Fate/Asura's Wrath 悪鬼羅刹と行く第五次聖杯戦争   作:放仮ごdz

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今回は休日編です。あの喫茶店が登場、そして謎の男との邂逅。一万字越えと無駄に長い癖して戦闘は全くありません。しかしクロナのターニングポイントとも言える話で、いくつか謎が判明します。

楽しんでいただけると幸いです。


#14:「M」との邂逅、知るべき顛末

その日、六つのマスターとサーヴァントが力を合わせキャスターの固有結界を打ち破ったその翌日。

 

マスター達の間では、言葉を介さなくても休戦条約がなされていた。全員、それぞれ深手を負っているからである。アインツベルンは怪我こそないが、セイバーは消耗しているためここで馬鹿な真似は起こさないだろう。

つまり、今日は気兼ねなく外を出歩ける訳だ。学校が終わり、私と士郎は帰路に着いていた。しかしその足は新都の方に向いている。アサシンの手掛かりを少しでも得る為だ。桜は部活があるため、まだ学校だ。飯食ってもう既に回復したライダーが付いているから問題ないだろう。あのスキル羨ましい。

 

問題なのは、未だにアーチャーが回復していない士郎と、六天金剛にもなれない程弱体化しているバーサーカーを霊体化して連れている私の二人だ。黒鍵は補充して置いたし、マフラーも洗濯ついでに換えて来たので不測の事態でも何とかなるはずだ。

 

 

「なあクロ姉、アサシンの本拠地を探しているんだよな?こんな人の多い場所にあるのか?」

 

「・・・さあ?でも、前回の聖杯戦争だと馬鹿なのか高級ホテルの最上階を買い占めて工房にして迎え撃とうとしていたマスターもいるみたいだし。念のためだよ、念のため。…凛やアインツベルン、キャスターはともかく、本拠地が分かってないのはあのアサシン陣営に関しては何も分かってないからね」

 

「なるほど・・・実質休戦条約がなされている今がチャンスって事か」

 

「うん。凛もあっちはあっちで深山町の方を調べてもらっているから、私達はこっちね」

 

 

まあ今のところ、見つかる気なんて全くしないのだが。そこは黙って置こう。でも私の魔術に対する嫌悪感と、何故か士郎が持っている世界の異常に敏感な五感があるから、アサシン達の仕込んだ呪刻・・・いわゆる結界の基点なら見付ける事ができるだろうし、そこまで勝算は薄くない。

 

 

「そういえばクロ姉、少し聞きたいんだけどさ。宝具がゲームで言う超必殺技なのは分かったけどさ、一体どういう物なんだ?」

 

「そう言えばまだ説明してなかったね。簡単に言えば、英雄のシンボルたる武器でサーヴァントの奥の手の事だよ」

 

「英雄のシンボル?」

 

「うん。まあ武器だけじゃないけどね。技とか、在り方とか、後は……伝説その物とか。いくら英雄でも自分の力だけで偉業を成し遂げた訳じゃない。英雄達の武勇伝には必ず切札となったアイテムが登場するでしょ?」

 

「例えばジークフリートがドラゴンを倒す時に使ったバルムンクとかか?つまり宝具は英雄を英雄たらしめる神秘の込められたアイテムって訳か」

 

「そう言うこと。理解が早くて助かるよ」

 

 

アーチャーのアレはアイテムじゃなくて、彼女自身が宝具だったけどね。

 

 

「英霊はサーヴァントとして召喚された今でも宝具を所有している、場合によっては失われた宝具でもね。セイバー・・・勇者リンクのマスターソードがそれだよ。そしてその強さはサーヴァント自身の強さとは全く関係が無い。サーヴァント全員を圧倒できるキャスターを退けられたのは、宝具のぶつけ合いになれば純粋にその力が強い方が勝つから。あの場合は、相性もあったんだろうけどね」

 

「でもさクロ姉。そんなに宝具ってのが強力なら、何で最初から使わなかったんだ?」

 

「士郎は馬鹿なの?宝具を使用した後に魔力、枯渇したでしょ。魔力消費が少ない宝具もあるけど、基本的には魔力を大量に消費して発動する。もしくは条件を整えないと使えない宝具もある。そこまでして発動したのに相手の宝具の方が強かったらそれで一巻の終わりだし」

