのだがな」
「ほざけ・・・ッ!?」
吠えては見るが何も変わらず。放たれた
「ッ…やめろォオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「それは聞けない相談だ」
突き刺さる魔剣。吹き飛ばされる少女の肢体。次々と放たれる剣、直撃はしない物の余波だけで傷付いて行くか弱い少女の身体、力無く倒れ立ち上がる事も出来ず叫ぶことしかできない己が身。
なぶり殺し。すぐには殺さず、苦しめていくそのやり方。
気に喰わない。
今まで、あっけなく殺されて行く人達を見て来た。
気に喰わぬ。
理不尽に命を奪って行く輩を見て来た。
・・・気に喰わぬっ。
当然だとばかりに、その命を貪り浪費して行く外道を見て来た。
・・・気に喰わぬっ!
大義のためにと、不浄の輩に穢される前にと、そんな名目で簡単に命を奪い、妹を斬り捨て、自分の娘を酷使する輩もいた。
・・・気に喰わん!
それら総てに、怒る、怒る。あの時とは真逆だ。救えなかった哀しみで憤怒が燃え上がった時とは違う。
溢れる怒のマントラが、空に浮かんでいた歯車の一つを消し飛ばし、自身を包むのを感じる。
この衝動に身を任せろ。救えないのが嫌なら、アレを繰り返したくなければ、総てに対する怒りのままに全てを叩き潰せ。
「っ…バーサーカー……」
無意識に助けを求めたであろう、漏れたその呼びかけに。憤怒が爆発した。
「ウアァアアア・・・」
バーサーカーを中心に立ち上った炎と雷の光柱から飛び出したのは、黒い両腕。炎を突き破り、全身の姿を現した。
それはまさしく悪鬼羅刹。怒りが極限に達する事で変貌する、自我を失った暴走形態。
エミヤシロウが求めた、【
その者の名はアスラ。その姿、制御不能の獣の名は「否天」。
もはや語るまい。
宝具【
「ウゥゥゥ…ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
咆哮を上げた否天はエミヤを睨み付け、一跳躍で彼の背後を取ったかと思うと鋭く尖った右手を振り下ろした。
「否天」覚醒。バーサーカー第二の宝具【
思いっきり声優ネタです、すみませんでした。でもアスラとFateをコラボするならこの組み合わせは書くしかない…!ヤシャもエミヤも大好きです、はい。どっちも声だけでなく在り方も似ているんですよね。…どっちもアスラには気に喰わないのだけども。
今回で分かったと思いますが、赤いアーチャーの正体はそう、「衛宮黒名」の世界線の衛宮士郎です。『M』が「とある正義の味方の手で断罪された」と語っていたその人物。様々な聖杯戦争に参加している他、UBWの詠唱も微妙に違います。そして彼の持つマフラーは…あ、多分赤いアーチャーのマスターも誰か分かったと思います。
何が恐ろしいかってエミヤをここまで追い詰めてしまう衛宮黒名の異常性。狂っている万能って性質が悪い。これも全部衛宮切嗣って奴の仕業なんだ。
次回は冬木がマジでヤバい回。ランサー・ライダー・アーチャー・セイバーVS否天。第四次で言う大海魔回になるかと思います。
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