 

「・・・あーなるほど、あんなの使って魔力切れしたところを狙われたら確かに負けてしまうな」

 

 

魔力切れして倒れた自分と、今も消えているアーチャーを思い出したのか苦い顔をする士郎。こんな序盤に宝具を使って幸運だったのかもね。

 

 

「うん。でもアーチャーの宝具なら魔力切れしか心配しなくていいだろうけどね。それに、宝具は英雄と対になる物。宝具を使うのは、サーヴァントの正体を自ら明かす様な物。正体がばれたら有名な伝説であるほど弱点もばれると言う事。例えば凛のランサーだと宝具の名前は「ゲイボルク」この名前に聞き覚えは?」

 

「ああ、ある。魔槍ゲイボルク。ひとたび放てば必ず敵の心臓を貫く呪いの槍の事だよな?確かケルトの英雄、光の御子クーフーリンが・・・あっ」

 

「そう。それがランサーの真名。…ちなみにセイバーが私のバーサーカーに対して戦闘序盤で宝具を使って来たのは、私が彼の事を「勇者リンク」だと見破ったからだと思う」

 

「勇者リンク?「ゼルダの伝説」のリンクか?」

 

「どのリンクかは分からないけどね」

 

 

あの伝説は、シリーズもののゲームになるぐらい勇者が多すぎる。ある意味正体バレしても一番問題ない英霊かもしれない。未来の英霊と違ってちゃんと知名度補正も付くし。

 

 

「・・・そうか、アーチャーとライダーはそもそも真名バレする心配が無いんだな」

 

「その代わり知名度補正が無いから殆んど本来の力で挑まないと行けないけどね。…アーチャーはイカロスだから、その知名度補正もいくらか得ているみたいだけど」

 

 

そうでもないと三流マスターの士郎が喚んだサーヴァントがあそこまでステータスが高い訳がない。敏捷とか可笑しいからねアレ。最速のランサーすら軽く超えてたからね。

 

 

「クロ姉のバーサーカーは一体どんな英雄なんだ?」

 

「・・・たった一人の娘のためだけに、神様だって殴り倒してしまうような「悪」だよ」

 

「・・・悪、なのか?」

 

「悪にもいろんな形があるって事」

 

 

正義の味方の士郎からしたら、受け入れがたいかもしれないけどね。…世界を救う大義を成すために必要悪で在ろうとした七聖天筆頭デウスと、そのやり方が気に喰わなくて娘の為だけに神をも殴り倒してしまったバーサーカー・・・アスラ。さあ、どっちが正義で悪でしょう?・・・士郎がなろうとしている正義の味方は前者の方。でも、後者だって単純な悪とは言い切れない。正義の味方って、多分そう言う事なんだと思う。

 

と、そんな事を話しながらとある喫茶店の前を通り過ぎようとした時だった、言い様の無い嫌悪感を感じたのは。この感じは・・・

 

 

「・・・魔術?」

 

「本当か、クロ姉?」

 

「・・・うん。ここから・・・」

 

 

間違いなく、この喫茶店からだ。名前は・・・喫茶アーネンエルベ?ドイツ語で確か「遺産」だっけ。中を覗いてみると、何かナマモノがせわしなく接客していた。…どう見ても魔術的何かだね。てかよく見たらライダーがいるんですが。あ、士郎も気付いた。

 

 

「ライダー!こんなところで何しているんだお前!?」

 

「げっ、士郎!?それにクロナまで・・・!?」

 

「・・・桜は?」

 

 

乗り込んで詰め寄る士郎に続き、入店しながらそう問いかける。…ライダーが護衛しているから安心して来たんだけどどうしてくれるんだコラッ。

 

 

「あ、それなら大丈夫。サモエド仮面に護衛任せたから。この間ここを見付けて気に入ったからまた来ただけよ、うん」

 

『ライダー・・・そりゃ怒られるよ』

 

「だったらエルメスが止めればよかったのに」

 

『ぐう』

 

 

ぐうの音しか出せないとは、この相棒駄目である。しかしあの変態に任せたのか、アレ警察に捕まりそうなんだけど大丈夫か?

 

 

「大丈夫だ、問題ない。変質者だけど変質者過ぎて捕まえられないから」

 

「よくそんなのに自分のマスターを任せられたね・・・」

 

 

 

 

 

ちょうどその頃。

 

 

「し、静さん?大丈夫ですか、重くないですか?」

 

「気にしなくていい。君や木乃さんより力持ちだからね」

 

 

何か白い学生服を身に纏った長身爽やかイケメンに荷物持ちしてもらいながら、商店街で買い物をしている桜の姿があったらしい。誰だお前。

 

 

 

 

 

 

「・・・で、ここは何なの?」

 

「さあ?ただ居心地がいいんだよね、ここ。ランサーもいるよ」

 

「んなっ!?」

 

 

驚く士郎に釣られて奥の方を見てみると、何か働いている青髪サーヴァントの姿が。さっき見たナマモノも、何か黒いのとか色々バリエーションがある。…よく見たらセイバーとアインツベルンもいるや。何だここ。

 

 

「ここはアーネンエルベ。万華鏡が建造に関わった、世界の特異点が終結した場所だ」

 

「?」

 

 

聞き覚えの無い声に説明され、振り向く。その声の主は入り口近くの席に一人で座っていた、白衣を身に着けた茶髪と立派な髭が特徴の男だった。…本当に誰だ?男は口に付けていたコーヒーを机に置くと楽しげに笑みを浮かべる。今この時を、待ち望んでいたかのように。ライダーは興味無さそうにもぐもぐ、カレーうどんを食べているので私と士郎はライダーから彼へと視線を動かすと男は満足気に控えめに拍手した。

 

 

「よう、バーサーカーのマスター、衛宮・・・いや、言峰黒名。この世界では初めましてだな、俺はDr.『M』。訳あって本名は名乗れない。で、お前等が昨夜退けたキャスターのマスターだ」

 

「「なっ!?」」

 

 

いきなり自分がマスターだと名乗って来たこの男・・・『M』の言葉に、私は思わず剣身を出す前の黒鍵を取り出し、士郎も構えた。…何で空手の構えなのかは聞かないで置こう。なんのつもりだコイツ。今ここで殺されるとは思わないのか。その割に何も構えていないのが気になる。

 

 

「そう構えるな。俺は戦うつもりなんてこれっぽっちも無い。特に言峰黒名、お前の魔術は俺の天敵だからな。それに、今はキャスターを所持していねーよ。アレは人にやった」

 

「は?」

 

 

思わず呆ける。いや、聖杯を狙う魔術師だったら必要不可欠な己のサーヴァントを人にやった?馬鹿なの?

 

 

「言って置くが、俺はお前等の数十倍は賢いぞ。馬鹿だと思われるのは心外だ」

 

 

コイツ・・・私の心の中を・・・!?

 

 

「・・・クロ姉、完全に見下した目をしていたぞ」

 

 

あ、なるほど。私、基本的に魔術師は愚かとか思ってるからね、そんな思いが表情に出ても仕方ないね。で、この魔術師様は何でキャスターを人にやったんだ?

 

 

「そりゃ、俺は聖杯戦争を勝ち残る気なんて全然無いからだ。そもそも聖杯に選ばれても居ないし、普通に部外者だからな」

 

「選ばれてない?じゃあ、士郎みたく偶然召喚して巻き込まれたの?」

 

「それも違う。自分から巻き込まれてやった。観察したい事があったからな。なに、簡単だ。まずはまだサーヴァントも召喚していない隙だらけのマスターを一人見定める。後は不意打ちで腕を奪って令呪を俺に移植し持参した触媒を使って召喚。アー・シン・ハンと言う稀代の悪を前にしたら正義の味方様はどう動くか、ってな」

 

 

そしたらまさか力づくで固有結界を破壊するんだ、久々にゾクゾクしたぜ。などと笑うこの男。それで確信する、コイツも他の魔術師と変わらない、とんでもない外道だ。その犠牲になったマスターは魔術師だから別に興味もないけど、それでもキャスターのせいで何人か魂食いの被害に遭った一般人がいると私は知っている。だから許せなかった。でも、ここで感情的になってもしょうがない。この男の目的が分からないからだ。

 

 

「・・・観察したい事ってなに?」

 

「【この世全ての悪(アンリマユ)】」

 

「は?」

 

「言峰黒名、お前はこの名前に聞き覚えがある、そうだな?」

 

 

呆ける士郎、狼狽える私。そんな様子に満足気な『M』。な、何で・・・その事を、私が知っていると・・・?私があの大火事の際に「彼」と接触したことを知っているのは、私自身と「彼」を除いて王様と父さんだけだ。それ以外に知りえるはずがない、はずなのだ。それなのにこの男はさも当然とばかりにその事を・・・

 

 

「・・・士郎。ライダーと一緒にそこで待ってて。私は彼と外で話がある」

 

「あ、ああ・・・気を付けろよ、クロ姉」

 

 

そう言ってライダーの元に向かう士郎。私は黒鍵の刃を出し、『M』の首元に突きつけて無表情で睨みつける。

 

 

「・・・外で話をしよう」

 

「いい反応だ。いいぜ、乗ってやる」

 

 

今にも殺されそうだと言うのに、男は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの喫茶店・・・アーネンエルベから離れ、私と『M』が訪れたのは私がバーサーカーを召喚したあの公園。…いや、正確には10年前、あの孔から泥が落ちて発生した火事の大元である場所だ。

 

 

「で、何でその事を知っている?」

 

「俺の知っているお前もそうだからだ。しっかしまあ・・・衛宮切嗣ではなく言峰綺礼に育てられた方がまだ真面ってどういう皮肉だ。英雄王の影響は計り知れないと言う事か」

 

「王様の事まで・・・」

 

 

・・・コイツの言っている事はさっぱり分からない。私は切嗣さんに育てられた事は一度もないし、今の自分が真面とも思えない。それに、彼の知っている「私」の意味も分からない。そんな意を込めて睨みつけているとそれに気付いたのか、『M』はいい質問だと言わんばかりににやりと笑う。

 

 

「まず大前提として言って置く。俺は魔術師じゃない。その正反対に位置する者、まあ科学者だな。むしろ俺は魔術を嫌っている。根源何て科学でどうにかなるぞ、地球の記憶に接続する事だってできるんだからな。…と言っても俺の本業は医者なんだが・・・科学者は趣味の様な物だ」

 

 

はい?いや、科学者が聖杯戦争どころか魔術師を知る事も無いはず。でも魔術を嫌っているのか・・・あれ、何か仲良くなれそう。

 

 

「で、だ。俺は面白い物が好きだ。その中でも「平行世界」って言うのは愉しい物でな?俺の趣味は世界間を行き来し、接触することなんだ」

 

 

・・・いきなり話が飛躍したぞオイ。つまりなんですか、目の前の男は平行世界から来たと?ふざけんない。

 

 

「別にふざけてない。万華鏡の爺がいるだろう。それにサーヴァントと言う存在がそれを証明している。アーサー王がいい例だ。アレはいくつものバリエーションがあるからな」

 

「なんのこと?」

 

「こっちの話だ。お前だって関わるかもしれない聖杯探索の、な」

 

 

・・・聖杯探索って円卓の騎士ガラハッドの事かね?まあとりあえず置いておこう。

 

 

「・・・その平行世界があるとして、その世界の私はどんなだったの?」

 

「ほう、聞きたいか。だったら聞いて絶望するがいいぜ。その世界のお前の名は、衛宮黒名。…大火災を一人で生き残り、言峰綺礼より先に衛宮切嗣が引き取った場合のお前だ」

 

 

・・・つまり、本当に士郎の姉な私と言う事か。なるほど、確かに「ありえたかもしれない」私だ。何それ羨ましい。

 

 

「・・・なんか勘違いしている様だがな、はっきり言って最悪の人生を送ったお前だぞ」

 

「・・・どういう事?」

 

 

そう言えばさっきも言峰綺礼の方がマシだって言ってたっけ。

 

 

「親が代わったってお前だ。独自に調べ、第四次聖杯戦争の事を知り得て衛宮切嗣に師事したのさ。…魔術師殺しとして、な。あの正義の味方はお前の確固過ぎる意志に折れて弟子としたんだが・・・それが不味かった」

 

「何で?」

 

「考えてみろ。無理矢理な方法で固有時制御の魔術刻印を受け継ぎ、奴の持っていた銃器類も受け継ぎ、魔術師殺しとしての技術も受け継ぎ、「起源弾」まで譲り受けたお前だぞ?それに加えてお前も持つ改造魔術だ、・・・史上最凶の魔術使いが誕生するに決まっているだろ」

 

 

・・・うわぁ。自分の事なんだろうけど、これは酷い。てかエグイ。私にとっての、王様が見せた宝具知識みたいなものか。私は疑似宝具を使えるけど、その私は完全に「魔術師殺し」として機能している。魔術師に対する怒りも助長しているからなるほど、それは最凶だ。

私は対サーヴァント戦に特化しているけど、その私は大本命の魔術師相手に真価を発揮する訳だ。士郎の姉として名乗れるだけでなく、ホント羨ましいね。

 

 

「・・・問題はここからだ。第五次聖杯戦争が起こった。面白い事にこの世界のとは全く違う。衛宮士郎はアーサー王のセイバーを、遠坂凛は無銘のアーチャーを、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはヘラクレスのバーサーカーを、間桐桜が召喚したゴルゴンのライダーを間桐慎二が、その他にもマスターを裏切ったコルキスの王女のキャスターが佐々木小次郎のアサシンを召喚したり、今回の俺みたいにとあるマスターを騙し討ちした言峰綺礼がクーフーリンのランサーを使役し裏から聖杯戦争を引っ掻き回した」

 

「うん。父さんならやりかねないね」

 

 

というか色々規格外な聖杯戦争だね。アサシンが佐々木小次郎みたいな実在したかどうかも分からない英霊って。…そう言えばあのアサシンもハサン・サーバッハじゃないだろうけど誰なんだろう?・・・というかランサー、父さんと王様に従わされたかもしれないのか・・・何それ哀れ。

 

 

「うん?・・・待って、私は?」

 

「そう、お前だ。衛宮黒名はな、衛宮士郎を巻き込むことなく聖杯戦争を終わらせようとして、自分の「怒り」に賛同してくれる英霊を自分で捜し上げ召喚した。それが本来ありえない8番目のサーヴァント。復讐者(アヴェンジャー)、お前がバーサーカーとして呼び出したアスラだ」

 

 

・・・やっぱり、その世界でも私はアスラを呼び出したんだ。そりゃそうだ、「怒り」だけで神様を殴り飛ばしたのだ、魔術師に対する怒りで戦う私にぴったりなのは彼しかいない。最初はジャンヌダルクでもいいかと思ったけど王様曰くアレは「裁定者(ルーラー)」だから怒りの力は見込めないらしい。あんな末路なんだから激怒していても可笑しくないと思うんだけどなぁ。

 

 

「そりゃお前達は鬼神の如きでな。アーサー王を退けるばかりかヘラクレスとまで互角に渡り合い、聖杯を奪おうと乱入して来た英雄王でさえも、お前一人で倒してしまった」

 

「は?私が?王様を一人で?何の冗談?」

 

 

いやいや、いくらパワーアップしていてもあの王様に勝つなんて無理無理・・・てか王様が殺す気だったら私何回死んでいた事か。バーサーカーだったら拮抗するだろうけど、私程度じゃ・・・

 

 

「俺はつまらん冗談は言わない主義だ。元々お前の魔術はな、英雄王にとってはアンチでしかない。確かに一度は負けたがな、お前は英雄王に対する執念からとある英霊と融合してまで、倒してしまった。しかも完封だ、感服するしか無かったさ」

 

「・・・英霊と融合?それってまさか・・・」

 

 

魔導の名門、アニムスフィア家で研究されているデミ・サーヴァントの事・・・?いや、まさかね・・・

 

 

「多分それだな。それにだ、お前の宝具と言えるか分からんアレは・・・鬼畜過ぎて、アレは多分ヘラクレスか佐々木小次郎でもないと打破できないぞ」

 

 

溜め息を吐く『M』。失礼な、アーサー王や英雄王に勝てるなんてそんなに強いとかうぬぼれてないぞ私は。てか宝具持てるの私、何それ楽しみ。

 

 

「で、だ。言峰綺礼も殺し、間桐臓硯も殺し、アインツベルンを殺し・・・最後に立ち塞がった衛宮士郎を、打ち倒してまで手に入れた聖杯で衛宮黒名は何を願ったと思う?」

 

 

・・・ちょっと待て。私が衛宮士郎を倒す?・・・殺すじゃないからいいけど、いやそうじゃない。そんな未来があってたまるか。

 

 

「お?不服の様だな?残念ながらお前の本質は元来、衛宮士郎の天敵なんだよ。つまり「悪」だ。だが衛宮士郎は、あくまで「家族」として止める事を選んだようだが・・・甘い男だ、だから執念を持った相手に敗れる。元々相性も最悪だったが…っと話が逸れたな。

聖杯を得た衛宮黒名が願ったのはな、「自分の事しか考えていない魔術師を全員この世から消してくれ」って言う聖杯自身の存在意義も失わせかねない物だ」

 

 

なるほど、聖杯の起こす悲劇を失くすために破壊するのではなく、恨む対象を消してしまえばいいのか。そうすればすっきりするね。それに「自分の事しか考えていない」って部分で士郎とかと分け隔てている。なにそれその世界の私すげー。

 

 

「だが、どうなったと思う?」

 

「何が?」

 

「【この世全ての悪(アンリマユ)】に汚染されている聖杯だぞ、真面に機能する訳がないだろう」

 

「うん、そうだね」

 

 

その事は父さんから聞いている。とあるマスターが「戦いの邪魔となる住民が消えればいい」と願ったせいで、住民の命を奪ったあの冬木大火災が起きた。つまり、【この世全ての悪(アンリマユ)】に汚染された聖杯は「殺す」事でしか願いを叶えられない訳だ。私はそれを知って、二度と悲劇を起こさないために聖杯を破壊しようと・・・あれ?

 

 

「・・・私は父さんから聖杯が汚染されているって知っていたけど、その事を知らなかった衛宮黒名は・・・?」

 

「ああ残念、ソイツは違う。衛宮黒名はな、衛宮切嗣から第四次聖杯戦争の顛末を聞いて「殺す」事でしか願いを叶えられないと言う事をちゃんと理解した上で願ったんだ。そりゃそうだろう、魔術師を「殺せば」叶う願いだ。だがな?それでも汚染された聖杯は歪んだ形でしか叶えられない。文字通り魔術師共を殺しちまったよ、周りの人間ごと(・・・・・・・)な」

 

「なっ・・・!?」

 

 

つまり、魔術師だけを殺すはずが、関係ない一般人までもを殺戮してしまったと言う事・・・!?そんな馬鹿な事が・・・

 

 

「ありえるんだな、これが。おかげで人類は三分の一まで減ってしまった。その事に衛宮黒名は絶望し、世界中の人間から「この世全ての悪(アンリマユ)」の役割を押し付けられ、とある正義の味方の手で断罪された。それが、俺の知るお前の顛末だ」

 

「そんな・・・」

 

 

私の願い・・・いや復讐心は、世界を滅ぼすのか。そして私自身が【この世全ての悪(アンリマユ)】に・・・いや、別にそれは問題ではない。私は自分のこの怒りが、正義なんて物じゃないのは分かってる。むしろ私こそが士郎が嫌う「悪」だって事も、ちゃんと理解している。

だって魔術師を殺すのは当然の行いだ、何て馬鹿な認識をしているのだ。人を殺して当然だなんてそんなの、紛う事無き「悪」ではないか。…話は分かった。それでこの男は、何がしたいんだ?

 

 

「俺がわざわざこの事を話したのはだ、お前が別の面白い道を辿ると確信しているからだ。何せアスラとクーフーリン以外、見事に役者(サーヴァント)が違うからな。しかも全員、俺が知る限りヤバい奴ばかりだ。さらに言えばお前が言峰綺礼に引き取られ、英雄王の教育も受けている。クーフーリンが遠坂凛の元にいるってのもいいな、月の聖杯戦争を思い出す」

 

「・・・私がその面白い道を辿るとして、何が目的なの?」

 

「何も?」

 

 

は?ふざけるな、ここまで話して置いて「面白い物が見れそうだから」で済ませる気か。

 

 

「俺はただ、面白い物が見れればそれでいい。衛宮黒名と同じように全ての魔術師を殺したければそうしろ、それもまた面白い道だ。何なら当初の目的通り聖杯を壊したっていい、どうなるのか見物だ。…まあ俺も少しは暗躍させてもらうがね、見物だけはつまらんからな」

 

「・・・じゃあ今ここで貴方を殺しても?」

 

「殺せるとは思えないから別にいいが、俺は魔術師じゃないぞ?クククッ・・・」

 

「・・・最後に聞かせて。何で、その世界で士郎はアーサー王を召喚できたの?私の知る限り、第四次聖杯戦争にも参加したサーヴァントが、続けて召喚されるなんてそう有り得ないはず。王様みたいに【この世全ての悪(アンリマユ)】の泥を取り込んで受肉した訳じゃあるまいし」

 

 

その質問に、『M』は一瞬呆けたかと思うと何が可笑しいのかクククッと声を抑えて笑い出した。な、なに?私、何か変な事でも言った?

 

 

「クックック・・・ああそうか、知らないのか。いいぜ、教えてやる。円卓、知ってるな?」

 

「・・・その欠片さえあれば、必ず円卓の騎士の誰かを召喚できるって言う聖遺物?」

 

「ああそうだ。それと同じくな、アーサー王を必ず召喚できる聖遺物が存在するんだ」

 

「・・・アーサー王を必ず召喚できる?」

 

 

何それ、でも士郎はそんなもの持っていないはずだけど・・・

 

 

「衛宮切嗣はな、大火災の際に見付けた衛宮士郎を延命させるべくその聖遺物・・・いや、アインツベルンが発掘した現存する宝具【全て遠き理想郷(アヴァロン)】を埋め込んだんだ。そう、アーサー王の鞘だ」

 

「!?」

 

 

・・・なるほど、私は「彼」の呼びかけを受け入れたから生き残れたけど、士郎はそう言う経緯があったのか。…あれ?だけど、今回士郎が召喚したのは・・・

 

 

「それが何をトチ狂ったのか、召喚されたのはシナプスのエンジェロイド、イカロスだ。俺にもさっぱり分からん、俺の知る第五次聖杯戦争とは違い過ぎるからな」

 

「さいですか・・・」

 

 

まあ私としましては、騎士道精神バリバリの騎士王よりマスターに従順な彼女の方が助かるんだけどね。そんな事を思いながら、私はふと士郎が見えるアーネンエルベの窓に、「強化」した視線をやった。…うん、ライダーは食べ過ぎだと思うな。

 

 

「・・・もしかしたら召喚したのは奴じゃないのかもな」

 

「え?」

 

 

振り向くと、既に『M』と名乗った白衣の男は消えていた。…何だったのだろうか。でも、一つだけは分かる。…私は、一般人の犠牲だけは出したくない。その為に聖杯を破壊するって決めたんだ。…「衛宮黒名」とは同じ顛末を辿らない、そう決意した。

…あ、そう言えばアサシン陣営の本拠地探しの途中だった。士郎とついでにライダーも回収して早く終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこれは私が知らない場所での話。

 

 

「で、神父様は何の様かな?」

 

「聖杯戦争の監督役としてキャスターのマスター、Dr.『M』に聞きたいことがある。行方不明の私の友人、バゼット・フラガ・マクレミッツの事について知っている事を白状してもらおう」

 

 

珍しく、黒鍵を装備して問いかける父さんに向けて、白衣の男は待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。




と言う訳で謎の人物にしてキャスターの真のマスター、Dr.『M』登場。その正体は放仮ごワールドではお馴染みのあの男。平行世界からやって来たと自称する彼が語ったのは、平行世界のクロナ「衛宮黒名」の顛末。
そして浮上する士郎に埋め込まれたアヴァロンの謎とアーチャーの謎、最後の綺礼との会話と、謎ばかり残して去って行きました。

そして初登場、型月界を繋ぐ喫茶店「アーネンエルベ」。ナマモノとランサーが働いてます。ライダーは聖杯戦争が始まる直前、ここを見付けて気に入りました。イリヤとセイバーは何故いたのかは謎。永遠に謎。

「言峰」クロナの顛末はどうなるのでしょうか、育てた父親二名がアレだもんなぁ・・・次回は『M』VS綺礼、そしてアサシンの本拠地が明らかに・・・?
感想をいただけると励みになります。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。

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